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アルバム講義:Special Album『花鳥風月+』

花鳥風月+

Special Album『花鳥風月+』
発売日:2021年9月14日


■収録曲(→の先より、各曲の紹介へと飛べます)

 

01. 流れ星
→ 112時限目:流れ星 - スピッツ大学

 

02. 愛のしるし
→ 3時限目:愛のしるし - スピッツ大学

 

03. スピカ
→ 78時限目:スピカ (スピッツ大学ランキング 第1位) - スピッツ大学

 

04. 旅人
→ 87時限目:旅人 - スピッツ大学

 

05. 俺のすべて
→ 35時限目:俺のすべて - スピッツ大学

 

06. 猫になりたい
→ 126時限目:猫になりたい - スピッツ大学

 

07. 心の底から
→ 52時限目:心の底から - スピッツ大学

 

08. マーメイド
→ 176時限目:マーメイド - スピッツ大学

 

09. コスモス
→ 53時限目:コスモス - スピッツ大学

 

10. 野生のチューリップ
→ 188時限目:野生のチューリップ - スピッツ大学

 

11. 鳥になって
→ 105時限目:鳥になって - スピッツ大学

 

12. ヒバリのこころ
→ 145時限目:ヒバリのこころ - スピッツ大学

 

13. トゲトゲの木
→ 102時限目:トゲトゲの木 - スピッツ大学

 

14. 353号線のうた
→ 246時限目:353号線のうた - スピッツ大学

 

15. 恋のうた
→ 49時限目:恋のうた - スピッツ大学

 

16. おっぱい
→ 32時限目:おっぱい - スピッツ大学

 

17. 死にもの狂いのカゲロウを見ていた
→ 247時限目:死にもの狂いのカゲロウを見ていた - スピッツ大学

 


■1991年3月25日、スピッツは1st Single『ヒバリのこころ』と1st Album『スピッツ』を同時リリースして、メジャーデビューを果たしました。

 

ちなみに、そこからさらにさかのぼることおよそ3年半前、現メンバーの揃ったスピッツが、文化服装学園の文化祭で初めてライヴ出演したというところから、結成日としては1987年7月17日が位置付けられています。

 

なので、スピッツが結成からメジャーデビューまでに有した時間は、まぁそのままですが…およそ3年半だったということが分かります。

 


■ただ、スピッツ自身は、メジャーデビューというものには、そんなにこだわっていなかったということを、色んなところで語っています。例えば、書籍「旅の途中」の中でも、田村さんと草野さんは、それぞれ次のように語っています

 


 『イカ天』に出たバンドは次々にブレイクしていったが、そのままメジャーデビューしていく彼らを見て、かっこいいなとか羨ましいとかはまったく思わなかった。
 CDを出せたらいいな、とは思っていたけれど、プロになりたいとは思っていなかった。あの頃の俺たちにとっては、メジャーでCDを出すことが決してカッコイイことではなかった。むしろ、トンガっているイメージのある、インディーズで出すほうがかっこいいと思っていたからだ。

 

 …メジャーデビューすると、バンドの個性がねじ曲げられるんじゃないか。
 そういう思いも強かった。実際にそういうバンドを見てきたし、そういう話も漏れ聞いていた。

 


 メジャーデビューを焦る気持ちはなかった。
 メジャーデビューでデビューアルバムを作っている時も、インディーズで二枚目を作らないかという話よりもメジャーからデビューしないかという話が来たのが早かっただけ、という感覚だった。

 

スピッツはライヴバンドである」という想いを、メンバーが色んなところでよく語っています。前提として、ライヴがしたいという想いが一番強く、そのためにはCDを発表して名前を知ってもらうこと、そして、そもそも音楽を続けていくために…と考えた結果、メジャーデビュー自体が目的なのではなく、あくまでそれらを大切にするための手段に過ぎなかったのだと思われます。

 


■何はともかく、スピッツはメジャーデビューを果たしました。

 

どうやら先に音楽事務所をロードアンドスカイに決めて、その後、レコード会社をポリドールに決めたようです。

 

当時のポリドールのディレクターである竹内修という名前や、ロードアンドスカイの社長である高橋信彦という名前は、よくスピッツの書籍やCDのクレジットなどで見かける名前でもあります。

 

