スピッツ大学

ステイホームしながら通える大学です!

214時限目:みなと

【みなと】

 

みなと

みなと

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■41作目のシングル曲です。アルバム『醒めない』にも収録されています。

 

シングル『みなと』は、前作『雪風』が配信限定シングルとして発売されてから、およそ1年後に発売されました。

 

もう1作さかのぼってみると、シングル『さらさら / 僕はきっと旅に出る』からは、実におよそ3年の月日が流れたことになりますが、『雪風』が配信シングルだったので余計に、(いわゆる従来の媒体での)久々のシングルだなって思ったことを覚えています。

 


■まず、この曲は、NTT東日本のCMソングとして使われました。

 

僕が初めて知ったのは、SNS上の仲間がつぶやいていたのを見たのがきっかけでした。どうやら、テレビCMでスピッツの新曲が流れているようだ、と。

 

情報を調べてみると、確かにスピッツの新曲が、NTT東日本のCMソングとして起用されており、テレビCMで流れているようでした。しかし、僕が西日本に住んでいるからなのか(?)、まだそのCMを一度も見たことがありませんでした。

 

そこで、僕はいち早くその曲を聴くために、NTTのサイトを訪れて、CMの動画を見たのでした。確か、イチローが起用されていたCMでしたよね。そして、バックには、仲間が言った通り、件のスピッツの新曲が流れていました。

 

短いCMでしたが、それだけでも、僕には名曲の予感がしました。何となく【ビギナー】(こちらも、ゆうちょ銀行のCMソングに起用されました)を思わせる、重厚で壮大なバラードのように感じたのを覚えています。

 


ただし、CMが発表された当初は、確かにスピッツの新曲ではあったのですが、その時は曲名までは発表されておらず、謎の新曲として話題に挙がっていました。

 

そこから程なくして、その新曲の名前が”みなと”で、シングルとして発売になるという情報や、MVが解禁になりました。

 


■それから、シングルが発売になった頃、珍しくミュージックステーションスピッツが出演しました。調べてみたところ、実に3年ぶりの出演だったそうです。

 

僕も、この時のMステはリアルタイムで見たんですが、この出演がまた、今でも語り継がれる出来事となったんです…。

 


まず、とにかく久々のMステ出演ということで、草野さんとタモリさんの共演自体すごく新鮮に感じました。久々のトークにて、「好きな港」というマニアックなテーマに、タモリさんと草野さんが花を咲かせた後、いよいよスピッツの演奏が始まります。曲目はもちろん【みなと】です。

 

琴線に触れる、綺麗なイントロで曲が始まります。そして、程なくして、草野さんが歌いはじめます。ちょっと緊張していたのか、その声は少し震えて聴こえたような気がしました。

 

…しかし、何かがおかしい。草野さんがそわそわして、歌うのを止めて、三輪さんの方を見ます。

 

何と、草野さん、歌い出しを間違えちゃってたんです!【みなと】のイントロは、4拍子が8回繰り返された後(表現の仕方あってますかね?)草野さんのボーカルが入るのですが、4拍子が4回繰り返された後、歌い始めてしまったんです。

 

三輪さんと顔を見合わせて、照れ笑いする草野さん。よく聞けば、「間違えちゃった…」という言葉も聞こえました、笑。その後は、草野さんも気を取り直し、最後まで順調に歌いましたが、そこからは、文句なしに素晴らしかったです。

 


という、何とまぁ…ほっこりとした、草野さんらしい(のかな?)出来事でした、笑。

 


■ちなみに、そのMステ出演においては、僕としては、スカートの澤部さんが出たのも印象に残りました。

 

【みなと】の間奏には、これも印象的な口笛の演奏が入っているのですが、その口笛を担当しているのが(CDのクレジットで確認できます)、スカートというバンド(正確にはソロプロジェクト)のボーカルの澤部渡という人なんです。

 

演奏の時にちらちら映る、タンバリンを叩く太っちょの男性…誰なんだ!?と、これも話題になりましたが、それがまさに、澤部渡その人だったのです。スカートというバンドは知っていましたし(数曲知っている程度ですが…)、澤部さんが口笛を担当していることも知っていましたが、Mステ出演には驚きましたね。

 


■さて、【みなと】の紹介・考察をしないといけませんね、苦笑。

 

まず、タイトルの”みなと”については、言わずもがな漢字で書くと、”港”のことですよね。歌詞の中にも、”港”という言葉は何度も出てきます。

 


船に乗るわけじゃなく だけど僕は港にいる
知らない人だらけの隙間で 立ち止まる

 


君ともう一度会うために作った歌さ
今日も歌う 錆びた港で

 

それぞれ、出だしの歌詞と、サビの歌詞です。

 

”船”という言葉が使われているので、当たり前ですが、いわゆる一般的な船の発着地点としての港を思い浮かべるわけですが、何ていうか、精神的な意味も含めているような気がします。

 


■もう少し、歌詞を抜き出してみます。

 


遠くに旅立った君に 届けたい言葉集めて
縫い合わせてできた歌ひとつ 携えて

 


消えそうな綿雲の意味を考える
遠くに旅立った君の 証拠も徐々にぼやけ始めて

 


すれ違う微笑たち 己もああなれると信じてた

 

この辺りを読んでいくと、何となくこの歌が歌っていることが分かってくるよな気がします。

 


”君”は”僕”の元を離れて、何処か遠くへと旅立っており、そんな”君”にもう一度会えるように、”君”のために作った歌を携えて、”僕”は港でずっと独りで待っているというわけですね。

 

”遠くに旅立った君の 証拠も徐々ぼやけ始めて”というフレーズや、”錆びた港”という言葉は、時間経過も表していると感じます。”僕”が”君”を待って、長い時間が経過していると。

 

”港から旅立つ”ということで、例えば、自分の夢のためにだとか、就職や進学のためなど、理由は様々考えられると思いますが、とにかく”君”は船に乗って、”僕”と過ごした場所を離れて旅立った、と考えることが普通かもしれません。それでも、この物語は成立するように思えます。

 


■ただ、やっぱり色んなことを想えば、”君”は亡くなっており、もう二度と会うことはできないと分かった上で、”僕”は”君”を待っているという解釈へとつながっていきます。

 

つまり”君”はすでに亡くなって、”あの世”へと旅立ったと…そういうことになります。だからこの場合の”僕”は、待っている、という言葉よりは、”その場所に(精神的に)縛り付けられていて、どこへも行くことができない状態”という方が、悲しいけどしっくりきます。

 

そして、そういう解釈の根底にあるのが、まぁネット上でも多くの人が解釈している通り、この歌と東日本大震災との関連ですよね。

 

ここスピッツ大学でも、前作『小さな生き物』については、東日本大震災との関連を指摘しつつ紹介してきたのですが、アルバム『醒めない』についても、未だ震災との関連は、形を変えつつも残っていそうです。

 


これから、ここスピッツ大学でも本格的に、アルバム『醒めない』の紹介に入っていくわけですが、この頃の草野さんは、作品のテーマとして、「死と再生」を挙げています。

 


草野「まぁ、『小さな生き物』が旅に出る前の不安と期待が入り混じったアルバムだとすると、”雪風”は再生を匂わすものになっていたと思うんで、そういう意味ではアルバムのスタートにはなっていると思いますね。」

 


草野さん「前のアルバムを客観的に聴いた時に、不安感の強いアルバムなのかなっていうのは思って。(中略)……結果的にそこまでにはなっていないんですけど、再生の物語みたいなものを匂わせるコンセプトで作ってもいいかもって思ったところはありましたね。」

 

これらは、アルバム『醒めない』発売直後のMUSICA(珍しく購入した、笑)において、草野さんが語ったことですが、この考え方は、そのまま【みなと】にもつながっていると考えることができそうです。

 


