【幻のドラゴン】
■アルバム『とげまる』に収録されている曲です。個人的ランキング、195曲中84位でした。『とげまる』のアルバム曲には、本当に名曲が多いですが、この曲はその中でも特に好きな曲です。何か、本当に”真っ直ぐなロック”という感じで、聴いていて気持ちいいです。
この曲は確か、アルバムが発売になる前に、CMに起用されて一足先に聴くことができたんですよね。調べていて思い出しました、車のCMでした、ブリヂストン『ブリザック』CMソングですか。冬の車のCMだったので、雪や氷の上を車が走っていくようなシーンがあって、そこが何となく、曲の中に出てくる歌詞の、”ザクザク坂も登る”に似合っているなぁとか思ったことを、思い出しました。
■まず、タイトルが独特ですよね、”幻のドラゴン”って。”ドラゴン”とは言わずもがな、空想上の生き物ですよね…誰もが、翼の生えた巨大なトカゲのような、巨大な牙や爪で破壊を尽くし、口からは火を吐く(時には氷や毒の息を吐く)ような、そんな凶暴な姿を思い浮かべると思います。
ファイナルファンタジーでいうと、バハムート?ドラクエでいうと、竜王?ドラゴンボールでいうと、神龍?…などなど、笑。ファンタジーやアニメなど、空想の物語の世界では、いつだって強い魔物として、ドラゴンは出てくると思いますが、どうでしょうか。
そんな、ドラゴンをタイトルに冠したこの曲。しかも、ただ単純に”ドラゴン”と名付けるのではなく、”幻のドラゴン”としているのも、草野さんの何か思惑があったんでしょうか。何となく、”幻の…”が付くだけでも、柔らかい雰囲気になっているように、個人的に思いました。
■じゃあ、この曲がどんな曲か。早速解釈してみたいと思います。
全体的に読んでみると、この歌は、僕の君への思いを綴った歌だということが読み取れます。(正確には、”僕”という一人称は出てきませんが)
具体的に、歌詞を読んでいって、印象に残った部分を紹介してみます。
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眠れない夜更けに 水一杯飲んで飛び出す
五感をすべて 働かせて
細すぎる糸を遠くまで 紡いでゆく
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この部分だけを読んでも、なぜ(恐らく部屋を)飛び出したのかは分かりませんが、全体的に読むとこの部分が、君に会いたくなって、居ても立っても居られなくなって、部屋を飛び出した、という描写であると想像できます。”細すぎる糸”なんて、草野さんらしい表現ですね、赤い糸とか言わずにね。【夜を駆ける】でも、”細い糸でつながっている よくある赤いやつじゃなく”なんて歌ってますしね。
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予感もなく突然 あらわれた赤い果実
優柔不断な気持ちは マッキ―でぬりつぶす
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ここも独特ですよね。きっと、”予感もなく”と”赤い果実”は、思いがけなく恋に落ちてしまった、ということを表しているのだと思います。
”マッキ―でぬりつぶす”も面白い表現ですよね。”マッキ―”は、槇原敬之さん…ではなく、文脈から、マッキーペン…つまり、油性マジックを表していると判断できますが、優柔不断な気持ちをそれで塗り潰すわけですからね、これはそのまま、優柔不断な気持ちを払拭して、君の元へと急いでいる、ということになるのでしょう。
そうやって読んでいって、一番印象に残るのは、やっぱりサビの歌詞ではないでしょうか。
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君に夢中で泣きたい ゆらゆら空を渡る
燃えているのは 忘れかけてた 幻のドラゴン
君に夢中で泣きたい ザクザク坂も登る
よみがえるのは 小さいけれど 強気なドラゴン
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最後の大サビを載せましたが、まず、”君に夢中で泣きたい”という表現が、すごく印象に残ります、すごい表現ですよね、君に夢中で泣きたい、ですよ。君のこと思い過ぎて、君に会いたくなりすぎて、想いが溢れて泣きそうになっていると、そういうことなんでしょうね。
そして、ここには、タイトルになっている”幻のドラゴン”というフレーズも出てきています。
■じゃあ、結局”幻のドラゴン”って何なの?って話ですよね。
先述の通り、ドラゴンとは、空想上の凶暴な動物のことですが、この歌の中ではその意味通り使われていないということは、まぁ明らかですよね。
全体的に読んでみて、この”幻のドラゴン”とは、”僕の気持ち”や”僕自身そのもの”を表しているのだと思います。
具体的には、例えば、僕は”優柔不断”であったし、誰かを思う気持ちを”忘れかけてた”ようだし、それでも”君で夢中で泣きたい”気持ちになっているわけですよ。
何があったかは分かりませんが、恋愛に優柔不断になっていて、ひょっとすると恋することにさえ臆病になっていたのかもしれません。それでも、思いがけなく恋に落ちてしまったことで、久々に心が”燃えている”のを感じていると、そういうことですよね。そういう、燃えている気持ちを、”幻のドラゴン”という気持ちで表しているのだと解釈しました。
いやぁ、【幻のドラゴン】というタイトルで、こんな恋愛ソングを作れるんですからね、ほんとに草野さんは唯一無二ですよ、素晴らしいの一言です。