スピッツ大学

ステイホームしながら通える大学です!

203時限目:ロビンソン

【ロビンソン】 

ロビンソン

ロビンソン

  • provided courtesy of iTunes

 

■11作目のシングル曲であり、アルバム『ハチミツ』にも収録されています。個人的ランキング、195曲中139位でした。

 

この曲はもう、スピッツファンのみならず、誰もが知っているスピッツの超有名曲ですよね。日頃から音楽を聴かないとしても、一度は耳にしたことのある人がほとんどなのではないでしょうか。今でも、テレビ番組などでスピッツが紹介される時に、よく流されているスピッツの楽曲の一つです。

 


■まず、何と言っても、シングル『ロビンソン』こそ、スピッツがこれまでに発表したシングルの中でも、最も売上枚数が多いシングルなのです。ちなみに、スピッツシングル売上ランキングBEST5は、以下の通り。

 

1位 ロビンソン 162万枚
2位 チェリー 161万枚
3位 空も飛べるはず 148万枚
4位 涙がキラリ☆ 98万枚
5位 渚 83万枚

 

僕は勝手に、シングル『ロビンソン』『チェリー』『空も飛べるはず』の三作品をまとめて、”シングル御三家”と呼ばせていただいておりますが、つまり、スピッツシングルの中でも100万枚以上を売り上げたのが、この3作品なのです(『涙がキラリ☆』が惜しかったですね)。このランキングは、今後もう変わることはないでしょう。

 


■ということで、シングル『ロビンソン』が発表されるまでのスピッツを、少し振り返ってみます。主に、書籍「旅の途中」やwikiの情報をまとめてあります。

 


まず、草野さんの(スピッツの)渾身の自信作である、4thアルバム『Crispy!』が売上不振という結果になり、草野さんは肩を落とします。それでも、そのアルバムの中からシングルカットされたシングル『君が思い出になる前に』が、ついにオリコンチャートにランクインを果たします(最高第33位)。

 

しかし、スピッツメンバーは(特に草野さんが?)、このシングル『君が思い出になる前に』のランクインは、嬉しいんだけど複雑だったそうです。というのが、書籍「旅の途中」によると、この曲は売れ線を意識した曲であり、”スピッツ本来のひねくれた感じが一切ない”、”ホンネを隠して作った歌”だったからだそうです。

 

そういうわけで、続くシングル『空も飛べるはず』『青い車』(多分、『スパイダー』に関しても)、そしてアルバム『空の飛び方』は、スピッツ本来のバンドサウンドに戻って作られた作品だったのです。アルバム『空の飛び方』は、オリコンチャート最高第14位を記録したのでした。

 


■そんな風に、徐々に上り調子の流れの中、シングル『ロビンソン』はレコ―ディング・発表されました。しかし、草野さんの【ロビンソン】に対する評価は、”いつものスピッツの、地味な曲”であったそうで、シングルとして発表することには乗り気ではなかったそうです。

 

ちなみにこの曲は、バラエティ番組「今田耕司のシブヤ系うらりんご」(僕にとっては、ぶち懐かしい番組だけど、知らない人の方がきっと多いね、笑)のテーマ曲として使われましたが、それ以外は特に表立ったプロモーションは行わなかったそうなのです。

 

しかしながら、結果として、このシングルは162万枚という、驚異の売上枚数を記録することになります。このことに関して、書籍の中で草野さんは、このように語っています。

 


なんであの曲がこんなに長く売れているんだろう? その時抱いた疑問の答えはいまでも出ていない。
「ロビンソン」が売れて最初に思ったのは、
―――これであと五枚はアルバムが作れるだろう。
ということだった。

 

だとしたら、僕はこうも思います。その時代に生きて、【ロビンソン】という曲に出会って、評価をした当時の人も、すごかったんだなぁと。

 


■こんなこと言うと怒られそうなんですけどね、確かに、【ロビンソン】は地味なんですよね、笑。

 