■港という場所は、本来は”旅立ちの場所”や”帰ってくる場所”ですが、”船に乗るわけじゃなく”と冒頭から歌われていることからも、大切な人を亡くし、残された当人は旅立つことができずに、合わせて、いくら待っても亡くなった人も帰ってくるわけではないので、待っているということは、健気なようで、実は何も救いがないんですよね。

 

それでも、【みなと】がアルバムの2曲目であることは、何か考えさせられます。1曲目の表題曲【醒めない】は、アルバムの表表紙的な曲だと思っているので、物語の始まりとしては、実質はこの【みなと】であると考えています。

 

あまりそういうものにはなっていない、としつつも、草野さんはアルバムで一貫した再生の物語を描こうとしました。とすると、この曲の役割は、”再生の入り口”といったところでしょうか。ここから、再生の物語が始まるわけですね。

 

youtu.be

スピッツ大学 節目に思うことと、今後の展望

■平素より大変お世話になっております、キャラを忘れた頃に、どうもスピッツ大学の学長itukamitanijiでございます。

 

最近、めっきり暑くなってきましたね。今年もまた、暑くて長い夏がやってきますよ。学生の諸君も(きっと、私も含めて、そう若くないおじさんおばさんも多いでしょうし…苦笑)、どうぞお体に気を付けて、乗り切っていただきたいと思っております。

 

 

■さて早速、本時の話題に入らせていただきます。

 

ここスピッツ大学についてですが、2015年7月25日が初めて講義をした日(初めて記事をアップした日)なので、早いものでもうすぐ3年という月日が流れることになるわけです。

 

そして、そのスピッツ大学での核となる講義として、”スピッツ全曲研究セミナー”があります。これは、その講義名の通りになりますが、スピッツの楽曲全てを、1曲1曲紹介・考察していくというものです。当初から、何とも長期に渡る講義を始めてしまったな、と思ったものです。

 

楽曲を五十音順に紹介していき、ワ行の曲まで紹介しつくして、インスト曲の紹介も終えて、現在リアルタイムでは、ボーナストラック的な曲の紹介として、「213時限目:あかさたな」まで紹介しつくつしたところでございます。

 


講義を始めた2015年7月時点(以下、単に”当時”と書きます)でのスピッツの作品リリース状況は、最新アルバムは『小さな生き物』であり、最新作として配信限定シングル『雪風』が発売されたところでした。

 

当然、後に発売される、シングル『みなと』、アルバム『醒めない』、シングルコレクション、その他映像作品などは、発売はおろか、当時はそのリリース情報すらまだ世に出ていない状況だったので、このスピッツ大学で講義をしていく中で、続々と情報が解禁され、そして随時発売されていきました。

 

その時その時、新曲が出る度に、その曲を紹介していってもよかったのですが、ここスピッツ大学の全曲研究セミナーについては、当時の最新作である、シングル『雪風』までの曲に絞って、そこまでの全曲をまず紹介しようとあらかじめ決めていたので、そのようにしました。(ちなみに例外として、【1987→】は、30周年記念記事として紹介済みです。)

 

 

■これらのことを踏まえると、先述した全曲研究セミナーの最新講義、「213時限目:あかさたな」で以って、一応は”当時取り決めた全曲”を紹介し切ったことになるわけなのです。つまり、全曲研究を、ここで一旦は達成したことになるわけです!

 

これに関しては、自分勝手ながら、とても満足しています。きっと、前のように、どこか途中で飽きちゃうんだろうな、とか思いつつやってきたので、一応はこんな自分でも、ひとつのゴールにたどり着けたという気がして、感慨深く感じているわけです。

 


飽きないでここまで続けられた、一番の大きな理由は、他でもありません、スピッツ大学を訪れてくださった、皆様が居たからでございます。


私自身は、ただ”スピッツ”と”文章を書くこと”が好きなだけで、このブログは無償で書き続けているので、別にたくさんの人が読んでくださっても、何か利益を得るわけではないのですが、やはり、読んでくださっている人がいることは嬉しいことなのです。そして、それが続ける励みにもなるのです。

 

別にスピッツファンではなくても、色んな境遇でここに辿り着いた方も居られるかと思いますが、そんなことはどうだっていいのです。

 


私はつまり、”今そこに居るあなた”にお礼が言いたいのです。本当にありがとうございます。

 

 

■しかし、まぁ何が言いたいか、きっとお分かりですね…達成できたことに関しては、大きな節目と考えて間違いないのですが、これらは全て”当時”のお話なのです。

 

”全曲”は常に更新され続けています。それは、スピッツが活動し続ける限りです。スピッツが、草野さんが、もう曲は作らないよ!活動しないよ!と言わない限り、ずっと続いていくのです。私達は、それが出来るだけ長く続いていくことを、願うばかりですが…。

 

大きな節目は大きな節目として嬉しいのですが、スピッツ風に言いますと、まだまだここは”旅の途中”に過ぎないんですね。

 


というわけで…


スピッツ大学、まだ続きます!勝手ですが、まだ書いていきたいことがたくさんありますので、今後ともよろしくお願い致します。

 

 


■では最後に、少し具体的に、これからの予定などを載せておきます。予定は予定ですので、変更・追加はあるかもしれませんので、あらかじめご了承ください。

 


スピッツ全曲研究セミナー

 

先述の通り、シングル『雪風』までの楽曲は、全て紹介したことになりますので、これ以降の楽曲を紹介していきます。

 

それで、ここからは楽曲紹介の順番を、”五十音順”から、”楽曲が発表された順”に変更いたします。そして、アルバム内の曲に関しては、収録順に沿って紹介していきます。

 


スピッツ全アルバム研究セミナー

 

現時点では、4thアルバム『Crispy!』まで紹介済みです。当然、アルバム順に、残り全作品を紹介していきます。


スペシャルアルバム(今のところは、3作品ですかね)は紹介しますが、シングルコレクションについてはどうしましょうか、あまり乗り気ではないですが、ちょっと考えてみます。多分、やらないかな…苦笑。

 


スピッツ大学ランキング企画

 

スピッツ大学ランキング企画においては、目標票数を1000人(6000pt)と設定しておりましたが、実際、まだそれには及びません。しかし、先述の通り、当時の全曲研究セミナーが終わったということで、ランキング企画で選べる全曲も、全曲研究セミナーと同じく【雪風】までで対応していたので、こちらのランキング企画もそろそろ潮時かな、と考えております。


つきましては、近いうちに締切を設けて、最終結果発表をしようかと考えております。また追って報告いたします。

 


以上、①~③は、確実にやり切ることです。

 

 

■以下、その他としては、



④映像作品の紹介

 

これはちょっとで微妙ですね、苦笑。渋っている要因は、ただ単に、私自身が映像作品の紹介が一番苦手だということなんですよ。曲の解説は好きなんですけどね、LIVE映像の紹介は、ちょっとねぇ…って感じです。これまでも、何作品かは紹介させていただきましたが、それはそれで良いとして、改めてコーナー化して全作品紹介する…ということは、正直気が進みません、苦笑。

 

ただし、後述するものと比べると、こちらは一応スピッツ作品に該当するものなので、優先順位としては高く、何ていうか、紹介しないといけないんじゃないか、という感じには今思っているところですが…うーん、考え中です。

 


⑤トリビュートアルバムの紹介

 

スピッツのトリビュートアルバムとしては、現時点では2作品、『一期一会 Sweets for my SPITZ』と『JUST LIKE HONEY ~「ハチミツ」20th Anniversary Tribute~』があります。

 

アルバム『JUST LIKE HONEY ~「ハチミツ」20th Anniversary Tribute~』については、すでに紹介済みですので、過去の記事をご覧ください。


そして、アルバム『一期一会 Sweets for my SPITZ』に関しても、いつか必ず書きます。ただし、こちらに関しては、収録曲を一曲ずつ紹介するのではなく、アルバム一枚単位で、まとめて書きたいと思っています。

 


⑥メンバーが個人で参加した楽曲の紹介

 

