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242時限目:ヤマブキ

【ヤマブキ】

ヤマブキ

ヤマブキ

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■アルバム『見っけ』の12曲目に収録されている曲です。

 

アルバム『見っけ』の初回限定盤などには、13曲目に【ブランケット】という曲が収録されていますが、あくまでBONUS TRACKという位置づけなので、この【ヤマブキ】が、実質アルバムのトリを飾る曲になっています。

 

この曲は、アルバム発売前のライヴで、すでに演奏されていた曲だったらしいですね。調べてみると、2018年に行われた、ファンクラブ会員限定のライヴイベント「GO!GO!SCANDINAVIA VOL.7」において披露したという記録が残っていました。

 

同ライヴでは、これもまた発表前だった【悪役】も披露されています。ちなみに【悪役】は、シングル『優しいあの子』のカップリングに収録されていますが、アルバムには収録されていません。超名曲なんですけど、残念です!

 


■アルバム『見っけ』のプロデューサーは亀田誠治さんなのですが、【ヤマブキ】に関しては、スピッツのセルフプロデュースになっています。アルバムのクレジットによると、プロデュースはスピッツ、編曲はスピッツとクジヒロコになっています。この曲のキーボードも、クージーが演奏しています。

 

セルフプロデュースについては、音楽雑誌「MUSICA」でもメンバーがたくさん語っていますが、少し紹介してみます。

 


三輪さん「今回のアルバムの中では、この曲だけセルフ(プロデュース)なんだけど、メンバー全員サウンドに関しても凄く満足が行ってて。この感覚を次のレコーディングで忘れないようにしたいなっていう曲でもある。だからこの曲が最後に来るのは意味があるなって思います」

 


田村さん「何を基準にジャッジしていいかわからなくなるから、それで困ってどんよりしちゃうというか。各々の基準ってわかってるようでわかってないから。できないことを求めてもしょうがないじゃん」

 


崎山さん「だから演奏しても、終わった後みんな黙ってるみたいな感じで。結構いい出来だなと思っても、その一言すら言い出せない(笑)」

 

ちなみに、セルフプロデュースではジャッジができないという話に関しては、古くは1枚目のアルバム『スピッツ』の頃からあったようです。

 

書籍「旅の途中」では、プロデューサーを含めて、曲に対してのジャッジの基準を持っておらず、テイク数だけが重なっていったため、エンジニアが怒ってしまった、というエピソードが書かれていました。

 

時が経った今でも、「4人だけでやるとレコーディングの雰囲気が暗くなる」という風に語られています。そこに、亀田さんが良い盛り上げ役として入ることで、スピッツメンバーも気持ちが乗るようですね。これも、スピッツらしさといえばらしさなんですかね笑。

 


■では、この曲について考えてみます。

 

曲調は、明るさが突き抜けている感じの曲です。特に、サビの高音で突き抜ける感じは、とても清々しい気持ちになります。

 

初めて通してアルバムを聴いた時、この分かりやすく明るい曲調がすぐに好きになりました。個人的にですが、サビは、オールディーズの名曲で【恋のダウンタウン】という曲(オリジナルの歌手は、ぺトゥラ・クラーク…という人だというのを今回初めて知りました)を思い出しました。

 

最近のスピッツのアルバムのトリを飾る曲は…例えば、前作『醒めない』だと【こんにちは】、前々作『小さな生き物』だと【僕はきっと旅に出る】など、ひとつ明るさが飛び抜けている曲が定番になっているような気がします。

 


あと、曲調についてもう一つ思うことは、何となく1曲目の【見っけ】と曲調…というより、曲の感じが似ているような気がしています。

 

突き抜けた明るさを【見っけ】でも感じましたし、何ていうかキラキラしている感じ…おそらくプログラミングやキーボードのサウンドがそう感じさせているのだと思いますが、そういう部分の雰囲気が両曲で似ていると感じました。ここら辺がおそらく、スピッツの最新のロックミュージックの形なのかなと思っています。

 


■歌詞を読んでいってみます。

 


似たような身なり 似たような能力
群れの中から 抜け出したのさ
監視カメラよけながら
夜の泥に染まって走れば 遠くに見えてきた

 

まず、これが出だしの歌詞になりますが、1行目の”似たような…”という言葉については、真っ先に【1987→】という曲を思い出しました。同じ言葉が用いられて、下記のように歌われていました。

 


らしくない自分になりたい 不思議な歌を作りたい
似たような犬が狼ぶって 鳴らし始めた音

 