書籍「旅の途中」だったり、3050LIVEに付随しているDVDなどでも見かけますが、スピッツのメンバーやスピッツの音楽は、竹内さんや高橋さんを初め、周りの人たちに本当に愛され、また信じられていたことがよく分かります。

 


■ということで、時を現在に戻し、2021年3月25日。

 

スピッツは、メジャーデビュー30周年を迎えました。結成30周年の時もそうでしたが、メジャーデビュー30周年も同じように、自分が成し遂げたわけでもないけど、非常に感慨深く思っています。

 

世間的に、2020年よりコロナ禍が続いていることにより、たくさんのライヴが延期・中止になってしまい、決してミュージシャンや音楽業界としても明るいとは言えない時期が長く続いています。

 

そんな中で迎えた、メジャーデビュー30周年の記念の年ですが、それでもスピッツは精力的に活動をしています。

 

例えば、件のメジャーデビュー30周年記念日の2021年3月25日には、スピッツは配信シングル『紫の夜を越えて』を発表しました。個人的には、メジャーデビュー30周年記念…という感じは、曲からはあんまり感じ取ることはなく、やはりと言えばやはりですが、このコロナ禍への憂いの気持ちや、そんな困難な時代を生きている人々に向けて、という側面を強く感じました。

 

あと、これも楽しみですね、スピッツの新曲【大好物】が11月3日公開の映画『劇場版「きのう何食べた?」』の主題歌に選ばれました。これに関しては、今の所は映画の予告編で少しだけ聴けるのみで、続報を待つばかりですが、どんな形で発表になるのか、今から楽しみです。

 


■そして、2021年9月14日。Special Album『花鳥風月+』が発売になりました。これに関しても、シングル『紫の夜を越えて』と同様に、メジャーデビュー30周年記念的な側面が強い作品だと思われます。

 

さかのぼること、実におよそ22年前…1999年3月25日(奇しくもメジャーデビュー日)に、スピッツは『花鳥風月』というアルバムを発売させました。この作品は、いわゆる”普通の流れ”で発売になるオリジナルアルバムとは違っていて、Special Albumという風に呼ばれる特別な作品になっています。

 

Special Albumと呼ばれている所以としては、このアルバムが、アンチベストアルバムを貫くスピッツが、そのベストアルバムへのアンチテーゼとして発表した、カップリング集という形を取っているからなのです。

 

スピッツカップリング曲には、素晴らしい曲がたくさんあって、それらがまとめて聴ける『花鳥風月』は、”Special”の名前の通り特別な作品であり、かくいう僕自身も、スピッツカップリング曲に多く触れたきっかけになった作品でした。

 

『花鳥風月』は、もうこれはこれで完結した一つの名盤だったのですが、その発売から22年が経った今年、何と収録曲を増やして、新たに『花鳥風月+』と名前を変えて発売させるという情報が発表されたのです。まさに、寝耳に水のサプライズでしたね。

 


■しかも、その新たに収録される曲が、これまたすごかったんです。

 

先程紹介した通り、『花鳥風月』はカップリング集なのですが、カップリング曲以外にも、スピッツのインディーズ時代の楽曲や未発表曲なども収録されていました。

 

例えば、『花鳥風月』のラスト2曲には、【おっぱい】と【トゲトゲの木】という曲が入っているのですが、この2曲は、スピッツがインディーズの頃に発表したミニアルバム『ヒバリのこころ』に収録されていた曲でした。

 

ミニアルバム『ヒバリのこころ』が発売になったのは、1990年3月20日のことで、つまり冒頭で説明しました、結成~メジャーデビューの間の期間で発売されました。その収録曲を紹介しておきますと…

 

01.ヒバリのこころ
 (シングル曲&アルバム『スピッツ』収録曲)
02.トゲトゲの木
 (アルバム『花鳥風月』収録曲)
03.353号線のうた
 (アルバム『花鳥風月+』でメジャー後初音源化)
04.恋のうた
 (アルバム『名前をつけてやる』収録曲)
05.おっぱい
 (アルバム『花鳥風月』収録曲)
06.死にもの狂いのカゲロウを見ていた
 (アルバム『花鳥風月+』でメジャー後初音源化)

 

という感じでしたが、アルバム『花鳥風月+』の収録曲と見比べると分かると思うのですが、12曲目~17曲目がそのままミニアルバム『ヒバリのこころ』に入れ替わっていることに気付くはずです。

 