一番多いのが、草野さんですかね。最近ですと、椎名林檎トリビュートアルバムに参加しましたよね。あとは…何があるでしょうか、松本隆トリビュートアルバムの【水中メガネ】とか、そんなことを言い出したら、KREVAとコラボした【くればいいのに】とか、平井堅と歌った【わかれうた】はどうなるんだとか…もっと言うと、作詞や作曲で参加した作品はどうするんだ、とかなってしまいますが…苦笑。

 

他のメンバーだと何がありますかね…リーダーが参加しているMOTORWORKSとか、スピッツが演奏を担当しているYUKIの【愛に生きて】とか(これ知ってましたか?なかなか面白いですよ)、色々ありますね。

 

本当にやろうとしたら、それらの作品を全て集めないといけないことになりますね…大変です!まぁ、個人的に好きな曲くらいは(例えば、【水中メガネ】と【愛に生きて】は本当に大好きなんですが)、時々さくっと紹介しても良いかもしれませんね。ただ、大々的にシリーズ物としてやろうとは思ってませんので、そのつもりでよろしくお願いします。

 

(※基本的に、ここスピッツ大学では、当然ながら、”スピッツ楽曲の紹介”に重きを置いています。つまり、前提として、”草野正宗が作詞作曲した作品”ですね。なので、”スピッツの楽曲を他のアーティストがカバーした”は、まだ紹介したいと思うのですが、これが逆に、”スピッツが他のアーティストの曲をカバーした”や”スピッツメンバーが他のアーティストの作品に参加した”などになると、途端に紹介する気がなくなっちゃうんです…。だから、アルバム『おるたな』収録のカバー曲は、ギリギリセーフという感じですね、苦笑)

 


⑦その他のその他

 

まぁ後は、その時その時に、随時考え付いたテーマに沿って記事を書くくらいですかね。最新情報なども、気が向いたら載せたりしても良いんですが…。


あと、何かこんなことを書いてみてはどうですか?などありましたら、コメント頂きたいです。

 


ということで、優先順位としては、④→⑤→⑥→⑦ですが…今のところ、確定なのは⑤ですかね。後のものは、特に絶対やると、ここでは決めません。まぁ、④はともかくとして、どこまでを”スピッツ”とするかですよね。

 

 


■はい、ということで、長々と書かせていただきましたが、何かようやく”今のスピッツ”に、このスピッツ大学も少しずつ追いついてきたな、っていうイメージです。

 

これから紹介する曲は、最近の曲も多くなっていくと思います。次回は、スピッツが久々にMステに出たはいいが、草野さんが歌い出しを間違えてしまった、"あの曲"がいよいよ登場です、笑。

 

スピッツ大学学長 itukamitaniji記

213時限目:あかさたな

【あかさたな】

 

■アルバム『小さな生き物』のデラックスエディション盤にのみ付属された、ライヴDVD/Blu-ray”撮りおろしスペシャルライヴ at 横浜BLITZ”に、ライヴ映像として収録されている曲です。CD音源での発表は今のところなく、現時点ではこのライヴ映像でのみ聴くことができるレアな曲です。

 

このブログでも何度も取り上げていますアルバム『小さな生き物』ですが、改めて紹介しておくと、同アルバムは「デラックスエディション 完全数量限定生産盤」「期間限定盤」「通常盤」の3形態で発売されました。こういう試みは、スピッツにとって初めてのことでした。

 

そして、アルバムの形態により、少しずつ収録内容が違っているんですが、デラックスエディション盤が一番豪華な内容になっています(それだけに値段も少し張りますが…)。件の【あかさたな】や、前講義(212時限目)で紹介しました【エスぺランサ】についてもそうですが、このデラックスエディション盤でしか聴くことが出来ないので、よりたくさんの新曲を聴きたい方は、こちらを購入することをおすすめします。

 


■さて、【あかさたな】という曲。

 

まず、一聴するだけで感じますが、「これぞスピッツ!」っていう感じですよね。個人的に、この歌は”ラブソング”に大別されるかと思っているんですが、明るくてかわいらしくて、それでいて、かっこいいという、まさにスピッツ流のラブソングだと思います。

 

アルバム『小さな生き物』の中だと、【オパビニア】や【エンドロールには早すぎる】や【潮騒ちゃん】などの曲が入っていますが、それらと何の遜色もない、何なら、どれかと収録内容が入れ替わっていたとしても、全然違和感が無かっただろうなって感じです。

 

というより、今回の【オパビニア】【エンドロールには早すぎる】【潮騒ちゃん】そして【あかさたな】は、ラブソングだという解釈に基づき、どこか世界観がつながっているような感じがするんですよね。まぁ同じ時期に作られた曲なので、そういうところはあるかもしれません。

 


例えば、歌われている物語の舞台として、どの曲にも”海”の風景が見えてくるんですが、どうでしょうか。

 


あかさたな 浜辺から 陸に上がってからは
怖がりですり傷だらけさ

【あかさたな】の出だしの歌詞

 


二人浜辺を 歩いてく
夕陽の赤さに 溶けながら

【エンドロールには早すぎる】のサビの歌詞

 

ご覧の通りですが、どちらにも、”浜辺”という言葉が出てきます。

 

それから、【潮騒ちゃん】は、もうタイトルが一番海っぽいんですけど、この歌詞にも”沖”という言葉が出てきますし、【オパビニア】も、これは太古の海に生息していた生物の名前が曲のタイトルになっています。

 


■その中で、【あかさたな】という歌は、個人的には、今まで恋愛に消極的で居た主人公が恋に落ちて、その相手に自分の気持ちを伝えようとしているようなシーンが浮かんできます。

 


あかさたな 浜辺から 陸に上がってからは
怖がりですり傷だらけさ
プライドのかけらなど よせ集めて得意気
笑われる事にも慣れてった

 


ほら全然ライブな手が 届きそうな距離で
今生のうちに会えた ハニー 気づいてる?

 

それぞれ、先程紹介した出だしの歌詞と、サビの歌詞の一部分です。

 

前半の4行は、恋愛に臆病だった、消極的だった主人公が、閉じこもっていたところから這い出てくる、まさにその時の描写のように読めます。ここでいう”浜辺”とは、まぁ”浜辺”というと”海”がセットだと考えると、”海”は主人公が閉じこもっていた場所の比喩表現として、そこから這い出た場所を”浜辺”と表現しているのだと読むことができます。

 

あるいは、”陸に上がってからは”という表現から、何ていうか生物的な進化と、人間的に新しい一歩を踏み出したことをかけているとも読めますかね。その辺りは、先ほど紹介した【オパビニア】にも通ずるものを感じます。

 


別に、前半4行ならば、恋愛に限らず、とにかく自分が閉じこもっていた場所から踏み出そうとしている描写になりますが、ここから、後半2行のような表現を読むと、それが恋愛の力によるものだったと考えることができそうです。

 


さあさあ行きましょう あそこが 消えちゃうより前に
人間になれたベムのフィーリング わかるかな?
残念知らないままで 通り過ぎるとかイヤでしょ
ずっとそばにいるからベイビー もう泣かないで

 

この辺とかも、面白い歌詞ですよね、”人間になれたベムのフィーリング”とかね、笑。恋に落ちたことをきっかけに、閉じこもっていた人間が変わろうと頑張るというのは、スピッツの歌によく出てくる描写だと思いますが、この歌はその王道って感じです。この部分は、【りありてぃ】にも通じる部分を感じます。

 

(※ちなみに、”ベム”とは、”妖怪人間ベム”のことですよね。昔やっていたアニメのタイトルであり、そのアニメの主人公の名前でもあります。あまりにも、昔のアニメなので、おじさんである僕も知らないんですけどね、苦笑。)

212時限目:エスペランサ

エスペランサ】

 

