149時限目:フェイクファー
【フェイクファー】
■アルバム『フェイクファー』に収録されています、タイトルを読んだ通り、アルバムのタイトル曲になっています。
個人的ランキング、195曲中3位です。堂々のベスト3にランクインの曲です!僕は、本当にこの曲が大好きなんです。
■この曲に出会ったのは、何ともうかれこれ20年近く前のことですよ。まず、僕は小学生の頃に、シングル曲【チェリー】を聴いて、スピッツに出会いました。
そして、そこから少しずつ、アルバム『インディゴ地平線』『フェイクファー』『花鳥風月』をレンタルショップで借りて聴いていきました。今はもう見かけることはなくなりましたが…カセットテープに録音して、何度も聴きました。兄から譲り受けた、もう壊れかけのウォークマンで、もう何処に行くにも(ちょっと盛ってますが)、カセットテープ3本と一緒でした。
そんなアルバムのタイトル曲である【フェイクファー】ですが、子どもの頃に聴いた段階では、ちょっと難しかっただろうなって思います。ちゃんと意味は理解できていなかったと思いますが(それは今もかも知れませんが)、色々感じることがありました。
何となく、最初聴いた時から、怖かったんです。メロディーは、すごくきれいだと思っていたんですが、何とも言えないザワザワ感が残っていたんです。それが何かくせになって、子どもながら取り憑かれたように、何度もこの曲だけ繰り返して聴いたりしていました。この曲が、アルバムの最後に入っていて、余韻に浸っていました。
■アルバム『フェイクファー』について、書籍(主に「旅の途中」)などを読んで、どういう作品だったのかを、少し話してみます。
このアルバム『フェイクファー』は、スピッツの作品では8作目のアルバムになるわけですが、このアルバムはスピッツにとって、”変化”のアルバムだったということがうかがい知れます。
このアルバムで、長年に渡って、スピッツの作品をプロデュースしてきた笹路正徳(具体的には、『Crispy!』~『インディゴ地平線』までをプロデュースされました)という方から、スピッツは離れることになるわけです。
そして、新たに棚谷祐一という方をプロデューサーに迎え入れました。この人はあれですね、アルバムの最初の曲に【エトランゼ】という曲があって、シングル『流れ星』にカップリング曲として、【エトランゼ(TANAYAMIX)】という曲が収録されていますが、この人の作品なんでしょう。
笹路さんが、”先生”的な人物であったのに対して、棚谷さんは、一緒に考えてくれる”兄貴”的な人物であったとありました。
信頼していた笹路さんを離れ、レコーディングは難航した様子が、書籍には綴られています。そんな中で作られた『フェイクファー』のことを、草野さんは書籍の中で、”いまだに聴きたくないアルバム”と評しながらも、”これもスピッツのある一面”であるとも語っています。
特に、サウンド面で納得いってないんだそうです。くぐもった感じ、暗い感じになってしまったとありました。僕は、これは意図的に行ったアレンジだろうと思っていましたが、どうやら違ったんですね。
■長くなりましたが、そんなアルバム『フェイクファー』の表題曲の紹介でございます。
まず、タイトルが”フェイクファー”ですからね、ここからもう不思議な魅力を感じます。英語では”fake fur”、"fake"は偽物、”fur”は毛皮、ということで、そのまま”偽物の毛皮”となりますが、一般的には、人口毛皮と訳されますね。
あくまで、”偽物”なんですよね、そこからも、何か草野さんらしさ・スピッツらしさを感じざるを得ません。いつか失ってしまうもの、欲しいものを得られずに遠くから眺めていること、などへの一種の美学がありますからね。
そういう感じで、歌詞を読んでいくと、”ザワザワ感”の理由が、色んなところに垣間見ることができます。いくつか抜き出してみると、
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唇をすりぬける くすぐったい言葉の
たとえ全てがウソであったも それでいいと
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分かち合う物は 何も無いけど
恋のよろこびに あふれてる
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偽りの海に 身体委ねて
恋のよろこびに あふれてる
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最初は、”柔らかな心を持った はじめて君と出会った”と、どこか幸せな恋愛でも始まるかのような歌い出しでしたが、読めば読むほど、何ていうか、悲しい歌ですよね、こんなにひねくらなくてもいいじゃんってね…苦笑。
”全てがウソ”、”分かち合うものは何も無い”、”偽りの海”…など、全ての言葉に、”フェイク”という言葉が隠れています。
■恋愛っぽい、偽物…と来れば、これも色々な物語を想像できると思います。
まず、真っ先に思ったのが、”体を売る女性との恋愛”という物語でした。
”唇をすりぬける くすぐったい言葉”というのが、まさにセールストークを思わせるなぁ、と思ったのが、この解釈の始まりでした。誰にでも言っている、本心からじゃない、褒め言葉や愛の言葉などが思い浮かんだんです。
あとは、”偽りの海に 身体委ねて”とかね。これは、愛の無いSEXでしょうか、いや、男の方は一方的に思っているかも知れませんが、女の方は仕事として割り切っているのでしょう。
他にも、”男女の許されない恋愛”という物語もありかも知れません。具体的にひとつ上げるとするならば、”不倫”とかね。
”偽りの海に 身体委ねて”とは、間違った形の恋愛に浸っているという感じでしょうか。それでも、”恋のよろこびに あふれてる”とね。
■という解釈を、極端に…というか、考えに考え抜くと、”男女の心中”、あるいは、”後追い自殺”などという物語に行き着きました。
この解釈は、最後の部分の
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今から箱の外へ 二人は箱の外へ
未来と別の世界
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というところを読んで、完成しました。”箱の外へ”というものを、”今生きている世界”の外と訳すとしたらどうでしょうか?また、”未来と別の世界”とは、もちろん間違った生き方として、許されない恋愛へと進んでいく二人、と考えることもできそうですが、これも、未来と別の世界=未来(生きること)を放棄する、と考えれば、これも”死”のイメージが浮かんできます。
ということで、どう考えても総じて、タイトルの”フェイクファー”とは、”偽物の温もり”とでも訳してみるとどうでしょうか。