そして、多くの曲は、メジャーデビュー後も何らかの形でこれまでに音源化されて聴くことができたのですが、【353号線のうた】と【死にもの狂いのカゲロウを見ていた】の2曲は、メジャー後初めて音源化されて聴くことができるようになりました。(厳密には、【死にもの狂いのカゲロウを見ていた】は、映像作品『ジャンボリー・デラックス LIVE CHRONICLE 1991-2000』にて、2番だけライヴ映像で聴くことができます)

 


■ミニアルバム『ヒバリのこころ』について、もう少しだけ紹介しておきますと、まず、やはりインディーズ時代の作品だけあって、今はもう手に入れることはできなくなっています。リアルタイムで調べて見ると、とあるネットオークションでおよそ87000円で取り引きされていましたが、果たして…。

 

スピッツは、インディーズ時代には、カセットテープやソノシートなどで自主制作作品をいくつか発表しているようですが、その中でもミニアルバム『ヒバリのこころ』は、インディーズ時代に発売された唯一のCD作品であるようです。

 

どうやら、初回プレスで2000枚作ったようですが、再プレスされるほど売れなかったようなので、まぁ2000枚弱しか世には出回っていないんですかね。

 

書籍「旅の途中」の中にも、少しだけこの作品について語られています。

 


 「そろそろCDを出さないか?」
 ロフトがやっていたインディーズ・レーベル『ミストラル・ミュージック』から、という話だった。
(中略)
少なくとも、メジャーに行く前に、インディーズというステップを踏んで、スピッツのスタイルを示しておきたいという思いがあった。

 


 でも、『ヒバリのこころ』は売れなかった。
(中略)
 それよりも、当時の自分たちにとっては、いいCDができたということがうれしかった。音にも満足していたし、人とは違うものができたという手ごたえもあった。反響がなくても、時代が合わないんだろうな、くらいにしか考えていなかった。

 

など、『ヒバリのこころ』の話も含めて、インディーズ時代の古い話も入っていますので、「旅の途中」良かったら読んでみてください、面白いです。

 


■ということで、大変長くなっていますが、アルバム『花鳥風月+』の感想を述べていきたいと思います。

 

…と言っても、アルバム『花鳥風月』の記事はかつてスピッツ大学でも書きましたので、『花鳥風月』の部分はそちらに任せるとして、本記事は、『花鳥風月+』によって変わった部分を中心に紹介していきたいと思います。

 

itukamitaniji.hatenablog.com


まず、アルバム『花鳥風月+』に収録されている音源は全て、スティーブン・マーカッセン氏という、何ともすごそうな人による、リマスター盤となっています。

 

この人はあれですね、2002年にスピッツの1st~8thアルバムのリマスター盤が発売になったのですが、そのリマスターを手掛けたのも、このスティーブン・マーカッセン氏でした。要は、録音し直すのではなく、元々ある音源を音質よく生まれ変わらせるという感じですね。映画とかでもありますよね。

 

『花鳥風月+』の音源は、はっきりとクリアに聴こえるようになったイメージです。分かりやすいのが、音量が大きく聴こえますよね。これまでの『花鳥風月』やリマスター盤ではないオリジナルアルバムは、音量が少し小さく聴こえて、最近の高音質なアルバムと合わせて聴いていると、違和感があったんですけど、リマスタリングされたことにより、同じように気にせず聴けるようになりました。

 


■そして、何と言っても、ミニアルバム『ヒバリのこころ』に収録されていた曲たちについてですよ。やっぱり、この曲たちを聴けることが、『花鳥風月+』で一番楽しみな部分でした。

 

ちなみに、【トゲトゲの木】と【おっぱい】については、もちろんリマスタリングされていますが、従来の『花鳥風月』に入っていたものと同じでした。

 


ヒバリのこころ
これが表題曲になるんですね。ここからも、スピッツにとって、昔からこの【ヒバリのこころ】という曲を、特に大事にしてきたことがよく分かります。

 

イントロの疾走感は、メジャーバージョンとあんまり変わらないんですけど、何かボーカルが入ったところから、インディーズバージョンの方は、何かもったりしてる感じがしますね。疾走感というより、何かすごい丁寧に歌唱・演奏しよう頑張っている感じがします。

 

それから、サビに入る前のキーボードの音ですかね、「テテテテッテ」って聴こえてくる音が、何か気が抜けてちょっと笑えてきます。ちなみに、『花鳥風月+』の歌詞カードには、ミニアルバム『ヒバリのこころ』のオリジナルスタッフクレジットも載っているんですけど、そこには、マサムネと三輪テツヤのクレジットに、Keyboardと書かれています。