■アルバム『小さな生き物』に収録されている曲です。ただし、当曲が収録されているのは、アルバムのデラックスエディション盤のみなので、聴きたい方はご注意を。アルバムの最後に入っていますが、一応”Bonus Track”という扱いになっています。

 

エスペランサ”という言葉自体は、スペイン語で”esperanza”と書き、意味は”希望”だそうです。

 

このブログでも、アルバム『小さな生き物』と、東日本大震災の関連についてずっと書かせていただいておりますが、そんなアルバムの最後に(ボーナストラックではありますが)、”希望”を意味する曲が入っているのは、何か意味があるのではないかと勘ぐってしまいます。「最後に残るのは希望」「希望をもって諦めずに生きていこう」という想いが込められていると、勝手ながら思わざるを得ません。

 

ちなみに、スピッツとスペイン(語)に、何か関係があったのかと探してみると、映像作品『ソラトビデオ COMPLETE』に収録されているボーナスディスクにおいて、スピッツがスペインに撮影旅行に行ったことは確認できます。おそらく時期としては、アルバム『とげまる』発売の前あたりでしょうか。ただし、”エスペランサ”という言葉との関連は不明ですけどね…苦笑。

 


■とりあえず一旦、曲のタイトルや歌詞は置いておいて、曲を聴いてみると、ちょっと懐かしい感じなんですよね。

 

何ていうか、白昼夢というか幻というか、そういうのを見ているような、不思議な心地を感じる曲なんです。昔の曲ですけど、【プール】とか【アパート】とか、そういう系統の最新曲というイメージです。

 


ギターの音は三種類聴こえてきますかね…アコギの音と、イントロなどに鳴っているちょっと気の抜けたような音と、鐘の音のようなギターの音と…。

 

メロディーにも抑揚は無くて、Aメロ(同じメロディーの繰り返し)とサビ(ウーウーウーという歌詞の無い部分)のみという構成になっています。

 

あんまり、そんな目立った曲ではないですけどね、あくまでボーナストラックですので、アルバムの最後はしっかり、【僕はきっと旅に出る】で締めくくられ、その後にひっそりと入っている感じです。

 


■さて、じゃあ歌詞の解釈はどういう感じになるんでしょうか。どういうことを歌っているのでしょうか。

 


まず、出だしの歌詞が結構変わってますよね。こんな感じです。

 


カモメにだって 悩みはあって
無理のない程度に 話してみよう
同じようなこと 僕にもあるよ

 

いきなり、”カモメにだって 悩みはあって”という言葉が出てきて、”カモメ”という言葉が何かを象徴しているのかなって考えてしまいます。

 


僕ら人間は、”空を飛ぶこと”を”自由の象徴”のように考えますよね。地を這ってしか生きることができない人間にとって、何の障害もない(ように見える)空を飛ぶことはいつだって憧れであり、自分たちの人生と対比させて、自由なことと考えるかもしれません。

 

”空を飛ぶ”というと、もちろん虫や雲や、人工的なものだと飛行機なんかも連想するかもしれませんが、やっぱり”鳥”ですかね。翼を羽ばたかせて、風に乗って高い空を自由に飛んでいる鳥の姿を、自然と思い浮かべるんじゃないかと思います。

 


で、”カモメにだって 悩みはあって”というフレーズですが、個人的な解釈ですけど、そんな風に自由に空を羽ばたくことができる(と勝手に僕らが思っている)カモメにだって悩みはあるんだよ、と歌っているということで、ここはつまり、悩みがないように生きている人にだって、実際は、その人なりに悩みを抱えて生きているんだよ、ということを比喩しているのかなと思いました。

 

まぁ、「隣の芝生は青い」じゃないですけど、自分と比べて順調に生きている(ように見える)人にだって、悩みはあるよと、そういうことを歌っているのではないでしょうか。

 

そして、そこから”同じようなこと 僕にもあるよ”というフレーズに繋がっていきますが、”同じようなこと”というのは、先述の”カモメ”の話だと思われます。つまりは、悩みが無いようによく思われるけど、僕にだって悩みはあるよ、ということでしょうか。

 


■それから、もう一つこの歌詞の中に出てくる言葉として印象的なのが、”ガラスの玉”という言葉です。何度も出てくる言葉で、これも何かを象徴しているのかなと考えます。

 


ガラスの玉は 割れそうで割れず

 


みんなの想定より 弱いと思う
ガラスの玉が 坂を転がる

 

こんな風なフレーズで出てきます。

 


まず考えたのは、”カモメ”との対比です。つまり、この”ガラスの玉”は、我々”人間(の命や人生)”を表しているのではないか、と考えたのです。

 

特に、”ガラスの玉が 坂を転がる”なんて表現は、まさに僕らの人生を例えているように思えますよね。何ていうか、僕らの力だけでは、どうすることもできないことがあって、ただ坂を転がっていく=流れに任せるだけみたいなところがある、ということなんですかね。

 

さらに、”みんなの想定より 弱いと思う”というフレーズもくっついていますからね。これは、”ガラスの玉”にかかっている言葉なんでしょうか。さらにいうと、アルバムタイトルの”小さな生き物”にもつながっているようなフレーズですよね。まぁ、ここは読んでの通り、みんなが(僕らが)思っている以上に、人の命ってもろくて弱いんだよ、ということなんでしょうか。

 


あとは、草野さんは、丸いものを”死”の象徴として考えているような節があり、ともすると、この”ガラスの玉”も、そういう”死”の象徴のひとつとして使っているのかもしれません。

 

”ガラス”っていうのが、また余計に意味ありげなんですよね。”ガラスの玉は 割れそうで割れず”という表現もありますが、”ガラス”というものは、割れるものでも、透明で透けて見えるものでもありますからね。

 


■ということで、うまく説明はできないですけど、この歌で切り取っているのは、あの出来事の後の世界で、物思いにふけっているような、そういうシーンでしょうか。

 

順調に生きているようでも、誰もが悩みを抱えていて、いつ何が起こるか分からないような世界で(これはあの出来事の後だから余計に考えてしまいますが)、生きているというより”生かされている”というような状況…何かこう書くと、悲しいことのように思えるかもしれないけど、結局それが、この世の中の一つの真理なんですよね。

 


ただ、この歌には、”エスペランサ(希望)”というタイトルがつけられています。先述のようなことはあるけど”希望”を持って生きていこう…というより、だからこそ”希望”を持つべきなんだと、そういう方がしっくりきますかね。

 

どうですか、この歌から、”希望”を感じますか?

211時限目:リコシェ号

リコシェ号】

 

リコシェ号

リコシェ号

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■アルバム『惑星のかけら』に収録されているインストゥルメンタル曲です。個人的ランキング、195曲中143位でした。

 

ちなみに、この曲で以って、スピッツインスト曲3曲を紹介し切りましたが、個人的インスト曲ランキングを発表すると、

 

第1位 リコシェ
第2位 宇宙虫
第3位 scat

 

に…たった今、なりました。どうですか皆さん、スピッツのインスト曲、好きですか?ちなみに、武道館ライヴの映像作品では、オープニングで、全部をメドレーにしてつなげたのを聴くことが出来ます。

 


■さて、【リコシェ号】。

 

作曲は三輪さんです。元々は歌入りだったそうですが、結局インスト曲になっています。ただ、歌詞カードには記載されていませんが、サビ(?)に、

 


ゴーゴーゴー リコシェ
ゴーゴーゴー リコシェ
ゴーゴーゴー リコシェ
オーイエー

 

というボーカル…というより、コーラスが入っています。

 


あと、この”リコシェ”という言葉についてですが、僕はてっきりまた造語かなと思っていたのですが、英語で”Ricochet”と書き、跳飛、跳弾(石や銃弾などが跳ね返ること)という意味があるようです。

 

ただまぁ、”リコシェ号”ですからね、”リコシェ”という言葉自体の意味よりも、マシンの名前のようなイメージですけどね、そういう意味では、やはり造語なのかもしれません。

 


