【ヘビーメロウ】
■シングルコレクション『CYCLE HIT 2006-2017 Spitz Complete Single Collection』に収録されている曲です。
スピッツはこれまですでに、2枚のシングルコレクション、それぞれ『CYCLE HIT 1991-1997 Spitz Complete Single Collection』と『CYCLE HIT 1997-2005 Spitz Complete Single Collection』を発表していますが、結成30周年の記念日である、2017年7月17日を間近に控え、その続きとなるシングルコレクション『CYCLE HIT 2006-2017 Spitz Complete Single Collection』を発表しました。
新しいシングルコレクションには、これまでのシングル曲に加えて、新曲が3曲収録されているのですが、【ヘビーメロウ】はその内の1曲です。
■【ヘビーメロウ】は、2017年4月より、朝の情報番組「めざましテレビ」のテーマソングに選ばれました。そこから、2018年3月末まで、実に1年間という長い期間、スピッツの曲を朝に聴くことができたことになります。
こんなに長い期間にまたがって、しかもほぼ毎日決まった時間に、スピッツの曲を聴くことができたのは、初めてのことじゃないですかね。
【ヘビーメロウ】が、テーマソングに選ばれたことに関して、草野さんがその想いを語っています。ロッキンオンの記事に、その言葉が載っていたので参考にさせていただきました。貼っておきます↓
スピッツ、新曲“ヘビーメロウ”が本日から『めざましテレビ』テーマソングに (2017/04/03) 邦楽ニュース|音楽情報サイトrockinon.com(ロッキング・オン ドットコム)
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少しでもポジティブな気持ちになってもらえるような弾んだリズムの曲を作ってみました。ただ歌詞はスピッツの持ち味でもある、ちょっと卑屈でネガティブな要素もあるかも。
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草野さんは、この曲についてこのように語っています。別に、スピッツの曲が朝に似合わないということは決してなくて、むしろ、朝に似合うようなさわやかな曲はたくさんあると思うのですが、選ばれたこと自体が、非常に珍しいことだったと思っています。
この曲が、「めざましテレビ」のテーマソングとして流れていた時期は、特にスピッツファンの方々は、少しだけ爽やかに、ご機嫌な朝を迎えることができたのではないでしょうか。
【ヘビーメロウ】が、めざましのテーマソングに選ばれた当初は、まだ新しいシングルコレクションの情報が出ていなかったので、最初は単純に、スピッツの新曲として聴いていました。
程なく、シングルコレクションの情報(このアルバムに【ヘビーメロウ】が入ること)が解禁になり、確か6月頃にこの曲が先行配信されました。そして、同時期にMVも発表されました。(どっちが先でしたかね?)
■さて、【ヘビーメロウ】はどんな曲なんでしょうか、個人的に思ったことを書いてみます。
先程紹介したように、曲調については、”少しでもポジティブな気持ちになってもらえるような弾んだリズム”という風に語っておられましたが、跳ねるようなリズムが楽しくて、聴くと爽やかな気分になります。ギターのカッティングの音も、心地いいですよね。
ただし、サビの始まりが、メジャーコード(多分)になっていて、ちょっと雰囲気が変わったりして、一筋縄ではいかないところが面白いなって思ったんです。初めて聴いた時は、正直あんまり好みじゃないかもって思ったりしたんですが、そういうところに気付いたら、一気にこの曲が好きになりました。
歌詞について見ていきます。まず、出だしがこんな感じです。
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花は咲いたぜ それでもなぜ 凍えそうな胸
ヘビーメロウなリズムに乗って 太陽目指した
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”花は咲いたぜ”と冒頭にあるのは、季節的な意味で、冬が終わり春がやってきて、少しずつ暖かくなってきた、ということでしょうか。あるいは、この曲が作られた経緯などを鑑み、朝がやってきた、とも考えられそうです。
しかし、”それでもなぜ 凍えそうな胸”…ここは、そんな暖かな春や朝の訪れとは裏腹に、主人公は何となく晴れない気持ちでいるという描写ですかね。
そこへ続いて、”ヘビーメロウなリズムに乗って”という風に、タイトルにもなっている”ヘビーメロウ”という言葉が出てきています。
そもそも、”ヘビーメロウ”という言葉はどういう意味なんですかね?
