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257時限目:未来未来

ひみつスタジオ (初回限定盤)(SHM-CD+DVD)

 

 

未来未来

未来未来

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【未来未来】

 

■アルバム『ひみつスタジオ』の8曲目に収録されている曲です。

 

イントロが勢いよくドラムの音から始まり、ギターの音とベースの音が加わってくるんですけど、特にベースの音なんかは重たくゴリゴリしている割には、流れるようなフレーズが印象に残ります。

 

ロックな曲ではあるんですけど、【跳べ】や【オバケのロックバンド】とはまたちょっと違う感じの、ハードロックというんでしょうか…歌詞の内容とも相まって、怪しい感じの渋いロックな曲になっています。

 


………と思いながらイントロを聴いていたら、唐突に入ってくる「ハァアアア~~~~~~~」という女性の声に驚きます。最初は、なんじゃそりゃ!と笑っちゃいました笑

 

この声の正体については、ネットのJ-WAVEのインタビュー記事などに詳しく書いていました。

 


草野さん「朝倉さやさんという民謡の歌い手さんに(ゲストボーカルを)お願いして。本物はすごかったですよ。スタジオで聴いて「うわー」って。本物だって思って」

 

草野さん「最初、いろいろサンプリングして遊んでたりしてたんですけど、自分の作ったリズムパターンに色んな音を乗っけたりして、その中の1つに民謡の声とか入れた曲もあって。(中略)民謡を入れるんだったらサンプリングじゃなくて、ちゃんと歌ってもらったほうがパワーはあるんじゃないかなって。朝倉さやさんがスピッツの曲をカバーして歌ってくれている動画とかあげてくれてたので、たぶん断らないだろうと(笑)」

 

クレジットにも書いてありますが、この「ハァアアア~~~~~~~」の声の主は、朝倉さやさんという山形県出身の女性シンガーです。民謡歌手の方で、何でも民謡の日本一に輝いたこともあるようです。

 

そして、草野さんが話している”朝倉さやさんがスピッツの曲をカバーして歌ってくれている動画”も、YouTubeにありました。

 

youtu.be

 

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…すみません!失礼ながら、勝手な民謡歌手の印象として、着物をびしっと着た、貫録のある高齢の女性をイメージしていたのですが、全然でしたね。若くてかわいらしい普通の女性で、歌い始めるまでは、全くボーカルのイメージが浮かびませんでした。

 

【ロビンソン】カバーの方は、かなり民謡化しています、山形弁アレンジになっているのも面白いですね。

 

【楓】カバーの方は、どちらかというと、民謡とポップソングの融合的な感じで、きっとこういう挑戦をされている方なのだと理解することができました。

 


■ということで、この「ハァアアア~~~~~~~」に全てを持っていかれそうですが、それを抜きにしても、【未来未来】はかなり面白い曲になっています。

 

曲の雰囲気としては、【Na・de・Na・deボーイ】とか近い感じです。Aメロ部分は、【ハチの針】のCメロとかにも似てますね。

 

Aメロは、ボーカルにメロディーの抑揚はあまりなく、言葉の響きとかでリズムを取ってる感じで、ラップとは違いますが、まくしたてる感じに進んでいきます。

 

そこからBメロからサビにかけて、ボーカルがメロディック(?)になっていくのが面白いです。サビなんかは、かなり雰囲気が違って聴こえてきて、1曲の中で変わっていく曲の雰囲気が楽しい曲です。

 


■そういう、曲調の面白さというのは大いにあると思うのですが、一方の歌詞についてはどうでしょうか。

 

曲名に”未来”という言葉が使われている割には…本来”未来”は、希望や期待みたいなものを感じる言葉ではあると思うのですが、歌詞の内容は、むしろそれとは逆に、今の世の中を風刺しているような、あるいは、自虐的でネガティブなことを歌っているというような感じです。

 

どちらかというと、”未来”という言葉を使って、「おいおい、未来は大丈夫か!?世の中は大丈夫か!?」みたいな感じのことを歌っている感じですかね。結構、スピッツ・草野さんにしては、過激なことを歌っている…というか、考えさせられるようなことを投げかけている感じがしますよね。

 

例えば、まくしたてるように歌っているAメロ部分の歌詞を、抜き出して紹介してみると…

 



安全に気配って 慎重にふるまって
矛盾を指摘され 憂鬱の殻に入れば

 

