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アルバム講義:10th Album『三日月ロック』

三日月ロック

10th Album『三日月ロック』
発売日:2002年9月11日

 


■収録曲(→の先より、各曲の紹介へと飛べます)

 

01. 夜を駆ける
→ 195時限目:夜を駆ける - スピッツ大学

 

02. 水色の街
→ 179時限目:水色の街 - スピッツ大学

 

03. さわって・変わって
→ 60時限目:さわって・変わって - スピッツ大学

 

04. ミカンズのテーマ
→ 178時限目:ミカンズのテーマ - スピッツ大学

 

05. ババロア
→ 143時限目:ババロア - スピッツ大学

 

06. ローテク・ロマンティカ
→ 204時限目:ローテク・ロマンティカ - スピッツ大学

 

07. ハネモノ
→ 136時限目:ハネモノ - スピッツ大学

 

08. 海を見に行こう
→ 22時限目:海を見に行こう - スピッツ大学

 

09. エスカルゴ
→ 25時限目:エスカルゴ - スピッツ大学

 

10. 遥か(album mix)
→ 139時限目:遥か - スピッツ大学

 

11. ガーベラ
→ 37時限目:ガーベラ - スピッツ大学

 

12. 旅の途中
→ 86時限目:旅の途中 - スピッツ大学

 

13. けもの道
→ 47時限目:けもの道 - スピッツ大学

 


■ここでも何度も語ってきましたが、”マイアミ・ショック”により、スピッツは一度”死”を迎え、そこからもう一度、純粋な”ロックバンド”として”再生”を果たしました。

 

個人的な分け方になりますが、マイアミ・ショックを境にして、スピッツの活動時期は、第三期に入ったと考えています。個人的に、第二期を「スピッツ黄金期」という風に紹介しましたが、第三期は「スピッツの死と再生」という感じでしょうか。

 

そして、今回紹介するアルバムは、記念すべき10枚目のオリジナルアルバム『三日月ロック』です。第三期を迎えてからだと、まだ間もない、第二作目の作品ということになります。

 


■前作の『ハヤブサ』のプロデューサーは、石田ショーキチさんという方が務めました。同世代のプロデューサーにお願いしたい、ということで、スピッツメンバーと年齢が近い石田さんに白羽の矢が立ったんだそうです。

 

石田さんとメンバーの年齢が近かったことや、共通している音楽がヘビィロックやメタルだということも、『ハヤブサ』がロックでパワフルな作品に仕上がったということに関係したのかもしれません。

 


そして、続く今作の『三日月ロック』のプロデューサーには、新しい人とやってみたいということで、亀田誠治さんが起用されます。

 

亀田誠治さんと言えば、もう言わずもがなですが、日本を代表する音楽プロデューサーの方ですよね。少し調べただけでも、本当にたくさんの錚々たるアーティストのプロデュースを手掛けてきたことが分かります。スピッツはもちろん、自分が好きなアーティストも、あれもこれも…という風に、たくさん見つけることができます。

 

元々、亀田さんはベーシストの方なんですよね。ライヴサポートのメンバーとしても活動されているようですし(今はそんなにないのかな?)、椎名林檎が中心となって結成された東京事変というバンドでは、がっつりとレギュラーメンバーとして活動されていました。Bank Bandとかにも参加しているんですね。

 

ちなみに、亀田さん主催の「亀の恩返し」というライヴイベントがあるのですが、それにはスピッツも参加していました。それが、たまたまWOWOWでやっていたので、録画したのを今でも時々見ています。

 


■亀田さんが、一番最初に手がけたスピッツ作品が、シングル『さわって・変わって』の、【さわって・かわって】とカップリングの【ガーベラ】の2曲だったようです。まぁ、その流れから、アルバムのプロデュースということになったのだと思います。

 

亀田さんとのお話も、書籍「旅の途中」にたくさん載っていますので、詳しくはそちらを参照してみてください。

 

ちょっと紹介してみると、亀田さんは草野さんに対して、一つだけ要望をしたんだそうです。その要望とは、「リハーサルまでに歌詞を出来るだけ書き切ってくる」ということでした。これまで、歌入れの時まで歌詞が出来ていないということもしばしばあったようなのですが、それからは歌詞を書き切ってくるようになったようです。

 


■さて。

 

