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240時限目:まがった僕のしっぽ

【まがった僕のしっぽ】

まがった僕のしっぽ

まがった僕のしっぽ

  • provided courtesy of iTunes

 

■アルバム『見っけ』の10曲目に収録されている曲です。

 

また同じようなことを書きますが、アルバム『見っけ』の収録曲の中で核となる曲としては、個人的には【はぐれ狼】と【まがった僕のしっぽ】の2曲を考えています。

 

『見っけ』の収録曲には、物語性がとても強い曲が多く入っており、特に【はぐれ狼】と【まがった僕のしっぽ】(あとは【花と虫】や【快速】なんかも)で顕著だなと思っていました。

 

そして、【はぐれ狼】と【まがった僕のしっぽ】については、物語としてもつながりを感じますし、精神的に歌われていることに関しても、両曲で似たようなことを感じるんですよね。しかも、2曲が続けてアルバムに収録されているので、なおさらこの2曲をつなげて聴いています。

 


■アルバム『見っけ』を購入して、最初に一通り聴いた時に、先述の通り、物語性が強い曲が多いということを感じたのと、もう一つ、”曲の展開が新しい”と感じるところが多くありました。

 

もちろん、新しいアルバムに収録されている新しい曲ばかりなので、新しいと感じることは当然なんですけど…それでも、この『見っけ』というアルバムでスピッツはまた新しい扉を開けたな!と感じました。

 

それは一言で言うと、”衝撃”でした。前作『醒めない』や、前々作『小さな生き物』では、感じることのなかった”衝撃”でした。例えば、個人的な分類として、アルバム『とげまる』からは、スピッツの活動を”第四期”と呼んでいるんですけど、『小さな生き物』や『醒めない』は、そこから地続きで聴いていました。しかし、『見っけ』は、またそこからポーンと跳んでいるような、新しい時代の幕開けを感じたんです。

 

…とまぁ、この辺りは話し出すとキリがなさそうなので、またいつかアルバム『見っけ』全体の記事を、改めて書きたいと思います。

 


■そういうわけで、【まがった僕のしっぽ】ですよ。まさに、衝撃でした。

 

そもそも、曲の始まりからフルートの音がしたかと思ったら…表現が難しいのですが、個人的には、昔話でも語っているような感じの曲調っていうんですかね…吟遊詩人が出てきて、昔の英雄譚でも歌い始めたかのような、壮大な感じの曲調です。(ちなみに、ロマサガの吟遊詩人をイメージしています笑)

 

場末のパブみたいなところに、年老いたミュージシャンが現れて、酔っぱらった客に、「よう、何か1曲やってくれねーか」とでも言われて歌い始める。そして、意味深にマスターが言う…「あそこで歌っているやつらは、スピッツという昔は名の知れたバンドだったんだ、今じゃ誰も覚えてねーけどよ」と。

 

みたいな感じを、本気で想像してます笑。

 


そういう風に、どちらかというと、ゆったりと物語を語るように曲がしばらく続いていき、ここまででも十分今までのスピッツにないような曲調で驚くのですが、本当に驚くのはCメロに入るところからです。

 

今までのゆったりとした曲調が一転…急にヘビメタやハードロックを思わせるような、ちょっと不穏で悪魔的な激しい曲調に変わります。

 

こういうのをプログレプログレッシブ・ロック)って言うんですかね、the pillowsの【Smile】やPeople In The Boxの楽曲なんかを想像させるような、1曲の中で大胆に曲の様子を変える感じ、こういうのはスピッツにはほとんど無かったはずです。

 

そして、そのまま激しい曲調で最後までいくのかと思いきや、また最後ゆったりとした曲調に戻るところもすごいところだと思います。すごいものを聴かされてるんだなって、ただただ衝撃でした。

 


■では、ここで音楽雑誌「MUSICA」のインタビューの様子を引用しつつ、紹介してみます。

 


草野さん「…プログレっぽい曲は前から作りたいなと思ってたし、途中でテンポチェンジとかリズムパターンが変わる曲ってあんまりチャレンジしてなかったんで。実は『醒めない』の時に”子グマ!子グマ!”とこの曲と候補が両方あったんですよ。でもそういう曲が2曲入るのもどうかなってことで、その時は”子グマ!子グマ!”を活かしたんですけど、自分の中でこのアイディアを捨て切れなくて、今回またチャレンジできたという」

 

この辺りが、この曲の展開について話が及んだ部分ですが、先述で紹介した通り、プログレだとかテンポチェンジなどの言葉が出てきて、メンバーが話をしていました。

 

【まがった僕のしっぽ】は、アルバム『醒めない』の時にも、候補としてあった曲だったんですね。何となく、『醒めない』に入っていても似合ったような気がしますが、似たような【子グマ!子グマ!】に取って代わられたようですね。

 



草野さん「…”まがった僕のしっぽ”っていう言葉も結構気に入ってたからね。醒めない状態、ロックの熱から未だに醒めないよっていうところから、『人と違う自分、人と違うあなたを認めたい』っていう気持ちを込めた『まがった僕のしっぽ』って言葉にするのもいいなとか考えたんですけど、でもアルバムタイトルとしてはちょっと長いから…」

