アルバム講義:Special Album『色色衣』
Special Album『色色衣』
発売日:2004年3月17日
■収録曲(→の先より、各曲の紹介へと飛べます)
01. スターゲイザー
→ 76時限目:スターゲイザー - スピッツ大学
02. ハイファイ・ローファイ(NEW MIX)
→ 129時限目:ハイファイ・ローファイ - スピッツ大学
03. 稲穂(NEW MIX)
→ 14時限目:稲穂 - スピッツ大学
04. 魚
→ 55時限目:魚 - スピッツ大学
05. ムーンライト
→ 184時限目:ムーンライト - スピッツ大学
06. メモリーズ
→ 185時限目:メモリーズ - スピッツ大学
07. 青春生き残りゲーム(NEW MIX)
→ 80時限目:青春生き残りゲーム - スピッツ大学
08. SUGINAMI MELODY
→ 74時限目:SUGINAMI MELODY - スピッツ大学
09. 船乗り
→ 152時限目:船乗り - スピッツ大学
10. 春夏ロケット
→ 140時限目:春夏ロケット - スピッツ大学
11. 孫悟空
→ 83時限目:孫悟空 - スピッツ大学
12. 大宮サンセット
→ 30時限目:大宮サンセット - スピッツ大学
13. 夢追い虫
→ 193時限目:夢追い虫 - スピッツ大学
14.僕はジェット(Previously Unreleased Track)
→ 165時限目:僕はジェット - スピッツ大学
■アルバム『色色衣』(”いろいろごろも”と読む)は、時期としては、10枚目のオリジナルアルバム『三日月ロック』と、11枚目のオリジナルアルバム『スーベニア』の、その間で発表されたアルバムです。
1999年に、スピッツは『花鳥風月』というアルバムを発表しましたが、『花鳥風月』は”スペシャルアルバム”と呼ばれ、カップリング曲や未発表曲などを中心に収録された、いわゆる特別なアルバムとして、オリジナルアルバムとは一線を画した作品になりました。
そして、今回の『色色衣』についても、この『花鳥風月』と同様で、カップリング曲と未発表曲が主に収録されており、第二作目のスペシャルアルバムになっています。
ちなみに、僕も持っている、このアルバムの初回限定盤には、”スピッツ色色衣リリース記念特別座談会”なる冊子が同封されています。(ちなみに、『花鳥風月』にも、「特別対談」とよばれる解説書が同封されたそうですが、『花鳥風月』は僕は持っていないので…)
内容は、スピッツメンバーと、スピッツのデビューからのマネージャーである坂口優治さん、スピッツのディレクターの竹内修さんが、収録曲やスピッツの歴史について語っています。かなりボリューミーで、面白い内容になっています。ここスピッツ大学で記事を書くのに、この”座談会”の冊子からたくさん情報を引用させていただきました。
■ということで、『色色衣』について紹介したいのですが、まずは、『99ep』という作品の話をしましょう。
一応は、『99ep』は”アルバム”という位置づけの作品なので、別記事で単独で紹介するべきかもしれませんが、収録曲が『色色衣』に全て含まれているので、ここで紹介させていただきます。
『99ep』とは、1999年1月1日に発表になった、スピッツのEPです。EPというのは、いわゆるミニアルバムが5、6曲入りで、EPがそれよりも短い作品みたいな感じですかね。
『99ep』の収録曲は、曲順に、【ハイファイ・ローファイ】【魚】【青春生き残りゲーム】の3曲です。時期としては、アルバム『フェイクファー』のツアーのすぐ後に、リリースを前提とせずに、ライヴ後の勢いそのまま、レコーディングされた3曲だそうです。3曲とも、セルフプロデュース曲(特定のプロデューサーは置かず、自分たちだけで進めていった作品)になっています。
ちなみに、1998年の『フェイクファー』のツアーより、今やスピッツには欠かせないメンバー、キーボードのクージーことクジヒロコさんが加わります。そして、そこからそのまま、このEPのレコーディングに参加しています。クージーが、スピッツ作品のレコーディングに参加するのは、ここが初めてのことのようです。
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竹内さん:…この時は、特にリリースの予定を決めずに、新曲が出来たからクジさんを含めたツアー・メンバーで曲を固めてみよう、ということだったと記憶してるけど。
田村さん:『フェイクファー』のツアーが終わって、この勢いのままレコーディングに突入したら、いいのが録れるかもっていう思いがあって、この3曲にそれを閉じ込めたかった。ライヴ感とか。
草野さん:あと、クージーと1ツアー回ったことで、(彼女の)プロデューサー的な側面というか、いろいろ相談できるってことが分かって、5人で作ったんだな。
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と、”座談会”の中でこのように語っています。
■しかしながら、草野さんは『99ep』を「中途半端な作品」と語っており、おそらくそういう理由から、後にスペシャルアルバム『色色衣』に全曲を録して、『99ep』は製造中止になりました。