アルバム『三日月ロック』の発売日は、2002年9月11日となっていますが、これは奇しくも、「アメリ同時多発テロ」のちょうど一年後になります。意図的にそうなったわけではないようですが、草野さん自身、アルバムは911テロの影響を受けたと語っているところから、何か因縁のようなものを感じます。

 

この辺りのことも、書籍「旅の途中」の方に、たくさん書かれています。

 


911テロが起こった翌日、スピッツは『ハヤブサ』のツアーでライヴをしたんだそうです。そこで、草野さんの心の中に、「自分が歌う意味」に対しての疑問が渦巻いていたようです。

 


 いままでずっと、自分にとってそうであったように、誰にとっても音楽は必要不可欠なものなんだろうと漠然と思ってきた。
 でも、同時多発テロや戦争のような圧倒的な暴力の前では、音楽はあまりにも無力だ。しょせん、音楽は余剰なもの、贅沢品ではないのか。自分にとっても、ほかの誰かにとっても、生きていく上で本当に必要なものではないのではないか?

 

書籍の中で、こんな風に草野さんは語っています。アルバム『ハチミツ』の時も、阪神淡路大震災地下鉄サリン事件などに影響を受けたようですし、これはまた後に語ることになりますが、東日本大震災の時もそうですよね。

 

特に、草野さんという人は、感受性の強い音楽家なのだと思います。こういう大きな出来事に際する度に、どこか過剰に反応してしまって、苦しんだり悩んだりしてきたのでしょう。

 


■そんな中、草野さんがもう一度音楽への気持ちを取り戻したのが、シングル曲の【ハネモノ】だったようです。【ハネモノ】は、カルピスのCMソングとして依頼がきたものでした。CMで流れていたのを、微かにですが覚えています。

 


 ”9・11”の衝撃がようやく自分の中で消化されようとしていた。
 音楽は贅沢な楽しみかもしれない。それでも、心の中にある不安をなくすことはできなくても、和らげることができるんじゃないだろうか。
 俺は、俺の気持ちだけじゃなくて、世の中にある何かザワザワした不安を和らげるような、少しでも鎮めることができるような曲を作っていきたい。

 

書籍の中でこんな風に語っています。こういう流れから、アルバム『三日月ロック』へと進んでいくことになるわけです。

 

こういう話を聞けば、シングル『ハネモノ』やアルバム『三日月ロック』に対する想いが、がらりと変わってきますよね。草野さんが、人々の心の不安を少しでも和らげようとする気持ちが込められていると…何か感慨深いですよね。

 


■これも何度も語っていることですが、(個人的分類による)第三期に入って、スピッツの音楽は、ロック色の強いものへと変わっていきました。それは僕自身、最初は違和感を感じるほどでしたが、すぐに大好きになりました。

 

アルバム『ハヤブサ』とアルバム『三日月ロック』については、どちらもロックな作品であるとは思うのですが、雰囲気としては全然違うことを感じます。

 


もうすでに語ったことですが、『ハヤブサ』は、どちらかというと、スピッツのパーソナルなアルバムだという印象を持っています。マイアミ・ショックなどにより溜め込んだ、鬱憤ややり切れない思いを晴らすような、まさに”魂の叫び”という形容が近いのではないかと思います。

 

一方で、『三日月ロック』の印象は、先程紹介した草野さんの言葉を踏まえてっていう部分もありますが、激しいロックの中に、”優しさ”のようなものを感じます。

 

もちろん『ハヤブサ』にも、優しい曲はありますが、初めて聴いた時には、やっぱり”激しいアルバム”という印象が強かったです。ただ、『三日月ロック』は、そんな風には思いませんでしたね。まぁ『ハヤブサ』で耐性がついたってのもありますが、割と最初からすんなり入ってきたんです。

 


■アルバム『三日月ロック』には、表題曲がありません。つまり、アルバムのタイトルになっている”三日月ロック”という曲が入っていないんです。これは、オリジナルアルバムで言うと、アルバム『空の飛び方』以来のことなんだそうです。

 

表題曲がある作品は、もちろんその表題曲がアルバムの軸になり得ます。例えば、前作の『ハヤブサ』とかは、もうあきらかですよね。あのロック全開の疾走感あふれる【8823】という曲が、まさにアルバムを物語っているという感じです。

