アルバム講義:14th Album『小さな生き物』
14th Album『小さな生き物』
発売日:2013年9月11日
■収録曲(→の先より、各曲の紹介へと飛べます)
01. 未来コオロギ
→ 181時限目:未来コオロギ - スピッツ大学
02. 小さな生き物
→ 92時限目:小さな生き物 - スピッツ大学
03. りありてぃ
→ 199時限目:りありてぃ - スピッツ大学
04. ランプ
→ 198時限目:ランプ - スピッツ大学
05. オパビニア
→ 33時限目:オパビニア - スピッツ大学
06. さらさら
→ 58時限目:さらさら - スピッツ大学
07. 野生のポルカ
→ 189時限目:野生のポルカ - スピッツ大学
08. scat
→ 210時限目:scat - スピッツ大学
09. エンドロールには早すぎる
→ 28時限目:エンドロールには早すぎる - スピッツ大学
10. 遠吠えシャッフル
→ 101時限目:遠吠えシャッフル - スピッツ大学
11. スワン
→ 79時限目:スワン - スピッツ大学
12. 潮騒ちゃん
→ 63時限目:潮騒ちゃん - スピッツ大学
13. 僕はきっと旅に出る
→ 161時限目:僕はきっと旅に出る - スピッツ大学
14.エスペランサ(Bonus track)
→ 212時限目:エスペランサ - スピッツ大学
(デラックスエディション版Blu-ray、DVDに収録)
あかさたな
→ 213時限目:あかさたな - スピッツ大学
■アルバム『小さな生き物』は、前アルバム『とげまる』から、およそ3年後に発売になりました。
アルバム『小さな生き物』は、スピッツにとっては初めての、複数の形態で発売になったアルバムでした。何かの情報によると、複数形態でアルバムを発表した経緯としては(wikiにも情報がありますね)、「もうCDというものがどうなるかは分からない、ひょっとしたら無くなってしまうかもしれない時代なので、出来ることをしておきたい」というようなことを語っておられました。
ちなみに、発売の形態は3種類で、それぞれ「通常版」「期間限定盤」「デラックスエディション盤」があります。それぞれ、
<通常版>
①アルバム『小さな生き物』ディスクのみ
<期間限定盤>
①アルバム『小さな生き物』
②PV集
収録曲:【さらさら】【野生のポルカ】【小さな生き物】
<デラックスエディション盤>
①アルバム『小さな生き物』
+Bonsu Track【エスペランサ】収録
②PV集
収録曲:【さらさら】【野生のポルカ】【小さな生き物】
③撮り下ろしライヴ映像ディスク
1.運命の人
2.あかさたな(未発表曲)
3.さらさら
4.りありいてぃ
5.夕焼け
6.潮騒ちゃん
7.エンドロールには早すぎる
つまり、デラックスエディション盤でのみ、【エスペランサ】と【あかさたな】の新曲2曲を聴くことができるということですね。【あかさたな】に関しては、今のところCDで音源化されていなくて、このライヴディスクでの映像でいしか聴くことができない、レアな曲になっています。
PV集の【野生のポルカ】のPVとかもレアですよね(ちなみに、ぶちかっこいいPVです)。youtubeのスピッツのチャンネルでも発表されていませんからね。
■ということで、まずは、アルバム発売前までの経緯について語っていきます。もうすでに何度も語ったことが出てきますが、重複して申し訳ございません…。
まず、前アルバム『とげまる』の発売は、2010年10月27日でした。スピッツは、1991年にメジャーデビューを果たしたので、来たる2011年にメジャーデビュー20周年イヤーを控えていました。アルバム『とげまる』は、そういう意味では、20周年の記念的な作品だったと言えるかもしれません。
しかしここで、2011年3月11日、あの未曽有の大災害、東日本大震災が起こってしまいます。