 

あとは、歌詞が変わっている部分が、何か所かあるようです。確認できたのは、”遠くでないてる”と”遠くで鳴いてる”、”緑のうた声”と”緑色のうた声”(どちらも”ミドリのウタゴエ”と歌っている)、あとがっつり変わっているところとしては、

 

<メジャーバージョン>

いろんなことがあったけど
みんなもとに戻っていく

 

<インディーズバージョン>

いろんなことがあったけど
すぐにもとに戻っていく

 

ここの”みんな”と”すぐに”ですかね。歌ってみた感じ、メジャーの”みんな”の方が自然な流れで歌える感じではあります。

 


【恋のうた】
スピッツのターニングポイントとなった曲として、パンクロックから転向するきっかけになった曲と紹介される曲として有名な曲ですね。

 

ただ、メジャー後はこの曲は2nd Album『名前をつけてやる』に収録されているのですが、このメジャーバージョンの【恋のうた】は、ひとつの完成形としてほとんど違和感なく聴けるんです。

 

それと比べると、インディーズバージョンの【恋のうた】は、言うならばスピッツの”変身の途中”という感じですね。まさに、パンクロックからスピッツロックへ、”ブルーハーツのコピー”から”スピッツらしさ”へ…「ああ、なるほどね、こういう感じでスピッツは変わっていったんだ」って、それを感じることができる、その狭間にあるような貴重な1曲です。

 


■あとは、何と言っても、メジャー後初音源化された、【353号線のうた】と【死にもの狂いのカゲロウを見ていた】ですよ。

 

【353号線のうた】
まず、サビの”パーパーパパーパパパー”が頭から離れません。THE BLUE HEARTSに【パーティー】という歌があるのですが、その歌でもパーパー歌われているのですが、何かそれを思い出しました。

 

(※追記 調べて見ると、音源を発表した時期としては、THE BLUE HERATSの【パーティー】は1993年であるので、【353号線のうた】(1990年)の方が古いんですね。)

 

そして、やはりインディーズ時代の曲、歌詞の世界観がすごい。何となく、1st Album『スピッツ』に収録されている、【死神の岬へ】で歌われているような、”あの世への逃避行”的なイメージなのですが、どこか性的な部分も感じる、不思議な曲です。

 

そして、なぜ”353号線”なのでしょうか…。

 


【死にもの狂いのカゲロウを見ていた】
まず、タイトルから謎です!この曲も、色々想像が浮かぶのですが、真っ先に僕が思い浮かべたのは、【ロビンソン】で歌われている、

 


片隅に捨てられて
呼吸をやめない猫も 
どこか似ている 抱き上げて
無理やりに頬よせるよ

 

という部分でした。カゲロウは、寿命が短い昆虫であり、数日~1週間しか生きられないとされています。そんなカゲロウを”見ていた”とは、つまり、人の死生について色々と想いを巡らせていたのかなと想像していますが、その辺りが、何となく上述の【ロビンソン】の猫の下りに似てるな、とも思ったんです。

 


いずれも、さすがスピッツのインディーズ曲、1st Albumや【晴れの日はプカプカプー】を思わせる、謎曲、奇曲です。この2曲については、また別に1曲ずつの記事を書こうと思っていますが、どのような方向性で書こうか、全く定まっていません…。

 


■アルバム『花鳥風月』を聴いていたのが、それこそ20年以上も前のことで、僕自身は中学生の頃でした。

 

ここのブログでも紹介していますが、自分にとって、『インディゴ地平線』と『フェイクファー』、そして『花鳥風月』の3作品は、カセットテープに吹き込んで何度も聴いた、いわばスピッツへとハマっていくその入り口になった作品たちです。

 

その中でも、『花鳥風月』は、収録されている曲がカップリング曲であり、その発表時期も非常に長い期間に渡っていたため、オリジナルアルバムとは違った雰囲気を纏った作品でした。

 

今回『花鳥風月+』で、久しぶりに通してこの作品を聴きましたが、非常に懐かしい感じがしました。音も良くなっていて聴きやすくなっているし、何よりインディーズ時代の曲がたくさん聴けるなんて、名盤がさらにパワーアップしたという感じですね。