245時限目:紫の夜を越えて
【紫の夜を越えて】
■通算44作目のシングル曲です。2021年3月25日に配信リリースされ、同日にMVも公開になりました。
さかのぼること、(おそらく)去年2020年12月25日のこと…最初は、曲名は明かされませんでしたが、ニュース番組「NEWS23」の新エンディングテーマをスピッツが担当するという情報が出ました。
そして年が明け、2021年1月5日、新年1回目の「NEWS23」にて、スピッツの新曲【紫の夜を越えて】が、初オンエアされました。その1発目のオンエアで、僕はその新曲を聴くことができました。流れたのはほんの少しでしたが、やっぱり新曲が聴けたってだけで、とても嬉しかったです。
それにしても、【優しいあの子】が朝ドラの主題歌に選ばれた時も驚きましたが、今度はニュース番組ですか、何とまぁ幅広い活動ですよね。
言ってみれば、朝ドラとニュース番組って、割と対極的な位置にあるものじゃないですか。方や子どもから大人まで楽しめるような国民的な番組、方や世の中のリアルを映し出す社会派番組…スピッツは、どちらにもしっかりと振り幅を持っているバンドなんだと、改めて気づかされます。
■スピッツの新曲が、「NEWS23」の主題歌に選ばれたことに関して、草野さんがコメントをされているのを見つけましたので、引用して載せておきます。詳しくは、下記のサイトをご覧ください。
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草野マサムネ コメント
「毎日当たり前のように夜11時からは「NEWS23」を拝見してきたので、スピッツの曲を使っていただけるのは不思議でもあり、大変光栄に思います!
新型コロナの影響で従来の価値観が揺らいで、社会全体が不安の霧で覆われそうな昨今です。
そんな日々の締めくくりに「NEWS23」を見て一喜一憂した後に、この曲を耳にされた方々が今後少しずつでも霧が晴れて、明るい方へ向かっていけるイメージを持ってもらえたらという思いで作りました。」
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やはり想いを馳せておられるのは、新型コロナウィルス感染症により、自粛生活などを余儀なくされている我々の生活なのでしょうか。
気を張って皆が生活をしているように思える昨今…そういう日常の1日の終わりに、草野さんの優しい声、ひいては、スピッツの楽曲を聴くことは、草野さんがおっしゃるように、少しでも明るい気持ちで…というか、少しでもラクな気持ちで、1日を締めくくることができるかもしれません。
■さて、【紫の夜を越えて】がリリースされた2021年3月25日と言えば、スピッツがメジャーデビューして、実に30周年を迎える記念すべき日でもありました。
今から30年前…1991年3月25日に、スピッツは1stシングル『ヒバリのこころ』と、1stアルバム『スピッツ』を同時リリースして、メジャーデビューを果たします。
デビューアルバムに関しては、今はもう伝説の1枚ですよね。スピッツの一番マニアックなところが凝縮されている、まさしく1枚目にして1番の奇作だという印象ですが、紛れもなくここからスピッツの長い歴史が始まったわけです。
そんな、スピッツのデビュー30周年を記念して、色々な企画などが催されました。
例えば、「スピッツデビュー30周年 みんなで作った!スペシャルプレイリスト公開」と称して、1ヶ月間に渡って再生回数の多かった上位30曲をまとめたスペシャルプレイリストを公開するという企画。
選ばれた30曲は、以下のリンクの先にある通りです。
シングル曲ばっかりで、自分にとっては目新しくないなっていうのが率直な感想でしたが、まぁ別にファンサイトなどで行われたわけではないので、有名曲が並ぶのはしょうがないと言えばしょうがないですかね。
ちなみに、ここスピッツ大学で過去に行った、スピッツ大学ランキング企画の上位30曲は以下の通りです。特に、最近スピッツに興味を持ち始めた生徒は、ぜひチェックしてみてください。
ファンの中からリクエストを募り、リクエストの多かったが曲MVを流すという特番「スピッツデビュー30周年記念MVコレクション」では、僕も後半をちらっと見ましたが、新旧問わず色んなMVが流されていました。ちなみに、この特番の最後で、新曲【紫の夜を越えて】のMVが、テレビ初公開されました。
それから、何と言っても「スピッツ 猫ちぐらの夕べ WOWOWスペシャルエディション」ですよ!