■曲のイメージとしては、リコシェ号がワープ空間を通って飛んでいくという感じです。リコシェ号のイメージは、飛行機や自動車というよりは、スペースロケットみたいな感じでしょうか、

 

曲の始まりで、”チュイーーーン”という音が鳴って(ワープ空間に入った)、そこから曲が盛り上がっていき、常にバックで”ギューーーン”、”ギュワギュワギュワギュワ”という音が鳴っていて(絶賛ワープ中)、曲のアウトロも”ピロピロピロピロ”という音がフェードアウト(飛び去って行くリコシェ号)していく感じです。

 

擬音ばっかり…これ以上は歌詞にできない、苦笑。

 


■アルバム全体で聴くと、この【リコシェ号】が最後に入っているので、アルバムのエンドロールみたいな感じです。

 

アルバム『惑星のかけら』の記事などでも書かせていただきましたが、個人的にこのアルバムは全体で、短編小説集(あるいは、短編映画集)のようなイメージなんです。

 

【惑星のかけら】がオープニング、本の表表紙、そこからのアルバムの曲たちがひとつひとつのお話で、最後の【リコシェ号】でエンディング、本の裏表紙…という流れですかね。

 


また、アルバム『惑星のかけら』自体が、草野さんの妄想世界を色濃く表した作品であるので、”リコシェ号”に乗って、その妄想世界を縦横無尽に飛び回って旅しているイメージです。

 

妄想の象徴(中枢)が、”惑星(のかけら)”だとも僕は書きましたが、そこへ向かって飛んでいる、ともイメージできますかね。

210時限目:scat

【scat】

 

scat

scat

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■アルバム『小さな生き物』に収録されている、インストゥルメンタル曲です。

 

wikiの情報などをそのまままとめてみます。

 

まず、スピッツのインスト曲としては久々で、アルバム『ハヤブサ』に収録されている【宇宙虫】以来、実に13年ぶりだそうです。合わせて、草野さん作曲のインスト曲が収録されるのは初めてのことです。(これまでのインスト曲は、他メンバー作曲によるもの)

 

曲のリズムは、7拍子と8拍子がコロコロと入れ替わる、ちょっと変わった変拍子になっています。そこに、インスト曲とはいったものの、タイトルの”scat”という言葉の通り、途中から草野さんのスキャットが入ってきます。そのスキャットの一部分が、”アイーン”に聴こえると話題になりました…個人的に、苦笑。

 

スキャット / scat … 主にジャズで使われる歌唱法で、意味のない音(例えば「ダバダバ」「ドゥビドゥビ」「パヤパヤ」といったような)をメロディーにあわせて即興的(アドリブ)に歌うこと。

 


■さて、アルバムにおけるインスト曲の役割って、色々あると思うんです。例えばアルバムの最初や最後に持ってきてプロローグやエピローグ的な役割をしたり、次の曲につなげることによって一つの大作のように仕上げてくれたり、単にそのインスト曲自体がアルバムの中でひとつのアクセントになっていたりと…。

 

そこへ来て、この【scat】の役割はどういうものでしょうか。ロックで攻めたインスト曲になっていますが、この曲でガラッとアルバムの雰囲気を変える役割というものでもなくて、アルバムに自然に溶け込んでいる感じなんです。

 


アルバム『小さな生き物』の全体的な解釈自体が、ここスピッツ大学では、ずっと東日本大震災との関連で書き続けてきましたが、またそれと多少無理矢理にでも意味を関連付けるとすると、この【scat】は、言葉にならない生命の叫び、と言ったところでしょうか。

 

失われた命への鎮魂の想い、残された命の咆哮、そして、新しく生まれてくる命の産声など、そういう、言葉にならない声を、この”scat”に託しているのかもしれません。

209時限目:宇宙虫

【宇宙虫】

宇宙虫

宇宙虫

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■アルバム『ハヤブサ』に収録されている、インストゥルメンタルの曲です。作曲は、ギターの三輪徹也さんです。読み方は、そのまま”ウチュウムシ”と読みます。

 

歌詞カードのクレジットによると、この曲には、どうやら三輪さん(guitar, programming)と、本アルバムのプロデューサーの石田小吉さん(Some Electronic Devices)のお二人の名前しか表記してないですので、お二人のみでの演奏になっているんですかね。

 

あるいは、アルバムのプロデュースは、先述しました石田小吉さんなのですが、この【宇宙虫】のみ、プロデュースが”SCUDELIA ELECTRO”名義になっています。調べてみますと、SCUDELIA ELECTROは、石田小吉さんをリーダーとした音楽ユニットであり、スピッツの田村さんや、あとドラムに向山テツさん(個人的に、斉藤和義Coccoのサポートで、ドラムを叩いていたのを見たことがあります!)もサポートメンバーとして所属しているようです。

 

なので、【宇宙虫】には、プロデュースはともかく、演奏などにもこのユニットが関わってるのかもしれません。

 


■ということで、インスト曲の紹介ですか…難しいですね、苦笑。

 

完全に、タイトルに引っ張られる部分もあるのですが、宇宙っぽい広がりを感じる曲ですよね。まぁ、タイトルに”宇宙”という言葉が使われていなくても、おんなじことを感じたと思います…多分。

 

小吉さんが”Some Electronic Devices”…つまりは色んな電子楽器の演奏で参加しているということで、バンドサウンドというよりは、テクノ…とまではいかないものの、電子的な音が響いて聴こえてきます。

 

なので、個人的なイメージとしては、宇宙は宇宙でも、いわゆる本物の星空を見上げている光景というよりは、”プラネタリウム”が思い浮かびました。椅子に座り、電気が消えた真っ暗な中で、頭上のドームを見上げる。すると、今まで真っ暗だったところに、星空が映されて、アナウンスが始まる…「あの星座は、○○座です」「あの星は、○○という名前です」など。そんな場面で、【宇宙虫】が流れていたら、すごく似合うでしょうね。

 

あるいは、”虫”の方に引っ張られると、”ホタル”なんかもイメージされます。ちょうど、同アルバムに【ホタル】という曲もありますが、暗闇の中に、幻想的にホタルが漂っている光景なんかも浮かんできます。

 


…という具合に、インストの曲は、抽象的なイメージでしか語れないので、あしからず、苦笑。

 


■さて、この”宇宙虫”というタイトルについてです。

 

どういう意図で付けたのかは、本当のところは定かではありません。結局のところは、タイトルが先行か、それとも音源が先行かは分かりませんが、この音源にこのタイトルは、とても似合っていますね。

 

ちなみに、水木しげる先生の漫画に、”宇宙虫”という架空の生き物が出てくるお話があるのですが、これとの関係はどうなのでしょうか?どうなんでしょうね、笑。

208時限目:ワタリ

【ワタリ】 

ワタリ

ワタリ

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■アルバム『スーベニア』に収録されている曲です。個人的ランキング、195曲中15位でした。かなり、高順位に位置しています。

 

僕は、アルバム『スーベニア』が本当に好きで、全部のアルバムの中でもベスト3には入ります。そして、その収録曲の中だと、とりわけロックな曲が好きなんですよね。個人的ランキングですと、10位【会いに行くよ】、15位【ワタリ】、16位【みそか】、25位【ほのほ】という感じです。

 

特に、【ほのほ】→【ワタリ】の流れは、本当にかっこいいですよね。アルバムの中だったら、この2曲が一番好きですかね。ロックはロックなんですけど、すごくドラマチックというか壮大というか。この辺りの曲は、ロックなスピッツをそこまで知らない人からしてみると、きっと驚くと思います。

 


■ということで、曲に関するネタも得られませんでしたので、早速曲の解釈を書いてみたいと思います。

 

まず、すごく疾走感を感じるカッコいいイントロから曲が始まるんですけど、最初から何となく、あせらされる感と言いますか、何かに追い立てられているような切迫感を感じます。Aメロなんかも、ボーカルにエフェクトがかけられていて、歌っている音程も抑揚がなくて、何か信号的(?)に聴こえてきます。