僕自身も、確かにこの【ロビンソン】は、リアルタイムで聴いたはずなんですよ、小学生の頃でしたけどね。当時の反響も、覚えている部分はあります。しかし、結局はこの曲からスピッツに入ることがなかったんです。後の【チェリー】の方で、僕がスピッツにハマったのは、こちらの曲の方が明るく派手で、耳に残り、口ずさみたくなったからだと思います。もっと言うと、【青い車】【スパイダー】【空も飛べるはず】などの方が、当時の僕には印象に残ったものです。

 

【ロビンソン】に対しては、何か難しい曲だなって思ったことを覚えています。歌詞も難しくてなかなか入ってこないし、PVだってモノクロ…だから、初めてのスピッツの印象は、”大人が聴く音楽”という感覚でした。だから、小学生の時分で、【ロビンソン】からスピッツに入っていくというのは、難しかっただろうなって思っているんですが…どうですかね。

 

【ロビンソン】は、もちろん良い曲だとも、すごい曲だとも思ってはいますが、今でもとっつきにくい曲ではあるとも思っています、笑。何か、やっぱり今でも不思議な曲だという印象深いです。

 


■それから、【ロビンソン】のレコーディングには秘話があるようで、僕はこの話を、結構最近知ったんです。初めて語られたのも、最近のことなんでしょうか。下のリンク記事のようなお話です。

 

https://grapee.jp/408603


【ロビンソン】は、1995年1月17日…阪神・淡路大震災が発生したまさに”その日”に、レコーディングされたそうなのです。

 

笹路正徳さん(※スピッツ作品に欠かせない人物。スピッツを世に送り出した最重要人物の一人。【ロビンソン】のプロデューサーでもある。詳しくは、書籍「旅の途中」や、リンク記事参照)は、”その日”のことについて、このように語っておられます。

 


笹路さん「みんなで被災地の様子をTVで観ていて『レコーディングどころじゃないな』という雰囲気になったんですが、自分たちはやれることをやろうと、予定通り収録したんです。改めて聴くと、このイントロには、そんな思いがこもっていたのかもしれませんね…」

 

なんか、こういうエピソードを聞くと、【ロビンソン】に対する印象も、がらりと変わってきますよね。歌自体は、予め作られた曲であったでしょうけど、レコーディングは”その日”に行われたので、演奏には気持ちがこもっているんだろうなって感じざるを得ません。

 

スピッツの活動は長く続いているため、当たり前といえば当たり前ですが、色んな時代をくぐり抜けてきたんですよね。そこには、悲しい出来事もたくさんあったはずです。その度に、自分たちが音楽をする意味について深く考え、作品を作ってきたのだと考えると、この【ロビンソン】はもちろん、一曲一曲がまた非常に感慨深く聴こえてきます。

 


■ところで、この特徴的なタイトル”ロビンソン”についてですよ。

 

特に、発売された当時、話題(もしくはネタ?笑)になりましたよね、”ロビンソン”はアーティスト名?曲名が”スピッツ”?どっち!?みたいな感じで笑。


曲名”スピッツ”も十分おかしいですけど、曲名”ロビンソン”ってのは、もっとおかしいですからね。”ロビンソン”って人名ですよ、しかも”姓”に当たるわけですから、日本で例えると、”田中”とか”鈴木”とか言ってるようなもんですからね、笑。

 

今のところ知られている、タイトルの由来としては、wikiにもあるように、「草野がタイを旅行した際に印象に残っていたというロビンソン百貨店から命名されたもの」というものです。曲との関連はなく、仮タイトルがそのまま使われているのだということです。だとしたら、何か意味があるとは思えませんね。

 

また、これとは別に、草野さん自身もどこかで語っておられましたし、先のリンク記事において笹路さんも語っておられるように、『ロビンソン・クルーソー』を連想するタイトルだというもの見かけますが…いやいや、全然連想しないんですけどね。ロビンソン・クルーソーって確か、架空の人物ですけど、冒険家ですよね?楽曲【ロビンソン】に、冒険感…ありますか?なくないですか?


