232時限目:見っけ
【見っけ】
■16枚目のアルバム『見っけ』に収録されている曲です。見ての通り、アルバムの表題曲です。
前作『醒めない』から、時を経ること実におよそ3年2ヶ月、16枚目のオリジナルアルバム『見っけ』は発売になりました。
そのアルバムの表題曲ですよ。個人的には、これまたタイトル・歌詞ともに、いきなり結構謎だなって思うんですよね。久々の丸ごと1曲の記事なんですが…ハードルが高いです苦笑。
■アルバム『見っけ』の収録曲にも、アルバム発売前にすでに聴けた曲がいくつかありました。この【見っけ】もその一つで、アルバム発売前に、NTT東日本のテレビCMで起用された曲でした。
アルバム発売前に、スピッツの新曲がCMで起用されるという情報が発表され、確か最初は曲名は明かされなかったのですが、早い段階から、歌われている部分の歌詞の中に”見っけ”というフレーズが見出され、この新曲が【見っけ】であることが判明していました。
NTT東日本のテレビCMと言えば、前にスピッツの【みなと】が起用されたことがありましたよね。僕はそのことを覚えていたので、てっきり結構ゆったり聴かせる感じの曲、バラードチックな曲が選ばれるのかと思っていたのですが、個人的な予想に反して【見っけ】は、明るいイメージの曲でした。
■さて、何はともかく”見っけ”という、これまた印象に残るタイトルなんですけど、どういう想いが反映された言葉なんでしょうか。
音楽雑誌「音楽と人」にて、草野さんは色々と語っておられますが、個人的に特にこの”見っけ”という言葉を表していると感じた部分を紹介しておきます。
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草野さん「(前略)流れ的には、ロックミュージックにはまった気持ちが今も続いてるよっていう前回の『醒めない』から、さらに新たな何かを見つけたよ、みたいな感じですかね」
インタビュアー「ロックミュージックで見つけたものは何ですか?」
草野さん「まぁずっと変わらないんですけど、ロックミュージックはオルタナティブなものだ、ってことですね」
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この辺りでしょうか。
じゃあ結局、”Alternative / オルタナティブ”って何なんだ?って思うんですけど、これは至極単純に言うと、「代わりとなるものがなく、型にはまらない」という意味なんだそうです。(そういえば、スピッツはその昔、スペシャルアルバム『おるたな』という作品を発表しましたね。)
そもそも、スピッツロックはもともと唯一無二のものであり、オルタナティブ以外の何物でもないんですが、今回アルバム『見っけ』を聴いて、びっくりしましたよ。
個人的には、バンド以外の演奏やエフェクトが積極的に使われていたり、プログレとでも言うのでしょうか、曲の展開が途中でがらっと変わったりする曲が収録されていたからです。
30年以上も続けてきて、スピッツはまだ、新しい扉を開けるのかと。個人的な括りですが、ずっと続いてきた、スピッツ第四期(アルバム『とげまる』~)が終わり、新しい時代に入ったのか、とさえ思うわけです。
■とまぁ、上述のようなところを総称して、”見っけ”と表現しているのかな、と思うわけですが、肝心の楽曲はどういう感じになっているんでしょうか。
まず、イントロから、曲が始まってもずっと鳴っていて耳に残るのが、電子ピアノと言えばいいんですかね、”テラテラテラテラ…”って感じで鳴っている音ですよね。
もちろん主体は、本来のスピッツロックではあるんですけど、この音のおかげで随分印象が変わって聴こえます。明るく聴こえるというか、神々しさすらを感じるというか、そういう役目を担っているんだと思います。
あと印象に残るのは、サビの草野さんのファルセットですかね。低い音階から徐々に上がっていって、ファルセットまで到達すると、何か突き抜けた感があって気持ちいいですよね。
■そして、歌詞についてですが、これまた不思議な歌詞ですよね。
個人的に一聴して印象に残ったのは、一曲目から”再会”という言葉が使われていたところでした。
アルバム『醒めない』を思い出してみると、収録曲には、割と別れの曲や会えない状況を歌った曲が多かったような気がします…例えば、【みなと】や【子グマ!子グマ!】や【コメット】や…今思うとほとんどですかね。そして、そういう曲を経ていって、最後の【こんにちは】で”再会”を果たすという、一つながりの物語のような作品であったと思います。
それと比較すると、アルバム『見っけ』では、表題曲であり1曲目である【見っけ】から、いきなり”再会”という言葉が使われています。
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再会へ!消えそうな 道を辿りたい
すぐに準備しよう
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再会へ!流星のピュンピュンで 駆け抜けろ
近いぞゴールは
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”見っけ”という言葉の説明として、「ロックミュージックの中に新しいものを見つけた」というものを先述しましたが、もう一つ、長く会えなかった人との再会を、「あなたを”見っけ”た」とも歌っているのかな、と思ったんです。
■ただ、そうなってくると、歌詞を改めて読んでいくと、気になる箇所がたくさん出てきます。
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人間になんないで くり返す物語
ついに場外へ
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再会へ!生ぬるい運命を 破りたい
未来をひっかいて
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また過剰な反応を…と思われるかもしれないですけど、でも特に最初の2行はかなり引っ掛かる表現ですよね。
”人間になんないで くり返す物語”=この辺は、何となく輪廻転生の物語をイメージしますよね。人間という括りを越えて、もっと色んな生き物に生まれ変わって、繰り返している物語って感じでしょうか。
”ついに場外へ”…で、そういう輪廻転生という括りをも飛び越えたと。そうなると…どうなるんですかね、もう想像だにできません。
例えば、死して肉体は滅びてもなお、その魂は、誰か大切な人との”再会”を願い続けていた。その想いだけをずっと留めたまま、色んな生き物に生まれ変わりながら、ずっとずっとその大切な人を探していた。そして、そういう物語が報われてゴールへと…ついに大切な人との再会を果たす。だから、もう生まれ変わる必要がなくなった、と。
(勝手ですが)僕はこんな風に考えると、アルバム『小さな生き物』やアルバム『醒めない』で長く続いてきた、東日本大震災という大きな出来事を背景に紡いでいた、いわゆる”死と再生”の物語の終焉を想像したんです。何かもう、究極なエンディングって感じがしませんか?言い方が難しいんですけど、全ての”死”が報われるエンディングって感じです。
そして、じゃあ”死と再生”が終わるとどうなるのか…その次は、また新しいものを”見っけ”る物語へと続くのではないでしょうか。
■ということで、”見っけ”に込められた意味を、僕は2つ受け取りました。
①「ロックミュージックの中に新しいものを”見っけ”た」という想い
②長く続いた”死と再生”の物語の終焉と、新しい”見っけ”の物語の始まり
まとめるとすると、こういう感じですかね。
ちなみに、
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ランディーの歪んだサスティーンに 乗っていく
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というところについてですが、まずサスティーンとは、「演奏によって楽器が音の発生を開始した後に聞こえる余韻」だそうです。
で、ランディーについては、(おそらく)ランディー・ローズという人が当てはまるんですかね。wikiで調べただけの、付け焼刃的な知識で申し訳ないのですが、「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100人のギタリスト」で、2003年で85位、2011年で36位にランクインしている、世界的にも超有名なギタリストですね。
ちなみにランディー・ローズは、飛行機の墜落事故により、25歳の若さでこの世を去ったのだそうです。【見っけ】の歌詞に、”ファントム”というフレーズが出てくるのですが、これもこの人のことを表しているんですかね。