スピッツ大学

ステイホームしながら通える大学です!

214時限目:みなと

【みなと】

 

みなと

みなと

  • provided courtesy of iTunes

 

■41作目のシングル曲です。アルバム『醒めない』にも収録されています。

 

シングル『みなと』は、前作『雪風』が配信限定シングルとして発売されてから、およそ1年後に発売されました。

 

もう1作さかのぼってみると、シングル『さらさら / 僕はきっと旅に出る』からは、実におよそ3年の月日が流れたことになりますが、『雪風』が配信シングルだったので余計に、(いわゆる従来の媒体での)久々のシングルだなって思ったことを覚えています。

 


■まず、この曲は、NTT東日本のCMソングとして使われました。

 

僕が初めて知ったのは、SNS上の仲間がつぶやいていたのを見たのがきっかけでした。どうやら、テレビCMでスピッツの新曲が流れているようだ、と。

 

情報を調べてみると、確かにスピッツの新曲が、NTT東日本のCMソングとして起用されており、テレビCMで流れているようでした。しかし、僕が西日本に住んでいるからなのか(?)、まだそのCMを一度も見たことがありませんでした。

 

そこで、僕はいち早くその曲を聴くために、NTTのサイトを訪れて、CMの動画を見たのでした。確か、イチローが起用されていたCMでしたよね。そして、バックには、仲間が言った通り、件のスピッツの新曲が流れていました。

 

短いCMでしたが、それだけでも、僕には名曲の予感がしました。何となく【ビギナー】(こちらも、ゆうちょ銀行のCMソングに起用されました)を思わせる、重厚で壮大なバラードのように感じたのを覚えています。

 


ただし、CMが発表された当初は、確かにスピッツの新曲ではあったのですが、その時は曲名までは発表されておらず、謎の新曲として話題に挙がっていました。

 

そこから程なくして、その新曲の名前が”みなと”で、シングルとして発売になるという情報や、MVが解禁になりました。

 


■それから、シングルが発売になった頃、珍しくミュージックステーションスピッツが出演しました。調べてみたところ、実に3年ぶりの出演だったそうです。

 

僕も、この時のMステはリアルタイムで見たんですが、この出演がまた、今でも語り継がれる出来事となったんです…。

 


まず、とにかく久々のMステ出演ということで、草野さんとタモリさんの共演自体すごく新鮮に感じました。久々のトークにて、「好きな港」というマニアックなテーマに、タモリさんと草野さんが花を咲かせた後、いよいよスピッツの演奏が始まります。曲目はもちろん【みなと】です。

 

琴線に触れる、綺麗なイントロで曲が始まります。そして、程なくして、草野さんが歌いはじめます。ちょっと緊張していたのか、その声は少し震えて聴こえたような気がしました。

 

…しかし、何かがおかしい。草野さんがそわそわして、歌うのを止めて、三輪さんの方を見ます。

 

何と、草野さん、歌い出しを間違えちゃってたんです!【みなと】のイントロは、4拍子が8回繰り返された後(表現の仕方あってますかね?)草野さんのボーカルが入るのですが、4拍子が4回繰り返された後、歌い始めてしまったんです。

 

三輪さんと顔を見合わせて、照れ笑いする草野さん。よく聞けば、「間違えちゃった…」という言葉も聞こえました、笑。その後は、草野さんも気を取り直し、最後まで順調に歌いましたが、そこからは、文句なしに素晴らしかったです。

 


という、何とまぁ…ほっこりとした、草野さんらしい(のかな?)出来事でした、笑。

 


■ちなみに、そのMステ出演においては、僕としては、スカートの澤部さんが出たのも印象に残りました。

 

【みなと】の間奏には、これも印象的な口笛の演奏が入っているのですが、その口笛を担当しているのが(CDのクレジットで確認できます)、スカートというバンド(正確にはソロプロジェクト)のボーカルの澤部渡という人なんです。

 

演奏の時にちらちら映る、タンバリンを叩く太っちょの男性…誰なんだ!?と、これも話題になりましたが、それがまさに、澤部渡その人だったのです。スカートというバンドは知っていましたし(数曲知っている程度ですが…)、澤部さんが口笛を担当していることも知っていましたが、Mステ出演には驚きましたね。

 


■さて、【みなと】の紹介・考察をしないといけませんね、苦笑。

 

