218時限目:コメット
【コメット】
■アルバム『醒めない』の4曲目に収録されている曲です。
このアルバムの収録曲だったら、僕は【コメット】が一番好きなんです。そして、後述しますが、この【コメット】こそ、アルバムのコンセプトである「死と再生」の象徴である(ような歌詞がたくさん出てくる)物語だと思っているのですが、どうでしょうか。
■まず、この曲は、ドラマ「HOPE ~期待ゼロの新入社員~」の主題歌に起用され、アルバム発売前にいち早く聴くことが出来ました。
僕も、ドラマの初回を見て、エンディングで流れたこの曲を聴きました。初めて聴いた時に、何てきれいな曲なんだと、すでに名曲の予感をプンプン感じました。
綺麗なピアノの旋律からイントロが始まり、そのままピアノの音がバックで鳴っていて、メンバーの演奏や曲の雰囲気もあり、いつもより優しく聴こえる草野さんのボーカルを引き立てています。流れるようなミドルテンポがとても気持ち良く、歌詞とも相まって、何ていうかちょっと切なくもなります。
ドラマの方は、Hey!Say!JUMPの中島裕翔が初主演を務めた、商社(営業課)で働きはじめた新入社員の奮闘を描いた物語でした。僕は、最初に【コメット】を聴く目的で第1話を見ましたが、これも縁だと、それから最終話まで毎回見ることになりました。
というより、いわゆるサラリーマンっていうんでしょうか、営業とか人事とか、そういう仕事を自分自身がこれまでしたことがないので、ドラマの内容も新鮮に見ることができ、個人的には面白かったんです。
もちろん、毎回【コメット】が聴けたので、それもずっと嬉しかったですけどね。ちなみに、ドラマの物語に、【コメット】の歌詞が沿っているということは決してないようでした。
■さて、タイトルの”コメット”という言葉についてです。
僕は最初、”コメット”という言葉を聞いて、彗星という意味を思い浮かべました。実際、コメット / cometで、彗星やほうき星という意味があるのは知っていました。(完全に、ファイナルファンタジーの知識ですけどね…同じ名前の魔法があるので、笑)
しかし、これはこの曲を聴いて、色々調べてみて初めて知ったことですが、”コメット”という”金魚”の品種があるそうなんです。もっとも、この金魚の”コメット”自体、金魚のフォルムを見て、元の言葉の意味である”彗星”から名付けられたものであり、あながち前者の意味を思い浮かべたことも間違いではないのですが、何より、この【コメット】の歌詞のAメロに、
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黄色い金魚のままでいられたけど
恋するついでに人になった
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という部分があるので、”コメット”という言葉には”金魚”を当てはめた方がよさそうです。
■そうなってくると、じゃあ、なんで”金魚”という生き物を曲のタイトルにしたのか?金魚にこだわるその意図は?と考えたくなります。
というところで思い出すのが、前アルバム『小さな生き物』や、そのアルバムに収録されている【りありてぃ】という曲です。まぁ、【りありてぃ】に関しては、僕自身がもうすでに書いたので、個人的な想像によるところが大きいですが、これらと【コメット】のつながりを、色々と想像しています。
まず、アルバム『小さな生き物』とアルバム『醒めない』の関係性については、MUSICAのインタビューにおいて、
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草野「…まぁ、『小さな生き物』が旅に出る前の不安と期待が入り混じったアルバムだとすると、”雪風”は再生を匂わすものになっていたと思うんで、そういう意味では、アルバムのスタートにはなってると思いますね。」
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という風に草野さんも語っており、精神的に『小さな生き物』から『醒めない』へと続いており、前に進もうとしている、という感じに読み取れます。
そして、その収録曲である【りありてぃ】についてですが、その歌詞にも、サビに”金魚”という言葉が出てくるのです。
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変わった奴だと言われてる 普通の金魚が2匹
水槽の外に出たいな 求め続けてるのさ
僕のりありてぃ りありてぃ
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という感じです。僕はこの【りありてぃ】の解釈として、自分の世界に閉じこもっている”僕”(と”君”)のことを、”金魚”という比喩表現で表しており、そんな”僕”が、”君”と出会ったことで、”水槽の外に出たい”と、つまり自分の世界から出たいと思うようになり、勇気を振り絞っている、という物語を当てはめたのでした。
ちなみに、アルバム『小さな生き物』の歌詞カードの表紙には、赤い金魚が4匹プリントされており、”金魚”が”小さな生き物”のひとつの象徴として用いられていることが分かります。(4匹なのは、メンバーを表しているか?)
