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249時限目:美しい鰭

【美しい鰭】

 

美しい鰭

 

 

美しい鰭

美しい鰭

 

■2023年4月12日に発売されました、46作目のシングル曲です。

 

シングル『美しい鰭』にはA面の【美しい鰭】の他に、【祈りはきっと】と【アケホノ】という、何と2曲のカップリング曲が収録されており、1枚で3曲の新曲が聴ける上、そのカップリング2曲は、2023年5月17日発売予定の17枚目のアルバム『ひみつスタジオ』には収録されないため、今のところはこのシングルでしか聴くことができません。

 

ちなみに、シングルに未発表のカップリング曲が2曲も収録されるのは、2000年に発売になったシングル『ホタル』以来、何と23年ぶりになるそうです。

 

アルバム『ひみつスタジオ』には、シングル曲【猫ちぐら】も収録されないようですし、シングル『優しいあの子』のカップリング曲【悪役】もまだアルバムに収録されていないので、ひょっとしたらこれは、新しいスペシャルアルバム発売の布石になっているのか!と期待が膨らみます。

 

ところで、皆さんは”美しい鰭”の”鰭”って、初見ですんなり漢字読めましたか?正直、僕は初見で読むことができませんでした。

 

「美しい…スシ?(ちなみにスシは”鮨”)…いや、変なタイトルだな、まぁいつも通りだけど…あ、美しいエビか!(ちなみにエビは”蝦”)…あ違うかぁ、何か別の魚の名前だろうか…うーん、何て読むんだろう」

 

みたいな問答が少しだけあって、挙句の果てに、グーグルで「魚へん 老 日」みたいな感じで調べて、ようやく鰭=ヒレだと分かるということがありました。

 

 

 

■さて、楽曲【美しい鰭】についてですが、この曲は劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影』の主題歌になっています。何となく、スピッツがコナンの主題歌を担当することは僕はとても意外に感じましたが、このことは、草野さんがコメントの中でも、同じように語っています。

 


草野マサムネ コメント>
まさかスピッツ名探偵コナンの曲を?と自分達も驚いてます。大変光栄です!
コナンはミステリーである以前に、壮大なラブストーリーだと思ってるので「切ない恋の物語」にも「ハラハラな活劇」にも寄り添えるイメージで作りました。
あと、「歌詞に出てくる”小学生”ってコナンくんのこと?」と訊かれる事がありますが、そこは「小惑星」ですのでお間違えの無いようお願いします。

 

なるほど、”小惑星”と”小学生”…確かに響きは似てますね笑 個人的には、初めて聴いた時から、”小惑星”という言葉で聴こえました。個人的に、スピッツの楽曲の歌詞に出てくる”惑星”(=”ホシ”と読ませることがほとんどですが)という言葉はいつも印象に残るので、”しずくの小惑星”という言葉も同様にすぐに印象に残りました。

 

 

 

■ということで、その【美しい鰭】がどういう曲なのか、感想や解釈などを語ってみたいと思います。

 

まず、曲の雰囲気としては、随所に聴こえてくるホーンの音が耳に残ります。クレジットを見てみると、saxphone(サックス)とtrumpet(トランペット)という表記があります。

 

イントロからすでに、ドラムソロで曲が始まった後に、力強くホーンの音が「パァーン」と聴こえてくるのですが、個人的に思ったのは、スパイ映画の『ルパン三世』や『007シリーズ』のテーマ曲にも、こういうホーンの音が使われていて、コナンとそれらの映画が似てるとは言わないですが、何となく雰囲気が似ていて、そういう狙いみたいなものがあったのかな、と思いました。

 

ロックとホーンの音の融合と聴いてスピッツで思い出すのは、ミニアルバム『オーロラになれなかった人のために』やアルバム『Crispy!』の頃の曲です。割とこういうロックとホーン(オーケストラ)が融合されたような曲があったと思うんですけど、そういう意味では、この【美しい鰭】も懐かしさを感じました。【裸のままで】とか【ドルフィン・ラヴ】とか、ちょっと時期がずれますが【恋は夕暮れ】とかね、一昔前の懐かしさを感じた部分でもありました。

 

あとは、Aメロの展開が面白いですよね。”波音で消されちゃった”とか”はっきりと聞かせろって”というところの「ジャッ・ジャッ・ジャッ」って感じのリズム(何かこういうのに専門用語ってあるんだろうか?)で、何か良い意味で単純じゃないというか、裏切られたというか、そういう風に感じました。