それによって、3月に発売予定だった『ソラトビデオCOMPLETE 1991-2011』の発売が延期になったり、さらには、草野さんが急性ストレス障害を患われて、スピッツの活動が少し止まったりしました。
それから時が経ち、確か2012年の終わりか、2013年の始まりだったか、とにかくその頃だったと記憶していますが、スピッツが2013年の発売を目指して新しいアルバムの制作をはじめて、そのアルバムから先行シングルが発売になるという、嬉しい情報が流れてきました。ちなみに、そのアルバムが『小さな生き物』であり、先行シングルは『さらさら / 僕はきっと旅に出る』でした。
シングル『さらさら / 僕はきっと旅に出る』は、前シングル『シロクマ / ビギナー』からおよそ2年半ぶり、アルバム『とげまる』から数えても2年以上も経っていたので、本当に久しぶりの新曲という感じがしました。その間に、スペシャルアルバム『おるたな』は出てはいるのですけど、スピッツの新曲という感じではなかったですからね。
【さらさら】は、”J-WAVE「春のキャンペーン TOKYO NEW STANDARD」テーマソング”に選ばれ、その後MVが発表されました。最初に、【さらさら】のMVを見たとき、何ていうか、粛々と鎮魂歌でも歌っているような感じを受けたんです。照明を比較的抑えたほの暗いスタジオで、静かに4人だけで演奏・歌唱をしている様子は、まさに鎮魂のように見えたのです。
一方で、【僕はきっと旅に出る】の方は、これもタイアップとして、”JTB「夏旅2013」CMソング”に選ばれましたが、こちらは一聴すると、最初は明るい曲だなという印象を受けました。しかしながら、陽気にも思えるこちらの歌の方こそ、実は震災に際しての想いが詰め込まれた歌だったのだと知ることになるわけです。
■そういう流れを経て、アルバム『小さな生き物』が発表されました。
まず、このアルバムタイトルですよ。草野さん・スピッツらしいタイトルだと思うのですが、かわいらしさの中に、アルバムを発表したあの頃ならではの、伝えたかった想いが詰め込まれている重要な言葉だと思います。
そもそも、これまで草野さんが作ってきた歌には、生き物や植物(花)の名前が出でくる歌が本当にたくさんあります。特に、鳥の名前なんかは、とてもたくさんの種類で細かく出てきます。”鳥になって”から始まって、ヒバリ、トンビ、海ねこ、ハヤブサ、つぐみ、など…もっとありますかね。
ほんと色々出てきますよね、生き物や植物の名前…猫、ネズミ、モグラ、犬、狼、ウサギ、魚、トビウオ、ドルフィン、シロクマ、蛾、クモ、オケラ、アリ、蜂、鈴虫、あじさい、チューリップ、ハイビスカス(ヒビスクス)、コスモス、楓、桜、ヘチマ(の花)、トゲトゲの木(?)…などなど、キリがないですね。
書籍「スピッツ」の中で、草野さんが幼少時代の自分を語っているインタビューが載っているのですが、草野さんの生き物に対する想いというのは、そういう小さな頃の思い出が素地になっているようです。
*
「いやあ、物心ついた頃から、草ぼこだとか林の中に入っていったりとか、神社の鉄柵を乗り越えていったりとか、目に見えない部分に物凄い興味があったというのはすごく記憶ありますね」
「今考えたら汚ねぇとこだなあと思うんですけど。1回ね、なんか目の周りにデキモンがバーっとできて、すごくなったことあるんすよ」
「やっぱ、昔は昆虫が好きでしたね。今でもいろいろ興味はありますけれども。まずクモが好きで。あれを捕まえてきて、自分の家の庭に放して、次の日に巣が張ってあるのを見て楽しんだりとか」
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などなど。子どもの頃、草原や林など、色んな場所に分け入っては、昆虫などを観察したり、採集していたというエピソードがたくさん出てきます。
何ていうか、草野さんに”生き物を讃える心”みたいなものが、強くあるんだと思います。そういうところが、詩のテーマにもなっている”セックスと死”に繋がったりしたんでしょうね。
