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アルバム講義:1st Album『スピッツ』

スピッツ

1st Album 『スピッツ
発売日:1991年3月25日

 

■収録曲(→の先より、各曲の紹介へと飛べます)

 

01. ニノウデの世界

→ 125時限目:ニノウデの世界 - スピッツ大学

 

02. 海とピンク

→ 20時限目:海とピンク - スピッツ大学

 

03. ビー玉

→ 146時限目:ビー玉 - スピッツ大学

 

04. 五千光年の夢

→ 54時限目:五千光年の夢 - スピッツ大学

 

05. 月に帰る

→ 94時限目:月に帰る - スピッツ大学

 

06. テレビ

→ 99時限目:テレビ - スピッツ大学

 

07. タンポポ

→ 91時限目:タンポポ - スピッツ大学

 

08. 死神の岬へ

→ 64時限目:死神の岬へ - スピッツ大学

 

09. トンビ飛べなかった

→ 107時限目:トンビ飛べなかった - スピッツ大学

 

10. 夏の魔物

→ 115時限目:夏の魔物 - スピッツ大学

 

11. うめぼし

→ 23時限目:うめぼし - スピッツ大学

 

12. ヒバリのこころ

→ 145時限目:ヒバリのこころ - スピッツ大学

 


正真正銘スピッツのメジャーデビューアルバムです。シングル『ヒバリのこころ』とともに、当アルバムが同時リリースされて、スピッツはメジャーデビューを果たしました。

 

実際は、1987年に現メンバーが揃ったスピッツが結成され、そこからアマチュア・インディーズ時代を経て、1991年にメジャーデビューという流れになりました。およそ4年間は、アマチュア・インディーズで活動していたことになるんですね。

 

ちなみに、シングル『ヒバリのこころ』には、【ヒバリのこころ】と【ビー玉】が入っています。その2曲がそのままアルバムに入っちゃっているところから、え、シングルを発売した意味があるの?とか思ってしまいますが、調べてみたところ、【ヒバリのこころ】のバージョンが少し違うらしいです。

 


さて、このアルバムのレコーディングの模様は、書籍「旅の途中」を読むと少し書かれています。

 

チューニングからとにかく時間がかかり、慣れない雰囲気でレコーディングを進めていくが、テイク数だけが重なっていき、中々OKが出ない…というより、何を基準にして誰がOKを出せばいいのか、プロデューサーも含めて誰もその基準を持っておらず、挙句の果てには、エンジニアが怒ってしまった…みたいなことが書かれていました、苦笑。

 


■デビューアルバムでありながら、僕がこのアルバムを聴いたのは、スピッツを聴きはじめてから、ずっと後になってのことでした。詳細は覚えていないですが、スピッツを好きになったのが小学生の頃で、多分デビューアルバムとセカンドアルバムは、高校生の時に聴いたと記憶しています。

 

僕が初めて1stアルバムを聴いた当時のスピッツは、いわゆる”マイアミ・ショック”後の(個人的に呼んでいる)第三期に差し掛かっていたので、リアルタイムで聴いているスピッツの歌の感じとは、かなり違って聴こえました。草野さんのボーカルの雰囲気も違っていたし、メロディーの雰囲気も違っていましたが、何より衝撃を受けたのは、その歌詞の世界観でした。

 


個人的には、最初にして最大の謎アルバムと思っているこのデビューアルバム『スピッツ』ですが、その所以はやはり、歌詞の世界観に他ならないと思います。その収録曲のほとんどが本当に奇妙で、率直に言うと、何が言いたいのか分かりませんでした。いくつか歌詞を挙げてみますと、例えば…

 



タンタンタン 石の僕は空を切り取った
タンタンタン 石の僕は空を切り取った

【ニノウデの世界】より

 


五千光年の夢が見たいな うしろ向きのままで
涙も汗も吹き飛ぶ 強い風に乗って

【五千光年の夢】より

 


君のベロの上に寝そべって
世界で最後のテレビを見てた
いつもの調子だ わかってるよ
パンは嫌いだった

【テレビ】より

 


うめぼしたべたい
うめぼしたべたい僕は今すぐ君に会いたい

【うめぼし】より

 


などなど、常人では思いつかないような、奇妙な世界観の歌詞です。しかし、こういう言葉を、すごくきれいなメロディーに乗せて歌うのだから、またこれがギャップにやられてしまいます。何か、歌っていることはよく分からないけど、やけに耳に残るような、そんな歌ばかりでした。

 