 

全体的には、明るい曲で優しい雰囲気の曲だと感じました。ホーンの音もそうですけど、サビの高音ファルセットとかね、そういう仕掛けがこの曲を柔らかく聴き心地のよいものにしているのだと思います。

 

 

 

■それから、歌詞についての考察・解釈ですが、今回の歌詞の考察については、大きく2つの視点から考えてみたので、それぞれ分けて紹介してみたいと思います。

 

 

まず、SNSなどで映画や【美しい鰭】の感想を少し調べてみた時に見かける意見や感想としては、【美しい鰭】が、名探偵コナンに出てくる「灰原哀」という登場人物のことを歌っているようだ、というものでした。今回の映画では、この灰原哀というキャラクターがストーリーに大きく関わってくるのだそうです。

 

しかしながら、僕は今回の名探偵コナンの映画はおろか、名探偵コナン自体をマンガでもアニメでもほとんど見たことがないので(おそらく今後も…)、コナンのストーリーや灰原哀について、今回ちょっと調べてみました。

 


(※以降、少しコナンのストーリーのネタバレあり。映画のネタバレはありません…)

 

名探偵コナンのストーリーについては、言わずもがな、薬によって小さな子どもになってしまった、天才的な頭脳を持つ高校生探偵である工藤新一が、その名前を江戸川コナンと名乗り、数々の事件を推理・解決していくという、いわゆる推理漫画です。

 

その物語の登場人物として出てくるのが、灰原哀という女の子のキャラクターなのですが、実はこの灰原哀も、工藤新一と同じ薬によって幼児化してしまっている人物のようです。というより灰原は、そもそもこの薬の開発に携わっていたメンバーであり、元々は「黒の組織」(コナンを幼児化させた組織?)の一員であったようですが、何やかんやあって組織を裏切り、今はコナンと行動を共にしているようです。

 

…という壮大な物語があったのですね。全く知りませんでした。ちなみに、灰原哀の初登場のアニメ回が、YouTubeの公式チャンネルで見れました↓(面白くて、全部見てしまいました!)

 

youtu.be

 

 

■とにかく、詳しい物語はさておき、要はコナンも灰原哀も、自分が薬を飲んだ(飲まされた)せいで、子どもになってしまっているという”秘密”を抱えているわけですよね。そのことを知る人物も、物語の中に何人か居るには居るようですが、基本的にはその”秘密”を隠して2人は生きているわけです。

 

そういう前情報を踏まえて、秘密を抱えている2人(特に灰原)に感情移入してこの曲を聴いてみると、それを意識してこの歌詞を書いたのかな、という部分が随所に表れてきます。

 



波音で消されちゃった はっきりと聞かせろって
わざとらしい海原

 


秘密守ってくれてありがとうね
もう遠慮せんで放っても大丈夫

 

こういうところが、何となくストーリーをなぞっているように読めてきます。

 

前者は、いわゆる秘密の暴露・告白だったり、意図せずばれてしまうシーンでしょうか。自分が薬のせいで子どもになってしまっているということを、基本的には隠して生きている灰原ですが、その秘密を何らかの事情で話さなければならない状況や、ばれてしまって(ばれそうになって)大ピンチ!みたいな状況があったと考えることができます。

 

後者は、どちらかというと、信頼できる相手とのやり取りに読めますね。例えばそれこそ、コナンと灰原の関係性とかですかね。当然2人は、お互いの秘密を共有しているのでしょうけど、だからこそ助け合う関係性になっているという風に読むことができそうです。

 



心配性の限界は 超えてるけれどこうやって
コツをつかんで生きてきた

 


流れるまんま 流されたら
抗おうか 美しい鰭で
壊れる夜もあったけれど 自分でいられるように

 

この辺りからは、秘密を隠して生きていく困難と、それでもそういう葛藤と戦いながら生きてきた灰原の生き様を読み取ることができます。

 

自分が調べた感じだと、詳細は省きますが(よく知らないので)、灰原は悲しい半生を辿っており、それによって、人を簡単には信頼しないような、ちょっと人と距離を置くような、ちょっと冷めた感じの性格の人物として描かれています。それに加えて、薬を飲んで幼児化しているという秘密を抱えていると…それはそれは、複雑な人生を生きていくことに困難を感じているかもしれません。

 