まず、タイトルの”みなと”については、言わずもがな漢字で書くと、”港”のことですよね。歌詞の中にも、”港”という言葉は何度も出てきます。

 


船に乗るわけじゃなく だけど僕は港にいる
知らない人だらけの隙間で 立ち止まる

 


君ともう一度会うために作った歌さ
今日も歌う 錆びた港で

 

それぞれ、出だしの歌詞と、サビの歌詞です。

 

”船”という言葉が使われているので、当たり前ですが、いわゆる一般的な船の発着地点としての港を思い浮かべるわけですが、何ていうか、精神的な意味も含めているような気がします。

 


■もう少し、歌詞を抜き出してみます。

 


遠くに旅立った君に 届けたい言葉集めて
縫い合わせてできた歌ひとつ 携えて

 


消えそうな綿雲の意味を考える
遠くに旅立った君の 証拠も徐々にぼやけ始めて

 


すれ違う微笑たち 己もああなれると信じてた

 

この辺りを読んでいくと、何となくこの歌が歌っていることが分かってくるよな気がします。

 


”君”は”僕”の元を離れて、何処か遠くへと旅立っており、そんな”君”にもう一度会えるように、”君”のために作った歌を携えて、”僕”は港でずっと独りで待っているというわけですね。

 

”遠くに旅立った君の 証拠も徐々ぼやけ始めて”というフレーズや、”錆びた港”という言葉は、時間経過も表していると感じます。”僕”が”君”を待って、長い時間が経過していると。

 

”港から旅立つ”ということで、例えば、自分の夢のためにだとか、就職や進学のためなど、理由は様々考えられると思いますが、とにかく”君”は船に乗って、”僕”と過ごした場所を離れて旅立った、と考えることが普通かもしれません。それでも、この物語は成立するように思えます。

 


■ただ、やっぱり色んなことを想えば、”君”は亡くなっており、もう二度と会うことはできないと分かった上で、”僕”は”君”を待っているという解釈へとつながっていきます。

 

つまり”君”はすでに亡くなって、”あの世”へと旅立ったと…そういうことになります。だからこの場合の”僕”は、待っている、という言葉よりは、”その場所に(精神的に)縛り付けられていて、どこへも行くことができない状態”という方が、悲しいけどしっくりきます。

 

そして、そういう解釈の根底にあるのが、まぁネット上でも多くの人が解釈している通り、この歌と東日本大震災との関連ですよね。

 

ここスピッツ大学でも、前作『小さな生き物』については、東日本大震災との関連を指摘しつつ紹介してきたのですが、アルバム『醒めない』についても、未だ震災との関連は、形を変えつつも残っていそうです。

 


これから、ここスピッツ大学でも本格的に、アルバム『醒めない』の紹介に入っていくわけですが、この頃の草野さんは、作品のテーマとして、「死と再生」を挙げています。

 


草野「まぁ、『小さな生き物』が旅に出る前の不安と期待が入り混じったアルバムだとすると、”雪風”は再生を匂わすものになっていたと思うんで、そういう意味ではアルバムのスタートにはなっていると思いますね。」

 


草野さん「前のアルバムを客観的に聴いた時に、不安感の強いアルバムなのかなっていうのは思って。(中略)……結果的にそこまでにはなっていないんですけど、再生の物語みたいなものを匂わせるコンセプトで作ってもいいかもって思ったところはありましたね。」

 

これらは、アルバム『醒めない』発売直後のMUSICA(珍しく購入した、笑)において、草野さんが語ったことですが、この考え方は、そのまま【みなと】にもつながっていると考えることができそうです。

 


■港という場所は、本来は”旅立ちの場所”や”帰ってくる場所”ですが、”船に乗るわけじゃなく”と冒頭から歌われていることからも、大切な人を亡くし、残された当人は旅立つことができずに、合わせて、いくら待っても亡くなった人も帰ってくるわけではないので、待っているということは、健気なようで、実は何も救いがないんですよね。

 

それでも、【みなと】がアルバムの2曲目であることは、何か考えさせられます。1曲目の表題曲【醒めない】は、アルバムの表表紙的な曲だと思っているので、物語の始まりとしては、実質はこの【みなと】であると考えています。

 

あまりそういうものにはなっていない、としつつも、草野さんはアルバムで一貫した再生の物語を描こうとしました。とすると、この曲の役割は、”再生の入り口”といったところでしょうか。ここから、再生の物語が始まるわけですね。

 

youtu.be