 


では、歌詞を読んでいってみます。出だしは、こんな歌詞から始まります。

 


誰のせいでもねえ すべて俺のせい
可笑しいほど白い花を手に持って
誰のせいでもねえ すべて俺のせい
マジメ過ぎただけ 君が見た夢

 

まず、”俺”という人物が、自分のことを執拗に責めています。何かが起こってしまったのが、自分のせいなんだと、しきりに言っています。

 

それに関連するワードが、”マジメ過ぎただけ 君が見た夢”ですかね。”君”という人物が居ること(居たこと)を示していますが、ここの歌詞だけでは、何を指し示しているのかは、うまく読み取れません。

 

そこで、この二つの話をつなぎ合わせるのが、”可笑しいほど白い花を手に持って”というフレーズですよね。ここらへんから、どんな物語が想像できますかね。僕は実は、2つの物語を想像したんですが、どちらかに決められなかったんです…ちょっと紹介してみますね。

 


■一つ目。
「夢を追うために遠くに旅立ってしまう、君に会いに行くという物語」

 


この歌のサビの歌詞は、こんな風になっています。

 


心は羽を持ってる
この海を渡ってゆく

 

それでも掟を破ってく
黒い海を渡ってゆく

 

ちなみに、タイトルの”ワタリ”とは、ここに”この海を渡ってゆく”とあるように、まぁ読んで字の通りですが、”俺”と”君”の間を阻んでいる海…”海”は何かの比喩かもしれませんが…を渡っていくという意味合いで、”ワタリ”=”渡り”ということになるかと思います。

 

あと、Bメロに”もう二度と会えない そんな気がして”というフレーズも出てきますが、これらと出だしの歌詞をつなぎ合わせて考えた物語が、「夢を追うために遠くに旅立ってしまう、君に会いに行くという物語」でした。

 


”君”は何か夢を持っていました。どうしても叶えたい夢です。それをマジメ過ぎただけ、という表現をしているのは、きっと”俺”との対比だと思います。”俺”は、”君”の夢を応援していなかった、マジメな”君”をよそに、”君”とのことをマジメに考えていなかったと。

 

そういうことに愛想を尽かせてしまって、”君”は”俺”と別れて、自分の夢を叶えるために旅立つことを決心します。どこか異国の地でしょうか、とにかく今の自分の生活や”俺”を捨てて、夢のために旅立つのです。

 

そういうことで、”俺”は取り残されました。この辺の心情は、2番のAメロの電車の下りで表現されているのでしょうか。何となく、毎日電車に揺られるだけの、単調なものになってしまったと読みとれます。

 

遠くへ旅立ってしまった”君”に、もう二度と会えないんじゃないかと思うようになり、そこへ来てようやく、”俺”は、自分にとって”君”がどんなに大切な人であったか気付くわけです。しかも、そうなってしまったのは、”君”とのことをマジメに考えなかった自分のせいだとも思うようになります。

 

ということで、”俺”は決心するのです。もう一度まっさらな気持ちを持って(”白い花”と表現しているか)、色んなしがらみを越えて君に会いに行こうと(”黒い海”や”掟を破って”などに該当か)。

 


■二つ目。
「死んでしまった君に会うために、自分も命を絶ってあの世に君に会いに行くという物語」

 

やっぱり、こうなっちゃいますよね、苦笑。

 


これは、一つ目の物語と変わらない部分もありますが、一点大きく違うのが、”君”は、夢を叶えるために遠くへ旅立ったのではなくて、夢を叶える志半ばで亡くなってしまったという出来事から始まる物語、というところです。

 

”君”が亡くなったのは、事故か、それとも夢の重さに耐えきれずに自ら命を絶ってしまったのか、それは分かりませんし、どちらでも成り立つように思いますが、少なくとも、”マジメ過ぎただけ”や、”誰のせいでもねえ すべて俺のせい”という表現からは、何となく後者のように思えますね。

 

例えば、先程と同様に、”君”とのことを”俺”はマジメに考えていなかったと。そういうところから、”君”は自分の夢のプレッシャーに耐えきれずに、自ら命を絶ってしまったとも考えられそうです。

 

そういうわけで、”俺”は罪の意識に苛まれてしまって、”君”と同じように、自ら命を絶つと…何とも悲しい物語になってしまいますが。

 


こっちの解釈で進めると、もう少し歌詞を当てはめることができそうです。

 

”白い花”…墓前や仏壇に供える花のことでしょうか。

 

”心は羽を持ってる”…心だけ羽を持っていたって、空を飛べるわけありません。これは、飛び降り自殺とか、その後の魂の昇天を表しているのではないでしょうか。

 

”黒い海”…この世とあの世を阻むものを海と表現しているのかもしれません。”黒い”のは、”白い花”との対比か、それともそういうイメージとして表現されているのか。

 

”掟を破ってく”…他でもない、”掟”とは”生きること”だということですかね。人は全うに生きていかなくちゃいけないものだと…それを”掟”と表現したとすると、この解釈の通り、自ら命を絶つという意味に繋がりそうです。

 


あとは、まぁここまでも飛躍した解釈かもしれませんが、さらに飛躍させるとすると、”誰のせいでもねえ すべて俺のせい”については、”俺”が事故を引き起こしたせいで(例えば自動車事故とか)”君”が亡くなってしまったとか、もっといくと、”俺”が”君”を殺めたということにつながるかもしれません…。

 


■まぁ、両方の解釈の共通点としては、やはりタイトルにもなっている”ワタリ”、つまり”渡る”という言葉と、”俺”と”君”の関わりですかね。

 

とにかく、大好きな曲ですよ!

207時限目:若葉

【若葉】

若葉

若葉

 

■34作目のシングル曲です。アルバムとしては『とげまる』に収録されました。個人的ランキング、195曲中119位でした。

 

【若葉】は、2008年に公開された、映画「櫻の園-さくらのその-」の主題歌になりました。スピッツの映画主題歌としては、これは映画「ハチミツとクローバー」(2006年)の主題歌となった、【魔法のコトバ】以降2年ぶりのことだったそうです。

 

ちなみに、この頃のスピッツはタイアップが非常に多く、アルバム『とげまる』には、【若葉】を含めた7曲が、CMや映画や舞台の挿入歌(はタイアップには入らないか?だったら、6曲か)何かしらのタイアップになっています。

 


■ところで、この「櫻の園-さくらのその-」という作品ですが、僕自身は見たことがありませんので、作品についてはネットで調べてみました。付け焼刃的な説明で申し訳ないですが、紹介しておきます。

 

原作は、吉田秋生さんとい女性漫画家の方がお描きになった、80年代の漫画「櫻の園」という同名の漫画です。90年代にも、一度映画化されているらしくて(1990年版)、今作の映画化は2回目であるようです(2008年版)。

 

2008年版については、物語を一新しているようですが、内容としては、女子高の演劇部を舞台とした青春ムービーであるようです。タイトルになっている”櫻の園”とは、映画の中で大きなテーマとなっている、演劇部の演目であるチェーホフの戯曲「桜の園」から取られたものだと思われます。

 

…と調べていて、吉田秋生さんってどこかで聞いたことあるなぁって思っていたのですが、この方は「海街diary」を描いた方だったんですね。多分、そこで見たのを微かに覚えていたんだと思います。

 


■さて、【若葉】についてです。率直な感想、とてもきれいな曲です。

 

wikiにもありますが、1番は弦楽器隊の演奏と草野さんのボーカルのみで構成されていて、草野さんの弾き語りが楽しめます。そして、2番からドラムとベースが加わってくるという、これはスピッツのシングル曲としては初の試みなんだそうですね。

 

ちなみに、この曲にはマンドリンという楽器(小さい8弦ギターのようなもので、高音がきれいな弦楽器)が使われていて、1番の草野さんのアルペジオに合わせて美しい音が響いています。