 

と答えているように、何でもこの”まがった僕のしっぽ”という言葉は、アルバムタイトルの候補にもなっていたようですね。

 

ここの『人と違う自分、人と違うあなたを認めたい』という言葉は、何ともスピッツ・草野さんらしい考え方だなと思いました。例えば、アルバム『醒めない』の収録曲であれば【ブチ】とかね、そういう”人とは違う部分”を肯定・応援するような歌を、スピッツはこれまでも歌ってきたような気がします。

 

そして、それはそのまま、スピッツや草野さん自身に通じる精神だと思っています。だから、”まがった僕のしっぽ”や、すでに紹介した”はぐれ狼”という言葉などについて、紛れもなくスピッツを表している言葉だなと感じたところであったし、このアルバムの核になる部分だと思ったんです。

 


■では、【まがった僕のしっぽ】の歌詞について、少し読んでみたいと思います。

 

まず、僕の想像ではもう完全に、”はぐれ狼”と”まがった僕のしっぽ”は物語自体が繋がっていると…つまりは、主人公が同一であるとして聴いていますので、それを前提として読んでくださいね。

 



大陸のすみっこにある街は 全て初めてなのに
子供の頃に嗅いだ 甘い匂いがくすぐる

 

まずは出だしの部分です。ここは、(歌詞にもなっていますが)”暗いうちに街から逃げた”【はぐれ狼】が、別の街にたどり着いたという描写なのかなと思いました。

 

そうして辿り着いた街については、”大陸のすみっこにある街”と表現されていますが、”大陸”と聞いて真っ先に思い出すものがありますね…もうスピッツファンにとってはお馴染みになりましたが…そう”ロック大陸”です。初めてこの言葉が登場したのは、楽曲【醒めない】でした。

 


まだまだ醒めない アタマん中で ロック大陸の物語が
最初ガーンとなったあのメモリーに 今も温められてる
さらに育てるつもり

 

という感じです。さらにそこから、自身のラジオ番組を”Spitz草野マサムネのロック大陸漫遊記”と名付けました。”ロック大陸”という言葉は、もちろん造語ですが、”ロック(ンロール)”という言葉が使われている通り、草野さんのロックに対する想いが込められた言葉だというとは分かります。

 

そういう”大陸”にある街に、”はぐれ狼”がついに辿り着いたところが、この【まがった僕のしっぽ】の冒頭のシーンなのだと想像しています。つまりここは、ロックとの出会いだったり、ロックの新たな魅力を再発見した場面を表しているのかなと思いました。

 

”子供の頃に嗅いだ 甘い匂いがくすぐる”という表現からは、小さな頃からロックを聴いてきて、その気持ちがずっと醒めないで続いてきたということを感じ取ることができます。【ラジオデイズ】の、草野さんと”ラジオ”の関係にも繋がりますね。

 



だけどまがった僕の しっぽが本音語るんだ
旅することでやっとこさ 自分になれる
うち捨てられた船に つぎはぎした帆を立てて
今岸を離れていくよ

 

ここがサビの部分ですが、”まがった僕のしっぽ”という言葉が出てくる部分を載せてみました。

 

先程の草野さんのインタビューをさらに引用させていただくならば、”まがった僕のしっぽ”とは、”人と違う自分、人と違うあなた”を象徴している言葉だと考えることができそうです。

 

”まがった”という言葉は、まぁ言葉通りですが、一筋縄ではいかない性格などを表わすこともありますよね、まがった考え方とか、性格がねじまがっているだとか。

 

”まがった僕の しっぽが本音語るんだ”とは、つまり、そういう人とは違う部分こそが自分らしさなんだと認め、誇りを持っているということを表しているという感じですかね。

 

あとは、”今岸を離れていくよ”という部分についても、実にスピッツらしい言葉だと思いました。この辺りも、実はインタビューでは大いに語られているのですが、”離れる”や”外へ出ていく”というニュアンスの言葉は、スピッツの歌詞にはよく出てくる表現ではあります。

 


あとは、プログレッシブに激しい曲調に変わる部分では、その曲調と同じく、歌詞も激しいものに変わります。印象に残った部分を紹介してみると、

 


波は荒くても この先を知りたいのさ
たわけもんと呼ばれた 魂で漕いでいくのさ

 


誤解で飛びかう石に 砕かれるかもしんないけど

 


勝ち上がるためだけに マシュマロ我慢するような
せまい籠の中から お花畑嗤うような
そんなヤツにはなりたくない

 

こんな感じです。”マシュマロ”の下りが面白いですよね。曲調はめいっぱい激しいのに、”マシュマロ”という言葉が浮いて聴こえます。

 

全体的に、どの部分からも反骨精神やひねくれ者精神みたいなものを感じますが、それはそのまま、”ロック”の定義へと繋がり、さらには、スピッツそのものを表していると言えるのではないでしょうか。