スピッツ大学

ステイホームしながら通える大学です!

集中講義:草野正宗 ~詩の世界への招待~ 第30回

f:id:itukamitaniji:20211123223652j:plain

 

 

ヒーローを引き立てる役さ きっとザコキャラのまんまだろう
無慈悲な鏡叩き割って そこに見つけた道

 

 

■この集中講義も最後となりました。最後は【1987→】の歌詞を紹介します。

 

この集中講義は、スピッツのメジャーデビュー30周年を記念して企画したものなのですが、すでに2017年にスピッツは結成30周年を迎えました。ちなみに、来年(2022年)は、もう早くも結成35周年を迎えるんですね。

 

で、その結成30周年の”節目ソング”として、この【1987→】があります。ご覧のとおり、タイトルに”1987”とありますが、これはスピッツが結成された1987年のことを指しています。この曲がスピッツにとって、スピッツファンにとって、特別な曲であることは、そこからも分かっていただけると思います。

 


■これまで、ここの集中講義でもたくさんの詩を紹介してきましたが、どんな種類の歌詞があったでしょうか。

 

例えば、草野さんが掲げている”セックスと死”というテーマに沿って、”性”や”死”について書いた詩を紹介しました。また、恋愛系の歌詞もいくつか紹介しましたし、はたまた、僕自身を含めて、聴いた人を元気づけたり、気持ちを楽にしてもらえるように歌われた歌詞なども紹介しましたね。

 

そういう意味で言うと、この【1987→】は、珍しいかもしれません。【1987→】は紛れもなく、草野さんがスピッツのことを書いた歌詞なのだと捉えられるからです。

 

当然のことながら、草野さんが書いた詩なのだから、どの詩にも草野さんの考え方が一番投影されているはずで、つまりは、全ての詩に草野さんやスピッツ自体が投影されていると考えることはできます。

 

ただし、そのどれもが、スピッツ自体のことを書いている歌詞であるとは言い難いんですよ。というより、どんなバンドでも、そんなしょっちゅう自分たちのバンドについての歌を書くか(いや書かない)、というのもありますけどね。

 

ちなみ、草野さんが、スピッツというバンドについて歌っているように思える歌としては、例えばこの集中講義で紹介した歌詞ですと、【ネズミの進化】なんかはそんな感じがしますよね。

 

あとは、紹介しなかった歌で言えば、個人的には、【えにし】とか【放浪カモメはどこまでも】とか【醒めない】なども考えられます。しかし、あえて言うならば、これらの歌詞は自分に置き換えても、教訓になり得るような部分もあったりしました(【醒めない】は、あんまり無いかな…)。

 


■ただし、【1987→】はそういう意味では初めてかも知れません。この歌に関しては、最初っから自分に置き換えて考えてみようとか、そういう思いは一切浮かびませんでした。もう、スピッツスピッツのことを歌っている…これで完結しており、これで十分でした。

 

まぁ、強いて言うならば、何かひとつのことをずっと続けていくことに対するかっこよさだったり情熱だったり、そういうものは感じましたし、自分もこの先の30年間で、スピッツのような生き方がしたいな、と思ったのはあります。しかし、それは曲から受け取った想い…というよりは、スピッツの活動そのものから受け取った想いでありました。

 

【1987→】の歌詞を読んでみると、草野さんのパーソナルな考え方や、スピッツの歴史をなぞっているような描写などが、これでもかと言わんばかりに出てくるので、もう全部紹介したいくらいなんですが、一番スピッツの生き方が反映されていると思っている部分を紹介しておきます。

 


ヒーローを引き立てる役さ きっとザコキャラのまんまだろう
無慈悲な鏡叩き割って そこに見つけた道

 

これですよ、これが結成30周年を迎えて、日本の第一線で活躍し続けるバンドのボーカルが歌った言葉ですよ。独特とも思えるここの歌詞は、スピッツにとって、草野さんにとって、とても大事なことを歌っているのです。

 


■この集中講義の第9回、【ネズミの進化】のところでも同じようなことを書きましたが、草野さんはどこか、弱々しかったり、醜く変テコな生き物に対して、そういう生き物として生きていく美学や、誇りというものをお持ちだと思っています。【ネズミの進化】は、まさにそうでしたが、あとは【オケラ】とか【黒い翼】とか【オパビニア】とか、それらにも当てはまるのではないでしょうか。

