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260時限目:讃歌

ひみつスタジオ (初回限定盤)(SHM-CD+DVD)

 

讃歌

讃歌

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【讃歌】

 

■アルバム『ひみつスタジオ』の12曲目に収録されています。

 

アルバム全体についての記事は、また書こうと思っているのですが、アルバム『ひみつスタジオ』は、色んな聴き方ができるというか…収録曲の”路線”として、いくつかの流れが混在しているような気がします。

 

その一つの流れとしては、やはりこのコロナ禍によって変容してしまった世の中や生活の常識に対しての憂いだったり、そしてそこから少しずつ脱却していく世の中…みたいな、そういう時代の移り変わりを歌っている流れがあるかと思います(後者の方が強いんですかね)。

 

そういうことを考えながらアルバムを聴いている節が僕自身強いのですが、その軸となる曲が、1曲目の【i-O(修理のうた)】と、今回紹介する12曲目の【讃歌】であると、個人的には思っています。

 

1曲目に【i-O(修理のうた)】が入っていて、まぁ1曲目だからこそ、正真正銘このアルバムとの出会いとして、最初に聴いた曲だったのですが、もう最初に出会った頃から、アルバム曲の中ではこの曲がダントツで好きなんです。

 

そして、12曲目の【讃歌】…まぁ13曲目に【めぐりめぐって】という曲は入っているのですが、それはそれで別路線として考えて…最初の曲である【i-O(修理のうた)】と最後の【讃歌】が、アルバムに一つの軸を通しているというか、本で言うと、表表紙と裏表紙でパッケージしているような感じがするのです。

 


■まず、この2曲は曲調の雰囲気が似てるんですよね。

 

【i-O(修理のうた)】の方は、オルガンの音が何となく神々しさを感じさせますが、一方の【讃歌】の方も、バックで歌われているコーラスの影響もあってか、教会で歌われている聖歌のような、こちらも神々しさを感じる歌になっています。

 

バラード調で物静かな曲だなと思って聴いていたら、ダイナミックというかドラマチックというか、壮大に世界観が広がっていくような…先述の神々しさと多少無理やりつなげて言うならば、この俗世から魂が浄化されて、天に昇っていくような、特に【讃歌】の方はそんな雰囲気を感じます。

 

”讃歌”という言葉に似たものとして、”讃美歌”という言葉がありますが、”讃美歌”というと、wikipediaをそのまま引用させていただくと、「キリスト教(特にプロテスタント教会)において、礼拝や集会等で歌われる、神をたたえる歌」だそうです。たたえるものが、神と明確に決まっているようです。

 

一方の”讃歌”というと、”〇〇讃歌”という風な感じで、何かを讃える歌になりますかね。”生命讃歌”とか”青春讃歌”とか、”結婚讃歌”、”人生讃歌”など…そういえば、BUMP OF CHICKENには【東京賛歌】という曲がありましたが…要は何でもアリなんですかね笑

 

だから、タイトルを”讃歌”としながら、曲調としては”讃美歌”を意識して作られているんですかね。その辺りは、詳しくないから分かりませんが…。

 


■そして、歌われている内容の方も、2曲とも似たような感じです。

 

説明が難しいのですが…どちらの曲も同じ場面を歌っているが、その場面を違う視点から見ている、という印象です。

 

【i-O(修理のうた)】で歌われていることは、もうすでに記事を書いているので、そちらで詳しく述べていますが、要するに…

 

”i-O”とはアルバムジャケットに載っているロボットのことで、歌の内容としては、このi-Oくんが”故障”してしまったので、それを”修理”するという風に読むことができます。

 

ただし、このi-Oくんはロボットの姿をしていますが、実際は心が病んでしまった人間やその心を、あるいはさらに広く、例えばこのコロナ禍によって変容してしまった世の中そのものを象徴していると考えるとすると、i-Oくんを修理するという行為自体が、そのまま病んだ心や世の中を元通りにしていく、ということを表しているのではないか…

 

みたいなことを、個人的な考察として書きました。

 


■それを踏まえて、【讃歌】の歌詞を読んでみると、例えば、出だしの部分、

 


