集中講義:草野正宗 ~詩の世界への招待~ 第14回
終わることなど無いのだと 強く思い込んでれば
誰かのせいにしなくても どうにかやっていけます
やり直しても良いのです 今度は一人ぼっちでも
記号化されたこの部屋から ついに旅立っていくんです
■アルバム『フェイクファー』に収録されている、【謝々!】という曲の歌詞です。聴いた時の状況によっては、ここの歌詞は泣きそうになります。
とてもおめでたい感じの曲で、アルバム『フェイクファー』の収録曲だったら、表題曲の【フェイクファー】と並ぶくらい大好きな曲です。
第5回の【スピカ】で書きましたが、高校受験の勉強を、スピッツの歌を聴きながら頑張っていた当時、【スピカ】やこの【謝々!】なんかは、特に好んで聴いていた曲でした。
■すでに書いています【謝々!】の記事においては、勝手に深読みして、この歌を”出産おめでとうソング”として考察をしました。
紹介している部分以外の歌詞を少し紹介しますと、
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くす玉が割れて 笑い声の中
君を見ている
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”くす玉”という言葉を、”妊婦さんのお腹”と大胆に置き換えて、それが”割れる”ということで、ここが出産シーンであると考察したのが発端でした。
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生まれるためにあるのです じかに触れるような
新しいひとつひとつへと 何もかも悲しい程に
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紹介している歌詞とこっちと、どっちをメインに紹介しようか迷うほど、ここの歌詞もとても好きです。何て言うか、ここの歌詞だけ妙に壮大で哲学的で、他の部分とは浮いているような感じがしたんです。
ですが、この歌を”出産おめでとうソング”としたことで、ここの歌詞にも意味が宿っていくような気がしました。
■という風に、少し無理矢理な考察をしたのですが、冒頭で紹介している部分の歌詞は、どんな解釈にしたって当てはまるような、普遍的な良さがあると思います。
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終わることなど無いのだと 強く思い込んでれば
誰かのせいにしなくても どうにかやっていけます
やり直しても良いのです 今度は一人ぼっちでも
記号化されたこの部屋から ついに旅立っていくんです
*
やっぱり、ここの歌詞が好きなんです。ですます調の歌詞が面白いですね。
具体的に書いていないからこそ、聴いた人が自由に自分の状況を重ね合わせることができるような気がします。
”旅立っていくんです”という言葉があるように、誰もが経験したことがあるだろう、それぞれの”旅立ち”の場面を思い浮かべるはずです。例えば、卒業して学校を離れて行く場面だったり、就職して実家を離れていく場面だったり、無理矢理でしたが、”出産おめでとうソング”の考察にしたって、赤ちゃんが母体を離れていく、というのもあるかもしれません。
ちなみに、アルバム『インディゴ地平線』までは、スピッツのプロデューサーとしては、笹路正徳さんという方が務めていました。スピッツと笹路さんの絆は、それはもう相当強かったのだと思いますが、アルバム『フェイクファー』より、笹路さんのプロデュースを離れることになるわけです。
だから、草野さん的には、この歌は”笹路さんありがとうソング”としての側面が強いのかもしれません。
■個人的に好きなのは、”やり直しても良いのです 今度は一人ぼっちでも”という歌詞です。
旅立つときというのは、大抵は一人なんですよね。そういうときの”一人ぼっち”を、ちゃんと認めてくれているのが、何かたまらなく嬉しいんです。
無理に、”君は一人じゃないよ”と励ましてくれるより、”一人ぼっちでも”という風に、自分が置かれている状況に、そっと寄り添ってくれるのは、草野さんの優しさだなって思うんです。