何て言うか、ミスしないように頑張って取り組んだりしたことがうまくいかなくて、精神的に引きこもってしまった感じでしょうか。仕事だったり学校だったり、そういうものを頑張ってきたのに、なかなかうまくいかずに、鬱になっちゃったりしてね。そういう世の中の、生きづらさみたいなものを感じます。

 



虐げられたって 思い込んでたって
虐げていたのは こっちの方だなんてさ

 

これもなかなか考えさせられる言葉ですよね。SNSとかでも発生しそうな事案のように感じますが…絶えず色んな正義が戦っている世の中だからこそ、視点を変えて見てみると、誰が・何が正義だ敵だとは単純にはいかないって感じでしょうか。誰かにとっての正義は、別の誰かを苦しめている…みたいな構図が見えてきそうです。

 



遠くへ飛びたいとか 希望し必死こいてた
足元を見れば ほとんど同じ位置だ

 

ここに”希望”という言葉が出てきますが、やはり前向きな感じには読めません。”希望”を持って色んなことを頑張ってみても、なかなか物事が好転していかない感じですかね。

 



1000年以上も前から 語り継いだ嘘が
人生の意味だって 信じて生きてきたが

 

”1000年”という数字は比喩だとは思いますが、それだけ長い時間をかけて生きてきて、これまで何も疑問を持たなかった人生訓みたいなものが、がらりと変わっていっちゃうような、そういう常識や当たり前が通用しなくなっていく世の中を歌っている感じです。

 


■そして、サビの部分…”未来未来”という言葉を使って、こんな感じで歌われています。

 


こじ開けて 未来未来
今だけで余裕などない 嫌い嫌い
お願いだから側にいて 未来未来
誰も想像できない 君以外

 

”未来未来”と連呼しつつも、”今だけで余裕などない”と、やっぱりここからも、未来への希望というものは感じません。

 


それで、この【未来未来】という曲ですが、1曲前の【手鞠】と繋がる部分があると感じながら、両曲を聴いています。例えば、【手鞠】にはこういう歌詞が出てきます。

 


自分を探す旅の帰りに 独りが苦手と気づいて
手に入るはずだった未来より 素朴な今にありついた

 


かなり思ってたんと違うけど
面白き今にありついた

 

だから両曲とも、”未来”よりも”今”を選んだ曲なのかなぁ、という印象を受けました。ただし、【手鞠】単体の記事では、「割とシビアな歌詞だ」みたいなことを書きましたが、【未来未来】と比べると、まだそんなに悪い感じではないかなと、今は思い直しています。

 


■また、そういうある種”未来”を諦めた状況において、【手鞠】にも【未来未来】にも、”君”という存在が現れます。

 

【手鞠】の方は、”手鞠さん”なんて勝手に命名しましたが、常識に囚われて自由に生きていけず、自分を探していた”僕”が、まさに手鞠のように自由に跳ねるように生きている”手鞠さん”との出会いで、”面白き今にありついた”と、最後は割と明るい感じで曲が締めくくられます。

 

一方の【未来未来】はどうでしょうか。こっちにも”誰も想像できない 君以外”と言う風に”君”という人物が出てくるんですが…(また勝手に命名しますが)”未来さん”に”僕”はすがっているような感じですよね。

 

”今だけで余裕などない”と言いつつも、”お願いだから側にいて 未来未来”という風に、しがみつこうとしてる精神状態にもあるという、割と切迫している感じですよね。

 

まぁ、”僕”と”未来さん”の関係性は…例えば、身体を売る仕事をしている女性だったり、そうでなくても、浮気相手や不倫相手など…色々と想像できそうですが、とにかく信じられるのは”未来さん”だけで、”未来さん”こそが自分と未来を繋ぎとめる唯一の希望だと、そういう感じに読めました。

 


■そして、【未来未来】の歌詞は最終的に、

 


未来は泣いてんのか 未来は笑ってんのか
影響与えようよ 殻の外で

 

という風に、まぁ歌詞通りですが、殻を破って、ちゃんと社会と繋がって生きよう!って、強い言葉で締めくくられています。

 

何て言うか、例えば【けもの道】とかは、素直に応援歌として捉えることができましたが、応援とはまたちょっと違う雰囲気…ある種、この社会や日本人に対して警鐘を鳴らしているような、そういうメッセージソングとして受け取りました。