ということで、これらを踏まえて、これは勝手な想像…というより、そうだったら面白い展開だな、という願望もあるのですが、【コメット】は【りありてぃ】と繋がっており、同じ主人公だったら胸熱の展開だなって思うのです。まぁ、あんまりそこにこだわった解釈にはなっていないですが、少なくとも、”金魚”という言葉に込められた意味は、同じじゃないかなって思うんです。
まず、【りありてぃ】では、閉じこもっていた世界から抜け出そうとして、ドアノブに手をかけたものの、その”冷たさにびびった”とあるように、外へ出ることへのためらいを読み取ることができます。先程の、草野さんのインタビューの言葉を借りるのならば、”旅に出る前の不安”を感じます。
そして【コメット】は、歌詞に”街角”や”ホーム”という、部屋の外の場所を表す言葉が出てきており、ここからも、一歩進んだ状況だということが読み取れます。
■では、【コメット】の歌詞を読んでみます。
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誰でもいいよと生き餌を探して
迷路の街角で君に会った
黄色い金魚のままでいられたけど
恋するついでに人になった
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出だしの歌詞です。この辺りは、まさに【りありてぃ】に通じるところがありますよね。ここにもまた、”金魚のままでいられた”という風に、自分が閉じた世界に居たことを示している部分がありますが、”君”に恋をして”人になった”ということで(”恋するついで”という言い方も面白いですよね)、”君”との出会いが、”僕”が閉じた世界から抜け出すきっかけになったと読むことができます。
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「ありがとう」って言うから 心が砕けて
新しい言葉探してる
見えなくなるまで 手を振り続けて
また会うための生き物に
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サビの歌詞です。でも、不思議ですよね。出だしの歌詞は、”僕と君との出会い”を描いているように読めますが、ここの歌詞は、どちらかというと”別れ”を描いているように読めます。
だから【コメット】は、出会いと別れ、その両方を描いていると考えるしかないです。何ていうか、最初の部分は、君に恋をして出会った時を描いていて、そこから実は時間が経過していて、Bメロの”夕暮れ ホーム”の場面へと飛び、件のサビへと続いていくわけです。
そこへきて、サビの歌詞ですよ。もう、震えますよね、本当に美しい歌詞です。
個人的な想像では、ここは”君”の方が旅立つシーンで、”僕”が見送りに来たという状況をイメージしました。2番のBメロに、”優しいものから離れてく”というフレーズがあるので、自分が離れるというよりは、相手が離れていくという状況が合うかなと思いました。
そこで、”君”が”僕”に「ありがとう」と言うわけですよね。ひょっとしたら、”僕”は、「ありがとう」を言われ慣れてなかったのかもしれません。”心が砕けて”という表現も印象的ですが、「ありがとう」という言葉をかけられ、嬉しさと、別れに対する寂しさが入り混じり、心が張り裂けそうな気持ちになったのでしょう。ひょっとしたら、涙を流したかもしれません。
そして、この歌詞。
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見えなくなるまで 手を振り続けて
また会うための生き物に
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僕は、ここの歌詞が本当に好きなんです。すごい歌詞だなって思うし、このアルバム『醒めない』のコンセプトである「死と再生」を象徴する歌詞だなって思うんです。
情景が浮かびますよね。”ホーム”でのシーンなので、”君”は電車や新幹線に乗って旅立つところですかね。やがて、扉が閉まり、”君”を乗せた電車が出発します。ホームに”僕”を残し、電車は走り出します。ドラマで考えると、別れを惜しむ”僕”が手を振りながら、電車に並走するシーンでしょうか。
やがて電車は…”君”は見えなくなり、”僕”は独りホームに取り残されます。それでも、立ちつくして、見えない”君”の後ろ姿に、いつまでも手を振り続けるのです。
■別れた瞬間からもう会いたくなって、また会える日を願いながら、それが何日後か、何か月後か、何年後か…いつになるのか分かりませんが、その日だけを目指して、僕は君の居ない日々を生きていくのでしょう。
この辺りが、まさにアルバム『醒めない』に込めたかった、「死と再生」…言い換えるならば、「出会いと別れ」の物語だったのではないでしょうか。