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集中講義:草野正宗 ~詩の世界への招待~ 第28回

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きらめいた街の 境目にある
廃墟の中から外を眺めてた
神様じゃなく たまたまじゃなく
はばたくことを許されたら

 

 

■シングル『さらさら/僕はきっと旅に出る』やアルバム『小さな生き物』に収録されています、【僕はきっと旅に出る】の歌詞です。

 

この集中講義で紹介している歌詞は、別に好きな順番に並んでいたりとか、ランキングを作りたいとか、そういうことはないんですけど、この【僕はきっと旅に出る】のこの部分の歌詞に限っては、断トツですね、一番印象に残っています。

 

”好きな歌詞”というよりは、”大切な歌詞”という言い方が相応しいんだと思います。

 


■まず、この曲自体の記事は、もうすでに書いていますが、その記事では、東日本大震災とこの曲の関連について書かせていただきました。

 

紛れもなくこの曲は、東日本大震災の影響を受けていると感じますし、それによって受けた心の傷を描いていると共に、そこから立ち上がろうとしている、人々や町の様子を励まそうと歌われています。

 

やっぱり、【僕はきっと旅に出る】には、この側面が一番表れていると感じるのですが、今回の記事ではその部分の考察は省かせていただきます。

 


■僕が、この【僕はきっと旅に出る】を聴いていたのは、ちょうど仕事を辞めて、次の仕事の準備期間としてあれこれとやっていた時期でした。

 

第20回の記事で、【ビギナー】について書かせていただきましたが、その後の話ですね笑 仕事を辞めることは、一旦踏みとどまり2年くらいは粘って働きましたが、27歳の時に辞めました。

 

仕事を辞めた時に、次に就きたい仕事を、子どもの頃に夢に見ていた仕事と決めたのですが、すぐに就けるような仕事では無かったので、仕事を辞めて即就活を開始したわけではなく、その仕事に就くことを目標とした勉強や準備を始めるわけです。

 

結局、そうやって2年くらいですかね、バイトをしながら、必要な知識だったり、コネだったり、そういうのを身に付けていって、そこから改めて再スタートを切ることになるわけです。現在も、その仕事をずっと続けてやっていて、おそらく死ぬまで続けていく仕事になるのだろうと思います。

 


■準備期間は、孤独ではありました。親友と呼べる先輩が2人居て、しょっちゅう飲みに行ったりして、本当に救われていたんですけど、心の底からは楽しめてなかったかもしれません。それは、何も成し遂げていない自分に、後ろめたさがあったからだと思います。

 

周りに居る友達は、バリバリに仕事をしていて、家庭を築き子どもが居るやつもいる。一方の僕は、仕事も家庭もなく、未だに次の仕事に就くことに悪戦苦闘している段階である、と。

 

めちゃくちゃ焦ってた、というわけではないけれど、全然焦ってない、と言うのも嘘になります。自分はどうなるんだろう、という不安もありました。

 

【僕はきっと旅に出る】に出会ったのは、そんな時でした。

 


■何て言うか、自分のことを歌ってくれている、自分のための歌だと思うほど、自分の気持ちに寄り添ってくれたんです。

 

長くスピッツを聴いてきた、そのご褒美をもらっているような、あるいは、古くからの親友が励ましの声をかけてくれているみたいな、そんな気持ちになりました。

 

その想いが一気に溢れてきて、本気で号泣したのが、紹介している歌詞を読んだ時でした。

 


きらめいた街の 境目にある
廃墟の中から外を眺めてた
神様じゃなく たまたまじゃなく
はばたくことを許されたら

 

まず、ここの歌詞を読むと、震災のことが思い出されますが、その説明は今回は割愛します。

 

この辺りの歌詞を、自分の気持ちに当てはめて聞いていました。

 

まず、”きらめいた街”と”廃墟”の対比…この歌の人物は、”廃墟”の中にいて、そこから”きらめいた街”を眺めている、という構図ですよね。

 

”廃墟”とは、そのまま場所的な意味でも読めますが、僕の場合は、当時は何にもない今の自分の状況を当てはめていました。家庭はまぁ別に良いとして、仕事を辞めて、次の仕事に就くために勉強や準備をしてはいましたが、孤独で不安定な自分の状況については、まさに”何もない”と形容される状況でした。

 

一方の、”きらめいた街”とは、その反対の意味…これも場所的な意味でも読めるのですが、先程の”廃墟”と比較すると、精神的には自分が目指す自分像や生活ですね。

 

あとは、”神様じゃなく たまたまじゃなく”からの”はばたくことを許されたら”という歌詞について…”神様”は、まぁ”神頼み”という言葉があるように、何か願いが叶うように、奇跡が起こるように願いをかけるものですよね。そして、”たまたま”という言葉からは、”必然”ではなく”偶然”何かが起こるということが思い浮かびます。

 

”神様”も”たまたま”も、願いが勝手に叶ってくれることを願っていたり、偶然何かが思い通りにいくようなことを待っていたりと、決して自分の力で動くというのとはかけ離れているような気がします。

 

ただし、この歌詞では、神様”じゃなく”やたまたま”じゃなく”という風に、”神様”や”たまたま”に頼ることを否定しています。そして、そこに”はばたく”という言葉が続いているので、繋げて考えると、自分の意思や力でいつかはばたきたい、という強い気持ちを受け取ることができます。

 

”許されたら”という言葉も、とても印象的です。震災に絡めると、また少し違う意味合いに取れそうなんですけど、この言葉からも、タイトルにもなっていますが、”僕はきっと旅に出る”と、つまりは、今すぐはまだ無理だけど、いつかまた必ず旅に出たい、という気持ちが込められていると思っています。

 


■もうね、この歌はとにかく全体的に歌詞が素晴らしいんです。

 

2番のサビ前に出てくる、”でもね わかってる”からの”またいつか旅に出る 懲りずにまだ憧れてる”なんかも、ほんとに自分に言ってくれているような気がしていました。

 

切り替えて前向きになろう、また新しい旅に出よう、と…そういう励ましを否定するつもりは全くないのですが…”今”がつらい人には、「ちょっと待ってよ…」と言いたくなるかもしれません。ましてや、あの未曽有の大災害の後には、そういう風にすぐに立ち直れない状況にあったかもしれません。

 

決して、無理に背中を押すのではなくて、これも歌詞で出てきますが、”今はまだ難しいけど”と、少し考える余白をくれるような歌詞を書いてくれたのは、本当に草野さんの優しさだと思います。