230時限目:優しいあの子
【優しいあの子】
■通算42作目のシングル曲です。
シングル『優しいあの子』は、配信限定である2作品(【愛のことば -2014 mix-】と【雪風】がそれに当たります)を含めると、通算42作目になりますが、いわゆる普通のCDとしては第40作目になります。前作のシングル『みなと』から、実におよそ3年2ヶ月ぶりのニューシングルです。本当に”待望の”という言葉が相応しいですよね。
そして、【優しいあの子】については、2019年4月より始まった、NHK連続テレビ小説(通称”朝ドラ”)「なつぞら」の主題歌になりました。スピッツの楽曲が、朝ドラの主題歌に選ばれることは、これが初めてのことです。
ちなみに「なつぞら」は、平成最後&令和最初を飾る(平成と令和をまたぐ)朝ドラであることはもちろんですが、通算第100作目の朝ドラであるそうです。そんな記念すべき朝ドラの主題歌をスピッツが担当するとは、本当に嬉しいですね。NHKさんグッジョブ!と言いたいです。
…そして、何でもこのNHK朝ドラ起用から、スピッツが紅白歌合戦に初出場するとかしないとか、色々と噂が流れていますねぇ。
仮に出ることになったなら、もし僕がもう少し若い時だったら、ひねくれて「ちぇ、何だよ、出るのかぁー」とか悪態をつきつつも、テレビの前で正座して観てたと思うんですけど、さすがにもう今の僕には、歓喜でしかありませんね。歓喜して、テレビの前で正座して観ます…嘘です、普通に観ます。
真相はいかに!年末を待ちましょう!
(追記 : 結局、出ませんでしたね。何故だろう、ホッとしたのは…)
■さて、【優しいあの子】の朝ドラ起用について、もう少し触れてみます。
振り返って調べてみると、2月頃のことでしたね、スピッツの新曲【優しいあの子】が、朝ドラ「なつぞら」の主題歌に選ばれたと発表がありました。その当時の速報として、ネットで発表になった情報がありましたので、紹介しておきます↓
その中の草野さんのコメントを引用させていただきます。こんな感じです。
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記念すべき“朝ドラ”100作目、大好きだった「おしん」や「あまちゃん」のようにインストがいいのでは? とも考えましたが、今回は歌ありです。ドラマタイトルが「なつぞら」なのに詞がかなり冬っぽい仕上がりになってます。これには理由がありまして、お話をいただいてから何度か十勝を訪ねました。そこで感じたのは、季節が夏であっても、その夏に至るまでの長い冬を想わずにはいられないということ。「なつぞら」は厳しい冬を経て、みんなで待ちに待った夏の空、という解釈です。広く美しい北海道の空の力で書かせてもらいました!
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先述の通り、スピッツが朝ドラの主題歌を担当することは初めてのことだったのですが、この短いインタビューを読んだだけでも、草野さんが、【優しいあの子】を本当に真摯に、大切に作ったんだなってことがよく分かります。
「お話をいただいてから何度か十勝を訊ねました」「広く美しい北海道の空の力で書かせてもらいました!」など、【優しいあの子】を作るために下調べや準備を重ね、本当に愛を持ってお作りになったのでしょう。
ちなみに、スピッツ×北海道と言えば、やっぱり僕は、水曜どうでしょうや鈴井貴之を思い出すんです(【雪風】の記事でも書かせていただきました)。
そういえば「なつぞら」には、TEAM NACSのメンバーである、音尾琢真さん、安田顕さん、戸次重幸さんのお三方が出演していますね。これはもう、残りのメンバーである、森崎博之さん、そして、大泉洋さんも、どこかで出演なさるんですかね?あんまり僕は、「なつぞら」を観てはいないんですけど、そうなると、うれしーです。
(※TEAM NACS(チーム・ナックス)…北海学園大学演劇研究会出身の、音尾琢真さん、安田顕さん、戸次重幸さん、森崎博之さん(リーダー)、大泉洋さんにより結成された演劇ユニット。演劇にあんまり興味のない僕ですが、ナックスの演劇のDVDは何枚か持っています。かなり面白いので、興味がありましたらぜひ観てみてください。)
僕は、スピッツと朝ドラって、よく似ていると思っているんです。
まずは、どちらも”国民的”ですよね。そして何より、どちらも”長く途切れずにずっと続いているもの”じゃないですか。ちなみに、スピッツは2017年で結成30周年を迎えたし、調べてみると、連続ドラマ小説(朝ドラ)は、なんと1961年(昭和36年)から…2019年現在で、実に58年も続いていることになるんですね!
