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アルバム講義:8th Album『フェイクファー』

フェイクファー

8th Album『フェイクファー』
発売日:1998年3月25日

 


■収録曲(→の先より、各曲の紹介へと飛べます)

 

01.エトランゼ
→ 26時限目:エトランゼ - スピッツ大学

 

02.センチメンタル
→ 81時限目:センチメンタル - スピッツ大学

 

03.冷たい頬
→ 96時限目:冷たい頬 - スピッツ大学

 

04.運命の人 (Album Version)
→ 24時限目:運命の人 - スピッツ大学

 

05.仲良し
→ 111時限目:仲良し - スピッツ大学

 

06.楓
→ 36時限目:楓 - スピッツ大学

 

07.スーパーノヴァ
→ 72時限目:スーパーノヴァ - スピッツ大学

 

08.ただ春を待つ
→ 85時限目:ただ春を待つ - スピッツ大学

 

09.謝々!
→ 62時限目:謝々! - スピッツ大学

 

10.ウィリー
→ 18時限目:ウィリー - スピッツ大学

 

11.スカーレット (Album Version)
→ 73時限目:スカーレット - スピッツ大学

 

12.フェイクファー
→ 149時限目:フェイクファー - スピッツ大学

 


■僕は個人的に、スピッツのオリジナルアルバムで、活動時期を勝手にいくつか分けているのですが、その中の第2期「スピッツ黄金期」(要は、スピッツの名前が全国に広がって、作品の売り上げも絶頂を迎えた時期)として、5th『空の飛び方』~8th『フェイクファー』を位置付けています。つまり、第2期が、この『フェイクファー』で終わったことになります。

 

アルバムに入っているシングル曲は、【スカーレット】【運命の人】【冷たい頬】【謝々!】【楓】の5曲と盛りだくさんです。どの曲も、スピッツのシングル曲として、非常に知名度の高い曲ですね。

 

余談ですが、シングルにおいて【謝々!】は、カップリング曲ではなく、【冷たい頬】とともに両A面の曲だったんですよね。【冷たい頬】の方が、目立って知名度が高いので、影に隠れがちですが、個人的には【謝々!】の方が大好きです。

 


■さて、このアルバム『フェイクファー』において、スピッツは、ひとつの大きな転機を迎えることになります。

 

スピッツのこれまでのアルバム…4th『Crispy!』~7th『インディゴ地平線』は、笹路正徳という方が、長いことプロデュースを務めてきました。期間にして、およそ4年くらいになりますか。酸いも甘いも、スピッツとともに経験してきて、お互いの信頼関係は相当なものであったのだろうと察します。まさに、スピッツを世に送り出したプロデューサーと言っても過言ではないでしょう。

 


そして、転機というのは、まさにその笹路さんのプロデュースから、アルバム『フェイクファー』で離れることになるのです。書籍「旅の途中」にも、その話が載っていますが、少し紹介してみます。

 


 このアルバム(これは『インディゴ地平線』のこと)で笹路プロデュースによるスピッツのアルバムは四枚になった。そして、笹路さんが「そろそろかな」とそれとなく、いずれスピッツのプロデュースから離れる時期が来ることを口にするようになった。
「僕がプロデュースする若いバンドは途中で卒業していく。その後もしっかりやっていってもらえればそれが一番嬉しいよ」
 それが笹路さんの考えだと何度も聞いていた。

 

改めて、笹路正徳さんをネットで調べてみますと、プロデュースしたアーティストに、錚々たる名前が並んでいます。僕が好きなアーテイスト・ある程度は知っているアーティストだけでも、THE BLUE HEARTS、THE YELLOW MONKEYS、コブクロユニコーンなどの名前を見つけました。そして、その中に、しっかりとスピッツの名前もあります。ブルーハーツスピッツがつながっているのが、何か嬉しいですね、笑。

 

書籍「旅の途中」などを読んで思ったのが、笹路さんは、”たくさんのバンドの親”みたいな人だなってことでした。ちゃんと独り立ちするまで面倒を見て、大丈夫だなって思ったら離れる、これはまさに”親心”と言うべき感情に似ているかもしれません。

 


■そして、笹路さんから離れたスピッツは、アルバム『フェイクファー』のプロデューサーとして新たに、棚谷祐一という方を起用します。

 

書籍の中で、棚谷さんのプロデューススタイルとしては、”スピッツの五人目のメンバーのように、メンバーと同じ目線でアレンジ、レコーディングに参加してくれた”と紹介してありました。ただ、慣れ親しんだ笹路さんのプロデュースから離れたこともあって、当時のスピッツに余裕がなく、レコーディングを楽しむことが出来なかったと書いてありました。どこまでやればOKなのか、ジャッジを下す役割が居なくなり、混乱したとも書いてありました。

 


ちなみに、後に発売になるシングル『流れ星』において、カップリングに【エトランゼ (TANAYAMIX)】という曲が入っています。これはタイトル通り、アルバムに入っていた【エトランゼ】を、棚谷さんがリミックスしたものであり、実に8分以上の長い音源になっています。

 

僕は、【流れ星】が好きだったので、このシングルを持っているのですが(8cm時代の古い方を持っています!)、この曲が入っていて、すごく得した気分です。【エトランゼ (TANAYAMIX)】は、何ていうか、インスト?サウンドトラック?みたいな感じで、草野さんのボーカルなどはもはや目立ってないのですが、棚谷さんのミックスは、僕はこれはこれで好きなんです。

