集中講義:草野正宗 ~詩の世界への招待~ 第11回
君の心の中に棲むムカデにかみつかれた日
ひからびかけていた僕の 明日が見えた気がした
誰かを憎んでたことも 何かに怯えたことも
全部かすんじゃうくらいの 静かな夜に浮かんでいたい
■20作目のシングル曲の【流れ星】の歌詞です。
何か毎回言っている気がしますが、【流れ星】との出会いも古く、僕が中学生の頃に初めて出会いました。当時は、シングルを買う習慣はなかったのですが、【流れ星】は、たまたま中古で購入したものを持っていました。だから、【流れ星】には、余計に思い入れがあるんです。
■【流れ星】の歌詞も全体的にとても好きなんですが、紹介している部分がやっぱり個人的には好きすぎるんです。
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君の心の中に棲むムカデにかみつかれた日
ひからびかけていた僕の 明日が見えた気がした
誰かを憎んでたことも 何かに怯えたことも
全部かすんじゃうくらいの 静かな夜に浮かんでいたい
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個人的には、草野さんの書いた詩の中でも、特に名作・傑作のひとつだと思っています。すごい綺麗な詩だと思いませんか?こんな素敵な歌詞を書けるのは、絶対に草野さんしかあり得ません。これだから、草野さんの書く詩を読むのは、何よりおもしろいんです。
で、すでに【流れ星】の記事もスピッツ大学では書いてまして、そこで色々と語ったんですけど、紹介している歌詞を改めて読んでみると、やはりここは、”君に恋に落ちた瞬間、またはその瞬間を思い出している場面”を歌詞にしてるのだろうと感じました。
■さらに、部分的に読んでみます。まずは、前半部分。
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君の心の中に棲むムカデにかみつかれた日
ひからびかけていた僕の 明日が見えた気がした
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”君の心の中に棲むムカデ”という表現が、まず目を引きます。意味を深読みする以前に、まず表現がすごすぎます。
”ムカデ”には毒があり、かまれたら大変な激痛を伴い、ひどいことになってしまいます。実際に、かまれた人を見たことがあるのですが(確か、ばあちゃんだったっけ)、火傷を負ったみたいに、赤黒く腫れ上がるのです。
そんな生き物が、”君の心の中に棲む”と歌われており、さらには”かみつかれた”と表現されています。色んな想像ができると思いますが、先述の通り僕は、これを恋に落ちた瞬間の描写だと捉えました。
まず、”ムカデ”って、普通に生きていたら滅多に見ないですね。ちなみに、僕が高校生の時、自分の部屋にめちゃくちゃでっかいムカデが出て、家族総員で大騒動したことがありました。
滅多に見かけることはない、つまり、異質な物としてある時急に思いがけず出会ってしまう、と。これって、草野さんが歌っている、”恋愛”の形に一致していませんか?
また、【恋のはじまり】で話したように、恋は人をおかしくしてしまうと草野さんは歌っており、ここでいう、”かみつかれた”やそれによる”毒”の意味合いに一致していると感じます。
■さらに、後半部分。
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誰かを憎んでたことも 何かに怯えたことも
全部かすんじゃうくらいの 静かな夜に浮かんでいたい
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先程のムカデの下りから、こういう歌詞に繋がっていきます。
ここは例えば、夜に自分の部屋で、ベッドか何かに寝転がっているシーン。眠る前って、皆さん色んな想像をしますよね。僕は、【流れ星】の記事では、人の生き死について想像を膨らましている、みたいなことも書いていますが、やっぱり”ムカデ”の歌詞の流れから、ここも”君”のことを思いだしている、という状況なのかなと想像しています。
”誰かを憎んでたこと”や”何かに怯えたこと”など、色々嫌なことがあったけど、それも”全部かすんじゃうくらい”に、”君”のことを思うと心が洗われていくような、そんな心地になるということ歌っているのだと思います。
ただ、”流れ星”を”君”に例えて、”すぐに消えちゃう”ものとして歌われているので、”君”がもう生きていない存在なのかとか、この辺りはまたしても想像が膨らんでくるところですね。