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248時限目:大好物

大好物

 

大好物

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【大好物】

 

■2021年11月3日に配信リリースされた、45作目のシングル曲です。

 

同日に公開された、劇場版「きのう何食べた?」の主題歌になっている曲です。スピッツが、映画の主題歌を担当するのは、2017年に公開された映画「先生!、、、好きになってもいいですか?」の主題歌【歌ウサギ】以来、およそ4年ぶりです。

 

劇場版「きのう何食べた?」の主演を務めているのは、西島秀俊さんと内野聖陽さんなのですが、西島さんと言えば、スピッツファンを公言しており、何かとスピッツに縁のある方です。

 

例えば、2011年に放送された、西島さん主演のテレビドラマ「僕とスターの99日」では、スピッツでは珍しく、原田真二さんのシングル曲【タイム・トラベル】のカヴァー曲が主題歌に選ばれました。僕はこのドラマを、最初こそ主題歌を聴く目的で見ていましたが、ドラマの内容が面白くて、最後まで全話見ました。

 

それから、2006年に公開になった、西島さんと宮崎あおいさん主演の映画「海でのはなし。」では、これは主題歌というより、映画自体がスピッツの楽曲にインスパイアされて作られたものだそうで、挿入歌でスピッツの曲がたくさん使われています。昔、僕も映画見たんですけどね、全然ストーリーを覚えていません。ちなみに、宮崎あおいさんの映画での役名が”楓”という名前です。

 


■そして、今回の「きのう何食べた?」で、また西島さん×スピッツが実現したわけですね。「きのう何食べた?」の主題歌にスピッツが選ばれたことに対して、西島さんがコメントをしています。

kinounanitabeta-movie.jp

 


この映画の主題歌をスピッツさんが担当すると聞いて驚きと嬉しさで飛び上がりました。
スピッツさんの楽曲はいつも作品の世界観に優しく寄り添い、観る者の想像力を大きく膨らませてくれます。本当に素晴らしい曲です。
この曲を聴いて皆さんあたたかい気持ちで映画館を出られると思います。
そしてこの曲を聴く度に、映画「きのう何食べた?」の様々なシーンを思い出して頂けたら幸いです。

 

”驚きと嬉しさで飛び上がりました”という表現で、嬉しさを爆発させているのがよく分かりますね。

 


また、草野さんも映画に対してコメントを寄せています。

 


様々な人生の歩み方、新しい家族のあり方、色んな愛の形など、多くの事を問いかけてくれる実は真面目な物語なんですけど、まずとにかく面白いです!アハハと笑わされた後、え?ここで?という場面にふと目頭が熱くなってたりします。なので今回、曲の依頼をいただいたら盛り上がっちゃって、ツルツルっと出来上がったのがこの「大好物」です。なんだか縁を感じています。レシピをメモりたくなる美味しそうなシロさんの手料理を堪能した後、シメのデザートにスピッツの曲も楽しんでいただけたら幸いです。

 

ちなみに、「きのう何食べた?」のストーリーなんですが、僕は見たことがないので調べたものを紹介してみると、どうやら男性同士のカップル(ゲイのカップル)の物語のようですね。その男性同士のカップルを、西島さん(シロさんという役)と内野さん(ケンジという役)が演じているようです。

 

予告篇などを見た時に、えらく食事のシーンが多いなと思ったのですが、これは二人の生活が、食生活を中心に描かれているからだそうですね。だから、草野さんもそういう物語に触れてコメントしているのですね。後述しますが、【大好物】の歌詞の中にも、そういう”食”に関係しているようなフレーズがたくさん出てきます。

 

 

 

■ということで、【大好物】という曲を聴いた感想や、解釈などを語っていきます。

 

総じて思ったことを述べると…まぁ、これはいつもスピッツの曲を聴いていて思うことなんですが、”かわいい”と”かっこいい”を、こんなにも同時に表現できるのは、つくづくスピッツだな、スピッツしかいないよなってことでした。しかも、スピッツはもう年季の入った、いわばおじさんたちのバンドですよ、なのに何て軽快な曲を作るんだ!って思うんですよね。

 

アルバム『見っけ』や、その収録曲を解説したときにも紹介したんですけど、【見っけ】や【ヤマブキ】みたいなキラキラした感じの曲だったり、【ラジオデイズ】や【快速】なんかもラジオの音源が挿入されていたり、エフェクティブな加工がされていたりして、スピッツはまた新しい扉を開けたな、と思ったのです

 

そういうところから、スピッツはアルバム『見っけ』辺りから、個人的なくくりとして、新しい時代…第5期にでも入ったのではないか、とさえ思っています。

 

衝動的にロックなスピッツに目覚めて、少しずつそれを研磨していった第3期(『ハヤブサ』~『さざなみCD』)、そこから時間が経つごとに、僕自身がスピッツを長く聴いているせいか、どこか懐かしさも感じるようになってきましたが、さらに東日本大震災を起因として、歌うことや音楽をやること自体にも思いを馳せつつ、”死と再生”の物語を紡いでいった第4期(『とげまる』~『醒めない』)。

 

そして第5期、特にアルバム『見っけ』では、色んなものから解放されて、また”死と再生”の先に進んで、新しい”見っけ”の物語へと踏み出した、と。今までのスピッツロックに、何かをプラスアルファしたような曲、より自由な雰囲気の曲が増えてきました。

 

そういう音楽性の変化っていうのは、考えようによっては、そのバンドが変わってしまったとか、前の方が良かったとか思ってしまう要因にもなるかと思うんですけど、そこはさすがスピッツ、何をやってもしっくりくるんです。新しいことをやっても、やっぱりスピッツスピッツなんですよね。

 


