スピッツ大学

ステイホームしながら通える大学です!

集中講義:草野正宗 ~詩の世界への招待~ 第13回

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蝶々になる 君のいたずらで
ただ朱く かたちなき夢を
染めていくような夕暮れ

 

 

■アルバム『空の飛び方』に収録されている【恋は夕暮れ】という曲の歌詞です。

 

この歌の歌詞には、草野さんの”恋”というものに対する考え方や、恋とはこういうものだ!という格言のようなものがたくさんできています。いわば、草野さん節満載の恋の格言ソングと言ったところでしょうか。

 

Aメロの歌詞は、一節ごとに”恋は…”という風に始まっており、そこに上述のように格言がたくさん出てきます。まとめて書いてみますと、

 


恋は昨日よりも 美しい夕暮れ
恋は届かない 悲しきテレパシー

 


恋は待ちきれず 咲き急ぐ桜
恋は焼きついて 離れない瞳

 


恋は迷わずに 飲む不幸の薬
恋はささやかな 悪魔への祈り

 

個人的には、”恋は迷わずに 飲む不幸の薬”というのが、パンチが聞いていて好きです。

 


■という感じで、ひとつひとつの格言だけでもとても素敵で面白いんですけど、個人的には、冒頭で紹介しています、サビの歌詞が一番好きなんです。

 


蝶々になる 君のいたずらで
ただ朱く かたちなき夢を
染めていくような夕暮れ

 

まずは、”蝶々になる 君のいたずらで”という部分についてですが、これは例えば、第3回の【恋のはじまり】などでも話したように、恋に落ちるということを、草野節で表現した歌詞ですよね。

 

ひらひらと舞い上がる”蝶々”の姿に、君に恋をしたことで、心が浮かれている自分の姿を例えているのでしょう。君の”いたずら”という表現も、どこか微笑ましいですよね。

 


■そして、後半部分についてですが、タイトルにもなっています、”夕暮れ”という言葉が出てきています。

 

草野さんが書く詩には、時々、”夕暮れ”や”夕陽”などの言葉が出てきます。いくつか紹介…してもいいのですが、記事が散らかってしまうだけなので、曲名だけにしておきます。

 

例えば、【夕焼け】【アカネ】【夕陽が笑う、君も笑う】【涙がキラリ☆】など…少し、狙いを持って選ばせてもらってますが、こんな感じで考えていくと、草野さんが”夕暮れ”や”夕陽”などの言葉を使う時って、何となく大切な人のことを思ったりしている時が多いような気がします。

 

【恋は夕暮れ】なんてのは、その象徴のような曲であり、まさにって感じですよね。もうタイトルから言っちゃってますし。

 


ただ朱く かたちなき夢を
染めていくような夕暮れ

 

”かたちなき夢”という言葉が、そのまま”大切な人への想い”を表していると考えてみると、そんな想いを胸に秘めたまま、感傷的に夕焼けを見て黄昏ているような、そんな光景が浮かんできます。

集中講義:草野正宗 ~詩の世界への招待~ 第12回

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ささやいて ときめいて
街を渡る 羽のような
思い通りの生き物に変わる

 

 

■26作目のシングル曲【ハネモノ】の歌詞です。ちなみに、26枚目のシングル『ハネモノ』と、27枚目のシングル『水色の街』は、同じ日にリリースされました。

 

【ハネモノ】という曲自体は、2002年に発表されましたが、2001年にアメリ同時多発テロがあって、草野さんは一時期”音楽をやる意味”に疑問を抱いていたようですが、この【ハネモノ】を制作するにあたって、人々の不安を和らげることができたら…と、気持ちを新たにしたという経緯があったようです。

 

全体的に歌詞の内容も、紹介している部分もそうですけど、後述しますが、人が生まれる瞬間だったり、あるいは逆に、魂が成仏していくような、そういう人の生死に関するような歌詞だという印象です。

 

タイトルになっている”ハネモノ”という言葉は、草野さんの造語であり、”羽のような生き物”という意味だそうです。具体的に、これが一体何を指す言葉なのか、という言葉は、やはり想像するしかありません。

 


■僕は、【ハネモノ】の歌詞を読むといつも思い出す映画があって、それは「フォレスト・ガンプ/一期一会」という映画なんです。

 

(ちょっと映画のネタバレすみません…ストーリーには触れていませんが)


タイトル通り、フォレスト・ガンプという1人の人物の人生を、自らが語っていくという形で物語が進んでいくんですけど、フォレストは映画の冒頭からバス停のベンチに座っていて、その足元に一枚の羽が舞い降りてくるんです。ガンプはそれを拾い上げて、自分のカバン(だったかな?)に入れるんです。

 