 

というより、そもそも自分たちのことを、そういう風に説明している場面があったりします。そういう考え方がよく表れているものとして、自分たちを”ザコキャラ”というものに例えた、とあるライヴでのMCがあります。

 

そのMCは、2016年に発売されました、スピッツ日本武道館公演を収録した、映像作品『THE GREAT JAMBOREE 2014 ”FESTIVARENA” 日本武道館』にて見ることができるのですが、ちょっと文字起こししてみますね。

 


スピッツがデビューした1991年には、バンドブームの後半の方で、その年にデビューしたバンドは510組くらいあったらしいですけども、その中にはスピッツなんかよりもすごいバンドがいっぱい居たんですけども、何故かね、俺らがこうやって残ってやってるっていうのは、よくアニメとか、そういうゲームとかでも、何故か”ザコキャラ”が最後まで生き残っているってあるじゃないですか。そんな感じかなと思いながらも、最高にイカした”ザコキャラ”を目指して、これからも頑張っていきますんで、温かく見守ってください」

 

こんな風に、自分たちを紹介しているんです笑 紹介しています歌詞の中にも、”ザコキャラ”という言葉が出てきていますが、それをもっと詳しく説明している形のMCですよね。

 


スピッツにとって・草野さんにとって、”ヒーロー”とはなんだったのか。そして、”ザコキャラ”とはなんなのか。

 

スピッツにとっての”ヒーロー”として、一番思い浮かぶのは、例えばTHE BLUE HEARTSがありますかね。スピッツは、元々パンクロックバンドであり、そういう方向で活動をしていましたが、ライヴハウスで演奏するTHE BLUE HEARTSを見たことが一つのきっかけで、バンドを一時辞めてしまった、という経験があるのは、割と有名な話です。

 

MCの中でも、”スピッツなんかよりもすごいバンド”と表現なさっていますが、そういう”ヒーロー”達を引き合いに出して、自分たちは、あくまでそれらを引き立てる”ザコキャラ”なんだと歌っています。

 

この辺りからは、草野さんを含めたスピッツメンバーたちが、自分たちの名前がどんなに世に広く知れ渡るようになっても、決しておごらずに、自分たちのペースで活動を地道に続けていったことが、非常によく分かります。

 


■続く歌詞は、”無慈悲な鏡叩き割って そこに見つけた道”という歌詞です。

 

”鏡”は”鏡”、所詮は自分たちのありのまましか映し出すことはありません。小さい物は小さく、醜いものは醜く、そのありのままを映し出すだけなのです。

 

またブルーハーツの話を出すと、ブルーハーツライヴハウスで見たことがきっかけで、自分たちが、ブルーハーツコピーバンドであるように思えたらしいですが、所詮どんなにパンクロックバンドとして頑張っても、どこかで”鏡”に映った自分たちの姿に気づいたのでしょう。

 

そして、その”鏡”に映った自分たちに、失望したかもしれません。例えば、こうなりたいと思い描いていた自分たちの姿やバンド像があって、そこからかけ離れた姿がそ映っていたからです。

 

しかし、そこでスピッツは・草野さんは、その”鏡”を叩き割る決意をしたのです。”鏡”に映った自分たちの姿に、いつまでも縛られるのではなく、自分たちのやり方を新しく探していこう、と。

 

これは、デビューの時もそうですけど、”マイアミショック”の後の、ロックバンドとして新しく生まれ変わった時にも当てはまるようなことですよね。本当に、自分たちがやりたい音楽を、新しく見つけていこうとしたのでしょう。

 

その道を本当に長く歩んで行くことで、確かにスピッツは、今ではもう”スピッツロック”としか形容することができない、彼らにしかできなロックの形を作り上げました。そのことがね、一番すごいことなんだと思うんです。

 

まさしく、MCで語った通り、物語の序盤に登場しているくせに、何故か最後まで生き残ったザコキャラ…まぁ、僕たちは別に、スピッツのことをザコキャラなんて思わないですけど、”ザコキャラ精神”とでもいうのでしょうか、そういうものをいつまでも忘れずに活動を続けているから、スピッツはどこまでいってもスピッツなんでしょうね。