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集中講義:草野正宗 ~詩の世界への招待~ 第23回

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ずっと遠くまで 道が続いてる
終わりと思ってた壁も 新しい扉だった

 

 

■アルバム『さざなみCD』に収録されている、【砂漠の花】の歌詞です。『さざなみCD』は、【ネズミの進化】→【漣】→【砂漠の花】という、最後の3曲の締め括りが個人的にすごく好きなんです。

 

そのトリを飾る【砂漠の花】という曲です。壮大なバラードで、何かようやくたどり着いた旅の果て、みたいな集大成感がある曲です。

 

アルバム『さざなみCD』発売時のスピッツは、ちょうど結成20周年を迎えたときだだったので、このアルバム自体が20周年の集大成のような作品でした。そのトリを飾る曲ということで、なおさら気持ちがこもっているように感じるかもしれません。

 


スピッツの歌詞の魅力の一つとしては、ここでも度々言っていますが、草野さんがこういう歌詞だと説明していない上に、少し読んだだけではどんなことを歌っているのかがすんなりと分からないので、読んだ人が色々と想像できる”余白”がたくさんあるというところだと思っています。

 

個人的には、最近の歌詞は割と分かりやすい歌詞も増えてきたという印象なんですけど、特にこの集中講義でも初期の頃の歌詞を紹介したりしていますが、初期の頃の歌詞は本当に難解で…要は分かりにくくて、色々と想像するのが難しいものが多くあります。正しい・正しくない、は別にして、時には暗号を解くみたいに、その歌詞を読み解いていくのは、この上ない楽しい時間なのです。

 

そして、そういう歌詞考察って、その時の自分の精神状態だったり、置かれている状況だったり、気分や感情などによって変わるもので、同じ曲やその歌詞でも、ある時は悲しく感じたり、またある時は楽しく感じたりと、様々に変わるものだから、スピッツの歌詞はいつ何度読んでも、新しい発見があったりして、全然飽きないのです。

 

で、その最たるひとつの例として、この【砂漠の花】の歌詞を紹介しています。

 


■この集中講義で紹介している歌詞については、別に好きなランキングとかをつけることなどが目的ではないのですが、個人的には、紹介している歌詞の中では、一二を争うくらい好きな歌詞です。

 


ずっと遠くまで 道が続いてる
終わりと思ってた壁も 新しい扉だった

 

ここの歌詞が、すごい好きなんですよ。何ていうか、スピッツの歌詞の魅力がここに存分に詰まっているなって思うんです。

 

この歌詞だけ読んで、皆さんはどんな気持ちになりますか?具体的には、励まされますか?それとも、打ちひしがれますか?ここの歌詞って、とても不思議なんです。

 

例えば、自分の気持ちとして、何かを諦めそうになっていて、でも諦めたくない、と思っているとします。そういう気持ちで、ここの歌詞を読んでみると、”終わりと思ってた壁”とは、つまり、「もうダメだ…諦めてしまおう」と、ぶつかってしまった壁を表すことになります。

 

しかし、その壁には扉が付いていた…つまり、まだそこは終わりではなくて、その先へと進むことができる、と。こう考えると、何かを諦めようとしている人にとって、ここの歌詞は、諦めずに前へ進んでいける希望を与えてくれる歌詞に読むことができそうです。

 


■では、逆だったらどうでしょうか。つまり、自分の気持ちとして、何かが早く終わって欲しい、辛い状況から楽になりたい、と思っているとするとどうでしょうか。その人にとっては、”壁”はようやくたどり着いた、辛かった状況のゴールを表すことになるわけです。

 

しかし、”終わりと思っていた壁”には、”新しい扉”が付いていたと。つまり、そこはまだ辛い状況の終わりではなくて、何なら扉が付いていて、まだその先へ続いているということを表すことになります。これは、せっかく辛い状況が終わると思っていた人にとっては、絶望に打ちひしがれる歌詞になってしまいます。

 

と、こんな風に、その時の自分の感情や置かれている状況によって、スピッツの歌詞は全く違う風に感じることがあります。だからこそ、スピッツの歌詞は何度も読み返したくなるし、その度に新しい発見があるんです。

 


■あとは、この記事を書いているのが2021年の終わりですが、記憶に新しい2017年に結成30周年を迎えたときに、スピッツは自分たちの活動として、「まだまだここは通過点」という表現をなさっていました。

 

また、結成20周年の時には、スピッツは自分たちの活動を振り返った自叙伝的な書籍を出版するのですが、その書籍の名前が「旅の途中」でした。ここでも、自分たちが居る場所に対して、”途中”という表現をしています

 

そういう部分を含めて、ここの歌詞は自分たちの活動のことを歌っている節もあるのかなと思っています。要は、終わりは始まりと言いますか、というより、終わりも始まりもなく、いつだって自分たちは途中にいるんだと、そういうことを歌ってるんだと思います。