ということで、『99ep』は、現在はわりとレア作品になっています。何回か中古で売っているのを見たことがありますが…僕は、現物を持っていないですね。レンタルして録音したものはMDとして残っているのですが。
ただ、『99ep』曲は、どれも名曲ですよね。3曲とも、僕は本当に大好きなんですが、特に【魚】が好きです。最初は、確かラジオで聴いたと記憶しているんですけど、その時にすでに、きれいな曲だなって思いました。確かに、そんなに目立ちはしないんですけどね、【魚】に関しては、ファンの中でもかなり人気のある曲だというイメージです。ここスピッツ大学のランキングの中でも、第17位にランクインしました。
先述したように、クージーのキーボードが、特に【魚】では良い雰囲気・世界観を作り出しています。
僕は、【魚】の解釈として、”魚”=”都会を泳ぐように、器用に生きる人たち”を表しているとして、この歌からは、「そんな魚になりきれない(おそらく)男女が、都会の隅っこでつつましく生きている様子」を読み取りました。そんな”都会”という、どこか冷たくて無機質な響き、そして、そこで生きている男女の抱える不安な気持ちなどを、ちょっと物寂しげなクージーの鍵盤の音がうまく表現していると思います。素晴らしい1曲です。
■上記の『99ep』曲以外の収録曲について、紹介していきます。
まず、シングル曲では、22th『メモリーズ』、24th『夢追い虫』、28th『スターゲイザー』が収録されています。
シングルの発売時期がバラバラになっている理由は、まぁ【スターゲイザー】は新曲ですが、【メモリーズ】と【夢追い虫】は、それぞれ直近のアルバムの『ハヤブサ』と『三日月ロック』には合わないと見送られた曲だったため、『色色衣』に初収録されました。
カップリング曲で収録されている曲は以下の通り。
【ムーンライト】(c/w 21stシングル『ホタル』)
【春夏ロケット】(c/w 21thシングル『ホタル』)
【船乗り】(c/w 23rdシングル『遥か』)
【大宮サンセット】(c/w 24thシングル『夢追い虫』)
【稲穂】(c/w 25thシングル『さわって・変わって』)
【SUGINAMI MELODY】(c/w 26thシングル『ハネモノ』)
【孫悟空】(c/w 27thシングル『水色の街』)
何ていうか、改めてこう見ると、A面が静かな曲ならカップリングはロック寄り、逆に、A面がロックな曲ならカップリングは静かな曲になりがちなんですかね。前者だと「ホタル / 春夏ロケット(ムーンライト)」「遥か / 船乗り」「水色の街 / 孫悟空」、後者だと「夢追い虫 / 大宮サンセット」「ハネモノ / SUGINAMI MELODY」辺りですかね。
それから、最後に収録されている【僕はジェット】という曲は、1989年に発表されたカセットテープ『ハッピー・デイ』に収録されている(おそらく曲が誕生したのは、もっと前)とても歴史の古い曲です。
今回は、未発表曲はこの1曲のみですので、アルバム『花鳥風月』より、カップリング集の様相が強いです。
■『色色衣』に収録されている曲は、2000年~2004年にレコーディング・発表された曲たちで(中には、それ以前にもうすでにレコーディングされた曲もありますが)、実に4年に渡っています。
しかも、その頃のスピッツといえば、自分たちに合うエンジニアを探したり、その結果アメリカに渡り、レコーディングやミックスを試して自分たちの音を探し、その最中にマイアミショックが起こってしまいましたが、それもきっかけとして、ロックバンドとして新たに目覚めたりと、スピッツが変わっていった時期でした。
そういう、色んな意味で濃厚な時期にあったスピッツの、それも一番おいしいところが詰まっている作品が、実はこの『色色衣』だったりするのです。”座談会”の中でも、
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田村さん:…今回は1曲1曲スピッツの中で実験したり冒険したりした色が強い。全曲、アルバムを作り終えて「次に何をしようか」というタイミングの曲たち。一番だしの濃いところが詰まってる。
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と、このように田村さんは語っています。どこかのインタビューで、スピッツメンバーが、「カップリングは色々と試すことができる場所」という風に語っていましたが、まさに『色色衣』は、普段のシングル曲やオリジナルアルバムなどでは聴くことができない、スピッツの”面白い曲”が楽しめるアルバムになっています。
■ちなみに、アルバムタイトルの”色色衣”という言葉についてですが、「つぎはぎの服」という意味であるそうです。
「色衣(しきえ)」という、これ単独だと、高位のお坊さんが着る衣装の意味になるそうですが、かっこいい意味だけじゃないほうがいいということで、「色色」という言葉が、様々な、などの意味があるので、まぁそれらを組み合わせるという意味でも、「色色衣(いろいろごろも)」と名付けられたようです。
”座談会”の中で草野さんは、”ごった煮”という表現をなさっていましたが、まさに「色色」という言葉が、そういう”ごった煮”のごとく、ごちゃごちゃではあるけれど、しっかりと煮込んだスピッツの一番おいしいところが詰まっている、というアルバムの意味を表しているようですね。