そして、ストーリーが進んでいって、自分の息子をバス停から送り出すというシーンで映画は幕を下ろすんですけど、その時にまたカバンの中から、再び羽が風に吹かれて、空に舞い上がっていくんです。

 

ストーリーもめちゃくちゃ面白いので印象に残っているんですけど、この羽の存在も同じくらい印象に残っているんです。

 

まだ見たことがない方は、興味がありましたら、是非見てみてください。色々、考えさせられる作品です。

 


■個人的には、フォレスト・ガンプに出てくる羽と、スピッツの”ハネモノ”が表している”羽のような生き物”が、何か繋がっているように思うんです。

 


ささやいて ときめいて
街を渡る 羽のような
思い通りの生き物に変わる

 

”ささやいて ときめいて”…ここの言葉の意味はよく分かりませんが、続く”街を渡る 羽のような”という歌詞について。

 

何ていうか、ここの”羽”は、人の命であったり魂であったり、そういう概念的なものを象徴しているのかなと思っています。天国かあの世か、そういう場所があったとして、そこで一つ一つの魂に指令が下るわけです…「お前は、あの生物に宿れ」「お前は、あの母親のお腹の中の赤ちゃんに宿れ」みたいな感じで。

 

指令が下った魂は、空からフワフワと舞い降りてきて、宿るべき宿主の下へ向かっていく、というシーンを思い浮かべています。

 

あるいは全く逆で、今まさに一生を終えた”肉体”から、魂が浮かび上がって、あの世的な場所へと帰っていくというシーンも思い浮かべます。

 


■それから、映画「フォレスト・ガンプ」でも、フォレストが自分の半生を語り始めるところで羽が舞い降りてきて、その物語が息子へと引き継がれたときに、羽は再び舞い上がっていった、ということを思えば、”バトン”のような役割っていうことも思い浮かべました。

 

輪廻転生と言われるように、ひとつの命が繰り返されたり、または、一つの命や人生がまた別の命や人生に影響を与えるものだとしたら、命というものは、廻っているもの、巡っているものだと考えることができます。そういうことを、”羽”は象徴しているのかもしれません。

 

うまく表現できないけど、そういう草野さんの壮大な死生観を感じる歌詞ですね。

集中講義:草野正宗 ~詩の世界への招待~ 第11回

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君の心の中に棲むムカデにかみつかれた日
ひからびかけていた僕の 明日が見えた気がした
誰かを憎んでたことも 何かに怯えたことも
全部かすんじゃうくらいの 静かな夜に浮かんでいたい

 

 

■20作目のシングル曲の【流れ星】の歌詞です。

 

何か毎回言っている気がしますが、【流れ星】との出会いも古く、僕が中学生の頃に初めて出会いました。当時は、シングルを買う習慣はなかったのですが、【流れ星】は、たまたま中古で購入したものを持っていました。だから、【流れ星】には、余計に思い入れがあるんです。

 


■【流れ星】の歌詞も全体的にとても好きなんですが、紹介している部分がやっぱり個人的には好きすぎるんです。

 


君の心の中に棲むムカデにかみつかれた日
ひからびかけていた僕の 明日が見えた気がした
誰かを憎んでたことも 何かに怯えたことも
全部かすんじゃうくらいの 静かな夜に浮かんでいたい

 

個人的には、草野さんの書いた詩の中でも、特に名作・傑作のひとつだと思っています。すごい綺麗な詩だと思いませんか?こんな素敵な歌詞を書けるのは、絶対に草野さんしかあり得ません。これだから、草野さんの書く詩を読むのは、何よりおもしろいんです。

 

で、すでに【流れ星】の記事もスピッツ大学では書いてまして、そこで色々と語ったんですけど、紹介している歌詞を改めて読んでみると、やはりここは、”君に恋に落ちた瞬間、またはその瞬間を思い出している場面”を歌詞にしてるのだろうと感じました。

 


■さらに、部分的に読んでみます。まずは、前半部分。

 


君の心の中に棲むムカデにかみつかれた日
ひからびかけていた僕の 明日が見えた気がした

 

”君の心の中に棲むムカデ”という表現が、まず目を引きます。意味を深読みする以前に、まず表現がすごすぎます。

 

”ムカデ”には毒があり、かまれたら大変な激痛を伴い、ひどいことになってしまいます。実際に、かまれた人を見たことがあるのですが(確か、ばあちゃんだったっけ)、火傷を負ったみたいに、赤黒く腫れ上がるのです。 

 

そんな生き物が、”君の心の中に棲む”と歌われており、さらには”かみつかれた”と表現されています。色んな想像ができると思いますが、先述の通り僕は、これを恋に落ちた瞬間の描写だと捉えました。

 

 

まず、”ムカデ”って、普通に生きていたら滅多に見ないですね。ちなみに、僕が高校生の時、自分の部屋にめちゃくちゃでっかいムカデが出て、家族総員で大騒動したことがありました。

 

滅多に見かけることはない、つまり、異質な物としてある時急に思いがけず出会ってしまう、と。これって、草野さんが歌っている、”恋愛”の形に一致していませんか?