 

このマンドリンは、レコーディングでは、シングルのクレジットによるとギターの三輪さんが弾いているようですが、LIVEでは、ベースの田村さんがマンドリンを弾いていました。この様子は、『さざなみOTR』の映像作品にて確認することができます。リーダーがマンドリンを弾いた後、途中でベースに持ち替えるという、ちょっと珍しいものも見ることができます。

 


■シングル『若葉』については、ネットにインタビュー記事がありましたので、紹介・引用させていただきます。”チケットぴあ”におけるインタビューです↓

( URL : http://www.pia.co.jp/interview/7/index.php

 

詳しくは読んでいただくのが良いとして、少し触れてみますと、【若葉】を”スタンダードな曲”(いわゆるスピッツらしい標準的な曲)としながらも、色々試した曲であると、メンバーが語っています。

 


草野「たぶんね、俺らって好きなものが多くて、やってみたいことがまだまだいっぱいあるんですよ。でね、意外と流行を気にしてて、それを取り入れたりするんだけど、気づいてもらえなかったりして(苦笑)」

 

田村「でも、その気づいてもらえなさ加減っていうのが、なんか俺らっぽいんだと思うよ」

 

草野「うん。だから長くやってこられたんだと思う。何をやっても結局スピッツにしかならないっていう着地点がある。でも、何でも試してみたいんだよね、着地点がそこにあったとしても。それがなくなったら、やっててもつまんないんだろうなぁ」

 

田村「だから、『若葉』もスタンダードな曲ではあるけれど、いろんな楽器の組み合わせを考えると、実はスタンダードな曲の中でおもしろいことをやってる曲で。たぶん、こういうタイプの曲だとストリングスが入るアレンジが正統なんだろうけど、ストリングスは入ってないんだよね」

 

草野さんがここでも語っている、”何をやっても結局スピッツにしかならない”という言葉は、色んなところでスピッツメンバーや関係者が語っていますね。もちろん良い意味で、どんなに珍しい曲を作っても、その時は「おっ!新しい!」と思ったり、時には違和感を感じることがあっても、何故か結局それもスピッツらしさになっちゃうんですよね。

 

まぁ、それは他でもない、草野さんのボーカルと詩の世界観による部分が大きいかなと思います。

 


■ということで、【若葉】がどういうことを歌っている曲なのか、考えてみたいと思います。

 

まず、先述の通り、この曲は映画「櫻の園-さくらのその-」の主題歌として作られた曲です。先程のインタビューの記事の中で、草野さんが語っておられることによると、曲自体が映画の内容にそんな沿っているわけではなさそうです。映画の内容を”何となく頭の片隅に置きつつ”作られた曲であるとしつつ、”櫻が散ったあとは若葉だなってイメージで作り始めました”とのことです。

 

映画の内容が、ざっくりと学園の青春劇だということもあり、そういうイメージが膨らんでくる歌詞だと思います。ただ、青春真っただ中、というよりは、全体的に読んでみて、この曲からは何となく、そこからの”旅立ち”みたいなイメージを受け取りました。

 

まぁ、あえて”旅立ち”としなくても、青春時代の素敵な思い出を振り返りつつも、そこから離れていく(離れていかなくちゃいけない)ような、そんなシーンが思い浮かびます。

 

ちなみに、”若葉”というと、草野さんも語っている通り、桜の季節の後って感じがしますので、時期的には4月~5月ってところでしょうか。だから時期的にはちょっとずれていますけど、つながりを考えると、青春が終わって、そこからまた一人一人が新たな道へと進んでいくという意味では、”卒業”というイメージも想起します。

 


■まぁとにかく、色々とイメージしながら歌詞を読んでいくのですが、この歌詞が本当に美しいんです。もう草野節満載の名言の宝庫なんですよ。ちょっと紹介してみますね。

 



忘れたことも 忘れるほどの 無邪気でにぎやかな時ん中
いつもとちがう マジメな君の 「怖い」ってつぶやきが解んなかった

 

2番のAメロです。”マジメな君の 「怖い」ってつぶやきが解んなかった”というところが秀逸だなって思うんです。

 

明確な意味は分かりませんが、僕のイメージとしては、これは”別れ”が近づいている季節に、逆に、楽しくみんなではしゃぎ回っていることに対して「怖い」と、いつもと違うトーンで君がつぶやいたという印象です。今は今で楽しいんだけど、もうすぐ別れてしまうんだよね、寂しいね…という感じを思い浮かべました。

 

気持ちは分かります。こういう時って、何かわざとらしくなっちゃうんですよね。誰もが、もうすぐ来る”別れ”を少しずつ意識しているはずなんだけど、ちょっと恥ずかしくなっちゃくくらいの思い出作りに専念する感じを思い出します。

 



暖めるための 火を絶やさないように
大事な物まで 燃やすところだった

 

先述のAメロから続く、2番のBメロの歌詞です。

 

ここもすごく独特ですよね、色んな意味に捉えることが出来そうです。うまく説明出来そうにありませんが…苦笑。

 

”暖めるため”とは、きっと思い出を忘れないように、その灯を絶やさないように…という意味合いに捉えました。そうすると、”大事な物”とはなんでしょうか。僕としては、ここは”未来”や”夢”を指しているのかな、って思ったりしました。思い出は思い出で美しいし、忘れたくないので、ひっそりと暖めていくんだけど、その思い出に縛られて、これからくるであろう素晴らしい未来をほったらかしにしないように、という感じに捉えましたが、どうでしょうか。

 



思い出せる すみずみまで
若葉の繁る頃に 予測できない雨に とまどってた
泣きたいほど 懐かしいけど ひとまずカギをかけて
少しでも近づくよ バカげた夢に
今君の知らない道を歩き始める

 

で、最後の大サビにたどり着きます。ここに、タイトルにもなっています、”若葉”という言葉が出てきています。具体的には、”若葉の繁る頃に”という言葉で出てきますので、この歌の主人公にとっては、卒業のシーズンというよりは、もうその先に進んでいて、卒業のシーズンを思い出しつつ、まさに新しい日々へ旅に出ようとしている、そんなシーンの方が相応しいと思います。

 

”少しでも近づくよ バカげた夢に”…ここを”バカげた”としているのが、草野節なのでしょうか。何ていうか、若気の至りから、ちょっと無謀な夢でも見ていたりするんでしょうか。

 

”今君の知らない道を歩き始める”…こういうフレーズで、しんみりとこの曲は終わり、何か余韻のようなものを残していきます。これから歩いていく道は、君と離れて進んでいく、僕だけの新しい物語が待っている道であると、ここからも”別れ”や”旅立ち”のシーンが浮かんできます。

 


■あとは、この歌に”君との死別”という解釈を当てはめたりもしてみました。

 

ここでいう”別れ”とは、”卒業”ではなくて”死別”だということですね。君が「怖い」とつぶやいたのは、自分の死期が近づいているからだとか、”君の知らない道”なのは、もう君は亡くなってしまって、主人公が一人で歩いていく(しかない)道だということだとか、色々と妄想しました。

 

しかし、この歌が映画の主題歌であったことや、他の部分の歌詞の雰囲気から、それはあんまり相応しくないのかなと、あんまりしっくりきませんでした。なので、僕の解釈としては、”卒業”からの、新しい日々への”旅立ち”というところで留めておきます。

 

youtu.be

206時限目:Y

【Y】


Y

Y

 

■アルバム『ハチミツ』に収録されている曲です。個人的ランキング、195曲中78位でした。

 

曲名の読み方は、アルファベットをそのまま”ワイ”と読みます。ちなみに、スピッツの楽曲で、アルファベット一文字のタイトルは、今のところ、【Y】と【P】の2曲です。

 

比較的明るい収録曲が多いアルバムだからこそ、印象に残るバラードですよね。少し寂しげでしんみりと、しかし壮大でしっかりと、このアルバムの中に、ワンポイントで目立っています。草野さんの、高らかなボーカルが存分に堪能できる、名バラードだと思います。

