174時限目:1987→(30周年特別編)
(※通常の順番とは違いますが、先にこの曲を紹介しておきます。どの曲も、十分聴いてから紹介したいと思っていますが、この曲は、初期の新鮮な気持ちのまま書くのが良いかと思い、30周年特別編という意味も込めて、先に紹介します。次の曲から、また通常の順番(五十音順)に戻りますので、よろしくお願いします!)
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【1987→】
■アルバム『CYCLE HIT 2006-2017 Spitz Complete Single Collection』に収録されている曲です。スピッツの30周年イヤーを彩る、まさに記念すべき1曲です。今回は、この曲について語っていきますが、グダグダ語って、とんでもなく長くなったことを、あらかじめお伝えしておきます。覚悟して読んでください、笑。
ということで、記事が長くなるので、とりあえず先にMVを載せておきます。
もう何度も見てしまったので、CDを手に入れる前に、歌詞を諳(そら)んずることができるほど、覚えてしまっていました。
それでも、何度見ても良いMVだなと思います。過去のスピッツのライヴ映像が散りばめられていて、色んな時代のスピッツメンバーを拝むことができます。三輪さんの髪型の変化がよく分かりますね、笑。
■アルバム『CYCLE HIT 2006-2017…』は、これ単体でも発売になりましたが、過去に発売された2枚のアルバム、『CYCLE HIT 1991-1997 Spitz Complete Single Collection』と『CYCLE HIT 1997-2005 Spitz Complete Single Collection』とともに、『CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-』(2017年内限定出荷)にも、3枚組で収録されて発売されました。
それぞれのアルバムを単体で買うと、1枚2700円であるのに対して、BOXの方は何と、3枚組で4200円という、破格のお値段となっています!過去作を持っていない方にとっては、圧倒的にBOXを買う方がお得ですね!
ちなみに、『CYCLE HIT 1991-1997…』と『CYCLE HIT 1997-2005…』の初回限定盤には、ボーナスCDが付属されました。前者には【空も飛べるはず】のデモ音源となる【めざめ】が、後者には【夢追い虫 (early version)】が、それぞれ収録されていたのですが、BOXの方には付属されていません。
僕自身は、過去の2枚のアルバムは持っておらず(知っている曲ばっかりなので、わざわざ買わなかった)、せこい話…中古CDショップに行ってそれらを見かけては、どうしようかなー、買おうかなー、とか思いつつ、結局は買わずに現在まで至りましたが、このBOXにより、一気に手に入れることができたので、とても嬉しいです。まぁ、ボーナスCDの方は手に入りませんけどね…。
(余談ですが、廃盤になってしまった、マイアミショックの曰く付きベストアルバム『RECYCLE Greatest Hits of SPITZ』は、持っていましたが、大学の時に友達に貸したまま、そのまま卒業を迎え、離ればなれになってしまいました、笑)
■さて、アルバム『CYCLE HIT 2006-2017…』には、新曲が3曲…それぞれ、【ヘビーメロウ】【歌ウサギ】【1987→】という曲が収録されています。
その3曲の中でも、アルバムの大トリを飾る【1987→】という曲…正式なタイトルは”→”までですが、それは読まずに、”イチキュウハチナナ”と読みましょう。
当然、”1987”とは1987年を表していますが、こんな風にダイレクトに西暦をタイトルに冠する曲を、僕は勝手に”西暦ソング”と呼んでいます。ということで、この曲は、スピッツ初の西暦ソングであると言っておきますか、笑。
この【1987→】という曲は、後述しますが、新曲3曲の中でも、スピッツが特別な気持ちを込めて作った曲であるのです。まさに、30年の集大成と言っても、過言ではありません。
■今からおよそ30年前…タイトルにもなっている1987年に、現メンバーのスピッツは結成されました。そして、2017年現在、スピッツは結成して30周年を迎えます。