 

また、【恋のはじまり】で話したように、恋は人をおかしくしてしまうと草野さんは歌っており、ここでいう、”かみつかれた”やそれによる”毒”の意味合いに一致していると感じます。

 


■さらに、後半部分。

 


誰かを憎んでたことも 何かに怯えたことも
全部かすんじゃうくらいの 静かな夜に浮かんでいたい

 

先程のムカデの下りから、こういう歌詞に繋がっていきます。

 

ここは例えば、夜に自分の部屋で、ベッドか何かに寝転がっているシーン。眠る前って、皆さん色んな想像をしますよね。僕は、【流れ星】の記事では、人の生き死について想像を膨らましている、みたいなことも書いていますが、やっぱり”ムカデ”の歌詞の流れから、ここも”君”のことを思いだしている、という状況なのかなと想像しています。

 

”誰かを憎んでたこと”や”何かに怯えたこと”など、色々嫌なことがあったけど、それも”全部かすんじゃうくらい”に、”君”のことを思うと心が洗われていくような、そんな心地になるということ歌っているのだと思います。

 

ただ、”流れ星”を”君”に例えて、”すぐに消えちゃう”ものとして歌われているので、”君”がもう生きていない存在なのかとか、この辺りはまたしても想像が膨らんでくるところですね。

集中講義:草野正宗 ~詩の世界への招待~ 第10回

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おかしいよと言われてもいい ただ君のヌードを
ちゃんと見るまでは僕は死ねない

 

 

■アルバム『空の飛び方』に収録されている【ラズベリー】という曲の歌詞です。もう、歌詞を紹介したところで、出オチのような気がしますが笑

 

僕が【ラズベリー】を初めて聴いて、この歌詞に出会ったのは、中学生の頃でした。第5回で書きましたが、高校受験の時に【スピカ】を聴いて気分を上げたり、落ち着かせたりして、勉強を頑張っていたのですが、【ラズベリー】も同じ時期に聴いていました。

 

中学生の時に、この歌詞に出会うわけですよ。それはもう悶々としていましたね、なんか知らない世界が広がっていく感じがしました。

 


スピッツ大学でもすでに何度も触れていますが、草野さんが書く詩のテーマとしては、”セックスと死”というものが知られています。

 

そういう意味でいえば、【ラズベリー】は”セックス”の方向に全振りしたような歌ですね。【ラズベリー】の歌詞は、紹介している部分以外にも、性的と感じる表現がたくさん出てきます。

 


泥まみれの 汗まみれの 短いスカートが
未開の地平まで僕を戻す

 


駆け出したピンクは魔女の印

 


でこぼこのゲームが今はじまる
穴を抜けてこっちへおいでと

 

などなど。ただし、大抵はこんな風に、性的に読めるんだけど、直接は表現せずに、何かエッチだなぁって思わせる感じが多いんです。上に紹介している3つの歌詞も、そんな感じですよね。

 


■ただ、そういう風に読んでいくと、紹介しています2番のAメロの歌詞で、!?ってなるんです。

 


おかしいよと言われてもいい ただ君のヌードを
ちゃんと見るまでは僕は死ねない

 

おいおい、まじか!?こいついきなり何言い出してんの!?ついに、本心を言いやがったな!って感じですよね笑

 

まぁ、もう言わずもがな、全男性に課せられた永遠の欲求ですけどね。ですけど…にしても、正直すぎるわ!っていうね。一周回って清々しささえ感じます。

 

こんなこと、ストレートに歌で歌っていいんだ(いいことはないけれど笑)って、衝撃的でしたね。特に、中学生の頃の自分には、刺激的でした。

 


■もう紹介した時点で、出オチで説明不要な気がしますが、一点だけ少し深掘りしておきます。

 


ちゃんと見るまでは 僕は死ねない

 

ここの歌詞ですよ。”君のヌード”を”見るまでは僕は死ねない”とか、めっちゃ本気さが伝わってくるのですか、ここにくっついている”ちゃんと”という言葉なんですよ。

 

そう、ただ”見る”のではなく、”ちゃんと見る”ことを欲しているのだと。

 

例えば、妄想の中ならば、もう何度も”君のヌード”を思い浮かべてきたと…だけど、まだ”ちゃんと”見てないんだ!だから、”ちゃんと”本物が見たいんだ!ムラムラする!という切実さが伝わってきます。

 

