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アルバム講義:4th Album『Crispy!』

Crispy!

 

4th Album『Crispy!』
発売日:1993年9月26日

 


■収録曲(→の先より、各曲の紹介へと飛べます)

 

01.クリスピー
→ 43時限目:クリスピー - スピッツ大学

 

02.夏が終わる
→ 114時限目:夏が終わる - スピッツ大学

 

03.裸のままで
→ 130時限目:裸のままで - スピッツ大学

 

04.君が思い出になる前に
→ 39時限目:君が思い出になる前に - スピッツ大学

 

05.ドルフィン・ラブ
→ 108時限目:ドルフィン・ラヴ - スピッツ大学

 

06.夢じゃない
→ 194時限目:夢じゃない - スピッツ大学

 

07.君だけを
→ 40時限目:君だけを - スピッツ大学

 

08.タイムトラベラー
→ 84時限目:タイムトラベラー - スピッツ大学

 

09.多摩川
→ 88時限目:多摩川 - スピッツ大学

 

10.黒い翼
→ 44時限目:黒い翼 - スピッツ大学

 


■前作『惑星のかけら』より、ぴったりちょうど1年後に発売されたアルバム『Crispy!』です。オリジナルアルバムで、唯一の完全アルファベット表記の作品タイトルです。

 

ちなみに、草野さんは、アルファベットが”sp”と続く英単語が好きだという、変わった嗜好を持っているようで、そもそもその嗜好が、バンド名「スピッツ/spitz」の由来にもなっているようなのです。他にも、spica(スピカ)、spider(スパイダー)、special、などの言葉もあります…まぁ、全部が全部そういう繋がりでつけられたわけではないとは思いますけどね。

 

今回の”crispy(クリスピー)”もそうですよね。元々これが、バンド名の候補であったという話もありますが、果たして草野さんと”sp”との間に、何があったのでしょうか、笑。

 


■さて、前講義のアルバム『惑星のかけら』の記事と、少し被るところから話を始めます。

 

『Crispy!』発売前のスピッツは、1st『スピッツ』、2nd『名前をつけてやる』、3rd『惑星のかけら』という、いわゆる”初期三部作”と言われるこれらの発売を経ていくにつれて、売上が落ち込んでいったという、リアルに厳しい状況の中にありました。

 

また、アルバム『惑星のかけら』は、”初期スピッツの完成形”とも語られていますが、ここまででとりあえず、スピッツでやりたいことは出し尽くしたとして、虚脱感さえ感じていたそうです。

 

スピッツは、元々はじめから、”売れること”を重視して活動していたわけではなかったようで、”売れることはかっこ悪い”とさえ思っていたそうなのです。それは良くも悪くも、スピッツの(草野さんの)独特な世界観を守りましたが、さすがにこのままではいけないと、この頃から少しずつ思うようになってくるわけです。

 


■そういう経緯があって、スピッツは次なる目標を、”売れる”ということに設定して、活動をはじめるわけです。具体的には、これまでのマニアックでシュールな方向性を一転して、”ポップ”なスピッツを目指そうと試みはじめます。

 


ここで、新たな作品を作るに当たって、新しくプロデューサーに迎えられたのが、笹路正徳その人だったのです。

 

笹路さんと言えば、4th『Crispy!』~7th『インディゴ地平線』の作品を手掛けることになるわけですが、まさにスピッツの名前が世に出始める頃から、爆発的なヒットを記録した黄金期までを支えることになる、本当にスピッツの歴史には欠かせない人物の一人なのです。

 

書籍「旅の途中」には、本当にたくさんのスピッツと笹路さんとのエピソードが書かれていて、ここからも、笹路さんがスピッツに欠かせない人物であったこと、スピッツが笹路さんを愛し、逆に、笹路さんもスピッツを愛していたことが大いに読み取れます。

 

例えば、その当時、草野さんは自分のボーカルが好きではなくて、「自分は楽曲で勝負している、ボーカルは二の次」とさえ考えていたそうです。そんな時に、笹路さんは草野さんのボーカルに対して、「マサムネの歌は高いキーで、もっと張って歌った方が聴き手に届くよ」とアドバイスしたんだそうです。ちょうどこの頃からですよね、スピッツの楽曲において、草野さんのハイトーンボイスが目立つようになってきたのは…当時のシングル曲だと、【裸のままで】も【君が思い出になる前に】も、草野さんのハイトーンボイスが高らかに響いている曲に仕上がっています。

 

書籍には”笹路マジック”や”笹路学校”という言葉が出てきますが、笹路さんのプロデュースのおかげで、スピッツというバンドは劇的に変わっていった様子を読み取ることができます。本当にたくさんのエピソードが書かれているので、詳しくは書籍を読むことをお勧めします。

 


■そういうことで、笹路さんプロデュースの下で作られた、四枚目のアルバム『Crispy!』ですが、結局この作品もこれまでの作品と同様、オリコンにチャート・インすることはありませんでした。

 

”ポップに!”と多少無理をして、売れるために努力をした、渾身の自信作にも関わらず…チャート・インしなかったという結果に、草野さんはかなり落ち込んでしまいます。

 


それでも、アルバム発売以後、ライヴの動員数も増えて、ファンの数も目に見えて増えていったそうです。ラジオやレコードショップなども、スピッツをプッシュしてくれるようになりました。

 

