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アルバム講義:5th Album『空の飛び方』

空の飛び方

5th Album『空の飛び方』
発売日:1994年9月21日

 


■収録曲(→の先より、各曲の紹介へと飛べます)

 

01.たまご
→ 89時限目:たまご - スピッツ大学

 

02.スパイダー
→ 77時限目:スパイダー - スピッツ大学

 

03.空も飛べるはず(Album Version)
→ 82時限目:空も飛べるはず - スピッツ大学

 

04.迷子の兵隊
→ 166時限目:迷子の兵隊 - スピッツ大学

 

05.恋は夕暮れ
→ 51時限目:恋は夕暮れ - スピッツ大学

 

06.不死身のビーナス
→ 151時限目:不死身のビーナス - スピッツ大学

 

07.ラズベリー
→ 197時限目:ラズベリー - スピッツ大学

 

08.ヘチマの花
→ 154時限目:ヘチマの花 - スピッツ大学

 

09.ベビーフェイス(Album Version)
→ 155時限目:ベビーフェイス - スピッツ大学

 

10.青い車(Album Version)
→ 4時限目:青い車 - スピッツ大学

 

11.サンシャイン
→ 61時限目:サンシャイン - スピッツ大学

 


■僕は個人的に、スピッツの活動時期をアルバム単位でいくつかに分けているのですが、例えば、第1期というと、1st『スピッツ』~4th『Crispy!』を位置付けています。

 

そして、この5th『空の飛び方』からは、スピッツの活動は、第2期へと差し掛かったと感じます。

 

何と言いますか、第1期を「スピッツの誕生と不遇の時代」とでも名付けるとしましょうか。すると、第2期はまさに「スピッツの黄金期」とでも言えますかね、”全盛期”と言うと嫌がられそうですが、売上などの数字を見ても、そう言えるのではないでしょうか。

 


まず、前作『Crispy!』の売上枚数が、10万枚に満たなかったのに対して(いつの時代の数字か分かりませんが、9.6万枚という情報を得ました)、今作『空の飛び方』はおよそ90万枚…売上枚数は、驚きの約10倍にまで跳ね上がりました。そして、オリコンチャートインしなかった『Crispy!』に対して、『空の飛び方』は14位にチャートインしました。

 

それから、これはアルバムが発売になって時間が経ってからですが、収録曲の【空も飛べるはず】が、シングルとして爆発的なヒットを記録します。売上枚数は150万枚くらいでしょうか、とにかく100万枚は大きく上回りました。これは、スピッツシングルの中では、第3位の売上枚数となっています。

 

アルバムに入っているシングル曲は、【空も飛べるはず】の他、【スパイダー】と【青い車】がありますが、シングル『君が思い出になる前に』以降のシングルが、”マイアミショック”の曰く付きベストアルバム『RECYCLE Greatest Hits of SPITZ』に入ったんですよね。だから、ベスト盤で聴くことが出来る、この辺りのシングル曲から、劇的に認知度が上がったんじゃないでしょうか。

 


かくいう僕自身も、シングル『チェリー』でスピッツにハマったのですが、その辺りを起点として、新しいアルバムを聴き進めていきながら、逆に、作品をさかのぼっていきました。

 

それで、最初に僕がさかのぼったのが、ひとまずこのアルバム『空の飛び方』まででした。それ以前にさかのぼるまでは、ここで一旦時間が空くのです。なので、僕のスピッツの初期の記憶は、アルバムでいうと『Crispy!』と『空の飛び方』の間に一線引かれて区切られています。

 

僕は、中学生の時に『空の飛び方』を聴いていたので、かれこれ20年以上の付き合いですよ。これ聴きながら、高校受験の勉強をしてましたからね。そんな時に、”ただ君のヌードを ちゃんと見るまでは僕は死ねない”なんて陽気に歌ってくるんですから、「ヌード…ヌード…」ってそりゃ悶々としてきて、ペンを握るんじゃなくて…って何を言ってるんだ。

 