あるいは、”ちゃんと”ではないけど、ふとした時にちらっと、イヤーンな何かが見えたのかもしれません。それで、余計に悶々としてしまった、と。

 

という風に、この”ちゃんと”という一言があるだけで、色々と想像が膨らむなぁ、と思いました。

 


■ということで、まぁ読んだまんまなので、もう多くは語りません。

 

ただ、それを差し引いても、【ラズベリー】という曲は超名曲です。アルバム『空の飛び方』の曲だと、個人的に一番好きかもしれません。割と古い曲ですが、聴いたことない人は、ぜひ聴いてみてください。

集中講義:草野正宗 ~詩の世界への招待~ 第9回

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いいよね? 小さなネズミになる
奴らにも届かない場所がある
すぐに狭い抜け穴 逃げ込めるような
小さなネズミになる

 

 

■アルバム『さざなみCD』に収録されている、【ネズミの進化】の歌詞です。タイトルから、まず珍しいですね。

 

個人的には、この歌は、何となく生きづらいこの世の中を生きるためのやり方みたいな、そういうことが歌われているように思います。

 


■まず、そもそもこの歌のタイトルって、”ネズミの進化”じゃないですか。であればですよ、普通は、「あ、ネズミが進化して、何か別の生き物になるんだ!」という想像をすると思うんですよ。

 

”ネズミ”っていうと、誰もが思い浮かべるのは、小さくてすばしっこくて、お世辞にも強いとは言えない、弱々しい生き物じゃないですか。ドラえもんの耳をかじったりして…それはあんまり関係ないけど、どこか忌み嫌われる存在だし(ハムスターはかわいいけど)、実験に使われたりもして、ある種かわいそうな生き物なのかもしれません。

 

なので、”ネズミの進化”ということで、そういう弱々しい存在、忌み嫌われる存在から進化して、もっと強い生き物になってやる!みたいなイメージをするはずです。実際、最初にこの歌を聴いていた頃は、そんな風に思っていました。

 


■ただ、この歌詞を読んでみると、それは違っていたということに気づきました。

 

この歌では、”小さなネズミになる”とか、”目覚めたネズミになる”など、終始”ネズミになる”と歌われています。

 

そこで気付くんです。この歌は、”ネズミから別の生き物に進化する”のではなく、”別の生き物からネズミに進化する”、あるいは、”ネズミはネズミのままで進化する”という歌なのだと。色々考えると、後者ですかね。そういうことを踏まえて、”ネズミ”には”ネズミ”なりの生き方があるんだよ、ということを歌ってくれています。

 

例えば、紹介している歌詞、

 


いいよね? 小さなネズミになる
奴らにも届かない場所がある
すぐに狭い抜け穴 逃げ込めるような
小さなネズミになる

 

”奴ら”とは、おそらくネズミとは対極の位置にいる者たちなのでしょう。弱くて忌み嫌われているような存在とは対極にいる、とはつまり、強くで威張っている、この世界や社会で大きな顔をして生きているような、そういう支配者側でしょうか。

 

そこへ来て、ここでは”奴らにも届かない場所がある”と歌われています。弱いなら弱いなりの生き方や、輝ける場所があるんだよ、とそういうことでしょうか。この辺りは、ネズミがネズミとして生きる”誇り”のようなものを感じます。

 

”すぐに狭い抜け穴 逃げ込めるような”や紹介していない部分の歌詞だと、

 


よく見りゃいくつも道があり
実はその先も分かれてた

 

などの歌詞も、とても勇気をもらえる言葉だと思います。弱いからこそ、小さいからこそ、見つけられる道があるんだと。

 


■という感じで考えていくと、”ネズミ”という言葉は、我々のような、健気にこの社会を生きる、一般ピープルを指しているように思えてきました。ちなみに、僕はネズミ年なので、余計にこの【ネズミの進化】という曲を、自分のテーマソングとして聴いてます。

 

ただ、この歌に最も当てはまるのは、他でもない、草野さん自身やスピッツだとも思っています。

 

自分たちのことを、”ヒーロー”ではなく”ザコキャラ”と言ったり、”狼”ではなく”犬”と言ったり、何かのライヴのMCでは、”良い麩になりたい”という風にしゃべっています。他の歌だと、【オケラ】とか【黒い翼】(これは”カラス”でしょうか)とか【オパビニア】など、ヘンテコな・忌み嫌われる生き物を曲のタイトルに冠して歌っています。

 

どこまでも控えめで、決しておごらずに、マイペースに音楽を続けている…だからこそ30周年も迎えられたわけですけど、そういうスピッツの生き方そのものが、この【ネズミの進化】に込められているとも思えますね。

集中講義:草野正宗 ~詩の世界への招待~ 第8回

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「ありがとう」って言うから 心が砕けて
新しい言葉探してる
見えなくなるまで 手を振り続けて
また会うための生き物に