”ヘビー / heavy”の意味は、重い、太った、という意味をはじめ、激しい(e.g. heavy rainで、激しい雨とか言いますよね)、大量に…する人(e.g. heavy smokerで、煙草をたくさん吸う人)などという意味もあります。
一方、”メロウ / mellow”の意味は、熟している、豊かで美しい、などという意味があります。
うーん…つなげると、どういう感じになるんですかね?イメージがしにくい言葉なんですが、”リズム”っていう言葉が付いているので、こういう音楽用語があるんですかね?”どんなリズムなんでしょうか、”重くて熟しているリズム”とは一体…?
個人的には、全体的に読んだイメージから、何となく”ヘビー”という言葉のイメージが強く残りました。なんか気分が乗らないなぁ、心も体も重たいけど、布団から起きて出かけないとなぁ…っていう心情を表していると感じました。
■そこから、続く歌詞はこんな感じです。
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嗤ってくれ 時代遅れ 俺も独りさ
やめないで習いに逆らった この日のため
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ここは、先程の主人公の心境としては、何事にも意欲的になることが出来ずに、世間の流れから取り残されているような状況でしょうか。
あるいは、スピッツ自身の歴史を歌っていると考えることもできそうですよね。30年という長い間活動してきた自分たちを、”時代遅れ”と多少自虐的に振り返りつつも、それは同時に、時代の流れに囚われることなく、自分たちの音楽を貫いてきたことも表しています。
まぁ、全体的な流れで、一本の物語を通すとしたら、前者ですかね。
■とにかく、主人公の気持ちは後ろ向きなんですが、さらに読み進めていくと、そういう気持ちにも変化が見られます。
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偶然という名の運命で出会った ヘンテコな女神
紐をほどいて 折り目伸ばして 気球を操って
広い空で遊ぶ術を 授けてくれた
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主人公にとって、嬉しい出会いがあったようです。ここで、”女神”というフレーズが出てきているので、自然に考えれば、主人公は男性で、偶然出会ったのが女性ということになるんですかね。となると、必然的にここは、恋に落ちた描写だと考えられるかもしれません。
ここは、かなり印象的な描写ですよね。”気球”だったり、”広い空で遊ぶ術”など、面白い表現がたくさん出ていますが、共通項としては、世の中や周りの目などに縛られることなく、自由に自分のやりたいことをやっていいんだよと、その女神から勇気をもらった、ということなんでしょうね。
ここも、もちろん主人公の心境の変化とも、スピッツ自身の歴史になぞらえても読むことができますね。
■それから、サビの部分の歌詞。例えば、こんな感じです。
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君になりたい 赤い服 袖ひらめいて
確かな未来 いらないって言える幸せ
信じていいかい? 泣いてもいいかい?
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ここは、どう読むべきでしょうね?この歌を、恋愛に絡めるか絡めないかで、ここの印象も変わってくると思うんですよね。
恋愛に絡めるとしたら、ここは、自分が恋をした相手に、自分自身がなりたい、と歌っているというような、ちょっと変な感じになっちゃいますね。まぁ、恋愛だなんだいう前に、自分を変えてくれた相手に対して、人間として尊敬をしていると、そういう気持ちが、”君になりたい”と言うまで膨らんでいるということですかね。
まぁ、全体的に読んだ感じ、これが一番自然でしょうか?
あるいは、個人的には別に、恋愛に絡めなくても、色々と想像できそうな気はしています。男女にしても、別に恋愛関係ばっかりではなくて、人間的なつながりでもいいわけで、たくましく生きる女性の生き方に、男性が憧れてもいいわけですよね。
「めざましテレビ」のテーマソングに選ばれた、というところとこの歌をもう少し繋げて考えてみると、主人公が憧れた人物は、テレビの中の人物かもしれません。朝から笑顔を振りまいて、人々に元気を届ける、それこそ「めざましテレビ」のキャスターに元気づけられ、憧れたのかもしれません。
■ということで、最後に行き着くのが、こんな歌詞です。
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夜は明けたぜ 鶏も鳴いたぜ 期待裏切る
なんちゃってファンキーなリズムに乗って 生命灯せ
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最初は、”ヘビーメロウなリズム”になっていたところから、”なんちゃってファンキーなリズム”になっているところとか、まさに主人公の心境の変化を表していますね。
そう考えると、やっぱり”ヘビーメロウ”っていう言葉は、主人公の重たい気持ちを象徴した言葉だったのかな、って思いますし、冒頭の部分では、主人公にとっては(精神的な意味で)、春や朝が訪れていなかったんだろうと想像します。
そこから、”女神”に出会ったことで、気持ちが少しずつ乗ってきて…つまり”なんちゃってファンキー”状態になって、本当の意味で朝を迎えることができた、ということでしょうね。