だから、スピッツの楽曲が朝ドラの主題歌に選ばれたという情報を得た時、何だかすごい自然な気持ちで嬉しかったんです。何か、スピッツと朝ドラが、互いに互いを労っている感というんですかね、「お疲れ様、ここまでお互いよく頑張ってきたよね」っていうやり取りを想像したんです。
■ということで、【優しいあの子】という曲について、考えていきたいと思います。以前に、短めの記事を書いたのですが、その内容と重複するところがあることを、先にお詫びしておきます。
まず、曲調としては、ミディアムテンポって感じでしょうか、ロック調で早いテンポでもなく、かと言ってゆったりし過ぎているわけではない、こういう感じの曲は、まさにスピッツのお家芸と言えるではないでしょうか。
曲の感じは、カントリー調って感じですかね。この歌が、北海道を舞台とした朝ドラの主題歌であるということを鑑みても、どこか牧歌的で、元気が湧いてくるような明るい曲になっていると考えられます。
比較曲として、この曲がスピッツの【花の写真】に似ているとおっしゃっている方も居て、そのことについて、草野さん自身もラジオで触れていました。「長く続けていると、そういう似たような曲も出てくる…」みたいなことを言ってたような気がします。個人的には、他にも、【海を見に行こう】とか【稲穂】とかにも似てるかなと思いました。
クレジットを見ると、アディショナルインストとして、ホルンやオルガンなども加わっているようです。聴いてみると、どちらの楽器も、この曲をより牧歌的に仕上げることに一役買っているように感じます。
■歌詞について、考えてみます。
まず、この曲を聴く前に、新曲のタイトルが”優しいあの子”になるという前情報を得た時に、僕はすぐ単純に、「この曲は、”優しいあの子”のことについて書いている曲なのだろう!」とつなげました。
”優しいあの子”がどんな子なのか、どんな風に”優しい”のか、そして、その”優しいあの子”について”僕”がどんな風に考えているのか(ちなみに、”僕”などの一人称は歌詞には出てこないけれど、便宜上”僕”とします)、”優しいあの子”とどんな風に過ごしてきたのか、などということが書かれているんだろうと、聴く前から色々と想像していました。
ただ、実際に【優しいあの子】を聴いた時に、ちょっと違うことを考えたんです。そう考えた所以は、以下のような、サビの終わりの歌詞の部分を読んだからでした。
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切り取られることのない 丸い大空の色を
優しいあの子にも教えたい
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寂しい夜温める 古い許しの歌を
優しいあの子にも聴かせたい
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終始、サビの終わりには、”優しいあの子にも教えたい”だの”優しいあの子にも聴かせたい”という風に締めくくられているんです。
普通だったら、”優しいあの子”というタイトルなので、”優しいあの子”がきれいな空を見ている描写だったり、もっと言えば、想いを寄せている”優しいあの子”と”僕”が一緒に空を眺めている、などという描写になりそうなんですけど、そうはなってないんです。
そこには一緒に居ないんですよね、”僕”と”優しいあの子”は。それは、ひょっとしたら寂しいことなのかもしれないけれど、”僕”が独りで景色を見たときに、きれいだと感じたことを、”優しいあの子”に伝えたいと想ったということ自体が、もうこの歌の主人公である”僕”自身も優しい人であるということも表しているし、そんな二人に特別なつながりを考えざるを得ません。
■ということで、じゃあ”僕”と”優しいあの子”の関係性はどういう感じなのでしょうか。
まず、一番しっくり来るのは、上述のことから自然に考えれば、”僕”が”優しいあの子”に抱いている感情は、恋愛感情ということですかね。独りで訪れた地で、きれいな景色に出会ったときに、真っ先に想いを寄せている”優しいあの子”のことを考えている時点で、それは恋愛感情に置き換えることはできるのではないでしょうか。
決して、”君が好き”だとか”愛してる”だとか、そういう言葉を使わずに、”僕”が”優しいあの子”のことを想っていることを、”教えたい”という言葉で間接的に表しているということ自体、草野節だなぁって思うんです。
または、この歌が朝ドラ「なつぞら」の主題歌に選ばれたということをもっと考えれば、”僕”=草野さん、”優しいあの子”=「なつぞら」の主人公であるナツ(広瀬すずさん)、と考えてみるとどうでしょうか。
先程紹介した草野さんのコメントの中にも、実際に北海道の地を訪れて、この歌への想いを膨らませたであろうことが書かれているので、予め「なつぞら」の物語を知らされた上で、草野さんがこの【優しいあの子】の作詞作曲に着手したのだと想像しています。