 

 

■アルバム『醒めない』に収録されている、【コメット】という曲の歌詞を紹介します。綺麗な歌詞なんですけど、どこか切ないですね。

 

アルバム『醒めない』という作品は、アルバム全体で一貫して、ひとつのコンセプト・物語を表現しようと作られた作品であるようです。

 

そのコンセプトとは、草野さん自身が語ったことによると、”死と再生”というものでした。”死”とはつまり別れ、”再生”とはつまり出会い、ということで、アルバム『醒めない』にも、出会い・別れの歌が多く入っています。

 

その1曲である【コメット】ですが、個人的には、表題曲こそ【醒めない】ではありますが、この”死と再生”の物語の根幹を歌っているのは、この【コメット】(と【みなと】)だったのでは、と思っています。

 


■まず、【コメット】の場面としては、歌詞の中に”夕暮れ ホームへ駆け上がった”というのが出てくるので、例えば、その歌詞通りに、夕暮れのホームを思い浮かべています。

 

僕は息を切らせながら走り、まさに電車が出発しようとしているホームにたどり着くという場面でしょうか。そこで、君との別れをまさにしようとしているところで、紹介している歌詞のシーンが訪れます。

 


まず、前半部分

 


「ありがとう」って言うから 心が砕けて
新しい言葉探してる

 

別れの際に、見送りに来た僕に向かって、君は「ありがとう」と言ったのでしょうかね。今までありがとう、見送りに来てくれてありがとう、と。僕は、「ありがとう」という言葉なんて言われなれてなかったのかも知れません、一気に心が砕けて、胸が詰まって、言葉も出なくなってしまった、と。

 

余談ですが、タイトルの”コメット”とは、おそらく”金魚”という意味で使われているのですが、前作のアルバム『小さな生き物』では、【りありてぃ】という曲の歌詞の中に、金魚が出てくるんです。

 

【りありてぃ】では、その金魚は”水槽の世界に出たいな”と思っているという歌詞が出てきているので、ともすると、その【りありてい】で外の世界に出た金魚が、君に出会って、そしてこの【コメット】で、また別れを迎えている、というような繋がりを想像すると、両曲の間に長い時間の経過を感じて、この【コメット】で別れを迎えている二人にも、ここでは語られていない物語があったんだなと、しみじみと思ってしまいます。

 


■そして、後半部分です。

 


見えなくなるまで 手を振り続けて
また会うための生き物に

 

ここが、めっちゃ好きなんですよ。好きというか、大切にしたいというか。先程言ったように、このアルバムで歌われているのは、”死”=別れと”再生”=出会い(再会)なわけです。

 

そして、この【コメット】という曲が、その根幹を成していると思っている所以がここの部分の歌詞なんです。つまりは、特に大切な人とは、”別れ”た瞬間に、もう”会いたい”と思うんですよね。

 

”また会うための生き物に”…胸がぎゅっとなる表現ですよね。また大切な人に会える日まで、会える日をずっと目指しながら、大切な人が居ない毎日を頑張って生きていくと、そういうことですよね。

 

ひょっとしたら、この別れは”死別”であるかもしれない。けれど、それでも、いつかは会えることを願いながら生き続けていく、と。

 

そういった意味では、”死”=別れも”再生”=再会も、どっちも描かれている【コメット】は、まさに”死と再生”のテーマの根幹にある曲なんだと思っています。

集中講義:草野正宗 ~詩の世界への招待~ 第7回

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「きっとまだ終わらないよ」と 魚になれない魚とか
幾つもの作り話で 心の一部をうるおして
この海は 僕らの海さ
隠された 世界とつなぐ

 

 

■言わずもがな、スピッツには名曲が多いんですけど…こういう表現はあまり好きじゃないのであまり使わないけど、"隠れた名曲"というと、例えば今回紹介する【魚】という曲はどうでしょうか。

 

スピッツファンにはもちろん、全然隠れてないですが、特にファンというわけではない方々には、あんまり知名度は高くないかもしれません。ただ、僕はこの歌が本当に好きなんです。

 

この歌詞も、はっきりとした意味が捉えづらいのですが、色々と物語を想像できそうな歌詞だという印象です。何て言うか、短編の映画を見ているような、そんなイメージです。

 

タイトルは、【魚】という何とも潔い感じはしますが、抽象的でもあるんですよね。意味を伝えられることなく、突き放されてる感じが堪りません笑

 


■皆さん、【魚】という歌詞を読んで、どんな印象を受けますか?本当にきれいな歌詞ですよね。

 

歌詞を読んだ感じ、まぁ当然と言えば当然なんですが、"魚"という言葉を、本来の意味の"魚"として用いていないのは分かるのですが、とすると、"魚"という言葉を何かの例えたものとして使っているのでは?と考えました。