■アルバム『空の飛び方』のプロデューサーは、引き続き笹路正徳さんです。この頃にはもうすでに、スピッツと笹路さんがかなり打ち解けていることを、書籍「旅の途中」を読んでいても感じ取ることができます。”笹路学校”なんて言葉もあり、何ていうか、先生(笹路さん)と生徒(スピッツメンバー)の関係に近かったのかなって、読んでいて思いました、何となく微笑ましいですね、笑。

 

書籍「旅の途中」には、たくさんのエピソードが書いてあるのですが、読んでいて印象に残ったエピソードを、一つ載せておきます。

 


アルバム『空の飛び方』のレコーディングの際、アメリカからエンジニアをお願いしてみよう、ということになり、ポールという人に、アルバムのミックスダウンをしてもらったそうなのです。

 

ところが、このポールのミックスダウンについては、メンバーが納得いく音では無かったようです。しかし、アメリカからわざわざ呼んでもらったエンジニアに対して申し訳ないと、メンバーは何も言えずに口を閉ざしてしまいます。その様子に、笹路さんも気づいたようで、「バンドとして言わなきゃダメだ」とメンバーに進言したそうです。

 

結局、スピッツメンバーはちゃんとポールに意見を述べて、つまりミックスを断って、レコーディングにも携わっていた宮島哲博さんのミックスの方を採用したのだそうです。
(※宮島哲博さん…調べてみましたが、自分の好きな・ある程度は知っているアーティストだと、GRAPEVINEGOING UNDER GROUNDCoccoTHE HIGH-LOWSなどを手掛けているようです!)

 



 いま思えば、このときがスピッツの分岐点の一つだった気がする。バンドとして、意思を持って決断していく覚悟のようなものができた最初の出来事だった。

 

リーダーは、書籍の中でこのように語っています。”笹路学校”の中で、スピッツメンバーが、音楽的にだけではなく、プロのミュージシャンとしての考え方などを、この時期に急激に学んで吸収していって(吸収しようとしていって)、大いに変化・成長していったことを読み取ることができます。

 


■さて、そんな『空の飛び方』はどんなアルバムなのか、考えていきます。

 

まず、4th『Crispy!』は、前回書いた通りですが、「売れる!」という目標を立てて、ポップな作品を目指して作られました。それは、スピッツメンバーや笹路さんのねらいとするところではあったのですが、”よりポップに!”と多少無理をし過ぎたせいで、スピッツ本来のギターを中心としたバンドサウンドからは離れていきました。

 

一方で、今回の5th『空の飛び方』は、スピッツ本来の、ギターを中心としたバンドサウンドに戻すことを方針として作られたそうです。

 


個人的な感想を言わせていただくと、色んな意味で”ちょうどよくなってきた”のがこの頃なんじゃないかなって思っています。

 

本来のサウンドに戻るといっても、今までの作品に比べると、『空の飛び方』も十分ポップなんですよね。ただし、そこには『Crispy!』の時に感じた、無理してる感というものは感じなくて、板についてきたと言いますか、そのポップさを自然に感じることができるのです。何ていうか、一言で言うと”聴きやすい”んです。

 

書籍にもそういう表現がありましたが、余計な音が入っていなくて、1曲1曲が軽く感じるんです。ホーンやストリングスの音がたくさん鳴っていて、派手な曲も、それはそれで聴いていて楽しいんですけど、ギター・ベース・ドラムというシンプルな演奏が、草野さんのボーカルを引き立たせるという、本来のスピッツのサウンドに戻り、でもちゃんとポップなスピッツも継承されて、それらがちょうどよくミックスされていったのが、ちょうどこの頃なのかなという感じです。

 


これぞギターロックといえば、例えば、【スパイダー】や【不死身のビーナス】や【青い車】辺りでしょうか。疾走感があって、ギターの音が前面に押し出されていますよね。最近のライヴでやっても、すごく盛り上がる曲ばかりだと思います。

 

一方で、ゆっくりと聴かせる曲も入っていて、例えば、名曲【空も飛べるはず】、大人になってより好きになってきた【サンシャイン】、個人的に好きな【たまご】や【ラズベリー】など(どうかな、これら2曲は割とロックな部類に入るのかな)があって、ロックナンバーとのバランスを取っています。

 


■では、アルバムの精神的な部分(込められた想いなど)はどうでしょうか。

 

