スピッツ大学

ステイホームしながら通える大学です!

集中講義:草野正宗 ~詩の世界への招待~ 第8回

f:id:itukamitaniji:20211123223652j:plain

 

 

「ありがとう」って言うから 心が砕けて
新しい言葉探してる
見えなくなるまで 手を振り続けて
また会うための生き物に

 

 

■アルバム『醒めない』に収録されている、【コメット】という曲の歌詞を紹介します。綺麗な歌詞なんですけど、どこか切ないですね。

 

アルバム『醒めない』という作品は、アルバム全体で一貫して、ひとつのコンセプト・物語を表現しようと作られた作品であるようです。

 

そのコンセプトとは、草野さん自身が語ったことによると、”死と再生”というものでした。”死”とはつまり別れ、”再生”とはつまり出会い、ということで、アルバム『醒めない』にも、出会い・別れの歌が多く入っています。

 

その1曲である【コメット】ですが、個人的には、表題曲こそ【醒めない】ではありますが、この”死と再生”の物語の根幹を歌っているのは、この【コメット】(と【みなと】)だったのでは、と思っています。

 


■まず、【コメット】の場面としては、歌詞の中に”夕暮れ ホームへ駆け上がった”というのが出てくるので、例えば、その歌詞通りに、夕暮れのホームを思い浮かべています。

 

僕は息を切らせながら走り、まさに電車が出発しようとしているホームにたどり着くという場面でしょうか。そこで、君との別れをまさにしようとしているところで、紹介している歌詞のシーンが訪れます。

 


まず、前半部分

 


「ありがとう」って言うから 心が砕けて
新しい言葉探してる

 

別れの際に、見送りに来た僕に向かって、君は「ありがとう」と言ったのでしょうかね。今までありがとう、見送りに来てくれてありがとう、と。僕は、「ありがとう」という言葉なんて言われなれてなかったのかも知れません、一気に心が砕けて、胸が詰まって、言葉も出なくなってしまった、と。

 

余談ですが、タイトルの”コメット”とは、おそらく”金魚”という意味で使われているのですが、前作のアルバム『小さな生き物』では、【りありてぃ】という曲の歌詞の中に、金魚が出てくるんです。

 

【りありてぃ】では、その金魚は”水槽の世界に出たいな”と思っているという歌詞が出てきているので、ともすると、その【りありてい】で外の世界に出た金魚が、君に出会って、そしてこの【コメット】で、また別れを迎えている、というような繋がりを想像すると、両曲の間に長い時間の経過を感じて、この【コメット】で別れを迎えている二人にも、ここでは語られていない物語があったんだなと、しみじみと思ってしまいます。

 


■そして、後半部分です。

 


見えなくなるまで 手を振り続けて
また会うための生き物に

 

ここが、めっちゃ好きなんですよ。好きというか、大切にしたいというか。先程言ったように、このアルバムで歌われているのは、”死”=別れと”再生”=出会い(再会)なわけです。

 

そして、この【コメット】という曲が、その根幹を成していると思っている所以がここの部分の歌詞なんです。つまりは、特に大切な人とは、”別れ”た瞬間に、もう”会いたい”と思うんですよね。

 

”また会うための生き物に”…胸がぎゅっとなる表現ですよね。また大切な人に会える日まで、会える日をずっと目指しながら、大切な人が居ない毎日を頑張って生きていくと、そういうことですよね。

 

ひょっとしたら、この別れは”死別”であるかもしれない。けれど、それでも、いつかは会えることを願いながら生き続けていく、と。

 

そういった意味では、”死”=別れも”再生”=再会も、どっちも描かれている【コメット】は、まさに”死と再生”のテーマの根幹にある曲なんだと思っています。