スピッツ大学

ステイホームしながら通える大学です!

244時限目:猫ちぐら

猫ちぐら

猫ちぐら

猫ちぐら

  • provided courtesy of iTunes

 

■2020年6月26日より、配信サイトやサブスクなどで配信された新曲です。

 

これまでの、スピッツの配信限定シングル(レコードが作られていないシングル)と言えば、【愛のことば -2014mix-】と【雪風】がありますが、【猫ちぐら】はどうなんですかね?レコードは作られないのか…そもそもシングルという位置づけになるのか…シングルだとするならば、43作目のシングルとなります。

 

さて、その【猫ちぐら】という曲ですが、作られた経緯などがとても特別なので、その辺りのことについて、まず紹介しておきます。

 


■まさに、確実に歴史に残るであろう出来事、未曽有のパンデミックになりました…2020年、新型コロナウィルス感染拡大。

 

世界中にコロナウィルスが拡大していく中、日本にもコロナウィルスが入ってきて、感染が拡大していきました。オリンピックの延期が決定になったり、学校が長いこと休校になったり、色んなところに影響が及びましたが、同年4月16日、緊急事態宣言が発令になったことをきっかけに、自粛モードはさらに加速…我々は家に閉じこもることを余儀なくされました。

 

このコロナ禍によって、クラスター発生の懸念から、音楽イベントやアーティストのライヴが次々と延期・中止になってきました。

 

それは、スピッツも例外ではなく、2019年~2020年に行われる予定であった、『SPITZ JAMBOREE TOUR 2019-2020 “MIKKE”』の3月~6月の各所公演を延期するという決定がなされました。スピッツメンバーはもちろん、関わったスタッフの方々、そして、そのライヴに参加する予定だったファンの方々等は、本当に残念な気持ちになっただろうと察します。

 


■そんな状況を憂いてか、スピッツが動きます。

 

大分さかのぼって、2013年9月14日のことになりますが、スピッツは横浜赤レンガパークという場所で、野外ライヴイベント『スピッツ 横浜サンセット2013』を行いました。このライヴの様子については、2015年に『スピッツ 横浜サンセット2013 -劇場版-』として劇場公開されたのですが、それ以降は映像化されることはありませんでした。

 

しかし、2020年5月15日、YouTubeのオフィシャルチャンネルにて、突如『スピッツ 横浜サンセット2013 -劇場版-』が無料公開されたのです。これに関しては、本当にサプライズで、多くのスピッツファンを喜ばせる結果となりました。

 

まぁ、これだけでも十分素敵な贈り物となったのですが、さらにスピッツの贈り物は続きました。

 


■2020年6月14日、草野さんがパーソナリティ―を務めるラジオ番組『SPITZ 草野マサムネのロック大陸漫遊記』のオンエア内での出来事でした。

 

当ラジオ番組の内容としては、ひとつのテーマを決めて、そのテーマに合った曲を草野さんが紹介していくというものなのですが、この日のテーマは、【日本のロック最盛期1999年で漫遊記】でした。

 

…実は、最近あんまり『ロック大陸漫遊記』を僕自身が聴いていなかったのですが、テーマが面白そうだと思い、久しぶりに聴きました。

 

時間になり、いつも通りの感じで番組が始まりました。番組コールがあって、この日の番組テーマが語られた後、通常であれば、まずそのテーマに合ったスピッツの曲を草野さんが流すところなんですが、そこで草野さんが、何とスピッツの新曲について語り始めたのです!そこの部分だけ、文字起こししてみると、

 


草野さん「…そして、漫遊前の1曲なんですけども、この話の流れだと、スピッツの99年の曲をかけそうなところなんですけれども、今日は何と新曲を聴いていただこうと思います。緊急事態宣言、前後含めて2ヶ月間くらい、ほぼステイホームで、俺らだけじゃなく世の中の人皆さん過ごされたと思うんですけども、スピッツ、リモートでどこまでレコーディングできるかっていうのをやってみまして、一度もメンバー同士顔を合わせることなく、時間差で音を重ねて、データのやり取りなんかで、結構できちゃうもんだなという感じで、何かできちゃったんで、今日はそれを聴いていただこうと思います。」

 

という感じでした。ごく自然に、つるっと語られた後、新曲が流れ始めたのです。この新曲こそが、【猫ちぐら】でした。

 


何と、メンバーが一度も顔を合わせることなく、データのやり取りだけで、全てリモートで作られた新曲【猫ちぐら】…もちろん、緊急事態だからこそ、こういうことに踏み込んだのでしょうけど、出来るものなんですね。

 