そこまで、僕自身がこの「なつぞら」を観ているわけではないのですが、大まかな最初のあらすじとしては、東京で暮らしていた主人公のナツは、戦争により両親を亡くした戦争孤児で、そこから北海道に引き取られ生活していくことになります。そこから、生き別れた兄を探すという理由もあって、また「アニメーター」になりたいという夢を抱き、再び上京してくるというものだそうです。
何ていうかこの歌は、かつて北海道で過ごしたナツに向けて、草野さんが実際に訪れた北海道の景色を見て、「相変わらず北海道の景色はきれいだよ」と伝えたい、という気持ちを歌っているようにも読むことができます。
ちなみに、スピッツ×広瀬すずに関しても、以前にスピッツが、これまた広瀬すずさん主演の映画「先生! 、、、好きになってもいいですか?」を担当したことを思い出してみると、これまた両者に縁があったということですね。
■その他、印象に残った歌詞を紹介しておきます。
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重い扉を押し開けたら 暗い道が続いてて
めげずに歩いたその先に 知らなかった世界
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ここが冒頭の歌詞になります。
例えば、トンネルみたいな暗くて窮屈な道を光に向かって進んでいて、そこから抜け出した時に、一気に広い世界が視界いっぱいに広がっていくような、そんな光景を想像することができます。
ここの部分は、そのまま草野さんが北海道の地を訪れて体験したことを歌っていると考えることができそうです。
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口にするほどに泣けるほど 憧れて砕かれて
消えかけた火を胸に抱き たどり着いたコタン
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最初、空耳っぽく”コタン”という歌詞が聴こえて、ここは本当は何て歌っているんだろうって考えたことがありましたが、本当に”コタン”と歌っているようですね。”コタン”とは、アイヌ語で「宅地」「集落」などという意味だそうです。
ここは何ていうか、色んな苦労をしてきて、ようやく自分が安らげるような、自分らしい場所に辿り着くことができた、ということを表しているような気がします。
朝ドラの物語に繋げて考えるならば、戦争孤児だったナツが北海道の地に引き取られたことや、夢を叶えて自分らしい場所で仕事ができるようになることなどが思い浮かびます。
■それから、これも以前にすでに記事で書かせていただいたのですが、この歌には、言葉にはなっていない歌詞、具体的には「ルルル」で歌われている部分があります。
例えば、歌詞には書かれていませんが、あえて書くならば、サビの部分がこんな風になっています。
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怖がりで言いそびれた ありがとうの一言と
日なたでまた会えるなら 丸い大空の色を
優しいあの子にも教えたい
ルール―ルールー ルール―ルールー
ルールールールルー
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という感じです。ここの部分は、多少無理やりに想像したんですが、同じ北海道つながりで考えると、真っ先に思いついたのが、さだまさしさんの【北の国から】という歌です。同名のドラマの主題歌として有名ですよね。
楽曲【北の国から】は、”あーあー”だったり”んーんー”というような、言葉にならない歌詞で構成されている楽曲なのですが、ちなみに、wikiからの引用でこの歌が生まれたエピソードがこちらです。
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さだは、北海道の広大な台地をイメージしたメロディーラインを「♪ああーあああああーあ(語尾下げて)」と発したところ、倉本が「それいいね。で、その続きは?」と言い、「♪ああーあああああー(語尾上げて)」と発した。さらに倉本の「続けて」に対して、さだは「♪んんーんんんんんーん、んんん、んんんんんー」と呼応。これを聞いた倉本が「いいね。これでいこう」とそのまま決定。メロディーラインを即興で考え発しただけのつもりが、イントロのギターからAメロ・Bメロと、その時の即興メロディー案がそのまま採用され、わずか10分ほどで基本が出来上がったという。
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何となく、つながりを感じたんですけど、どうですかね?
またまた先程のインタビューより引用してみると、”大好きだった「おしん」や「あまちゃん」のようにインストがいいのでは? とも考えましたが…”とも語られています。
そういうものをリスペクトした名残りなのか、北海道の美しさを表すのに言葉はいらない、これ以上は歌詞にできない、的なことを考えました。