2020年11月26日に、東京ガーデンシアターにて行われたライヴイベント「スピッツ コンサート2020 ”猫ちぐらの夕べ”」の模様を、何曲かのカットはありつつも、余すことなく放映してくれました。僕自身は、この放送で初めて「猫ちぐらの夕べ」を見ましたが、スピッツマニアも喜ぶ、本当にレアな選曲で楽しめました。【魚】、【君だけを】、【ハネモノ】辺りは、特に個人的に嬉しかった曲たちです。
■そんな風に、デビュー30周年の節目の時期に、新曲【紫の夜を越えて】は発表されましたが、個人的にはこの曲自体からは、”デビュー30周年記念感”はあんまり感じませんでした。
例えば、結成20周年記念ソングはと考えると、個人的には【ルキンフォー】がイメージされますし、結成30周年ソングと考えると、これはもう言わずもがな【1987→】ですよね。
こんな風に、”結成”記念ソングとしては、結構印象深い曲はあるんですけど、ただこれが”デビュー”記念ソングとなると、あんまりイメージできる曲がないんです。例えば、デビュー20周年ソングって、何かありましたっけ?強いていうならば、アルバム『とげまる』収録の【えにし】とかでしょうか?
まぁとにかく、【紫の夜を越えて】という曲は、自分たちのデビュー30周年に想いを馳せた曲という感じには聴こえませんでした。それよりもむしろ、先述した通り、今のこの社会に向けて、この社会で懸命に生きる人々に向けて…という側面を強く感じました。
■ということで、この曲の個人的な解釈・感想について、紹介してみます。
まず、曲の感じとしては、ドラマチックだと感じました。印象的なギターのアルペジオからイントロが始まり、そこから静かに曲は進んでいくのですが、少しずつ音が増えていき、サビで一気に解放されるという展開…スピッツにはこういう曲は多いですよね。
ただし、決しておとなしい曲調ではないですし、歌っていることもそんなに暗いわけではないんですけど、個人的には明るい曲という感じはしませんでしたね。サビのドラムのリズムとかもそうですけど、どこか切迫感というか、追い立てられている感みたいなものを感じるところがあります。
個人的に思い出したのは、【さらさら】という曲でした。あの曲も、まぁ歌が発表された時期が時期なだけに…という理由もあるかもしれませんが、おとなしい曲調なわけではないけれど、どこか胸が苦しくなる感じ、個人的には鎮魂歌と表現しましたが、そういう部分を両曲に共通して感じました。
■では、歌詞について、少しずつですか紹介しつつ、考察してみます。
個人的に、この曲の歌詞の中に出てくる言葉として印象に残ったのは、”惑星”という言葉でした。もちろん、”紫”という言葉も印象には残ったのですが、個人的には、この歌の中では、”惑星”という言葉がキーワードになっていると思っていました。
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君が話してた 美しい惑星は
この頃僕もイメージできるのさ 本当にあるのかも
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まず、出だしの歌詞です。”君が話してた”という風に、いきなりの二人称の行動から曲が始まるのも面白いんですけど、ここに早速、”美しい惑星”という言葉が出てきています。
この”美しい惑星”というものについて、続く歌詞には”この頃僕もイメージできるのさ”とありますが、逆に考えると、この頃までは”美しい惑星”を”僕”はイメージすることができなかったということになります。”君”という人物の話を聞いて教えられて、あるいは、何か自分を取り巻く状況が変わったことで、僕はこの頃、”美しい惑星”のことをイメージできるようになった、ということになります。
スピッツの曲の中で、”惑星”という歌詞が使われている曲がどれだけあるのかは分かりませんが、すぐに思い出せるのは、個人的には2曲、【惑星のかけら】と…インディーズ時代の曲である【惑星S・E・Xのテーマ】でした笑。
両曲に出てくる”惑星”という言葉からは、エロティックというか、ファンタジーというか…何ていうか、特に過去に【惑星のかけら】の記事で書いたんですけど、草野さんの妄想が集まっている場所というか、そういう概念みたいなものだと感じました。
一方、【紫の夜を越えて】の歌詞に出てくる”惑星”という言葉からは、割とリアリティを感じました。”本当にあるのかも”という風な歌詞も出てきていますからね。
この歌に出てくる”僕”が、草野さん自身を指すのか、それとも、もっと広く万人を指す言葉として”僕”と表しているのかは定かではありませんが、紛れもなく草野さんが書いた詩であることを鑑みると、”惑星”という言葉に対するここら辺の気持ちの変移は面白いなって思いました。
■では、具体的に”惑星”とは何を指しているのでしょうか。
もちろん、ただ単に”惑星”=我々が暮らしているこの”地球”という惑星と訳しても、別に差し支えはないような気もします。
”惑星”…少し言葉を変えて、この”世界”だったり、”人生”と言い換えてみるとどうでしょうか。例えば、君との出会いによって、君と過ごす日々によって、惑星=(僕の)世界や人生は素晴らしいものだと、思うことができるようになったと、そう読むことができます。