そして、アルバムからカットされたシングル『君が思い出になる前に』が、ついに初のオリコンチャート・インを果たします(最高順位33位)。

 

結果として『Crispy!』はチャート・インしませんでしたが、それでもそれを起点として、いよいよスピッツの名前が世の中に広がりはじめ、結果として後の爆発的なヒットにつながっていくことになるわけです。

 


■さて、ではアルバム『Crispy!』がどんな作品であるのか、具体的に考えてみます。

 

まず、やっぱり色んなところで見かけるのは、”ポップ”なアルバムという形容ではなかと思います。それは、先述したとおり、スピッツや笹路さんのねらいとするところだったのですが、分かりやすく、アルバム『Crispy!』は明らかに音が明るくなっています。

 

確かに、『惑星のかけら』にも明るい曲はありますし、逆に、『Crispy!』にも静かでちょっと暗い感じの曲はあるんですけど、全体的な明るさがひとつ突き抜けた感じなんです。明らかに分かるのは、【クリスピー】、【裸のままで】、【ドルフィン・ラブ】、【タイムトラベラー】あたりじゃないかと思います。多少、無理している感がありますけど、そのくらいあからさまな変化を求めてやったことだったのでしょう。

 


■それから、歌詞を読んでみても、変化が見られます。

 

草野さんの書く詩は、何ていうか”本当の気持ち”や”真意”というものが、暗号のように隠されているという印象で、要は、分かりにくい、回りくどいんですよね、苦笑。まぁだからこそ、読んであれこれ想像することが楽しいんですけどね…まさにここスピッツ大学でやっていることがそうなんですけど。

 

それでも、”初期三部作”と比べると、随分と『Crispy!』の歌詞は”分かりやすくなった”という印象を受けます。もちろん、草野さんの独特な表現・世界観は相変らず健在で、それがないと物足りなさを感じるんですが…だから”分かりやすく”なったというより、”読みやすくなった”、あるいは、”親しみやすくなった”という感じですかね。聴き手が、受け取りやすい言葉を使っているという印象です。

 

そして、それを特に象徴しているのは、シングル曲の【裸のままで】と、後にシングルカットされ初のチャートインを果たした【君が思い出になる前に】だと思います。

 


■まず、【裸のままで】についてですが、この歌詞には”愛してる”というストレートな愛の言葉が使われています。

 


どんなに遠く 離れていたって 君を愛してる
ほら 早く! 早く! 気づいておくれよ

 

全体から大サビの最後だけを抜き出したので、この部分だけで…というわけではありませんが、読んでみると分かりやすいですよね。先述したとおり、曲調もすごくノリノリだし、草野さんのボーカルも高音で響いているので、よりポップに聴こえます。

 


先述した通り、こういうストレートな言葉を使うことは、それまでの草野さんにとっては、ちょっと珍しいことだと感じますが、この辺りのことを、書籍「スピッツ」において、草野さんがこのように語っています。

 


…だから、もう『君を愛してる』って言葉は意味を持ってないって考えてもいいと思うんですよ。なんか『ポパイに載ってたからこの服を着てみよう』っていうような感じの。みんなが歌っているから一度ぐらいは歌ってみようっていう(笑)。

 


だけど、今はそういう服を着たって別に自分は自分だって思えるから。でも、やっぱり結局ヘソ曲がり的な部分は含んでるわけだし(笑)。でも、それはそうだと分からないようにして。だから、どっかの宇宙人が、宇宙人だって分かるような金ピカのピタッとしたスーツを着て出てくるんじゃなくて、人間と全くかわんないカッコで街を歩いてるような曲になったらいいかなという

 

後半の話は、アルバム全体というか、草野さんの詩の世界観全体に通じる部分があるとは思います。宇宙人の下りは、面白い話なんですけど、言い得て妙ですよね、確かにって思えてしまいます。

 


■そして、【君が思い出になる前に】も同様ですね。

 

まず、タイトルからすごく具体的ですよね、何となくどういう歌なのか、ここからも想像しやすいんじゃないかなって思います。

 

歌詞の中にも、例えば、”明日の朝 僕は船に乗り 離ればなれになる”などというフレーズが使われていたりして、ここを読んだだけでも、2人がどういう状況にあって、どういうシーンを歌っているのか、イメージしやすかったです。

 

何ていうか、よくできたストーリーやドラマといいますか、そういうものを見ているような印象です。

 


他の曲だと、【夏が終わる】とかね、これもあからさまに”夏の終わり”の歌って感じがしますよね。【タイムトラベラー】とか、僕はこの曲が大好きなんですけど、表現こそ独特だけど、これもよく練られたドラマみたいで、読んでいて楽しいんです。

 


■あと、積極的にPVが作られ始めるようになったのも、この時期からですよね。

 

振り返ってみると、デビュー曲の【ヒバリのこころ】以降、ここまでPVが作られていませんからね。それが、このアルバムの収録曲だけでも、【裸のままで】【君が思い出になる前に】(おそらく【夢じゃない】は後のシングルカット時に作られたのかな)にPVがありますからね。

 

【裸のままで】のPVなんか、カラフルで目立つ作りにもなっていて、テレビの中のノリノリな草野さんは、ちょっと笑ってしまうほどです。

 

まぁ、こういうところも、この作品をポップなものに仕上げようと、何とか売れようと頑張った結果だったんでしょうね。

 

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