何と言っても、タイトルの”空の飛び方”ですよ。スピッツが(草野さんが)作る歌詞の中で、”飛ぶ”という言葉は、よく出てくる表現の一つであり、重要な意味を持っている言葉だと思うのですが、それらのことは、書籍「スピッツ」においても草野さんが語っておられます。

 


草野「(アルバムタイトルを)初めは『飛び方』にしようとか言ってたんだけど、字面がイマイチっつうのがあって『空の飛び方』にしたんですけど。まぁ、昔から”飛ぶ”っていうのをテーマにしている部分が多いし」

 


それから、”飛ぶ”という言葉の、草野さん自身の概念について、

 


草野「これはもう幽体離脱ですよ(笑)。まあ瞑想でも夢でも宗教でもなんでもいいんですけど、もっと荘厳なイメージというか」

 

という風にも語っています。

 


僕個人的には、スピッツの歌詞の中に出てくる”飛ぶ”(類義語として”浮かぶ”とか”越える”とか”渡る”とか)という言葉については、物理的に飛ぶのではなくて、いわゆる”精神的にトブ”ということを表していると考えています。

 

さらに具体的に、大きく分けて2つの意味合いとして使っているのではないかなって考えています。

 


■一つ目
「魂や精神が(あの世へ)トブということで、”成仏”…もっと簡単にいうと、”死”を表している」

 

例えば、『空の飛び方』の楽曲だったら、すっかり心中の解釈が定着してしまっている【青い車】などがありますかね。”そして輪廻の果てに飛び下りよう”という表現が出てきますが、この場合は”飛び下りる”なので、(心中の解釈に基づくとすると)”車で海に飛び下りる”などにもかかっていると思いますが、”輪廻の果て”という言葉が引っ付いていて、いかにも、この世のしがらみを越えて、”あの世へトブ”という表現になっていると考えることができます。

 

アルバム外の曲だったら、個人的にこっち側の解釈をしたのは、例えば、【ローランダ―、空へ】【ワタリ】【漣】【タンポポ】などをすぐに思い出しました。直接”飛ぶ”という言葉が出てきていなかったり、違う言葉に置き換わったりしていますが…もっとたくさんあると思います。

 


■二つ目
「喜びのあまり、気持ちが天にもトブような気持ちになる…として、しばしば、性的に”快楽”に溺れることや、”絶頂”に達することを表している」

 

個人的に、【空も飛べるはず】はこっち側に位置付けているのですが、どうですかね。”君と出会った奇跡”によって、”空も飛べるはず”という心地になったということで、何ていうか、全てが君と出会ったことによって救われた気持ちになり、そういう喜びのあまりに、心が浮ついて天にも昇ってしまいそうだ、という解釈を当てはめました。

 

我々人間は(とりわけ日本人?)は不思議なもので、何か素晴らしい・喜ばしい出来事に直面したときに、”ああ、天にも昇る気持ちだ!”、”もう死んでも構わない!”なんて言ったり、思ったりしますよね。何か、そういう感覚に”飛ぶ”という言葉を当てはめたのかなって考えたりします。

 


■という風に考えていくと、”精神的にトブ”という意味では、一つ目の考え方も、二つ目の考え方も、根本的には同じなんじゃないかと思えてきます。2つは表裏一体であり、つまりは、草野さんの詩のテーマである、”死とセックス”を表しているのだということですね。

 

色んな”飛び方”があるということで、そういう意味を含めて、インタビュアーはこのアルバムを、「飛び方の11の方法」という風に表現なさっていました。

 

それを受けて、草野さんは”再現フィルム”という、これまた絶妙な言い方をなさっていました。車で海に飛び込んだりする【青い車】、女の子をさらって逃げたりする【スパイダー】、挙句の果てには、”君のヌードをちゃんと見るまでは僕は死ねない”なんて言っちゃったりする【ラズベリー】など、ぶっ飛んだ”再現フィルム”もありますが…。

 

まぁとにかく、頭の中の妄想では自由に、どこでも行けるし、何だってできるし、何にだってなれる…ということで最終的には、この作品は、”空を飛ぶ夢”を見ている感じに近いのかなって思ったりします。

 

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