【めぐりめぐって】
■アルバム『ひみつスタジオ』の13曲目に収録されている、アルバムのトリを飾る曲です。
個人的な感想ですが、1曲目に【i-O(修理のうた)】、12曲目に【讃歌】が入っていて、その2曲をオープニングとエンディングのように聴いているんですけど、それらに挟まれている部分がストーリーという感じです。
なので、【めぐりめぐって】の位置としては、言い方は難しいですが…映画でいうと、ストーリーの部分が終わって、映画のエンドロールで曲が流れているのを聴いている、みたいな感覚ですかね。
タイトルも【めぐりめぐって】なので、これまでの曲で紡がれたストーリーを回想しながら、それこそタイトルをなぞるならば、色んな人や状況との巡り合わせに想いを馳せている、みたいな感じです。
■曲の感じとしては、同アルバムの中には、【オバケのロックバンド】という曲や、【跳べ】なんかもそういう系統の曲ではあると思うんですけど、パンキッシュな曲です。
ドラムの崎山さんのカウントから、「ダッダッダダッダッダッダダッ」という弾むようなリズムで楽器の演奏が入ってくるのが気持ちが良いです。似たような曲を探すと、アルバム『とげまる』に収録されている【どんどどん】みたいな感じですかね。
そこからも、疾走感のある演奏や草野さんのボーカルが続いていき、若々しさというか懐かしさというか、そういうものを感じる曲です。時々ある、原点回帰的なビートパンクのナンバーって感じですかね。
そういう風に、ノリノリで曲が続いていくと思いきや、Cメロで曲の雰囲気がテンポダウンして落ち着くというのも、一筋縄にいかない面白いところだと思います。
その辺りのことは、書籍「スピッツ2」の中で語られていることなのですが、前作『見っけ』の収録曲で【まがった僕のしっぽ】という曲があるのですが、この曲がまた珍しくて、吟遊詩人が作ったような曲の曲調から、途中のCメロで急変して、悪魔的なヘビィロックに変化するという、スピッツでも珍しい感じの曲でした。
その【まがった僕のしっぽ】は、つまり途中でテンポアップする曲だということなのですが、今回の【めぐりめぐって】では、その逆でCメロで曲調がテンポダウンして落ち着くという現象が起こっています。
■また、例えば前作『見っけ』のトリの曲である【ヤマブキ】、前々作『醒めない』のトリの曲である【こんにちは】などがあったように、最近のスピッツのアルバムの傾向なのでしょうか、トリを飾る曲が”一番”といっていいほど、元気でノリノリな曲であるという傾向は、アルバム『ひみつスタジオ』にも引き継がれています。
その辺りのことについては、書籍「スピッツ2」において草野さんが色々と語っていますが、この曲に込めた根本的な想いについては、以下のようなことがあるようです。
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草野「これ(【めぐりめぐって】という曲)は、イメージとしてあったのがRCサクセションの”よォーこそ”って曲。ライブの1曲目で、『お客さん、ようこそ!』っていうような曲がスピッツにはないかもなあと思って。そういう、『めぐりめぐって、みなさんとこうやって、会えましたよ!』っていう喜びを表すような曲を作りたいなっていうところからできあがったんです」
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RCサクセション(忌野清志郎さんがボーカルを務めたバンド)の曲から構想を得て、ライヴ1曲目にお客さんを迎えるつもりでこの曲を作ったのだということが分かります。
■ということで、上述のようなことを思いながら聴くと、割とその通りな感じなのであまり言うことはないのですが、歌詞をなぞりながら僕なりに紹介してみると…
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違う時に違う街で それぞれ生まれて
褒められてけなされて 笑ったし泣いたし
たまには同じ星見上げたりしたかもね
そして今めぐり逢えた
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これが出だしの歌詞なのですが、良い歌詞ですよね。一気に、ライヴに来ている人たちや、このアルバムを聴いている人たちが、同じような境遇を共有して繋がっていくような気持ちにさせられます。
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世界中のみんなを がっかりさせるためにずっと
頑張ってきた こんな夜に抱かれるとは思わず
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この辺りは、多少自虐も入っているのでしょうか。”世界中のみんなを がっかりさせるために”なんてね。
思い出すのは、僕が観に行くことができた3050LIVEの広島公演にて、草野さんが「30年やってきましたが、まだ通過点です。これからも面白い歌を作っていきますので、よろしくお願いします」という風に話していたのですが、とても印象に残っています。
”面白い歌”というのが、実に草野さんらしい表現だなと思ったものですが、今回の歌詞の”がっかりさせるために”とまではいかないもの、面白い、珍しい、おかしな曲を作ろうと企んでいる節はあるのでしょうね笑。
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秘密のスタジオで じっくり作ったお楽しみ
予想通りにいかないけど それでもっとワクワク
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何といっても、ここの歌詞ですよね。
こういう話はおそらくアルバム全体についての記事でもすると思うのですが、アルバム『ひみつスタジオ』には、表題曲がありません。
具体的には、前アルバム『見っけ』には【見っけ】という曲、前々アルバム『醒めない』には【醒めない】という曲、その前のアルバム『小さな生き物』にも【小さな生き物】という曲…という風に、いわゆるアルバムと同タイトルの曲が収録されています(ちなみに、さらにその前のアルバム『とげまる』には【とげまる】という曲はありません)。
ですが、アルバム『ひみつスタジオ』には、【ひみつスタジオ】という曲は入っていないのです。ただし、今回紹介している【めぐりめぐって】という曲の歌詞においては、上述のような歌詞が出てきます。
”ひみつスタジオ”と”秘密のスタジオ”、微妙に言葉は違っていますが、意味合いは同じと捉えることができます。なので、【めぐりめぐって】という曲が、そのままアルバム『ひみつスタジオ』というタイトルを象徴している曲だと考えることができるかもしれません。
この辺りの話は、また別のお話ということで…またアルバム全体の記事でも話をしたいと思います。
■そして、先程紹介しました、テンポダウンするCメロの部分の歌詞、
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細い糸をたぐって 何度もめぐりめぐって
雨はあがり 光の中
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この歌のタイトルにもなっています”めぐりめぐって”という言葉が出てきています。ここまででも、”めぐり逢えた”という言葉も出ていますが、”めぐる”という言葉が一つのキーワードになっています。
この曲が出来上がった経緯と重ねて考えてみると、色んなことがあって、それぞれの境遇も人生も違う人たちが、そういう日々を”めぐりめぐった”その果てで、今こうやって同じライヴ会場で同じ時を過ごしている、というような意味合いを込めているのだと考えられます。
または、”めぐる”という言葉は、漢字で書くと”巡る”という言葉が個人的にはぱっと思い浮かぶのですが、他にも”廻る”という漢字もあるようで、その意味合いとしても、”輪廻する”というのがあるようです。
ともすると、一つの人生の中で”めぐりめぐって”今こうして出会えた、という意味合いすらも越えて、我々が何度も生まれ変わりを経て、今のこの人生の中で偶然出会ったみたいな、もっと大きな意味合いとしても捉えることができるかもしれません。
■あとは、今はもうこの曲が作られた経緯として、草野さんがライヴに来たお客さんに向けてという意味を知っちゃったのですが、この話を知るまで…というより初めて聴いたときなんかは、スピッツメンバーが出会ったことを歌っているのだと思って聴いていました。
というより、そういうことを思いながらこの曲を聴いても、別に不自然にはならないかと思います。いかにメンバー4人が出会って、スピッツが結成されたのかなどという話も結構面白いのですが、詳しくはスピッツの歴史本である「旅の途中」を読んでいただければより分かるので、良かったら読んでみてください。