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集中講義:草野正宗 ~詩の世界への招待~ 第9回

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いいよね? 小さなネズミになる
奴らにも届かない場所がある
すぐに狭い抜け穴 逃げ込めるような
小さなネズミになる

 

 

■アルバム『さざなみCD』に収録されている、【ネズミの進化】の歌詞です。タイトルから、まず珍しいですね。

 

個人的には、この歌は、何となく生きづらいこの世の中を生きるためのやり方みたいな、そういうことが歌われているように思います。

 


■まず、そもそもこの歌のタイトルって、”ネズミの進化”じゃないですか。であればですよ、普通は、「あ、ネズミが進化して、何か別の生き物になるんだ!」という想像をすると思うんですよ。

 

”ネズミ”っていうと、誰もが思い浮かべるのは、小さくてすばしっこくて、お世辞にも強いとは言えない、弱々しい生き物じゃないですか。ドラえもんの耳をかじったりして…それはあんまり関係ないけど、どこか忌み嫌われる存在だし(ハムスターはかわいいけど)、実験に使われたりもして、ある種かわいそうな生き物なのかもしれません。

 

なので、”ネズミの進化”ということで、そういう弱々しい存在、忌み嫌われる存在から進化して、もっと強い生き物になってやる!みたいなイメージをするはずです。実際、最初にこの歌を聴いていた頃は、そんな風に思っていました。

 


■ただ、この歌詞を読んでみると、それは違っていたということに気づきました。

 

この歌では、”小さなネズミになる”とか、”目覚めたネズミになる”など、終始”ネズミになる”と歌われています。

 

そこで気付くんです。この歌は、”ネズミから別の生き物に進化する”のではなく、”別の生き物からネズミに進化する”、あるいは、”ネズミはネズミのままで進化する”という歌なのだと。色々考えると、後者ですかね。そういうことを踏まえて、”ネズミ”には”ネズミ”なりの生き方があるんだよ、ということを歌ってくれています。

 

例えば、紹介している歌詞、

 


いいよね? 小さなネズミになる
奴らにも届かない場所がある
すぐに狭い抜け穴 逃げ込めるような
小さなネズミになる

 

”奴ら”とは、おそらくネズミとは対極の位置にいる者たちなのでしょう。弱くて忌み嫌われているような存在とは対極にいる、とはつまり、強くで威張っている、この世界や社会で大きな顔をして生きているような、そういう支配者側でしょうか。

 

そこへ来て、ここでは”奴らにも届かない場所がある”と歌われています。弱いなら弱いなりの生き方や、輝ける場所があるんだよ、とそういうことでしょうか。この辺りは、ネズミがネズミとして生きる”誇り”のようなものを感じます。

 

”すぐに狭い抜け穴 逃げ込めるような”や紹介していない部分の歌詞だと、

 


よく見りゃいくつも道があり
実はその先も分かれてた

 

などの歌詞も、とても勇気をもらえる言葉だと思います。弱いからこそ、小さいからこそ、見つけられる道があるんだと。

 


■という感じで考えていくと、”ネズミ”という言葉は、我々のような、健気にこの社会を生きる、一般ピープルを指しているように思えてきました。ちなみに、僕はネズミ年なので、余計にこの【ネズミの進化】という曲を、自分のテーマソングとして聴いてます。

 

ただ、この歌に最も当てはまるのは、他でもない、草野さん自身やスピッツだとも思っています。

 

自分たちのことを、”ヒーロー”ではなく”ザコキャラ”と言ったり、”狼”ではなく”犬”と言ったり、何かのライヴのMCでは、”良い麩になりたい”という風にしゃべっています。他の歌だと、【オケラ】とか【黒い翼】(これは”カラス”でしょうか)とか【オパビニア】など、ヘンテコな・忌み嫌われる生き物を曲のタイトルに冠して歌っています。

 

どこまでも控えめで、決しておごらずに、マイペースに音楽を続けている…だからこそ30周年も迎えられたわけですけど、そういうスピッツの生き方そのものが、この【ネズミの進化】に込められているとも思えますね。