193時限目:夢追い虫
【夢追い虫】
■24作目のシングル曲であり、アルバム『色色衣』にも収録されています。個人的ランキング、195曲中6位でした。
個人的ランキング全体でもかなりの上位であり、シングルにのみランキングを絞ると、1位の曲になっています。ただ、この個人的ランキングには、アルバム『小さな生き物』以降の曲は反映されていませんので、今現在ランキングをつけ直すのであれば、1位は【僕はきっと旅に出る】に取って代わられると思います、笑。
しかしまぁ、僕は【夢追い虫】が、本当に本当に好きなんですよ。ロックなスピッツの曲はたくさんあるけれど、僕にとってこの【夢追い虫】には、”特別なロック”を感じるんです。何ていうか、さわやかだったり、疾走感だったりとは違って、いぶし銀ゴリゴリのしぶくて重たい感じのロックっていうのかな、そこが何か一味違いますよね。それを、”夢追い虫”なんていう、一見かわいらしいタイトルでやってのけるわけですから、面白いですよね。
■それでは手始めに、この曲が辿った歴史をまとめておきます。僕も引用させてもらいましたが、詳しくは、『色色衣座談会』などに書いてありますので、参考にしてください。
シングル『夢追い虫』が発売になったのは、2001年10月11日のことですが、レコーディング自体は、アルバム『ハヤブサ』が発売になった後、2000年10月頃に、実はもうすでに済んでいたそうです。ミックスダウン(音のバランスをはかって、1曲にまとめて仕上げること)は高山徹さんです。高山さんがスピッツの曲に関わったのは、ここが初めてですかね。しかし、曲のレコーディングは済んだものの、リリースのチャンスは当分なかったそうです。
それで、2001年に発売された、ライヴDVD『ジャンボリー・デラックス LIVE CHRONICLE 1991-2000』にボーナストラックとして、『SPITZ JAMBOREE TOUR “放浪2000”』でのライヴ映像を収録しました。この当時は、全くの新曲であったそうです。このライヴ映像は、後にそのままMVにもなりました。
この後、映画「プラトニック・セックス」からタイアップの誘いがあり、同映画の主題歌に決まりました。そして、ここでようやく、シングル化するという運びになりました。
■その他、いくつか情報を載せておきます。
まず、この【夢追い虫】には、【夢追い虫(early version)】という別バージョン…というより、初期バージョンが存在します。
この【夢追い虫(early version)】は、シングルコレクション『CYCLE HIT 1997-2005 Spitz Complete Single Collection』 の初回限定盤に付随された、ボーナスディスクに収録されました。
(ちなみに、『CYCLE HIT 1991-1997…』の初回限定盤のボーナスディスクの方には、【空も飛べるはず】のデモ音源である【めざめ】が収録されています。)
僕は、シングルコレクションの初回限定盤は持っていないので(BOXは買いましたが、それにはボーナスディスクは付いていない)、手元に【夢追い虫(early version)】の音源はありません。ただ、昔に聴いたことがあるので、その微かな記憶と、ネットの情報により、【夢追い虫】と【夢追い虫(early version)】の違いを紹介しておきます。
〇コーラスの違い
【夢追い虫】のコーラスは、石田ショーキチさんとクジヒロコさんですが、【夢追い虫(early version)】のコーラスは、真城めぐみさんという別の方だったそうです。
〇Cメロの違い
ここはいくつか違っていて、まず、”うれしくて 悲しくて 君と踊る”の後に、【夢追い虫】ではブレイク(演奏の空白部分)が入りますが、【夢追い虫(early version)】にはブレイクが無く、そのまま続いていきます。
また、その後の歌詞も違っていて、【夢追い虫】は”上見るな 下見るな”となるところが、【夢追い虫(early version)】では”下見るな 下見るな”になっています。
あと、Cメロ全体の、ドラムなどのリズムが違っているみたいです。詳しくは、音源で確認してみてください。
〇最後のサビの違い
【夢追い虫】は、最後のサビが2回繰り返されます。歌詞としては、
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ユメで見たあの場所に立つ日まで
僕らは少しずつ進む あくまでも
ユメで見たあの場所に立つ日まで
削れて減りながら進む あくまでも
あくまでも
*