 

一方で、アルバム『三日月ロック』には表題曲がない分、ロックな方向に向いても聴けるし、優しい方向に向いても聴けるような、何ていうか、こういうアルバムだと限定させることなく、その時その時の状況に合わせて聴けると思うんです。盛り上がることもできるし、静かな気持ちで聴くこともできるしって感じです。

 

言い方を変えるならば、全曲が表題曲になり得るって感じですかね。このアルバムの中の曲で、どの曲を中心に据えて聴くかで、印象が変わってくるのではないでしょうか。

 


■印象に残っている曲をいくつか紹介させてもらいますと、まずは【ハネモノ】。

 

先述した通り、これは草野さんが音楽への気持ちを取り戻したきっかけの曲でもあります。何ていうか、応援歌とも鎮魂歌とも取れるような不思議な曲だと思うんですけど、先述のエピソードもあり、このアルバムを象徴している曲だと思っています。

 


ささやいて ときめいて
街を渡る 羽のような
思い通りの生き物に変わる

 

これがサビの歌詞ですが、僕はここを読むと、街のアスファルトの上に落ちている一本の白い鳥の羽が、風を受けて空に舞い上がっていくような、そんな光景を思い浮かべています。それは、魂が成仏して空に舞い上がっていくような、あるいは、生き物が生まれ変わっていくような、そういうイメージを想起させる光景だと思います。

 


それから、【旅の途中】も印象に残っています。

 

僕は、この曲が本当に大好きなんです。こういう、ロックとフォークソングの真ん中のような曲は、スピッツにとってはすごく重要ですよね。まさしく、優しいロックの代名詞のような曲だと思います。本当にきれいな曲だと思います。

 

タイトルにもなっています、”旅の途中”という言葉は、スピッツにとって大切な概念になっています。つまりは、いつだって自分たちが居る場所は、”旅の途中”なんだということを表しています。

 


■それから、何と言っても、【けもの道】という曲ですよ。

 

僕は、この【けもの道】という曲が、スピッツの全曲の中で一番好きなんです。この曲には、何度も何度も励まされてきて、それはこれからも変わらないです。アルバムの最後が、【旅の途中】→【けもの道】で締めくくりになるのですが、もう流れが最高ですよね

 

先程の、表題曲云々の話をしましたが、個人的に、この曲をアルバムの表題曲と位置づけて聴いています。

 

このアルバムに、草野さんが込めた想いとして、「人々の不安な気持ちを和らげる」というのがありましたが、全曲がそういう曲になっているわけではないとは思いますが、人を応援する気持ち・励ます気持ちを、このアルバムに込めているのだと思っています。

 

そこで、この【けもの道】は、まさにって感じです。

 


あきらめないで それは未来へ
かすかに残るけもの道
すべての意味を 作り始める
あまりに青い空の下
もう二度と君を離さない

 

サビのこの部分の歌詞。”あきらめないで”っていう言葉も、それまでの草野さんからすれば、こういう真っ直ぐで、あからさまな言葉は、ちょっと控えるような言葉なんですよね。シングル曲の【裸のままで】でも、”君を愛してる”という言葉を使うことにも抵抗を感じていたほどでした。

 

何ていうか、こう言うと失礼かもしれませんが、草野さん自身が、どこかフワッと生きているような感じがするのです。それは、一重に彼の人柄から来るものが強いと思いますが、実際に書籍「スピッツ」の中で、すごい初期の頃のインタビューの中で、”「元気に生きていこう!」より「フワッと死んでいこう!」がいい”と語っていました。

 

そこからも、草野さんという人が、”あきらめないで”という強い言葉を使ったことには、何かすごく大きな意味を感じてしまうのです。これは、スピッツを長く聴いてきた自分からすれば(もとい『三日月ロック』を初めて聴いたのは高校生の時でしたが、それでも)、半ば違和感に近い言葉だったほどです。

 

それでも、それだけそういう言葉を使わなければ表せない、強い想いがあったのだろうと想像しています。”俺は、俺の気持ちだけじゃなくて、世の中にある何かザワザワした不安を和らげるような、少しでも鎮めることができるような曲を作っていきたい。”という、先程紹介した言葉を物語る、紛れもない強くて優しい草野さんの応援歌なのです。

 

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