スピッツ大学

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アルバム講義:6th Album『ハチミツ』

ハチミツ

6th Album『ハチミツ』
発売日:1995年9月20日

 


■収録曲(→の先より、各曲の紹介へと飛べます)

 

01.ハチミツ
→ 131時限目:ハチミツ - スピッツ大学

 

02.涙がキラリ☆
→ 120時限目:涙がキラリ☆ - スピッツ大学

 

03.歩き出せ、クローバー
→ 11時限目:歩き出せ、クローバー - スピッツ大学

 

04.ルナルナ
→ 202時限目:ルナルナ - スピッツ大学

 

05.愛のことば
→ 2時限目:愛のことば - スピッツ大学

 

06.トンガリ'95
→ 106時限目:トンガリ'95 - スピッツ大学

 

07.あじさい通り
→ 6時限目:あじさい通り - スピッツ大学

 

08.ロビンソン
→ 203時限目:ロビンソン - スピッツ大学

 

09.Y
→ 206時限目:Y - スピッツ大学

 

10.グラスホッパー
→ 45時限目:グラスホッパー - スピッツ大学

 

11.君と暮らせたら
→ 41時限目:君と暮らせたら - スピッツ大学

 


■前作『空の飛び方』からちょうど1年後に、六枚目のアルバム『ハチミツ』は発売されました。このアルバムで、ますますスピッツは、栄華を極めます。

 

まず、このアルバム『ハチミツ』で以って、アルバムにおいては、初のオリコンチャート1位を獲得しました。結果、数あるスピッツのオリジナルアルバムの中で、このアルバム『ハチミツ』こそ、一番売上枚数の多いアルバムになりました(どの時点での数字か、169万枚という数字を見つけました。)

 

収録曲には、シングルで一番の売上枚数を記録した【ロビンソン】、惜しくも100万枚には及びませんでしたが、これもスピッツの人気曲である【涙がキラリ☆】、シングル候補曲でもあった【愛のことば】、スピッツスピッツファンにとっては重要な楽曲【トンガリ'95】など、まさにスピッツの代名詞とでも呼ぶべき曲が、これでもかと揃っています。

 


売り上げが波に乗っていたのは明らかですが、書籍やネットの情報などで、”この頃の自分たち(スピッツ)はノリに乗っていた”であるとか、”(ハチミツは)満足のいく出来”などの言葉もよく見かけることができます。

 

そして、どうやらこれ以後、アルバム『ハチミツ』の出来映えが、良い意味で(悪い意味でも?)ひとつの壁、ひとつの基準として機能するようになっていたようです。例えば、アルバム『色色衣』に同封されている「色色衣座談会」において、

 


草野「それまでは『ハチミツ』っていう壁があって。『ハチミツ』の音がいいって思うのは、単にその時俺らがいちばん輝いていたからなのか、とかそういうネガティブな(笑)。」

 

草野「…俺らだけとかじゃなくって、笹路さんや宮ちゃんも乗りに乗っている時にたまたま当たったのかな、とか。その後ミックスがだんだん満足行かなくなってきたのは、俺の声が変わってきて、ミックスしにくくなっているのかな、と自分の声のせいにするようになってもいたので。」

(※笹路さん=アルバムのプロデューサーの笹路正徳さん、宮ちゃん=エンジニアの宮島哲博さん)

 

と語っています。自分たちが手掛けた作品が良い評価をされたことで、気持ちも乗ることは、当然のことでしょうね。しかも、このメンバー(笹路さん、宮島さん)は、前作『空の飛び方』も手掛けているので、チームで得た名誉ということで、なおのことだったでしょう。

 


■僕が『ハチミツ』に出会ったのは、前作『空の飛び方』同様、僕がスピッツを好きになった初期のことです。僕が小学生の時に、この『ハチミツ』は発売になったようですが、多分中学生の時に初めて聴いたと記憶しています。前作の『空の飛び方』同様、子どもの頃の記憶がよみがえる作品の一つです。

 

子ども心に、まずこのアルバムに対して抱いた印象は、”かわいらしいアルバム”というものでした。

 

タイトルがまず、かわいらしいですよね。アルバムタイトルの”ハチミツ”はもちろん、”ルナルナ”とか”トンガリ'95”とか”涙がキラリ☆”の☆マークとかもそうですけど、そういう部分にも引っ張られて、”かわいらしい”アルバムという印象を得たのかもしれません。

 

歌詞はともかく、メロディーや楽器の演奏が優しい曲が多い印象なんです。荒々しいロックな曲と言えば、【トンガリ'95】と【グラスホッパー】くらいじゃないですかね。

 


■しかし、思い返してみると、このアルバムが発売になった1995年は、地下鉄サリン事件、そして、阪神淡路大震災という、2つの凄惨な人災と天災があって、日本中が悲しみに包まれた年でした。僕も、子ども心にですが、とんでもないことが起こっているんだ、ということは理解していました。

 

そういう悲しい出来事に包まれた日本や人々に寄り添って、元気づけるために作られたような曲が、このアルバム『ハチミツ』に入っています。

 