 


wikiの情報によると、この”Y”というタイトルには、「道が分かれるという記号的な言葉で別れの意を含むが、メンバーによると他にも様々な意味があるという」とあります。

 

その説明の通りイメージしてみるならば、いわゆる”Y字路”が思い浮かびますね。今まで一本道を歩いてきて(Yの下の部分)、あるところで左右に道が分かれている(Yの上の部分)という景色です。

 

他には、僕は個人的にはずっと、鳥が翼を広げて羽ばたいている姿も想像していました。これは、この歌の中に、”鳥”というフレーズがでてくるので、そこから想像していたんですけど、まぁそうなると、Yの下の部分が少し余分なんですよね。

 

いずれにしても、”別れ”という表現があるように、今居る場所や一緒に居た人の元を離れていくようなイメージです。

 


合わせてwikiには、「途中で阪神・淡路大震災があったため、応援の意味をこめて前向きな歌詞となった」という記述もありました。

 

このブログで、【ロビンソン】の紹介記事を書いた際にも、阪神・淡路大震災のことに触れさせていただきましたが(【ロビンソン】をレコーディングした日が、まさに被災日になったというお話…詳しくは記事をご覧ください)、アルバムが発売になった1995年は、大震災の他にも、地下鉄サリン事件もあったりして、日本中が恐怖と悲しみに包まれた年でした。

 

【Y】や、ひいては、アルバム『ハチミツ』は、そんな日本を応援する気持ちがこもった作品だったのです。

 


■さて、じゃあ【Y】がどんなことを歌っている曲なのか、解釈してみます。

 

先述したように、”Y”という形から、”別れ”というイメージを浮かべます。ただ、”別れ”と言っても色々な形があるわけで、死別などの悲しい別れもあれば、(離れてしまうことに寂しさを感じるけど)お互いの想いを尊重し合った前向きな別れもあると思います。

 

この歌はどうでしょうか。

 



小さな声で僕を呼ぶ闇へと手を伸ばす
静かで 長い夜
慣らされていた 置き去りの時から
這い上がり 無邪気に微笑んだ 君に会うもう一度

 


やがて君は鳥になる ボロボロの約束 胸に抱いて
悲しいこともある だけど夢は続く 目をふせないで
舞い降りる 夜明けまで

 

何となく、この辺りから想像が膨らみますが、つかめそうでつかみにくい歌だなという印象です。”僕”と”君”が出てくるので、必然的に”僕と君の別れの物語”を想像しますが、具体的にはどういうストーリーがイメージできますかね?

 


■まず、最初の4行を読んだ時に、個人的にはまず、”君”に先立たれた”僕”が後追いををしようとしている状況を想像しました。

 

”小さな声で僕を呼ぶ闇”とは、まぁこれは文字通りですけど、自分の周りを”暗闇”で取り囲まれているイメージですね。そして、その暗闇の中から、自分のことを呼ぶ声が聞こえると…暗闇なので、その声の主の姿は見えていないということになります。

 

そこから、”慣らされていた 置き去りの時”へと続いていくわけですが、置き去りにされているのは、”僕”であると考えます。ここに、”慣れた”ではなく、”慣らされていた”という言葉があるのも、考えさせられます。決して前向きには読めない感じで、どこか受け入れるしかない状況、そういうものだと思うしかない状況を思い浮かべました。

 

じゃあ、誰に・何に置き去りにされたのかと考えていた時に、必然的に”君”に置き去りにされたのかな、と繋げて考えてみました。”置き去り”といっても、これにも色々な理由があるわけで、例えば、ただ単に、恋人関係を解消して別れただけだとしても、未練がある方には、置き去りにされたと感じるかもしれません。

 

ただ、最初の”小さな声で僕を呼ぶ闇”というところの解釈と繋げて考えて、声の主は”君”で、”闇”と比喩されているのは、”君”にはもう実体がない、つまり、もうこの世には居ないということを表していると想像したのです。となると、ここの”置き去り”は、”君”を失って”僕”だけがこの世に置き去りにされてしまった、という状況になりそうです。

 

そして、最後の”君に会うもう一度”という言葉。”君”はもうこの世には居ない存在であり、そんな”君”に会うために、”僕”も命を絶って、”君”が居るあの世へ向かおう、という結末をイメージしました。

 


■という感じの流れでストーリーを組み立ててみるのですが、そうすると、”やがて君は鳥になる”で始まるサビの3行へのつながりが難しいんですよね。

 

ここの部分はどちらかというと、”君”が主語になっている文章だと思いますが、例えば、ここが”僕”が主語となっていたら、”鳥になる”という表現を飛び降り自殺などに訳して、ああ、やっぱり後追いだ!と語れるんですけど、”君”が主語なので、整合性がとれません。

 

それどころか、この3行はむしろ、”君”の方が置き去りにされたのかな、とも読めたりしますよね。だから、ひょっとしたら、最初の4行は、先述の話とは全くの逆で、”僕”の方が亡くなっているのかな、と考えたりもしました。

 


■じゃあ、サビの3行だけ、切り離して読んでみるとどうなるでしょうか。

 

まず、出だしに”やがて君は鳥になる”という歌詞が出てきます。草野さんの歌詞には、”飛ぶ”とか、あとは”鳥”に関係のある言葉(カモメ、ヒバリ、つぐみ、ハヤブサ、スワン、トンビ…ダイレクトには”鳥になって”など)がよく出てきますが、これらは、その時その時によって意味は違うと思いますが、何か精神的な状況を比喩しているものだとは考えています。時には、スピッツそのものを表しているのではないか、とも思ったりします。

 

ならば、”やがて君は鳥になる”という表現はどういう意味なのでしょうか。僕は、この”やがて鳥になる”というフレーズを、”人はいつか死んでしまう”という意味で捉えました。根本的に人は鳥ではないので、じゃあ、鳥になる状況は?と考えた時に、鳥は空を自由に飛ぶ生き物であることを考慮すると、死んだ人の”魂”が空に浮かび上がっていく情景、つまりは”成仏”ですよね、そういうものを思い浮かべました。

 

ただ、”やがて”という言葉がついているので、今はまだ”君”は生きているということになります。

 


”ボロボロの約束 胸に抱いて”、この表現もすごいですよね。何らかの形で、約束が果たされたとしたら、”ボロボロの約束”なんて表現はしないと思うんです。だからここは、”信じ続けたけど、最後まで果たされることはなかった約束”と個人的には解釈しました。

 

そこから繋がるのは、”悲しいこともある だけど夢は続く”というフレーズです。”悲しいこと”とは何でしょうか、もちろん、ここの意味は受け手によって違うと思っていますが、そのひとつはやはり”大切な人との死別”でしょうか。

 

そういうところまで読んで、はたと気付くのです。”ボロボロの約束”とは、大切な人と生前交わした約束なのではないか、と。つまり、大切な人は亡くなってしまって、もう2度と果たすことが出来なくなった約束、ということですね。

 


大切な人が居なくなっても、残された人の人生が終わるわけではないので、いつまでも故人を想いながら生きていく(しかない)。ただ、その残された人の人生もいつかは終わってしまうわけで、いずれは大切な人の元へ行くことができるから(ここを多分、”舞い降りる 夜明けまで”と表現している?)、それまでを精一杯生きていこう、と歌っているのだと思います。

 


■先述の通り、前後の整合性が取れていない感じですが…どうですかね、寂しい感じですけど、”君”にとっては、前向きな歌詞なっているんですかね?

 

まぁ、別に”死別”などを持ち出さなくても、単に”僕”と”君”が別れて別々の道を歩んでいくことになったという場面を思い浮かべて、それぞれ精一杯生きていこうというような、”僕”(草野さんやスピッツ)から”君”(リスナー)への応援歌と考えることもできますね。