それでも灰原は、コナンを始め、少年探偵団(コナンや灰原と行動を共にする小学生のチーム)や阿笠博士などと懸命に生きていると、そういうことが読み取れそうです。物語を読み進めていくことで、灰原の性格が変わっていくように読むことができるそうです。

 

 

 

■という具合に、コナンのストーリーになぞらえると、色々と読める部分があるのですが、先述の通り、僕は名探偵コナンというものを全く通っていない人間なので、結局は付け焼刃というか、調べた情報を書き連ねたものというか、そういう考察になっています。

 

なので、ここからはコナンから離れて、自分らしく考察してみます。

 


僕は、この歌を聴いた時に、思い浮かべたスピッツの別の歌がありました。それは、アルバム『醒めない』に収録されている【ブチ】という歌でした。

 


君はブチこそ魅力 好きだよ凄く
隠れながら 泣かないで yeh yeh

 

【ブチ】にはこういう歌詞が出てくるのですが、ここでいう”ブチ”は、いわゆる身体的特徴だったり、性格や癖だったりと、人間に備わっている特徴や個性を指している言葉であり、その特徴や個性が君の魅力なんだよって、励まして歌っている歌だと、かつて僕は記事に書いたことがあります。

 

そして【美しい鰭】…曲が発表され、実際に聴くという流れの中で、やっぱり一番印象に残るのは、このタイトルそのものですよね。”美しい鰭”って何だよっていうね、このタイトル自体が一番気になった点でした。

 

それで真っ先に思ったのは、”ブチ”と”美しい鰭”が、同じような意味合いで使われているのではないか、ということでした。

 

 


■先程も紹介しましたが、再び歌詞を紹介しながら話してみると…

 


波音で消されちゃった はっきりと聞かせろって
わざとらしい海原

 

自分には、誰にもずっと言えなかった、身体的・精神的なコンプレックスがあったと、そういうコンプレックスを告白するシーンでしょうか。告白する相手は、自分が信頼を寄せる相手か、想いを寄せる相手でしょうか。

 


100回以上の失敗は ダーウィンさんも感涙の
ユニークな進化の礎

 

ここの表現も面白いですよね。”ダーウィンさんも感涙”とか”ユニークな進化”とか、人とは違う(と自分で思っている)自分の個性や特徴を表しているように読めます。

 


そういうコンプレックスを抱えつつも、懸命に生きている人物像が浮かび上がってきます。

 


心配性の限界は 超えてるけれどこうやって
コツをつかんで生きてきた

 


秘密守ってくれてありがとうね
もう遠慮せんで放っても大丈夫

 

後者は、告白した相手への感謝でしょうか。自分のコンプレックスの告白を聞いてくれて、それを知った上でこれまで一緒に過ごしてくれてありがとうという感謝の気持ちが読み取れます。

 

そして、”もう遠慮せんで放っても大丈夫”という言葉からは、そういうコンプレックスを抱えつつも生きていくんだという、覚悟も読み取ることができます。ひょっとしたら、告白した相手、信頼した相手から離れていく描写なのかもしれません。

 


そして、サビの歌詞、

 


流れるまんま 流されたら
抗おうか 美しい鰭で
壊れる夜もあったけれど 自分でいられるように

 

【ブチ】で歌われたことと同様に…自分に備わっている特徴や個性を、”鰭”ではなく”美しい鰭”と表現されていますが、そういう特徴や個性を持って、抗って生きていくことで、自分でいられるのだと、そう歌われているのだと思います。

 

”鰭”というと、もちろん魚をイメージしますが、社会の中で自分らしく生きていく、自分らしく困難を乗り越えていく、ということを、その社会を大海原や荒波と例えて、そこを魚が力強く泳いでいくような、そんな姿を例えて、”美しい鰭”という言葉を使っているのかなとも思いました。

 

 

 

■あとは、そのままこの歌詞を、ファンタジーとして読む考察も考えました。

 

例えば、本当に”鰭”を持って生まれてきてしまった、魚と人間のハーフみたいな人間が居たと想像してみるとどうでしょうか。

 

「実は…俺には、鰭があるんだよ…」「えっ!?」みたいな展開があって、それを隠しながら生きていくんだけど、最終的には、海に戻っていく…みたいな、何それ人魚姫?みたいな物語も想像しました。

 

…が、やはり”鰭”という言葉は、何かの比喩として使われているという、上記の解釈に行き着きました。

 

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