先述の通り、コロナウィルス感染拡大のために、家に閉じこもることを余儀なくされた僕らでしたが、そういう時間が長く続いても、家に居る間も少しでも気持ちを楽にしてもらいたいという配慮から、まぁライヴ映像の配信もそうですけど、スピッツは・草野さんは、スピッツファンのために、色んなことを考えて、音楽を作ってくださっていたのでしょう。

 

しかもそれを、大々的に「やります!」とか言わないで、さらっとやってくれるじゃないですか。もちろん、事前に告知があっても、十分嬉しかったはずなのですが、そこをさらっとやるところに、これまたスピッツらしさを感じたところでありました。

 

という感じで発表された新曲【猫ちぐら】でしたが、どういう形で具体的に音源化になるんだろう、と思った矢先、同年6月26日に配信限定(シングル?)の音源として配信されました。

 


ちなみに余談ですが…

 

おそらく、早めに番組を聴くことができた人たちだと思うのですが(放送時間が各地でずれているため)、ツイッターで、この日のロック大陸漫遊記でスピッツの新曲が発表になったというツイートを流していました。ツイッターは流れが早く予測不能なので、ネタバレ回避との相性が悪く、実際僕自身も、そのツイートを見てしまいました。

 

個人的には、あんまりこういう先んじたネタバレは好きではないんですけどね…新曲を公開するという告知がなかったのは、サプライズ要素もあったからだと思いますし、少し残念だったな、と思っています。各地のリアルタイムでの番組が、全て終わった後ならば良かったんですけどね…。

 


■さて、そもそもタイトルになっている、”猫ちぐら”という言葉についてなんですけど、意味を知らなかったので、wikiなどで調べてみました。

 

元々は、人間の赤ちゃんを入れるように作られた、わらなどで作られたゆりかごのことを、「つぐら」「ちぐら」などと言うんだそうです(どうやら、漢字で書くと、ちぐら/稚座のようです)。農作業をしながら、あぜ道にちぐらを置き、その中に赤ちゃんを入れてあやしながら、作業をしていたようです。

 

そこから、猫が暗く狭いところに好んで入っていくという習性を利用して、猫用に作られたのが「猫ちぐら」ということだそうです。新潟県や長野県などの伝統工芸品として有名のようです。

 

以下、猫ちぐらのイメージです。宣伝みたいになっちゃいましたが…なかなかシュールでほっこりします笑。 

www.nekochigura.com


ちなみに、タイトル自体に、”猫”という言葉が使われている曲は、【猫ちぐら】の他に、名曲【猫になりたい】がありますが、歌詞を探せば、スピッツの曲には、”猫”という言葉が出てくる曲がたくさんあります。いくつか紹介してみますね、曲名は当ててみてください!

 


片隅に捨てられて 呼吸をやめない猫も
どこか似ている 抱き上げて 無理やりに頬よせるよ

 


手を離したならすぐ
猫の顔で歌ってやる

 


近づいて 抱き上げて
ノドを鳴らす 子猫のような
望み通りの生き物に変わる

 


スズメのざわめき かためた木々も
野良猫 サカリの頃の歌声も

 


■では、【猫ちぐら】という曲についての、個人的な感想・解釈について語ってみます。

 

まず、曲の感じとしては、草野さんの弾き語りを、楽器隊お三方の演奏が優しく引き立てているような構成になっています。途中の間奏から、ドラムの音が加わってきて、少し曲の雰囲気が変わりますが、終始ゆったりとした曲調で曲は進んでいきます。

 

先述の通り、この曲がメンバー個々で録った歌唱・演奏を、リモートで重ねた曲であるということも影響しているのか、とてもシンプルな気がしましたが、草野さんのボーカルも、メンバーの楽器の演奏も、それぞれがしっかりと聴こえてくるような気がしました…まぁ、それはいつも通りですかね、それこそがスピッツの最大の魅力なんですが、曲が作られた経緯を知ると、何となくいつもより、それぞれの楽器の音が引き立って聴こえてきたのです。

 

こんな風に、直に顔を合わせることなく、新曲をレコーディングするという試みは初めてのことだったはずですが、素人の自分からすると、それでもこんな素敵な歌が作れるんだなと、ただ驚くばかりです。何たってそれでも、【猫ちぐら】はしっかりとスピッツの楽曲として出来上がっているわけですからね。

 


■それから、【猫ちぐら】という歌に込められた想いとして、個人的に受けとったものが大きく2つあったので、紹介します。



一つ目
「家の中に閉じこもっている人々の気持ちが、少しでも楽に、少しでも明るくなるように」という願い

 