精神的には、同じようなことを歌っていると思っています。要するに、”似たような”ものに成り下がって、埋もれたくない、埋もれてたまるものか!という精神を表しており、ひいては、それはスピッツや草野さんの思想に通じるものがあるのだと思っています。

 

2行目の”群れの中から 抜け出したのさ”という表現についても、同アルバムの【はぐれ狼】や【まがった僕のしっぽ】にも通じる部分があるとも思っています。つまり、【まがった僕のしっぽ】がそうであったように、【ヤマブキ】という曲もまた、【はぐれ狼】からはじまる、いわゆる”はぐれ狼クロニクル”の一部であるような気がしています。

 


あと、印象的な”監視カメラ”という表現については、草野さんがインタビューの中でも少し語っていますが、この曲に込められた想いというのは、”同調圧力に対するアンチテーゼ”であり、ともすれば”監視カメラ”は、同調圧力を象徴しているようなものとして使われているのでしょう。

 

みんな同じように行動しているか、他人と違うことをしていないか、それを見張る存在の象徴としての”監視カメラ”を…これまた草野さんらしい表現だと思うんですけど、それに対抗する手段として、”よけながら”という表現になっているんですよね。もう少し過激に、”壊しながら”とか”撃ち落しながら”とかいう表現もできるはずだろうけど、そこを”よけながら”としているところが、草野さんらしくて僕は好きなんですよね。

 



田植えの季節過ぎれば
雨がいろいろ消してくれそうで へへへと笑ってみた

 

ここの”田植えの季節”という言葉については、草野さんが雑誌で少し語っていますが、「なるべく他の人が使わない言葉を使いたい」という気持ちの上で、

 


草野さん「名古屋とか大阪に移動する時に田園を通るんですよ」

 

草野さん「…だから、『あ、田植えが始まった!』とか、『稲刈りもうすぐかな』とか、そういう稲作の1年を普段から感じやすいので。なので、自分としてみれば突拍子もないところから持ってきた言葉ではなくて、案外日常だったりするんですよね」

 

という風に語っています。まぁ、【ヤマブキ】という言葉自体も、本来はロックとはかけ離れた言葉であるんだろうけど、草野さんという人は、自然や景色の移り変わりだったり、生き物だったり、そういうものを貴く思う気持ちを持っておられるので、草野さんにとってはこれも日常的な言葉だったんでしょうね。

 

2行目の、”へへへと笑ってみた”という表現も…意味はよく分からないけど、好きです…へへへ。

 


■あとは、タイトルにもなっている”ヤマブキ”という言葉については、

 


あれはヤマブキ 届かない崖の上の方で
ハングリー剥がされても よじ登っていけ

 

サビの歌詞ですが、タイトルにもなっている”ヤマブキ”という言葉が出てきています。

 

”ヤマブキ”という言葉を聞いて個人的に思い浮かんだのは、色の名前と植物の名前でした。色については、そのものずばり”山吹色”というのがありますが、この曲では、後者の植物の名前として使われているのだと思います。

 

この”ヤマブキ”という言葉や曲に込められた意味として、先述で少し触れましたが、雑誌で草野さんが語っているような部分があります。

 


草野さん「…昔よりもさらに同調圧力というか、浮かないように注意して生きていかなきゃいけないような世の中になってきてるような気がしてて。それに対するアンチテーゼみたいなものは昔よりさらに曲に込めたいなと思っちゃうんですよね。」

 

雑誌の中で、「ヤマブキって、実は結構群れて咲くんですけどね」とも語られていますが(ちなみに、もともとは”ヤマユリ”という言葉だったとも語られていました)、歌詞の中では”届かない崖の上の方で”という言葉とセットで歌われています。

 

雑誌で語っている通り、”ヤマブキ”という植物が群れて咲く植物ならば、”崖の上”という場所は、その群れから離れて咲いていることの象徴であり、この辺りの表現も、この記事でずっと語っている通り、同調圧力への対抗や、はぐれ者精神の表れであると考えることができます。

 

あるいは、”届かない”や”ハングリー”という言葉からは、スピッツはその高みへと登って行くんだという、まだまだロックミュージックを追究していくという想いも表していると感じます。

 

何かこういう、まだまだ目指す場所があるんだ!と歌われている歌で、アルバムを締めくくっているところが良いですよね。

 


ちなみに、”山吹(ヤマブキ)”の花言葉は、「気品」「崇高」「金運」など。

 

この曲に似合う花言葉としては、「崇高」でしょうか。「金運」という花言葉については、谷底に落とした金貨がヤマブキの花になったという言い伝えにちなんでいるようです。