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集中講義:草野正宗 ~詩の世界への招待~ 第18回

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お前の最後を見てやる
柔らかな毛布にくるまって
ゆっくり浮かんだら 涙の星になった

 

どうせパチンとひび割れて
みんな夢のように消え去って
ずっと深い闇が広がっていくんだよ

 

 

■記念すべきデビューシングル『ヒバリのこころ』のカップリング曲であり、デビューアルバム『スピッツ』にも収録されています、【ビー玉】という曲の歌詞です。

 

まさに、スピッツがデビュー直後に発表した、最初期の曲であると言えます。

 

何度も言っていますが、草野さんが書く詩のテーマとして、「セックスと死」というものがありますが、そのテーマは初期の頃の作品に、特に色濃く現れていると感じます。まさに、最初期の楽曲である、【ビー玉】も例外ではありません。

 

草野さんが書く、”死”とはどんなものなのかという考え方や死生観について、特に印象に残っている詩のひとつとして、個人的にはこの【ビー玉】を紹介したいんです。

 


■そもそも、これは何度もここで言っていますが、草野さんは、丸いものを”死”の象徴として、歌詞の中で用いているのではないか、という考察があります。

 

タイトルになっている”ビー玉”は、皆さんも知っての通り、球形をしており、コロコロと不安定に転がっていってしまうものですよね。なので、上述のような考察に立てば、やはりこの”ビー玉”という言葉からも、”死”のイメージが膨らんでくるのです。

 


紹介している歌詞については、後半部分、

 


どうせパチンとひび割れて
みんな夢のように消え去って
ずっと深い闇が広がっていくんだよ

 

ここなんかは、まさしく”死”を表現していると読むことができますよね。

 

”パチンとひび割れて”とは、ビー玉が壊れてしまうところがイメージされます。こんな風に、丸いものそのものではなくて、それが壊れてしまうこと、失われてしまうことを通じて、”死”を表現している節もあるのでしょうか。

 

草野さんが、死生観として色んな考え方をお持ちなのは、書かれた歌詞などを読むと分かってきます…いや、ほんとの意味では分かってませんが苦笑 別の生き物に生まれ変わったり、死後の世界で故人と会おうとしていたりと、輪廻転生や死後の世界について書いているような作品も多くあります。

 

一方、この【ビー玉】は、”みんな夢のように消え去って”からの”深い闇が広がっていく”ですから、死後の世界というよりは、死んだ後は”無”である、という考え方に近いような気がします。

 

で、この部分で一番僕が印象に残っているのは、冒頭の”どうせ”という言葉なんですよね。”どうせ”ってなんだよってね。諦めに近いというか、達観しているというか…でもこの辺が、草野さんの真の死生観だったのかな、と思います。

 

しかしこれは、あくまで昔は…という感じがしますね。今はそんなに思わないですけどね。むしろアメリ同時多発テロ東日本大震災などを経験して、そういう死生観は変わっていったという印象を受けます。

 


■それから、前半部分。

 


お前の最後を見てやる
柔らかな毛布にくるまって
ゆっくり浮かんだら 涙の星になった

 

また個人的な話になりますが、ここを読むと思い浮かべることがあるんです。【ビー玉】の記事でも書いたので、被ってしまうのは申し訳ありません。

 

ここを読んで、僕はいつも、”寝ずの番”というものを思い浮かべるのです。”寝ずの番”とは(僕の解釈も含めますが)、お通夜の後に、亡くなった人に寄り添い、線香の火を絶やさないようにお守りしたりして、最後の夜を共に過ごすことです。

 

故人に悪いもの(”悪霊”や”魔”という表現がありました)が憑かないように、昔は本当に朝まで寝ずにお世話したようですが、最近はどうなんですかね。一説によると、医療が発達していない昔は、何でも本当に亡くなっているのか、息を吹き返さないかを判断するために、一夜見守ったんだとか。

 


■今から振り返ると、もう10年以上も前になりますかね、僕の父方の祖母が亡くなったんです。

 

ばあちゃんの遺体は、すぐにお寺に運ばれて、僕も仕事終わりに駆けつけたんです。その日は、ちょうど金曜日の夜で、親戚一同が集まりやすいように、ばあちゃんも日を選んで亡くなったんだねー、みたいな話になったのを覚えています。

 

その時に、誰かが寺に残って泊まり、ばあちゃんの遺体の側に居る(”寝ずの番”に近いものをする)という話になったんですけど、その役目を、僕といとこと、そのいとこの娘さんが引き受けたんです。

 

娘さんなんかは、まだ小学生も低学年くらいで、お泊まりできて楽しそうでした。その娘さんとも仲良くなって遊んだり、いとことも飲みながら仕事の話をしていたら、しばらく経って他県にいる兄が駆けつけて、寝ずの番に加わりました。

 

いとこや兄とも、まともに長く会ってなかったので、久しぶりに話せたのを覚えています。何か、色々と印象に残っている出来事です。

 


■めっちゃ脱線しましたが…なんとなく、そういうことを思い出すんです。

 

”お前の最後を見てやる”という歌詞で、言葉通りですが、今まさに命が尽きようとしている人の、あるいは僕の個人的なイメージに添うと、すでに亡くなっている人の、最後を見届けるというシーンですね。

 

”柔らかな毛布にくるまって”という表現、この表現があるから、僕は寝ずの番をイメージしたんです。

 

ところで、よくよく考えてみれば、”お前の最後を見てやる”なんて、どんな曲の始まり方だよ!って思いますよね。しかもこれ、デビューシングルのカップリング曲ですからね、いきなりマニアックすぎるでしょうよ!