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239時限目:はぐれ狼

【はぐれ狼】

はぐれ狼

はぐれ狼

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■アルバム『見っけ』の9曲目に収録されている曲です。

 

一番最初に通して聴いてみたときに、アルバムの中の曲だと、これぞスピッツロック!というものに一番近い曲だと感じたのが、この【はぐれ狼】(と【ラジオデイズ】)でした。

 

勢いのあるイントロから曲がはじまり、Aメロはブリッジミュートのギターの音とともに少し抑え、アルペジオがきれいなBメロを経て、疾走感の溢れるサビへ…もうどこを取っても完璧です。聴いていて、本当に気持ちがいいロックチューンです!

 

音楽雑誌「MUSICA」のインタビューの中でも、メンバーはこの曲を、ライヴで映える曲、盛り上がる曲と期待していました。

 


■個人的に、アルバム『見っけ』の核となる曲として、この【はぐれ狼】と、次の記事で書くことになる【まがった僕のしっぽ】を考えています。表題曲である【見っけ】に関しては、アルバムの核というよりは、(最近のスピッツのアルバムの表題曲は)本でいうところの”表紙”のような感じが強いです。

 

このアルバムの特徴のひとつとしては、物語性の強い曲が多いというところですよね。【花と虫】、【はぐれ狼】、【まがった僕のしっぽ】、あとは【ありがとさん】や【快速】なんかも、割と具体的な物語が浮かびやすい感じの曲になっています。

 

その中でも、特に物語性を強く感じる曲が、【はぐれ狼】と【まがった僕のしっぽ】でした。さらに、この2つの曲の物語には繋がりも感じていて、これだけ似通ったことを強調して歌っているのだから、割とここらへんで歌われていることが核心なのかなと感じたんです。

 


■最初に、タイトルにもなっています、”はぐれ狼”という言葉について考えてみます。

 

まず、前半の”はぐれ”という言葉についての解釈です。インタビューの中で、草野さんはこのように語っています。

 


インタビュアー「”はぐれ狼”というのはスピッツ自身のことかもしれないし、CDとかそういうフィジカルを感じさせる部分もあると思ったんですが。」

 

草野さん「うん、常にはぐれ狼的な自意識でやってますね。それがロックであるっていう、俺の解釈」

 


草野さん「…こうやって音楽である程度認めてもらえて普通に生活できてるけど、それがなかったら俺ヤバかったなと思うことがあって。ほんとにダメダメな人生だっただろうなと思う。そういう意味では凄く恵まれてると思うし、それだけにはぐれ狼的な自意識というのは失わないようにしていきたいなと思うし。」

 

”はぐれ狼的な自意識”という言葉が印象に残りますが、この辺りを読んで、スピッツのことを色々と考えてみると、僕は”はぐれ”という言葉から2つの意味を受けとりました。

 


一つ目は、ロックバンドという職業的視点から見た場合です。

 

一般的な職業とは違って、ロックバンドで生計を立てていくことって結局は、キャリアの長さに関わらず、売れるか売れないかにかかっています。売れて生活が出来れば良いが、そうでなければ下手をすると路頭に迷ってしまうことになります。

 

いわゆる、普通の仕事…つまり、職場に行って、時間内で一生懸命働いて、それに見合った給料をもらうという、おそらく大多数の人がしているであろう”普通の仕事”とは、違うことをしているわけですよね。

 

そういう側面を見て、社会から”はぐれ”ているということを表現しているのかなと思いました。

 


二つ目は、スピッツというバンド特有の視点で見た場合です。

 

30年以上も長く活動をしてきて、本当に稀有な存在になったスピッツですが、その道のりは紆余曲折あったのだろうと、ここスピッツ大学で記事を書くために色々と調べていくとよく分かりました。

 

インディーズ~デビュー初期の不遇な時代、ミリオンヒットを連発した黄金時代、マイアミショック(過去記事参照)、あとは同時多発テロ東日本大震災を起因として、音楽をやる意味を自問自答・葛藤したことなどが挙げられると思います。

 

それらと、(特に僕が考えるのは)草野さんが書く詩の世界観が合わさって、本当に唯一無二の”スピッツロック”を確立させていきました。

 

そういう風に見ていくと、音楽業界で見ても、スピッツは”はぐれ”ものだったのではないでしょうか。それは、悪い意味で言っているのではありません。もちろん、孤独で誰とも付き合わないだとか、音楽業界を見放した(見放された)とかいう意味でもありません。ただ素直に、自分たちのスタイルを貫いてきた結果だという意味です。

 


■そして、後半の”狼”という言葉について。これに関しては、まだその衝撃が記憶に新しい、【1987→】の歌詞を真っ先に思い出しました。

 


らしくない自分になりたい 不思議な歌を作りたい
似たような犬が狼ぶって 鳴らし始めた音

 

”狼”という言葉を使って、こんな風に草野さんは歌っていました。恐らく、”狼”というのは、なりたいと願っている”らしくない自分”の象徴…本当はそんなに大した存在でもないのに、強がって見せている自分の姿を表していると思っています。

 