ただ、この”惑星”という言葉に、ちょっと違う意味を感じ取った歌詞がありました。
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紫の夜を越えていこう いくつもの光の粒
僕らも小さな ひとつずつ
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ここの”いくつもの光の粒 僕らも小さな ひとつずつ”という歌詞についてですが、ここでひょっとしたら、”惑星”=我々人間を表しているのかな、と思うようになりました。
太陽のような恒星が放つ光を受けて、互いに距離を取りながらも、離れることなく恒星の周りを回る惑星…”僕らも小さな ひとつずつ”とは、そんな惑星の姿に、我々人間の姿を重ね合わせているのではないか、と感じたのです。
人間と人間が、距離を置いて生活をせざるを得なくなっている昨今の、ある種異常な生活だからこそ、なおさらその姿に惑星を重ね合わせているのかもしれない…と考えました。
とすると、再び冒頭の歌詞、
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君が話してた 美しい惑星は
この頃僕もイメージできるのさ 本当にあるのかも
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だったり、
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袖をはばたかせ あの惑星に届け
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などの部分での”惑星”も、やはり、人間を指しているのだと思えてきます。
前者では、君との出会い自体が、人の優しさだったり、人と過ごすことの素晴らしさを知るきっかけになったのかもしれないですし、後者では、自分の想いが、離れた相手(これを”惑星”と表現しているのか?)にも届くようにと歌っているのかな、と感じました。
■その他、印象に残った歌詞を紹介してみます。
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いつも寂しがり 時に消えたがり
画面の向こうの快楽 匂いのない正義 その先に
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この辺りは、まさしく今の社会の現状を風刺しているような歌詞ですよね。特に、”画面の向こうの快楽 匂いのない正義”という部分…実物に触れなくても手に入ってしまう画面(スマホやパソコンのディスプレイ)の向こうの快楽や、匂いのない正義…個人的には、ツイッターなどのSNSで振りかざされる正義を思い浮かべました。
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紫の夜を越えていこう 捨てた方がいいと言われた
メモリーズ 強く抱きしめて
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ここは、歌われている内容としてはそのままだという印象ですが、スピッツファンならば、”メモリーズ”という言葉に反応してしまうはずです!
■あとは、タイトルにもなっている”紫の夜を越えて”という言葉について。
これは、もうすでに前に書いた記事でも触れたので、自分の記事を丸パクリします、苦笑。
そもそもこの歌に、”紫”という言葉を当てはめていることについてですが、その前にまず、これまでのスピッツの曲のタイトルや、その歌詞の中に”紫”という言葉がどれくらい使われてきたのか、ということを調べてみたんです。
その結果…実は、これまでのスピッツの全楽曲のタイトル、歌詞の中に、”紫”という言葉が使われている曲は1曲もないんですよね。
何となく不思議な感じはしました。もちろん、赤や青などと比べると、紫という色は、あんまり日常でも使う場面は少ないかもしれませんが、1曲もないとはねぇ、意外でした。
ということで、今回の曲で”紫”という言葉が初めて使われたわけですが、さらに色々とネットで調べていくと、”紫”という言葉に対して草野さんがどういう印象を持っているのかが分かりました。
草野さんが”紫”という言葉に持っている印象…ずばりそれは、”孤独”であるようです。いつだったか、音楽雑誌にてそう語ったことがあるようです。
とするならば、”紫の夜”=”孤独な夜”と、安直にですが読み取ることができ、それを”越えて”とくれば、やはりこのコロナ禍により不安な気持ちに苛まれた人々が、不安な夜(日々)を越えて、また明るい日々へ向かっていけるようにと、願いがこもっているのだろうと、想像ができます。
ただ、先述した通り、(個人的な解釈ですが…)人々を惑星と例えることにより、距離を取りつつも、付かず離れずで我々人間たちは、こんな時代でも確かに、いくつもの”紫の夜”を越えて生きているのだと、そう歌ってくれているんだなとも思っています。