枯れてしまいそうな根の先に 柔らかい水を染み込ませて
「生きよう」と真顔で囁いて
ライフが少しずつ戻るまで 無駄な でも愛すべき昔の話
聞かせてくれた日から

 

僕がここの部分を読んで思い浮かべたのは、病室のベットで眠っている人と、その人に懸命に声をかけている人の姿でした。

 

”枯れてしまいそうな根”に”水を染み込ませる”という表現は、かなり痛々しい感じはしますが、尽きてしまいそうなギリギリの状態の命にも、あきらめずに”生きよう”と必死に声をかけて、励ましている人の姿が思い浮かびます。

 

そこから、”ライフが少しずつ戻るまで”という言葉が、カタカナが入っているからかやけに他の部分から浮いて見えるんですけど、例えばi-Oくんを充電している場面が思い浮かび(ライフが戻る=携帯電話を充電するみたいに電池残量が増えていく、みたいな?)、【i-O(修理のうた)】で歌われている状況に通じるものがあります。

 

そして、i-Oくんが病んだ心や世の中を象徴しているものだとするならば、そういうもののそばに寄り添い、声をかけて励ましているという感じが繋がっていると感じました。

 


■2番の歌詞では、

 


勇気が誰かに利用されたり 無垢な言葉で落ち込んだり
弱い魂と刷り込まれ

 

ここら辺は、心が病んだ原因を表わしているのでしょうか。

 

”勇気が誰かに利用された”…せっかく振り絞った勇気が、無駄に終わったことを表しているのでしょうか。自分の頑張りが誰かに踏みにじられたり、言葉通り受け取るならば、その頑張りを横取りされたり、意図しない方向へ使われるなど、そういう不当な状況を思い浮かべました。

 

”無垢な言葉で落ち込んだ”…個人的に思い浮かべたのは、SNSなどでの誹謗中傷などでした。無垢な言葉とは、要は何にも考えずに人を傷つけてしまうような言葉、というものが思い浮かびました。このSNS時代ならではの、同調圧力に紛れた、匿名で投げかけられる言葉みたいな感じですかね。

 


■ただ、そこから続きの歌詞を載せていくと、

 


だけどやがて変わり行くこと 新しい 歌で洗い流す
すべて迷いは消えたから

 

雪の中で 熱の中で 失わずに 目を開いてる
君のそばに いられるなら

 

先述の、心が病んでしまった原因と思われるような部分の歌詞の続きですが、冒頭の”だけど”という言葉で、曲の最後に向けて想いが変化していく場面を表しています。

 

先程までのマイナスな言葉から一変、"新しい歌で洗い流す"と、気持ちを切り替えるような描写だったり、"すべて迷いは消えたから"と、どこか吹っ切れたような強い言葉も続いています。

 

そして、"雪の中で 熱の中で 失わずに 目を開いてる"という言葉…冒頭では、"枯れてしまいそうな根"と表現されていたところから、依然として"雪の中"や"熱の中"などの厳しい状態に置かれてはいますが、"失わずに 目を開いてる"と、諦めずに生きようとしている姿が浮かびます。

 

続く歌詞が、"君のそばに いられるなら"ですから、そばに寄り添い、声をかけてくれていた"君"の気持ちに応えるようにと、もとい、"君"の気持ちがi-Oくんの力になっていることが歌われています。

 


■【i-O(修理のうた)】は、i-Oくんを修理しつつも、どちらかというとどこかコミカルに、i-Oくんと"君"の関係を描いていて、プロローグ的に、二人の関係を微笑ましく感じる部分もありました。

 

一方の【讃歌】の方は、同じような場面でも、特にi-Oくんの心情にもっと迫っている感じですかね。冒頭の歌詞とか、2番の心が病んでしまった原因と思われるような歌詞など…ザワザワさせられる、ちょっと苦しくなるような歌詞も多いのですが、最後に向かって、讃美歌のようなコーラスとも相まって、光や希望を感じるような展開になっているような気がします。

 

このアルバムの大きなテーマにもなっているようにも思える、コロナ禍によって変わって言った世の中が元通りになっていく感じ…2曲で紡がれるi-Oくんと”君”のストーリーには、そういうものが託されているのでしょうか。