やっぱり、曲名"ロビンソン"は、一番謎ですね…。

 


■さて、じゃあこの【ロビンソン】は、どんなことを歌った歌なのか、考えてみたいと思います。

 

僕もこれまで、【ロビンソン】の歌詞を何度も読んできたのですが…やっぱり分かりづらいんですよね、笑。タイトルも意味不明ですし。でも、だからこそ、本当に色んな想像が出来る歌詞になっているのだと思うんです。まぁ、それはこの曲に限ったことではないんですけどね。

 


まず、この曲でキーワードになっているのは、おそらく”誰も触われない 二人だけの国”というフレーズでしょう。書籍「スピッツ」の中でも、このフレーズについて、草野さんが語っています。

 


草野さん「(一人で初詣に行った時)その日はすごくいい天気でトボトボ歩いてる時に、なんか≪誰も触れない 二人だけの国≫って言葉が浮かんできて。で、初めはその『誰も触れない二人だけの国』っていうのを設定して、その国の国歌みたいなものを作ろうかなと思って(笑)」

 

まさに、【ロビンソン】という楽曲を作るきっかけとなったフレーズだったんだなと、うかがい知ることができます。歌詞としては、サビに出てきています。

 


誰も触われない 二人だけの国 君の手を離さぬように
大きな力で 空に浮かべたら ルララ 宇宙の風に乗る

 

”二人だけの国”の”二人”とは、歌詞の中には”僕”(厳密には”僕ら”)と”君”という言葉が出てきますが、自然な流れから、”想い合っている恋人同士”を思い浮かべます。

 


■ということで、先述のようなことが、この曲の解釈における根本であると思うんですが、さらに個人的に思うことは、【ロビンソン】の歌詞って、”一番の歌詞”と”二番の歌詞”で、がらりと印象が変わるなっていうことなんです。

 


まず、一番の歌詞は、”恋人同士が一緒に過ごしている風景”というイメージなんです。まぁ、「河原の道を自転車で 走る君を追いかけた」なんていう、これだけ読むと、ストーカーなんじゃない?とも思えるのですが…苦笑。

 

例えば、Bメロを読むと、

 


同じセリフ 同じ時 思わず口にするような
ありふれたこの魔法で 作り上げたよ

 

ここは、例えば恋人同士だったら、意図せず無意識に、同じ瞬間に同じ言葉を二人が発してハモってしまって、笑い合うみたいな、そういう微笑ましいシーンが浮かんできそうです。そういうときには、”僕らの心は通じ合ってるんじゃないか”と、お互いに特別な感情を抱くかもしれません。

 

そういう、”二人だけにしか分からない”(というより、”誰にも分からなくても、二人だけ分かっていればいい”)、”ありふれた”ものなんだけど、特別な場面や言葉というものを総称して、”二人だけの国”と表現しているのだと思いました。

 

そう思えば、先述の”自転車で走る君を追いかけた”云々も、二人ではしゃいでいるシーンであると、考えることができるかもしれません。

 


■一方で、読み進めていって2番の歌詞ですが、読んだイメージが、ガラリと変わるんです。

 

例えば、2番Aメロ出だし、

 


片隅に捨てられて 呼吸をやめない猫も
どこか似ている 抱き上げて 無理やりに頬よせるよ

 

ここの部分の主語は、1番から変わらず、同じ人物である”僕”だと考えることができますが、そうなると、”片隅に捨てられて、それでも懸命に生きようとしている猫”と”僕”自身が似ている、と思ったということになるわけですよね。

 

飼い主にずっと愛されて、可愛がられてきたけど、その飼い主自身の身勝手な理由から捨てられてしまった可哀そうな猫…に、”僕”は自分の姿を重ねているわけですよ、頬をよせるほどですからね。

 

というところまで読んで考えられるは、1番で想い合っていた二人は別れていて、”僕”は一人ぼっちなのではないか、ということです。まぁ、捨て猫のように、一方的に別れを告げられたかどうかは定かではないですけど、何らかの形で別れていると考えることができます。

 


それから、個人的に印象に残っているのは、”丸い窓”と”三日月”の対比表現についてです。

 


いつもの交差点で 見上げた丸い窓は
うす汚れてる ぎりぎりの 三日月も僕を見てた

 