結成してから、誰一人欠けることなく、しかも、活動を休止したりすることもなく(草野さんが体調を崩されたことなどはあっても)、30年間ずっとスピッツが続いてきたことについては、本当にすごいの一言です。メンバーも、たくさん苦労をしてきたことだと…想像しようとしてもしきれませんが、それでも、一つのことをずっと続けてきたことに対して、その時々の自分を重ねて、いつも勇気をもらってきました。
ここでちょっと、そのスピッツ結成の話を、僕が知っている範囲で話してみたいと思います。
スピッツの物語はまず、1986年、東京造形大学にて、草野さんと田村さんが出会うところからはじまります。音楽の趣味が合った2人は意気投合、バンドを組み、ライヴハウスを目指して活動を始めます。この最初のバンドには、他にも2人のメンバーが居ましたが、三輪さんと崎山さんは加入していませんでした。
そして、どうやらこの頃からもうすでに、バンドの名前を「スピッツ」や「ザ・スピッツ」として活動していたそうなのです。
しかしながら、これはある意味有名な話ですが、活動をしていく中で、ライヴハウスでTHE BLUE HEARTSのパフォーマンスを見て、一旦バンド活動を止めてしまうのです。当時、バンドはパンクロックバンドとして活動していましたが、自分のやりたいことを、THE BLUE HEARTSに先を越されてやられてしまった、と草野さんは感じて、意気消沈したようです。
これが俗にいう、”ブルーハーツ・ショック”です、笑。まぁ、この出来事だけが、バンド活動休止の理由であるわけではないと思われますが、とにかくそんなこんなで、バンド活動を止めてしまうのです。ここで終わっていたら、現スピッツは生まれなかったことになります。恐るべし、THE BLUE HEARTS。
(そういえば、THE BLUE HEARTSにも、【1985】という西暦ソングがありますね。草野さん意識したんですかね…まぁ、あんまり気にしていないと思いますけどね。)
しかしながら、程なくして、草野さんは再び田村さんと共に、バンド活動を再開します。
そして新しく、田村さんは幼馴染である三輪さんを誘い、当時三輪さんと同じ学校に通っていた崎山さんを誘い、バンド名を改めて「スピッツ」として、ここに現メンバー全員が揃ったスピッツが誕生しました。ちなみに、崎山さんは、当時メンバーに誘われる際に、「ヘルプでいいからさ!」と言われて誘われたそうで、「今でも崎山さんは、スピッツのヘルプである」と、時々言われています、笑。
スピッツの結成日としては、スピッツが初ライヴを行った、1987年7月17日が挙げられることが多いです(正確に”結成日”と言えば、もう少し前になるのかな)。この日、当時三輪さんと崎山さんが通っていた文化服装学園で、現メンバー4人が揃ったスピッツとして、初めてライヴを行いました。ここから、スピッツの長い長い活動が始まるわけです…何か感慨深いですね。
この辺りの詳しいことは、スピッツ大学の動画でも語っていますし、さらに詳細を知りたい方は、”スピッツ史”の教科書と言うべき書籍「旅の途中」を参照してください。
■さて。そんなスピッツが、結成30周年を迎えて発表した新曲【1987→】です。
上述の通り、1987年はスピッツ結成年であり、それを自ら曲のタイトルに冠しているというところからも、この曲がスピッツにとって、とても特別な曲として作られたことは明確ですよね。
草野さんは、この曲に対して、下記のように語っています。
(http://natalie.mu/music/news/238302など参照・引用)
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草野さん「バンド結成当初の“ビートパンクバンド”スピッツの新曲という想定で作った1曲」
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先程書いた通り、スピッツは元々、パンクロックバンドとして活動していました。しかし、その路線に限界を感じて、今のような、少し柔らかいロックへと路線を変更しました。あえてカテゴリーに入れるとすると、どういう感じになるんですかね…ギターロック?パワーポップ?ポップロック?