 


「きっとまだ終わらないよ」と 魚になれない魚とか
幾つもの作り話で 心の一部をうるおして
この海は 僕らの海さ
隠された 世界とつなぐ

 

特徴的なのは、"魚"という言葉を使いながらも、"魚になれない魚"という表現をされています。それって結局、魚なの?魚じゃないの?何者なの?って感じですよね。

 

そもそも、"魚になる"ってどういうことなんでしょうか。その生物として生まれてきたからには、最初っから"魚"は"魚"でしょうよ、って思いますよね。

 


■という風に考えて、じゃあ、この歌詞では"魚"という言葉はどんな意味合いで使われているのか、僕なりの解釈です。

 

個人的に思い浮かべたのは、街中にあるちょっと高い建物(ビルとか商業施設とか)の上から、街を見下ろしているシーンです。そうすると、交差点や道をたくさんの人たちが歩いているのを、上から見下ろすことになるはずです。

 

高い建物から見下ろすほど、その人たちは小さく見えるはずですよね。その小さな人たちが縦横無尽に、あるいは、横断歩道では規則正しく動いている様は、まさに"魚"が泳いでいる様子とダブって見える…かもしれません。

 

そんな風に、僕はこの歌の"魚"という言葉からは、"都会で生きる人々の姿"をイメージしたんです。紹介している部分には、"海"という言葉も出ていますが、これはまさしく都会を指していると考えています。

 

紹介していませんが、別の部分には、"コンクリートに染みこむ 冷たい陽"という言葉も出てきますが、ここも都会的なイメージを受けますよね。

 


■そうなると、"魚になれない魚"というのも、この解釈に立って考えるならば、何となく都会になじめない、どこか生きづらさを感じつつも、都会という"海"をうまく泳ごうと生きている、そんな人々の姿を想像しました。

 

歌詞の冒頭には、"恋人"という言葉も出てきますが、そんな風に大切な人と、お互いに慰め合いながらも、力強く生きている(生きていこうとしている)人の姿も浮かび上がっています。

 

こんな風に、都会という広い"海"を、様々な事情を抱えつつも、うまく泳ごうとがんばっている人の姿、これを"魚"と表現していると考察しました。

 

この歌詞も、色々と想像が膨らむなぁと思うので、色んな人が想像した物語を聞いてみたいものです。

集中講義:草野正宗 ~詩の世界への招待~ 第6回

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幼いだけの密かな 掟の上で君と見た
夏の魔物に会いたかった
僕の呪文も効かなかった
夏の魔物に会いたかった

 

 

■2作目のシングル曲【夏の魔物】の歌詞を紹介します。

 

まるで、白昼夢でも見ているような、夢と現実の間をさまよっているような、そんな不思議な雰囲気の漂う曲です。

 

紹介している歌詞は、最後のサビに出てくる部分なのですが、改めて読むとすごい歌詞ですよね。

 


■この【夏の魔物】の歌詞には、あるひとつの考察が広まっています。

 

ずばりいうと、特徴的なタイトルになっている"夏の魔物"とは、赤ちゃんのことなのでは?という考察です。さらに、その赤ちゃんには、何らかの理由で会うことができなかった…例えば、流産した、あるいは堕胎した、などが挙げられます。

 

紹介している部分の歌詞ですと、まず"幼いだけの密かな掟の上"という言葉…ここはつまり、二人がまだ若くして赤ちゃんができてしまった、ということを表していると考えられます。

 

"幼いだけ"という言葉から、若気の至りというのを感じますが、"掟の上"という言葉は、人間の生き死に関する、人生における強いルールのようなものを感じるので、その両側面のギャップが、また危うい雰囲気を生み出しています。

 

ここだけ読むと、赤ちゃんを中絶した、とも考えられるのですが、続く歌詞に"僕の呪文も効かなかった"、とあるので、つまりは赤ちゃんに何らかの問題が生じて、命の危機にさらされてしまった中で、それでも僕は赤ちゃんの無事を祈った、と考えられます。

 

他の部分には"殺してしまえばいいとも 思ったけれど"という恐ろしい歌詞もあり、中絶することを悩んだ、もしくは、延命措置を止めることを悩んだ、と捉えることができそうです。

 

そして、"夏の魔物に会いたかった"という主題となる歌詞…幼い二人は、自分たちにできた子どもに、会いたかったんですよね。でも、それは何らかの形で叶うことはなかった、と。

 

真偽はもちろん不明ですが、"夏の魔物"…本当にすさまじい歌詞ですよね。改めて読むと、いつもそう思います。2番のAメロの歌詞、”大粒の雨”とか”クモの巣”などという言葉が出てくるところも、不穏な雰囲気を醸し出しています。

