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235時限目:花と虫

【花と虫】

花と虫

花と虫

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■アルバム『見っけ』の5曲目に収録されている曲です。

 

この曲を聴いて真っ先に思ったことは、物語性が強いなぁということでした。それはもちろん、大いに歌詞によるところが大きかったのですが、16ビートの明るい曲調とも相まって、おとぎ話というか、アニメのワンシーンというか、そういうものが浮かんできたんです。

 

この【花と虫】という曲は、朝ドラの主題歌に選ばれた【優しいあの子】よりも前に、朝ドラを意識して作られた曲だったようで、もちろん歌詞はできていなかったんだと思いますが、なるほど、自分が感じた物語性については、そういう経緯があったからかと合点がいったんです。

 

そもそも、前作『醒めない』や前々作『小さな生き物』などに関しては、アルバム全体で1つの物語を感じて聴いていたんですけど、アルバム『見っけ』に関しては、アルバム全体というより、1曲1曲ごとに語られている物語が強いなって思ったんです。もうこの辺りが、最終的にも、アルバム全体に関する感想になると思います。

 


■さて、では音楽雑誌でこの曲はどんな風に語られているのか、ちょっと紹介しつつ考えてみます。

 

まずは基本情報として、この【花と虫】という曲は、先述しましたが、朝ドラでスピッツの曲が使われるとしたら…というイメージで、【優しいあの子】よりも先に作った曲だったようです。

 


草野「朝ドラの話をいただいた時、最初はどういう曲がいいとかあんまり聞いてなかったんですよ。でも『スピッツでドラマで流してもらえるっていうことは。こういうのを求めているのかな』っていうイメージが自分の中にぼんやりあって。…………その状態で作った曲が実はこの曲(これは【優しいあの子】のこと)ではなく、”花と虫”なんですけど」

 

音楽雑誌「MUSICA」では、このように語られています。で、その後に、オープニングでアニメが流れると聞いて、もう1曲作ったのが【優しいあの子】だったということだそうです。

 

まぁ結局、朝ドラには【優しいあの子】が選ばれたわけですが、ひょっとしたら、この【花と虫】が朝ドラの主題歌になっていたのかもしれません(歌詞やタイトルは変わっていたかもしれませんが)。

 

こういう話を聞くと、何かまた色々と想像が膨らんで面白いですよね。【花と虫】の歌詞は、後に作詞されたものでしょうけど、朝ドラのイメージも不思議と浮かんでくるようになりました。

 


それから、冒頭で触れました、この曲の物語性については、このように語っています。

 


インタビュアー「”花と虫”って、言ってみれば花が女性で虫が男性とも取れる……。」

 

草野さん「逆でもいいんですけどね、メタファーとしてはそういう。あとは故郷と都会っていうところもあるし」

 

インタビュアー「何かモチーフになったものってあります?」

 

草野さん「日本だけじゃないかもしれないけど、今って地方の街とか元気ないじゃないですか、シャッター通りとか多くなってるし」

 

僕はあんまり、”花と虫”を男女のメタファーとして聴いてはいなかったんですけど、まぁとにかく、”花”と”虫”を対比する何かに置き換えて考えてみると、色んな物語が想像できるって感じですよね。

 

僕は、”花”は元々いた場所で、”虫”はそこから離れて行った人、みたいな感じで聴いていたんです。

 

”花”っていうものは、それ自体は動くものではなくて、最初に咲いた場所でひっそり生きていく感じですよね。だから、そのもの自体のイメージというより、場所的なイメージですかね。その一方の”虫”のイメージとしては、これは”花”との対比ですからね、やっぱり蜜蜂とか蝶とか、そういう羽を持っていて、花が咲く場所を自由に飛び回るイメージです。

 


■ということで、そういう物語を意識しながら、歌詞を読んでいってみます。

 


おとなしい花咲く セピア色のジャングルで
いつもの羽広げて飛ぶのも 飽き飽きしてたんだ

 