つまりこの曲は、そんな自分たちがかつて目指していた、パンクロックバンド(ビートパンクバンド)を回想して、その路線でずっと活動していたら…という想定の下、今の自分たちが作った新曲、ということになります。紛れもなく、今のスピッツの新曲として成立していますが、長く聴いてきたファンにとっては、どこか古臭くて懐かしく感じるのは、そういう経緯があるからなんでしょうね。
GREEN DAYなどを思い出させるパンクロック全開のAメロのギターリフ、ドカドカ鳴っているドラムの音…それでも、サビではファンファーレのようなホーンの音が聴こえてきたり、間奏のギターのアルペジオはメロディックだし、草野さんの声は力強くもどこまでもクリーンで、紛れもなく、”昔”と”今”のスピッツの融合であると言えます。何ていうか、過去のスピッツを、現在のスピッツが時を越えてカバーしているような、そんな感覚を覚えます。
ちなみにイントロは、スピッツのインディーズ時代の楽曲【泥だらけ】のイントロを引用したものだそうですね。(某動画サイトで聴くことはできます…。)
【泥だらけ】は、調べてみたところ、1988年にスピッツ名義で初めて配られた自主制作カセット「SPITZ」に収録されている曲だそうです。スピッツの音源として残っている、最古の音源のひとつと言えます。70本くらいしか作られなかったそうで、本当に貴重なテープです。
そんな昔の時代の曲のイントロを、自ら引用して使うとは、何ともにくい演出ですよね。
■と、ここまで読むだけでも、スピッツの30年を感じることができると思いますが、何と言っても、この曲は歌詞が肝なんです。歌詞を読んでいくと、また至るところに、自らの活動や言葉などを引用していると思われる部分があり、さら感激してしまいます。
ということで、歌詞を少しずつ読んでいってみますね。
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なんかありそうな気がしてさ 浮かれた祭りの外へ
ギリヤバめのハコ探して かっこつけて歩いた
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こんな歌詞で始まります。何ていうか、強気な歌詞なんだけど、”ありそうな気がして”とか、”かっこつけて”とか、そういう控えめな表現が、また草野さんらしいところです。
”ギリヤバめのハコ”とは何でしょうか、ギリヤバめって…それって結局、やばいの?やばくないの?って感じですけど、笑。バンド関連で”ハコ”というと、”ライヴハウス”を思い浮かべますね…ライヴをやる場所のことを、”ハコ”と表現したりしますのでね。
結成当初のスピッツは、新宿ロフトというライヴハウスでライヴをすることを目指して活動していました。その辺りのことを、ここは歌っているのでしょうか。
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らしくない自分になりたい 不思議な歌を作りたい
似たような犬が狼ぶって 鳴らし始めた歌
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続くここの歌詞はもう…もう(泣)…まぁ、実際には泣いていませんが、鳥肌がブワーっと立ちました。”犬”という言葉で、言わずもがな、バンド名である”スピッツ”を思い浮かべますよね。
スピッツのバンド名の由来は、草野さんがアルファベットで、”sp”が続く言葉が好きだということで(e.g. special, spica, crispy, etc…)、響きの良い言葉として”spitz”(スピッツ)をバンド名に選んだんだそうです。ちなみに、spitzはドイツ語で、尖った、という意味ですが、犬種であるspitz(スピッツ)も実は、このドイツ語を由来として、(口や耳の)尖った犬、という意味で付けられた名前だそうです。
本当のところはよく分かりませんが、”弱いくせにキャンキャン吠える小さな犬”というバンド名の由来は、後付けであるとされています。まぁ、どちらもバンド名の由来ではあるとは思いますけどね。
スピッツのライヴ映像作品『THE GREAT JAMBOREE 2014 “FESTIVARENA”日本武道館』のMCによると、草野さん曰く、スピッツがデビューした91年には、ロックバンドブームの煽りもあってかで、デビューしたバンドが510組以上もあったそうです。
そういうことを踏まえて改めて歌詞を読んでみると、自分達のことを”似たような犬”と表わしていますが、そういうバンドブームの中で生まれた、自分達を含めた無数のバンドたちを犬に例えて、至るところで犬が吠えていて、その中で自分達も必死に吠えていた、ということを表しているのでしょうかね。
それでも、あくまで”犬”なんですよね。強い”狼”にはなれずに、”狼ぶって”キャンキャン吠えていたんです。
狼というと、いかにもパンクロックバンドって気がしますが、今思うと、草野さんにパンクロックは 、最初っから無理があったのでしょう。本当は、それをどこかで本人も気づいていたんですよね。
そして、それが具体的に表れたのが、ブルーハーツショックであったり、自分たちが売れなかった不遇な時代だったりするのでしょう。
そこから、路線を変えて…具体的には、例えば【恋のうた】などは、現在のスピッツの路線への転換点になったと語られますが、自分に本当に似合う音楽を見つけてきたのです。
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それは今も続いてる 泥にまみれても
美しすぎる君の ハートを汚してる
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短いフレーズですが、これがサビです。
”泥にまみれても”というフレーズは、先述した自らの楽曲【泥だらけ】をオマージュしたものでしょうね。”それは今も続いてる”なんて、本当に泣けてくるじゃないですか!