 


■ただ、個人的な解釈としてはもうひとつあって、それは、"夏の魔物"=幼い頃の夏の思い出をまとめた総称、という解釈です。

 

排水溝の最奥にアメーバ星人なる生き物が居て、それに会うために排水溝を冒険したとか、裏山の向こうにはUFOの秘密基地があって、それを見つけに山に入っただとか、坂道の途中にある謎の小屋は実は人焼き場だとか、全部、僕の子どもの頃の思い出です。夏じゃないのもありますが笑

 

子どもの頃、僕は風邪をこじらせて入院したことがあったんですけど、詳細は省きますが、退院してすぐの時、幽霊らしきものを実際に見たことがあるんです。

 

とにかくそういう、思い出…とは言い難いですけど、結局は子どもの頃の空想や噂話などですね、そういう得体の知れないものたちを、ごちゃごちゃにまとめて、"夏の魔物"と表現していると思ったりしてます。

 

僕は、【夏の魔物】の歌詞を読むと、何故か子どもの頃を懐かしく思い出すんですけど、それはきっと上述のような解釈を持っているからですね。

集中講義:草野正宗 ~詩の世界への招待~ 第5回

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この坂道も そろそろピークで 
バカらしい嘘も消え去りそうです
やがて来る 大好きな季節を思い描いてたら

 

 

■【スピカ】という曲の、1番のAメロの始まりの歌詞です。

 

【スピカ】は、ここスピッツ大学で行った企画として、僕も含めて、ブログを読んでくださっているファンの方々で勝手に作った、好きなスピッツの曲ランキングで、見事第1位を獲得したのです!

 

これに関しては、素直にびっくりしましたね。確かに【スピカ】は、ファンの間でも人気の曲であることは分かっていたつもりですが、まさかの第1位とは…スピッツファンの本気度が伝わるランキングになったと、嬉しく思っています。

 


■さて、【スピカ】の歌詞なんですが。この歌から、お気に入りの歌詞を部分的に選ぶ時には非常に悩みました。

 

"幸せは途切れながらも 続くのです"とか"割れものは手に持って 運べばいいでしょう"などの歌詞も印象に残っているからです。

 

何て言うか、人生訓を語っているような、スケールの大きな歌詞が全体的に散らばっていて、個人的には悟りソング的な解釈をかつて書きました。

 

ただ、改めて読んでみると、恋人と二人で居て、星を見上げながらロマンチックな雰囲気に浸っているシーンなども想像できますね。どこかでは、プロポーズや愛の告白のシーンなのではないか、という考察も見つけて、確かに!と合点がいきました。

 

 

■【スピカ】の歌詞は全体的に好きなんですが、特に気に入っているのが、冒頭で紹介しています、出だしの歌詞です。

 

僕が【スピカ】に初めて出会ったのが、中学生の時で、かれこれもう25年くらい前になります。

 

中学三年になり、部活も引退し、高校受験のために自分の部屋に籠って、夜な夜な勉強するという日々が続いていました。当時の僕は、家で勉強するときは、大抵は音楽を流して、それを聴きながら勉強していました。中学生の時によく聴いていたのは、B'z、L'Arc~en~Ciel、JUDY AND MARY、そして、スピッツでした。

 

勉強は、別に苦手でも嫌でもなかったですが(むしろ出来る方でした!)、決して楽なものではありませんでしたし、受験勉強が早く終わってほしいと思っていました。だからこそ、BGMを流して気分を上げたり、気を紛らせたりしながら勉強に励んでいたんです。

 


◼️【スピカ】に出会ったのは、ちょうどそのような時期でした。そして、冒頭の歌詞にも出会うわけです。

 


この坂道も そろそろピークで 
バカらしい嘘も消え去りそうです
やがて来る 大好きな季節を思い描いてたら

 

この部分の歌詞を、当時は自分の状況に当てはめて聴いていました。

 

"坂道"とは、困難で苦しい状況や問題を象徴している言葉であり、それに立ち向かっていることを歌っている歌詞であると…そのときの自分には、まさしく受験勉強期が当てはまりました。

 

"バカらしい嘘"、これは何でしょうね。色々と想像できそうですが、例えば、もちろん勉強に対して頑張っていたのは本当のことですが、心の底では、早く終わってほしい、友達と遊びたいと思っていたので、そういう気持ちに負けないように、自分の本心とは逆のことを頑張っていたので、それを"嘘"と捉えられるかもしれません。

 

でも、それもまもなく"ピーク"を迎えると…それを"大好きな季節"かやって来ると表現しています。

 

ここの僕のイメージは、自転車で坂道を漕ぎ上がっているシーンです。きつい登り坂を自転車で漕いで上がる、これはまさに困難な状況の象徴ですよね。

 