■という風に考えてくと、この【大好物】にも、新しいと思うところがたくさんありました。まさに、スピッツの最新の曲!って感じです。

 


まず、イントロから耳に残るのはシンセサイザーの音ですね。何ていうか、近未来的で最新のテクノポップのようにも聴こえるし、80s90sのシンセポップみたいに古い感じにも聴こえるし、そういう新しい/古いを同時に感じるような、不思議な感じです。

 

こういうシンセサイザーの音が前面に聴こえてくる曲って、スピッツには珍しい気がするんですけど、何かありましたっけ?でも、そこはさすがスピッツスピッツロックとシンセのポップな感じがうまく混ざっていて、新しいのにスピッツっぽいと思わせてくれます。

 


それから、Aメロでは草野さんのボーカルに、いわゆる”こぶし”が使われています。”こぶし”(漢字では”小節”と書く)は…もともとは演歌のテクニックなんですかね、説明としては、ボーカルの音を瞬間的に上下する(揺らす)というテクニックでしょうか。ビブラートは、割と長いこと周期的に声を揺らしているイメージですが、こぶしは、瞬間的にある部分で強調して行います。

 

具体的には【大好物】では、例えば1番のAメロだと、”冬の終わり”の”ゆ”の音や、”はじめて知った”の”じ”の音が揺れていますね。今までのスピッツの曲には、あったの?なかったの?って感じですけど、こぶし自体をスピッツの楽曲で意識したことがないので、少なくともこんなに強調して使われているのは初めてなんだと思います。

 


あと、Aメロで個人的に好きなのは、特に1番のAメロなんですけど、先程のこぶしが入る”冬の終わり”の後の、”テレレレ ダダダ”がめっちゃ好きなんすよ…伝わってますかね笑。要所要所にこういう感じの部分がある気がします、サビ前にも”ダッダダー ンジャジャジャ”も良いですよね…何て言うんだろう、音楽用語などがあるんでしょうか。

 

Cメロの”やわらかく”も良いですよね。ドラムのリズムと、ハモリのボーカル(このハモリは草野さん自身に聴こえますが、さて?)が面白いです。

 

 

 

■そして、歌詞についてなんですけど、今回は深く考えずにすんなりと読むことができました。多幸感が溢れているというか、読んでいて気持ちが良くなるというか、そういう前向きな気分になる歌詞だと思います。

 

先述の通り、「きのう何食べた?」という作品自体が、男性同士のカップルの生活を”食生活”に焦点を当てて描いているという物語なので、そういう”食”に関する表現から、カップルの日常や相手への気持ちの変化を描いていると思われる部分が、たくさん出てきます。

 


例えば、

 


つまようじでつつくだけで 壊れちゃいそうな部屋から
連れ出してくれたのは 冬の終わり

 

冒頭から、”つまようじ”という言葉が使われていて面白いですね。些細で弱々しいものの例えとして、”つまようじ”という言葉が使われているんですかね。そういう繊細で傷つきやすい生活から、相手が連れ出してくれた、と歌っています。

 



ワケもなく頑固すぎた ダルマにくすぐり入れて
笑顔の甘い味を はじめて知った

 

”甘い味”という表現…お菓子やケーキなど、”甘い”ものを食べるというのは、”幸せ”の象徴ですよね、ここでもそういう意味合いで使われているのだと思います。

 

余談ですが、仕事で疲れた時とかに、職場の人がチョコくれたりするんですけど、瞬間的にめっちゃ疲れが回復するんですよね。そんな、いつももらってばかりの自分です。いつも、今度は自分がお返ししないと…と思ってるんですが。

 



吸って吐いてやっとみえるでしょ
生からこんがりとグラデーション
日によって違う味にも 未来があった

 

ここは、”でしょ”と”グラデーション”の韻の踏み方も面白いんですね。”日によって違う味にも 未来があった”という表現で、これもカップルの幸せな食卓の風景が思い浮かびました。

 


■あとは、タイトルにもなっている”大好物”という言葉ですが…正確には出てきませんが、サビに”大好きな物”という表現で出てきます。

 


君の大好きな物なら 僕も多分明日には好き
期待外れなのにいとおしく
忘れられた絵の上で 新しいキャラたちと踊ろう
続いてく 色を変えながら

 


君の大好きな物なら 僕も多分明日には好き
そんなこと言う自分に 笑えてくる
取り戻したリズムで 新しいキャラたちと踊ろう
続いてく 色を変えながら

 

相手を愛しいと感じる気持ちを、”君の大好きな物なら 僕も多分明日には好き”という言葉で表現しているのは、まさに草野節ですね。

 

好きな人と長く過ごしたりすると、その相手が好きな物が、自然と自分の好きな物に変わっていくと。その相手と結ばれなくても、気になる人の好きなものを、自分も好きになっていく(好きになろうとする)感じは分かる気がします。例えば、音楽の趣味とか、漫画や本の趣味とか、そういうものが、恋愛の力によって変わっていく感じですね。

 

ただ、”僕も多分明日には好き”の”多分”という表現も、さらに草野さんっぽいなって感じもすしますね。控えめというか、何となく言い切れていないというか。

 

あとは、”取り戻したリズムで 新しいキャラたちと踊ろう”というところも、色々と物語が想像できる部分だと思います。リズムを取り戻した、ということを逆に考えると、今まではリズムを崩していた、と考えることができます。

 

それこそ、過去の恋愛の失敗とかがあって…とかね。そこから新しい恋愛に進んでいって、自分の好みが変わっていくというところを、”新しいキャラ”と表現しているのかもしれません。

 


■ということで、【大好物】でした。

 

個人的には、最近ではかなり好きな曲になりました。アルバム『見っけ』とか最近の配信曲とか、最近のスピッツ曲では、ダントツで好きな曲です。