要するに、自分達の本質は何も変えずに、ずっとここまで来たよ、ということを歌っているんでしょうね。どこまでも真っ直ぐに、ロックンロールを追い求めていく自分達の姿を、”泥にまみれて”と表現して、いつまでも忘れないように、歌っているのです。
”美しすぎる君の ハートを汚してる”という歌詞も、面白いですよね。何となく、【8823】に出てくる”君を不幸にできるのは 宇宙でただ一人だけ”という歌詞がダブりました。スピッツがそう言うならば、僕の心は、これまでたくさん汚されてきましたよ、もう後戻りできないくらいにな、笑。
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ヒーローを引き立てる役さ きっとザコキャラのまんまだろう
無慈悲な鏡叩き割って そこに見つけた道
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2番の出だしですが、もうこれでもかっていうくらい、草野節連発ですね。
”ザコキャラ”云々の歌詞は、これも先ほどと同様、『THE GREAT JAMBOREE 2014 “FESTIVARENA”日本武道館』のMCの中で、草野さんがその想いを語っています。バンドがたくさん生まれた時代の中で、たくさんの素晴らしいバンドが消えていった一方で、自分たちが残っているということに対して、
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草野さん「よくアニメとかゲームとかで、何故かザコキャラが最後まで生き残ってるってあるじゃないですか。そんな感じだと思いながらも、最高にイカしたザコキャラを目指して、これからも頑張っていきますんで…」
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と語っていました、笑。
いやいや、僕(ら)から言わせてもらえば、スピッツはザコキャラなんかじゃなくて、いつだって自分のヒーローだったよ、という感じですけどね。
まぁ、”ザコキャラ精神”とでも言いますか、ちっぽけで弱くても、それでも生きていく・歌い続けていく、草野さんなりの美学や誇りを感じる歌詞ですね。
”無慈悲な鏡叩き割って そこに見つけた道”というフレーズは、ただただかっこいいですよね、この歌の中で一番好きなフレーズです。誰かの真似に過ぎなかった自分を捨て去ったら、唯一無二の自分の道がそこにあった、と歌っているのです。
誰かの真似の”誰か”とは、例えば、THE BLUE HEARTSなどですかね。正確に言うと、最初から真似をしていたわけではなくて、目の当たりにしたことで、真似になってしまう、と気づいたんですよね。
だから、思い切って、鏡を叩き割ったんです。これはつまり、今のスピッツの音楽の路線へと舵を切ったことを表しているんですね。
うーん、ザコキャラからのこれですからね、笑。こういうかっこいいフレーズを、かっこつけずにさらっと入れてくるのが、またずるいんです。
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それは今も続いてる 膝を擦りむいても
醒めたがらない僕の 妄想が尽きるまで
それは今も続いてる 泥にまみれても
美しすぎる君の ハートを汚してる
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そして、最後のサビへと続いていきます。”醒めたがらない”というフレーズは、前アルバム『醒めない』を思わせます。つまり、今でもロックに対する気持ちが醒めない、ということですね。
”妄想が尽きるまで”だって?え、永遠に尽きることはないでしょ?って感じですけどね、笑。
■…という風に読んでいくと、その全ての歌詞に、スピッツの30年が込められていて、ニヤニヤと鳥肌が止まりません。こんなに、スピッツのパーソナルな部分を分かりやすく前面に出した曲が、これまであったでしょうか。
あと、MVを見ると分かりますが、映像が終わって暗転した画面に、「1987→→→→→→→→→…」という風に、”1987”の後ろに”→”が延々と伸びていきます。伸びすぎでしょ、って笑ってしまいましたけどね、笑。
でも、そこで改めて、【1987→】というタイトルに込められた意味を考えたんです。単に”1987”ではなくて、”1987→”とした、草野さん・スピッツメンバーの気持ちを、”→”に込められた意味を。
この歌は、”過去”を回想して懐かしむ歌ではなくて、1987年から続いてきたスピッツが、まだまだこれからも続いていくという決意を表した、”未来”に向けた歌なんですよね。
30年という、本当に長く長く活動してきたスピッツですが、きっとメンバーは相変わらず言うんでしょうね、ここがまだ”旅の途中”である、ここはあくまで通過点に過ぎないんだ、と、まるで平気な顔をして言ってのけるのでしょう。そして、これからも、スピッツは変わらずに、僕(ら)を勇気づけてくれることでしょう。
僕にとっては、その3分の2…およそ20年を共に、スピッツと旅をしてきたことになりますが、まだまだスピッツが旅を続けると言うのなら、僕(ら)もいつまでも付き合いますからね!どこまでも連れていってくれ!
ということで、最後にもう一度、【1987→】のMVを、笑。