草野さんは、丸いものは”死”の、とがったものは”性”の象徴であると考えているらしいのですが(というより、歌詞を読んでいてもそう感じるのですが)、ここで言うと、”丸い窓”と”三日月”という風に、つまりは、”死”と”性”の象徴が同時に出てきています。

 

何かやけに、急に死生を匂わせてくるなぁと思うんですよね。まぁ、猫の下りの部分もそうなのですけどね。


この辺りのヒントになりそうなものも、書籍「スピッツ」の方にたくさん書いてあります。少し引用してみますと、例えば、当時友達の家に集まって話していると、最終的には宇宙や魂の話になっていたというエピソードの中で、草野さんが自らの死生観として、

 


草野さん「きっと人間が死ぬととりあえず全部地球っていう魂に帰るんじゃないかって。肉体はコップみたいなもんで地球から魂をすくい上げてるだけで、また海に戻って結局は一緒くたになってるんじゃないかって思ったりして。」

 

と語っています。この辺りのことを、短く表現したフレーズとして、スピッツ楽曲の歌詞によく出てくるのが、”溶け合う”というフレーズなんだそうです。

 

【ロビンソン】の歌詞には、サビに”宇宙の風に乗る”という、印象的なフレーズが出てきますよね。僕はここの部分は、ひょっとしたら”溶け合う”と同じような意味合いなのかな、とも考えたんです。

 


■そうやって読んでいくと、最終的に行き着くのが、2番のBメロのようなフレーズです。

 


待ちぶせた夢のほとり 驚いた君の瞳
そして僕ら今ここで 生まれ変わるよ

 

”夢のほとり”、”生まれ変わる”、この辺りがキーワードですかね。何ていうか、一気に、これまで読んできた物語が、妄想的なものへと変貌していくようです。

 

”待ちぶせた”のは、現実の出来事ではなく、”夢(のほとり)”での出来事である、と。ここから、”僕”は独りであり、現実ではもう会えなくなった”君”を、夢や妄想の中でだけ思い出している、というイメージが浮かんできます。

 


そして、”生まれ変わる”という言葉。この【ロビンソン】という歌には、ネットなどで調べても分かると思いますが、”(後追い)自殺”という解釈もあるのですが、おそらく、ここの”生まれ変わる”という言葉から連想された部分が大きいのかな、と思います。

 

つまり、先述の流れから、”君”に会えなくなった”僕”が、悲しみのあまりに命を絶つ、しかも、実は”君”とは死別しているので、結局それは後追い自殺だ!という流れですよね。(あるいは、二人で生まれ変わるので、”心中”などの説もあり)


こういう解釈に基づいて進めるとすると、先程の”宇宙の風に乗る”というフレーズも、”生まれ変わる”と同義なのかなって思えてきます。

 

といっても、”宇宙の風に乗る”ですから、”生まれ変わる”というよりも、もっと壮大に”ひとつに戻っていく”感じ、”魂”のレベルで一緒になるみたいな感じでしょうか。草野さんの死生観を踏まえると「地球という魂に帰る」ということですかね。あの世とか、天国とか、そういうのとはちょっと違う、何かもう根本的に一つになっちゃう感じ…そういうものを、最終的に”二人だけの国”と表現しているのかもしれません。

 


■色んな解釈ができると思いますし、結局最後は皆さんに丸投げするしかありません。しかし、やはり重要なキーワードとしては、”誰も触われない二人だけの国”という概念でしょうね。少なくとも、”想い合っている二人だけにしか入ることが許されない世界”を指していることは間違いないとは思っています。

 


最後にMVを載せておきます。

 

youtu.be

 

先述の通り、全編モノクロで、子どもの頃は”大人っぽい”と感じたMVです。何故か、テッちゃんがずっと横たわっていたり(死んでるのか?)、バスは何を象徴しているんだろうとか、謎な部分も多いですが、演奏シーンをたくさん堪能できるのは、嬉しいですね。

 

僕個人的にも、多分最初に見た草野さんらスピッツメンバーの姿が、このMVだったと思います。