ただ、その坂道もやがて頂上に到着し、その後に待っているのは、楽な下り坂…スピードに乗って風を切って、駆け下りていくことができるのは、頑張って乗り越えた日々があったからです。全ての困難から解放された、待ち望んでいた平穏で楽しい日々の訪れです。

 


■とまぁこんな風に、自分の受験期と【スピカ】の歌詞をダブらせて聴いていたので、特に冒頭の歌詞は思い入れが強いんです。

 

また、受験期が終わっても、もっと言うと大人になっても、これまで何度も困難な状況がありましたが、【スピカ】の歌詞には励まされてきました。自分が置かれている今の苦しい状況は、やがて終わるんだと、だから今は頑張らないとって。

 

今回は、歌詞の考察に思い入れがある、というよりは、個人的な思い出とより深い関わりがある歌詞の1つとして、紹介させていただきました。

集中講義:草野正宗 ~詩の世界への招待~ 第4回

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バスの揺れ方で人生の意味が 解かった日曜日
でもさ 君は運命の人だから 強く手を握るよ
ここにいるのは 優しいだけじゃなく 偉大な獣

 

 

スピッツの楽曲の中でも、シングルご三家(個人的に、【ロビンソン】【空も飛べるはず】【チェリー】の三曲)に並ぶほど、知名度が高いと思われる【運命の人】の歌詞です。

 

2番の歌詞やサビの歌詞も印象に残っているのですが、やっぱり今回紹介する、1番Aメロ始まりの歌詞のインパクトが強いです。

 

この部分を読んだときに、個人的に2つのポイントが印象に残ったので、その辺りを中心に紹介してみます。

 


■1つ目のポイントは、出だしの歌詞です。

 


バスの揺れ方で人生の意味が 解かった日曜日

 

一体どんな日曜日だったんだっていうね笑 よく分からないけど、こんなとんでもないパワーワードで曲が始まります。

 

色んな想像ができますが、例えば、恋人と日曜日にバスに乗っているシーン…特別なことなんて何もない、穏やかな時間が流れていて、バスはゴトゴトと進んでいく。”バス”とは、そんな日常を象徴している言葉だと捉えることができます。

 

そして、ふと気づくわけですね。そんな何気ない日常を大切な人と過ごすことが、自分にとっての人生や幸せなんだと。

 


他の部分の歌詞ですと、個人的に似たようなことを言っている歌詞として、印象に残っているのは、

 


愛はコンビニでも買えるけれど もう少し探そうよ

 


あえて 無料のユートピア
汚れた靴で 通りすぎるのさ
自力で見つけよう 神様

 

などがあります。

 


前者。ここでは"コンビニ"とは、色々と便利になって、探している物が簡単に見つかる、そんな社会を象徴したものでしょうか。そんな世の中で、また"愛"も簡単に手に入ってしまう物だとしつつ、でもそんな物に頼らずに、自分たちらしい愛の形を探そうよと歌っています。

 

そして、そこからの後者。"無料のユートピア"とは、手軽に手に入ってしまう理想的で幸せな生活のことを表していると考えますが、ここでもそんな物には頼らずに、"自力で見つけようと"、やはり自分たちで見つけようと歌っています。

 

共通して、そんなに大それたものなのではなくても、自分たちで自分たちなりの理想の生活だったり、幸せというものを見つけよう、と歌われているんですね。何とも、草野さんらしい表現だなって思います。

 

 

■そういう歌詞がありつつ、2つ目に印象に残った歌詞として、この部分、

 


でもさ 君は運命の人だから

 

ここの、"でもさ"という言葉。僕は、ここの表現がとても好きなんです。

 

続く言葉は、"君は運命の人だから"という、プロポーズ的な、相当重要な言葉じゃないですか。でも、そんな重要な言葉を"でもさ"って、会話をしている途中についでにみたいな感じで言っちゃう感じ、何か良いですよね。

 

それこそ、バスに揺られながら、何てことない日曜日に、さらっと"君は運命の人だから"と言っているシーンを想像することができます。

 


■個人的に比較したい曲として、【ロビンソン】を挙げておきます。

 

【ロビンソン】は、残念ながらそんなに明るい解釈にはならなかったですけど、【運命の人】からは幸せな感じが溢れています。

 

ただ、【ロビンソン】には、"二人だけの国"という言葉が出てくるのですが、これは【運命の人】にも当てはまる言葉だなって思うんです。そして、それは何も特別なことではなく、自分たちで納得いくように見つけていけるんだと、【運命の人】では歌っているのだと感じました。

 

両曲では、(僕の解釈では)選んだ答えが違っているだけで、こんなにも物語が違ってくるというのは、奥が深いなぁと思うばかりです。