こちらに関しては、歌詞を読んで…というより、この歌が作られた経緯や発表されたタイミングだったり、【猫ちぐら】というタイトルの響きなどから、受け取った想いでした。

 

先程から何度も言っている通りなのですが、当分の間、家から出ることを自粛しなければならなくなったり、仕事のやり方を変えなければならなくなった僕(ら)ですが、その間だからこそできることを探して頑張っているはずです。

 

しかしながら、ふとした時に感じる”自粛疲れ”…僕自身は元々が出不精なので、家で過ごすことはそんなに苦痛とは思わなかったですが、一番何が辛かったかって、「いつかこの自粛期間が明けたとして、普通通りの生活に自分が戻れるか」ということを考えた時でした。

 

そんなときに、スピッツのライヴ映像が発信されたり、新曲【猫ちぐら】が発表されたりして、本当に嬉しかったんです。引きこもり最高!ステイホーム万歳!…とあまり大声で言うことは憚られますが、本当に楽しい一時を過ごすことができました。やはり、スピッツという存在は、自分にとって大切なものなのだと、改めて実感しました。そして、それはきっと、草野さんの・スピッツの願いとも、一致していると思います。

 


二つ目
「いつか自粛期間が明けて、また再び外に出られる日がやってくるから、頑張っていこう」という応援

 

歌詞を読んだ感じ、やはりこちらの解釈に落ち着きました。歌詞を紹介しつつ書いてみます。

 



作りたかった君と小さな
猫ちぐらみたいな部屋を
斜め方向の道がまさか
待ち構えていようとは

 

まず、”猫ちぐら”という言葉が出てくる部分の歌詞です。ここを読んだときに、やっぱり草野さんの書く歌詞って、特別で不思議だなって思ったんです。

 

先述したとおり、”猫ちぐら”とは、つまり”猫の家”を意味する言葉なわけですけど、”猫ちぐら”という言葉をタイトルに使って、しかもこの時期に歌を作るならば、例えば、「家の中に居ても楽しいことはあるよー」「温かい生活を家の中で作ろうよー」「今はステイホームだよー」みたいな感じで歌詞を書くはずなんです。

 

しかし、歌詞を読んでみると…”猫ちぐら”は作りたかったけど、作れなかったんですよね。ということは、望んでいたけど作れなかったものを、タイトルに据えているということになるわけで、これはやっぱり視点がすごいと思ったんです、逆説的ですもんね。

 

”斜め方向の道~”の下りに関しては、予期せぬ出来事を表しているのだと思いますが、やはり今の時期だと、コロナウィルス感染拡大と捉えるのが自然だと思います。

 

あとは、別の解釈として少し思ったのは、”猫”とは気まぐれな動物の象徴ですよね。そして、”猫ちぐら”が作れなかった…つまり、”猫”がどこかに行ってしまったとして、”猫”を”君”として捉えると、”君との別れ”というものが思い浮かんだんですけど、やっぱり時期的に前者の解釈が強くあります。

 



続いた雨も小降りになってた
お日様の位置もなんとなくわかる

 

ここの歌詞が、個人的にこの歌の中で、一番印象に残っている部分です。この歌詞もすごいですよね。

 

”雨”とは、現在の僕らに降りかかる困難の象徴、そして”お日様”とは、その雨がやんだ後に出る太陽=困難が去った後の生活の象徴、という風に捉えると、この部分はやはり、今の困難がいつか過ぎ去って、元通りの生活に戻る(はずである)ことを願っていると考えることができそうです。

 

ですが、”続いた雨”は、まだ止んではいないんですよね。だけど、”小降り”にはなったんです。”お日様の位置”も、はっきりは分からないんです。だけど、”なんとなくわかる”んです。だから、元の生活に戻ることを願いつつも、まだもう少しかかるかも?という、何とも言えない曖昧な気持ちをも代弁してくれているような気がします。

 



驚いたけどさよならじゃない
望み叶うパラレルな世界へ
明日はちょこっと違う景色 描き加えていこう

 

ここの部分ももちろん、困難が過ぎ去って、元の生活が戻ることを願う気持ちが込められているとは思います。

 

ただ、”パラレル/parallel”という言葉が、平行という意味であるので、”パラレルな世界”は、”未来の世界”というよりは、どちらかというと、たくさん存在する”現在の世界”を意味していると思います。

 

こんなことを言うと、ファンタジーのような気がしますが、要するに、今の困難な生活が続くけど、少しでも自分のできることを探して行動し、代わり映えしない生活にも変化を見出していこう、という前向きなメッセージも受け取りました。