アルバム『小さな生き物』にも同様に、たくさんの生き物が出てきています。
コオロギ、金魚、オパビニア、魚、スワン、初夏の虫、カモメ…あとは、生き物っぽいイメージの言葉としては、”遠吠え”や”野生(種)”などなど。
当然のことながら、生き物の名前が使われているからといって、その生き物自体のことを歌っているのではなくて、何かを比喩したものになっているのが通常です。
”コオロギ”は、スピッツなどのアーテイストを比喩した言葉だという解釈があったり、”金魚”は、自分の世界に閉じこもって外へ出られないような人物を、”オパビニア”は、恋愛に不器用で時代に取り残されているような人物を表していたりします。
草野さんは、人間と”人間以外の生き物”という垣根を越えて、全てを同じ目線で見ているような印象を受けるんですよね。【手のひらを太陽に】って歌であるじゃないですか、”ミミズだって オケラだって アメンボだって みんな みんな生きているんだ 友だちなんだ”って、あんな感じですかね。(ちなみに、作詞は、アンパンマンでおなじみ、ヤナセ・タカシさん)
■特に、震災があって、ご自身も体調を崩されたりして、それは一旦は回復したものの、新作が出るまでのおよそ3年という期間で、本当に色んなことを考えて悩んだりしたはずです。
もちろん、途方もない悲しみを感じたのは間違いないですが、結局最後に行き着く(行き着かなければならない)答えはきっと、”それでも懸命に生きていく”…ミュージシャンである彼らにとっては、”懸命に音楽を続けていくこと”だったと思います。
アルバム『小さな生き物』については、草野さんが、「聴いてくれた人が、少しでも気を楽に持ってくれるような作品に」と、どこかで語っておられました。ちょっと、物悲しくなるような曲も入っていますが、いつも通りスピッツらしい作品に仕上がっていて、長く待って、やっと聴けた喜びを強く感じました。
■アルバムを象徴する曲としては、何と言ってもやっぱり、表題曲の【小さな生き物】ですよね。
*
負けないよ 僕は生き物で
守りたい 生き物を
抱きしめて ぬくもりを分けた
小さな星のすみっこ
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サビに、こんな歌詞が出てきますが、このアルバムに込めた想いがここに集約されている気がします。
”生き物”という言葉には、我々”人間”をも含めているのだと思います。昆虫や動物と同様に、人間もちっぽけな存在ですが、生きているという括りでは同じであり、生きているからこそ、生き物を大切にできるのだと。あの時は、誰もが助け合わないとって思ったはずですよね、”生きている”ことをとても大切に思ったはずですよね。
あとは、【スワン】なんかも、とても印象に残りました。
この歌なんかはまさに、悲しみから少しずつ立ち上がって、光に向かって歩いていくような印象を受ける曲です。”スワン(swan)”という言葉は、白鳥、という意味がよく知られていますが、実は、詩人、歌手、という意味もあるということを、この歌を調べている時に初めて知って、ますますこの歌に対する想いが深まりました。
■それから、何と言っても、【僕はきっと旅に出る】という曲。
個人的に、とても大切な歌なのです。震災についても、色々と思い出すんですが、僕自身が、【僕はきっと旅に出る】という曲が出た当時、ちょうど仕事を辞めて、次の仕事への準備期間のような日々を過ごしていたので、なんか自分なりにこの歌と気持ちをシンクロさせながら聴いていたのです。
この歌の中に、出てくる歌詞で、
*
きらめいた街の 境目にある
廃墟の中から外を眺めてた
神様じゃなく たまたまじゃなく
はばたくことを許されたら
*
というところを読んだ時、気持ちが溢れて、涙が出たことがありました。本当に、草野さんはすごいなぁって、改めて思ったんですよね。
…ということを、延々と語っていくと止まらなくなるので、詳しくは個々の曲の紹介にお任せします。