 

【エトランゼ(TANAYAMIX)】は、このシングルでしか聴けませんので、良かったら聴いてみてください。(今だったら、ダウンロードとかできるのかな?分からんけど)

 


■ということで、新たな体制でレコーディングされたアルバム『フェイクファー』ですが、前作『インディゴ地平線』と同様、またしてもミックスダウンが上手くいかなかったと記されています。音が暗い、ライヴのような迫力のある音が出ない、などと評価されていましたが、そういうこともあり、草野さんはこの作品を、”いまだに聴きたくないアルバム”と評しておられました。

 

しかし、それと同時に、”ファンの中には『フェイクファー』がいちばん好きだと言ってくれる人もいる”とも記されています。まさに僕自身も、第2期のアルバムの中では、『フェイクファー』が一番好きなんです。

 


いつも同じようなこと書きますが、『インディゴ地平線』『フェイクファー』『花鳥風月』は、小中学生の頃、カセットテープに吹き込んで何度も聴いた、自分の中で一番記憶の古いスピッツ作品なので、どれも思い入れが強いのですが、その中でも特に、アルバム『フェイクファー』がお気に入りでした。

 

うまく説明ができないんですけど、子ども心にも、アルバム『フェイクファー』って他の作品とはちょっと違う感じがしたんです。作品で言うと、例えば『空の飛び方』だったり『ハチミツ』の方が聴きやすいんですけどね、音も雰囲気も明るいですし。それでも、僕は『フェイクファー』が好きなんです。

 


■その理由として大きかったのが、やっぱり表題曲であり、アルバムの最後に入っている【フェイクファー】という曲だったと思います。とにかく、この曲のインパクトが強くて、その魅力に憑りつかれ、この曲だけをずっと繰り返し聴いたこともありました。

 

当時は、学校でちょうど英語を本格的に勉強し始めた頃だったんですけど、”フェイクファー / fake fur”という言葉は、単語としての意味は、”fake”は偽物、”fur”は毛皮という風に、すぐに理解できたんです。

 


fur / 毛皮というと、包まれると温かさを感じるもので、何ていうか、”温もりの象徴”みたいなものですよね。アルバムの中にも、そんな温もりを感じるような、何だかほっこりとする曲が入っています。

 

個人的にはプロポーズソングのように感じている【運命の人】


バスの揺れ方で人生の意味が 解かった日曜日
でもさ 君は運命の人だから 強く手を握るよ

 

幼い男の子の甘酸っぱい恋心を描いた【仲良し】

いつも仲良しいいよねって言われて
でもどこかブルーになってた あれは恋だった

 

個人的には出産を当てはめた(書籍には、笹路さんへの感謝・スピッツの旅立ちを表したとも?)、とにかく派手で明るい【謝々!】

いつでも優しい君に 謝々!!
大人も子供も無く
涙でごまかしたり 意味もなく抱き合う僕ら
今ここにいる

 

これも幸せな雰囲気が漂っている【スカーレット】

離さない このまま 時が流れても
ひとつだけ 小さな 赤い灯を
守り続けていくよ

 


こういう曲が続いていって、最後に【フェイクファー】という曲が入っているのです。

 

僕は、このアルバムの最後に【フェイクファー】が入っていることに、何とも言えない不思議な気持ちというか、”怖い”気持ちになったことを覚えています。

 

ファーはファーでも、フェイクですからね。アルバムを聴いてきて、温かくなるような楽しい曲も入っていて、それで行き着いた最後に、”偽物の温もり”と歌われているわけです。もちろん、一曲一曲で違うことを感じれば良いんですけど、表題曲であり最後に入っている【フェイクファー】を、どうしてもアルバム全体の主題のように聴いたのです。

 

これまで歌われていたことが、全部”偽物でした”と突き付けられたような、大げさに言ってしまえばそういう感じです。今までのアルバムの世界観が、この【フェイクファー】という1曲によって、ガラッと変わってしまうような感じがして、聴き終わって、何とも言えない余韻に浸るのが好きだったんです。

 


■”フェイク”というタイトル通り、歌詞の中には、”ウソ”や”偽り”、あとは他の部分では”分かち合う物は 何もないけど”などのフレーズが入っています。そんなに頑なに、嘘だの偽りだのって歌わなくても…とか思ったりするんですが、歌詞の続きを書いてみると、こんな感じになっているのです。

 


唇をすり抜ける くすぐったい言葉の
たとえ全てがウソであっても それでいいと

 


偽りの海に 身体委ねて
恋のよろこびに あふれてる

 

嘘や偽りでも、君に出会ったこと、恋に落ちたこと、身体を重ねたこと、それらに喜びを感じていると。要は、当事者にとっては、偽物だろうが幻だろうが、真剣に信じているから、立派な本物なんだよって、そういうことですよね。

 

触れられない、届かない、許されない…そんな願いや恋愛(の成就)を、妄想的に描くのは、草野さんの美学と言いますが、詩の世界観のひとつになっていると思います。

 


■何気にアルバム『フェイクファー』は、10年経ったスピッツが初めて出したアルバムなんですよね。厳密には、1987年が結成年ですから、11年経っていることになります。

 

書籍「スピッツ」では、”囚われないスピッツ元年”という言葉でスピッツを表現していましたが、先述の通り、笹路さんのプロデュースから離れたり、極端に作品が売れた”スピッツバブル”も一段落して、スピッツはまた新しい局面へと突入していきます。

 

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