まだ、スピッツがインディーズ界隈で活動していた頃は、たくさんのロックバンドが生まれては消えていく、まさにロックバンドブームの時代であったと、草野さん自身も話していました。そんな中で、スピッツも含めて、たくさんのバンド(似たような犬)がしのぎを削りつつ、他のバンドを出し抜いて売れることを目標にして、必死に自分たちの音を鳴らしていた(狼ぶって 鳴らし始めた音)と想像しています。

 

じゃあ、スピッツは”狼”になれたのか、というと…どうなんですかね。もちろんスピッツはある時期に爆発的に売れ、多くの人が名前を知る存在になりましたが、でも”狼”かと言われると、そんな感じもしないですよね。決して大御所ぶることもなく、謙虚に自分たちの音楽を追い続けました。

 

ただし、精神的な部分は、”狼”のようにいつだってとがらせていたと思います。つまり、いつだってスピッツの根底にあるのは、ずっとロックンロールだったのです。もっと言えば、パンクロックの精神も残っているはずです。だから、”狼”という言葉は、ロックンロールを象徴している言葉(動物)なのかもしれません。

 


■では、歌詞ではどのように書かれているのか、読みながらもう少し考えみます。

 

まずは、出だしの歌詞から。

 


誰よりも弱く生まれて 残り物で時をつなげた
誇りなどあるはずもなく 暗いうちに街から逃げた

 

散々、スピッツと”はぐれ狼”を関連付けて話をしてきましたが、別に、スピッツと切り離してみても、物語が想像できそうですよね。

 

例えば、みにくいアヒルの子や、ワンピースのトニートニーチョッパーなど、集団の仲間たちとは、少し違った姿形で生まれてきてしまい、そのせいで、生みの親や集団の仲間たちから疎まれ、見捨てられてしまう。

 

生きるために、”残り物”(残飯など)を食べて命を繋ぎ、そういう自分の人生には”誇り”を持てないまま、ひっそりと”暗い”場所で生き続けている、とか。

 



はぐれ狼 乾いた荒野で 美しい悪魔を待つ
冬になっても 君を信じたい まどろみの果てに見た朝焼け

 

サビの歌詞です。僕は、ここの”乾いた荒野で 美しい悪魔を待つ”という部分を読んで、真っ先に思いついた話があります。それは、ロバート・ジョンソンという人の”クロスロード伝説”という話です。

 

ちなみに、ロバート・ジョンソンはミュージシャンなのですが、この人の楽曲を僕は一曲も知りません。なので、付け焼刃的な知識なのですが、”クロスロード伝説”というものを、情報を頼りに自分なりに要約してみると、こんな感じです…

 

ロバート・ジョンソンは、1930年代のアメリカで活躍した、ブルース音楽の偉人だそうです。ロックンロールの原点を作った人だとかいう話もあります。

 

ロバート・ジョンソンは、アコースティックギターでブルースを弾き語りをして色んな所を旅していたそうですが、めちゃくちゃギターのテクニックがすごかったそうです。

 

そんなすごいギターのテクニックを、一体どこでどうやって手に入れたのかということについて残っている話が、俗に言う”クロスロード伝説”で、ロバート・ジョンソンは「十字路(クロスロード)で、悪魔に魂を売っぱらった引き換えに、ギターのテクニックを手に入れた」という話です。

 

まぁ、彼がものすごいギターのテクニックを持っていたことと、彼が話した冗談などに尾ひれがついて、このような逸話ができあがったんだと思います。

 

(ちなみに、僕は”クロスロード伝説”の話を、マンガ「20世紀少年」で知りました。)

 

…どうでしょうか。”乾いた荒野”を”クロスロード”、”(美しい)悪魔”は言葉通りに捉えれば、この部分の歌詞は、何となく”クロスロード伝説”をなぞっているのかな、と思いました。…まぁ、無理矢理すぎですかね、すみません。

 



はぐれ狼 擬態は終わり 錆び付いた槍を磨いて
勝算は薄いけど 君を信じたい 鈍色の影を飛び越えていく

 

これも、別のサビの歌詞ですが、ここに出てくる”擬態”という言葉が、この歌の肝になっているようです。再び、インタビュー記事より紹介してみると、

 


草野さん「これは<擬態>という言葉が結構、肝なんです。コミュニティの中で浮かないようにみんなと同じ普通の人ですよっていうフリをしてる人のことなんだけど。浮いちゃうことを恐れないみたいなことは前からひとつテーマにして歌ってるけど、今回もそういうのが入っている」

 

草野さん「自分を殺す時間は終わった、と」

 

草野さん「それがロック魂です」

 

という感じで語っています。この辺りは、表題曲【見っけ】でも歌われていましたが、

 


人間になんないで くり返す物語
ついに場外へ

 

この辺りにも繋がるのかなと、【はぐれ狼】のこの記事を書きながら思っているところです。

 

周りから浮いてしまうことを恐れずに、自分らしく生きていこう(”擬態は終わり”が表わしていること)、それで周りからはぐれてしまっても、”狼”の気持ちは忘れずに、常に自分を貫いて生きていく(”錆び付いた槍を磨いて”が表していること)ということを歌っているのだと思います。

 

そして、そういう風にロック界の”はぐれ狼”として生きていく、スピッツの決意や誇りを感じられる曲です。