1番の出だしの歌詞はこういう感じです。”花”と”ジャングル”という言葉は、両方とも同じような意味を表わしていて、両方とも、"元々いた場所"や"故郷"などのイメージで聴いています。

 

つまり、元々居た場所に飽き飽きして、そこから飛んでいきたい、離れていきたいと”虫”が思っているということを表していると考えています。

 

ここから続く1番の歌詞には、”痛くても気持ちのいい世界が その先には広がっていた”とあるので、もう”虫”の気持ちは、自分が元々居た場所よりも別の場所へ向いているということなのでしょう。

 


それで、2番の歌詞ではどうなっているかというと、

 


それは夢じゃなく めくるめく時を食べて
いつしか大切な花のことまで 忘れてしまったんだ
巷の噂じゃ 生まれ故郷のジャングルは
冷えた砂漠に呑まれそうだってさ かすかに心揺れるけど

 

ここも、具体的で分かりやすいですよね。”花”や”ジャングル”、つまりは元々自分が居た場所から離れて、時間が経っていることが描写されています。時間が経過したことを、”時を食べて”と表現しているのが面白いですよね。

 

”生まれ故郷のジャングル”という風に、そのものずばり”故郷”という言葉が使われているところも、”花”や”ジャングル”を、そのまま”故郷”という言葉に繋げやすい理由になると思います。

 

しかも、その”生まれ故郷のジャングル”は、”冷えた砂漠に呑まれそうだ”ということで、これは先程の草野さんの言葉をそのまま借りるとするならば、元気のなくなった地方の街を指していると考えることができそうです。

 

シャッター通り、ということもおっしゃっていますが、要は人口も減って、若者も居なくなって、活気がなくなっていくことを、”冷えた砂漠に呑まれそう”と表現していると考えています。

 


その一方で、Cメロやサビでは、

 


「花はどうしてる?」 つぶやいて噛みしめる
幼い日の記憶を 払いのけて

 


終わりのない青さは 終わりのある青さで
気づかないフリしながら 後ろは振り返らずに

 

という風に、そういう自分の廃れていく故郷のことを思い出し、葛藤しながらも、今の自分が居る場所で生きていくことへの決意も歌っているのだと思います。

 


■ここまでの流れになるきっかけとしては、色々と想像ができると思います。

 

例えば、自分の夢を追いかけるためだとか、就職や進学のためにだとか、そうういう理由で、自分の故郷である地方の街から、都会へと出てきたと。

 

夢を追いながら、あるいは、ある程度その夢は叶ったかもしれない、とにかく都会で生活をし続ける間で、自分がかつて暮らしていた故郷は廃れていく。そんな地方の街を横目に(忘れたわけではないとは思うが)、都会で生活をしていく、という感じの物語ですかね。

 


■あるいは、これも先述の通り、この曲は朝ドラをイメージして作られた曲だということを意識すると、僕は何となく、【優しいあの子】のアンサーソングっぽくも思えるのです。

 

例えば【優しいあの子】では、(北海道の)自然の美しさを”優しいあの子”に伝えたい、と僕が思っている歌でしたよね。なので、自然の美しい故郷である町を”花”、都会へ出てきた優しいあの子は”虫”とすると、【優しいあの子】は、花→虫という方向の歌になりますよね。

 

で、【花と虫】は逆に、都会へ出ている優しいあの子が、故郷の町のことを思っている、という風に思えば、虫→花という方向の歌であると考えることができます。

 


■あとは、サビの冒頭ごとに”青さ”という言葉が出てくるのですが、音楽雑誌「音楽と人」において、草野さんはこのように語っています。

 


草野さん「(”青さ”という言葉について)この曲の中に出てくるのは、やっぱり大人になれない、なりたくない、って気持ちがおじいさんになっても続いていくような感じですね。…(中略)…自分もこの歳でバンドなんてものをやらせてもらってますから。…」

 

ということで、これまたありきたりな考えになりますが、”虫”は他でもない、草野さんやスピッツメンバーであるという物語も浮かんできそうですね。