となって終わるのですが、【夢追い虫(early version)】では、2回目のサビがなく、1回サビがあって終わります。
■それからもうひとつ。
この曲は、アウトロがまた特徴的で、何ていうか、早回しにした人の声が歌っているように聴こえます。例えば、キテレツ大百科の「はじめてのチュウ」だったり、”おらはしんじまっただ”という歌詞が特徴的な「帰って来たヨッパライ」などのボーカルに近い感じでしょうか。一聴すると、ちょっと怖い感じもします。
普通に聴くと、アウトロは何を歌っているのかは聴き取れないんですが、ここの部分の正体は、実はAメロの逆再生であるのだそうです。
そういう事実があるということは知っていましたが、何とそれを検証している動画を、某動画サイトで見つけることができました。アウトロを逆再生した音源を載せてあるのですが、確かにAメロが聴こえるんですよ!こういう小ネタが隠されていたんですね。
■長くなりましたが、ようやく【夢追い虫】がどんな曲なのか考えてみます。
まず、何と言ってもタイトルですよ。言葉としては”夢追い人”というのがありますよね。意味はそのまま、”夢や目標を追っている人”という感じだと思いますが、それを文字ってかは分かりませんが、タイトルは”夢追い虫”ですよ。”人”と”虫”が違っていますが、同じような意味合いで使っているのでしょうか。
…と考えながら、この歌の歌詞を読んだ時に、2つ気になる箇所があるんです。
まず、1つ目。この歌の対象になっているのは、1人ではなく、2人(でセット)だということです。歌詞でいうと、
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笑ったり 泣いたり
あたり前の生活を
二人で過ごせば
羽も生える 最高だね!
*
*
ユメで見たあの場所に立つ日まで
僕らは少しずつ進む あくまでも
*
”二人”で過ごせば、”僕ら”は少しずつ進む…夢を追っているのは、1人ではなくて2人だということになるんですかね。1人であれば、後者は、”僕”は少しずつ進むになっていてもいいのに、”僕ら”となっています。
2つ目。しばしば、このブログでも話すことがあるのですが、草野さんの書く詩の中には、時々”漢字で書けるのにカタカナ”が出てきます。そういう時に、僕が決まって言っているのが、”その言葉を、本来の意味通り使っていないのではないか”ということです。
【夢追い虫】では…これも不思議ですよね、この曲の一番の主題でもあろう”夢”という言葉、タイトルではしっかり漢字表記になっているにも関わらず、歌詞の中では、一つも漢字表記の”夢”は出てこないのです。
*
ユメで見たあの場所に立つ日まで
*
*
おかしな ユメですが
リアルなのだ 本気でしょ?
*
という具合です。今までと同じように考えたら、”夢”という言葉を、本来の意味合いで使っていないのではないか、となるのです。
■”夢”を本来の意味合いで使っていない…?何だそりゃ?と。色々考えたことを語っても良いんですが、ここは出来るだけ絞りたいと思います。
まず、夢というのは、本来どこか”崇高”なものです。その一方で、ユメには、その”崇高”さが含まれていないのではないか、と。要は、そんなに”たいしたものではない”のではないか、というのが基本的な解釈です。
しかも、このユメは、二人で追い求めているもの、一人では叶えることはできないもの、ということ。しかも、
*
吐きそうなくらい 落ちそうなくらい
エロに迷い込んでゆく
おかしな ユメですが
リアルなのだ 本気でしょ?
*
という風に、”エロ”に迷い込んだ先に、ユメがあると歌っています。
例えば、一番単純な解釈は、ユメ=”二人でいつかエッチをすること”でしょうか、笑。しかし、Cメロでは、”うれしくて 悲しくて 君と踊る”とありますが、ひょっとしたら、ここがSEXの描写なのかな、とか考えたりもします。
とすると、ユメはその先にあるものと考えると、もっと広い意味で、2人で過ごせる生活(”性”活か?笑)のことを指しているのかもしれません。
■そして、最終的にそれが”虫”であると。
これはおそらく、”エロ”を追い求めること自体は、人間誰しもに備わった、一番基本的な欲望の一つなのだということを表しているのだと思います。暗闇の中、電灯に群がる虫のように、同じようにエロいことばっかり考えて、同じようにその欲望に集まる人間の様子は、まさに虫のようだと、そういうことですかね、笑。
それは、くだらなくも、まさしく、人間の根源を表しているもの…草野さんの詩のテーマ”死とセックス”の一端を表しているのでしょう。