こういうことがあって、僕はもっとスピッツのことを、草野正宗さんのことをもっと知りたいと思うようになったのだと思います。特に、詩の世界観について、この頃から色々と考えを巡らすようになりました。

 


草野正宗さんが書く詩のテーマとして、よく挙げられるのが、”セックスと死”というものです。特に、初期の頃の歌に、そういう世界観が色濃く反映されていると思います。多分、色んなところで語られていると思うのですが、書籍「スピッツ」にて、アルバム『空の飛び方』辺りのインタビューで、草野さん自らがしゃべっているのを見つけました。

 


俺が歌を作る時のテーマって”セックスと死”なんだと思うんですよ。で、そのセックスに対するイメージが変わってくるのに従って、死っていうのがテーマとして大きくなってきてるかもしんないんですよね。

 


あとやっぱ子どもの頃の感覚に返ると、セックスも死も恐怖の対象だったと思うんですよ。だから、そういう部分をずっと引きずってるとこもあると思うし。

 

この他、「どうせ死ぬんだよな」という思いから物の収集ができないだとか、子どもの頃、1年のうちに2人立て続けにおじいさんを亡くされて、それが死を考えるきっかけになっただとか、死生観について様々な話が出てきており、そのひとつひとつが、歌詞の世界観を生み出していることが分かります。

 


こういう話を聞いたから、余計にそう感じる部分もありますが、特に初期の頃の歌の多くは、”セックス”か”死”か、割とそのどちらかをテーマにしている歌に大別できるのではないかと、個人的にですが思っています。

 

例えば、【テレビ】であれば”葬式”や”お墓参り”を歌っているのではないか、【うめぼし】のうめぼしは”女性の乳首”を表しているのではないか、【五千光年の夢】や【タンポポ】は”成仏”を表しているのではないか、【夏の魔物】は”赤ちゃんの中絶や流産”などをテーマに書かれているのではないか、などなど…もちろん、これらは個人的な解釈です。

 

草野さんにとって、”性(セックス)”と”死”は表裏一体であるものなのでしょう。”性”とは、人間が持つ欲求の中でも強いものであり、”性”=”生”ということで、生きとし生けるものの全ての根元・始まりを意味します。一方で、”死”とは、万物に訪れる終わりを意味しています。

 

つまり、”セックスと死”で、人が生まれて、生きて、そしてやがて死んでいくということを表しているのです。そして時には、人生の終わりを飛び越えて、魂の成仏や、死後の世界、輪廻転生などへと、詩の世界観が拡げられています。

 


■それから、書籍「スピッツ」にて、ちょうどこのアルバム発売時のインタビューで、草野さんが自身の作詞観を語られています。

 


言葉っていうのも全然関係ないようなとこからポッと入れたりとか、全然その曲のタイトルとつながらないような言葉とかをたくさん入れて、それで結局タイトルの言葉っていうのは出てこなかったにしてもそのタイトルをイメージさせるデッカいイメージみたいなものが構築されたらなっていう…

 

この辺りは、結構納得ですよね。特に、初期の頃の歌に顕著だと思いますが、およそタイトルとは関係のないような言葉が散らばっていて、時にまるで暗号を読むように、ひとつずつその言葉を拾って繋いでいくと、何となく全体で意味が分かるような(分かった気になったような)、そんな感じになります。

 

真っ直ぐに、”愛している”だの、”君が好き”だの言えば良いものの、そうはなっておらず、言いたいことが色んなものに置き換えられているものだから、要するに”分かりにくい”んですよね、苦笑。

 

しかし、だからこそ、歌詞の世界観に深みが生まれ、また、この歌詞はどんなことを歌っているんだろうと、考える楽しさを感じることができます。それは、歌詞を読んでいるというより…しばしば草野さんの歌詞は、現代詩のようだと例えられますが…まさに現代詩、ちょうど学校で読む教科書に載っている詩を読んでいる感覚に近いのかな、と思っています。

 


■非常にマニアックな詩の世界観と、不思議と耳に馴染むメロディーを併せ持つ、不思議な歌の宝庫、1stアルバム『スピッツ』です。

 

まだまだ大衆を狙った作品ではなかったものの、(おそらく)マニアックな一部のリスナーにはじわじわと、彼らの歌が拡がっていったのです。

 

しかし、紛れもない、ここがスピッツの始まりです。そして、後に大ヒットを記録する作品を生み出し、日本中に名前が知れ渡るようになるとは、まぁそれはまた別のお話で。

 

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