例えば、映画「フォレスト・ガンプ」を見て日本を思い、”幸せ”や”生きること”をテーマに歌った【歩き出せ、クローバー】、巷では”反戦歌”という解釈が広まっていますが、これも人の生き死にを歌ったような節がある【愛のことば】、個人的には【Y】なんかも、大きくこちらのテーマが含まれているような気がします。

 

そして、歴史的名曲【ロビンソン】に関しても、歌の内容については全然違うことを歌っている印象ですが、当曲のレコーディングが、まさに阪神淡路大震災が起こった日に行われたという秘話があり、そういうことだったんだと改めて【ロビンソン】を聴くと、色々と感じることが変わってきます。

 



だんだん解ってきたのさ
見えない場所で作られた波に
削りとられていく命が

【歩き出せ、クローバー】より

 


雲間からこぼれ落ちてく 神様達が見える
心の糸が切れるほど 強く抱きしめたなら

【愛のことば】より

 


やがて君は鳥になる ボロボロの約束 胸に抱いて
悲しいこともある だけど夢は続く 目をふせないで
舞い降りる 夜明けまで

【Y】より

 

何かこういうドキっとするような、胸に刺さるような歌詞が、ところどころに出てきて、現実の世界にふっと引き戻されるんです。

 


■これまでのスピッツのアルバムは、書籍などを見ても、草野さんの思想に基づいた、ファンタジーや妄想による歌が多かったように思えます。前作『空の飛び方』にしろ、さらにさかのぼって『Crispy!』や、『惑星のかけら』なんてのはいかにもって感じがしますよね。

 

もちろん、『ハチミツ』にも相変わらずそういう曲は多いと思いますが(ちょっとエッチな曲が多いか?笑)、気持ちとしては、これまでの閉じた世界ではなく、外へ向かって開いている、という印象も受けます。

 

これは僕の想像もあるけれど、先述の通り、日本で色んなことがあった時代に、少しでも寄り添おうとした結果でもあったのではないだろうか。あるいは、スピッツという名前が日本に広まっていった中で、自分たち(スピッツや、引いては、スピッツチーム)が見てる世界が大きくなっていって、そこへ向けて歌うようになったということもあるかもしれない。

 

だから、『ハチミツ』という作品は、今までの作品と比べ、より現実に近い(ところを歌っている)作品だとも言えるかもしれない。



草野「『わかる奴にだけわかればいいよ』っていうのから、『結局わかんない人はいないんだ』っていうとこにもっと近くなってきたんじゃないかな。今は聴き手の顔も何となく見えるし。そう考えると『ハチミツ』っていうのは、空を飛ぶということから一歩こう歩み出た形かなぁ。…」

 

(【歩き出せ、クローバー】についてのインタビューにて)
草野「『フォレスト・ガンプ』にしても、アメリカっていう物に恵まれた社会で生活してきた人が、戦場でいきなり生きるか死ぬかの場面に立たされたわけで。僕らにいつそういうことがいつ起こってもおかしくないっていう風に思ったし、俺は大ケガしたことも手術したこともないから、なんか弾丸の痛みって耐えられるのかなって。…」

 

書籍「旅の途中」で、このように草野さんが語っていますが、特に後者の話なんかは、先程の阪神淡路大震災サリン事件に通じる想いを感じますが、現実に起こったことに対して影響を受けた部分も大きかったんだろうかと想像します。

 


子ども心に感じたかわいらしさは未だに感じつつも、大人になるにつれて、何ていうか、その裏に隠された現実や悲しみ、そして、その悲しみに寄り添おうとした草野さんの想い…そういうものを(少しは)想像することができたから、今はそういう”二面性を感じる”アルバムという感想に落ち着きました。

 


■ちなみに。

 

1995年に発売になった当アルバム『ハチミツ』の発売20周年を記念して、『ハチミツ』に収録されている曲に【俺のすべて】を加えた12曲を、様々なアーティストがトリビュートした、トリビュートアルバム『JUST LIKE HONEY ~『ハチミツ』20th Anniversary Tribute~』が発売になりました。

 


曲とカバーアーテイストだけ紹介しておきますと、

 

01. ハチミツ / 赤い公園
02. 涙がキラリ☆ / 10-FEET
03. 歩き出せ、クローバー / NICO Touches the Walls
04. ルナルナ / 鬼龍院翔ゴールデンボンバー
05. 愛のことば / indigo la End
06. トンガリ'95 / LAMP IN TERREN
07. あじさい通り / クリープハイプ
08. ロビンソン / 9mm Parabellum Bullet
09. Y / GOOD ON THE REEL
10. グラスホッパー / ASIAN KUNG-FU GENERATION
11. 君と暮らせたら / 初恋の嵐 feat. 曽我部恵一
Bonus track. 俺のすべて / Scott Murphy

 

となっています。どの曲をどのアーテイストがカバーするか、その組み合わせを全て当てるという企画があったりして、それなりに盛り上がったりしました。

 

このアルバムに関しては、このブログで以前取り上げたことがありますので、良かったらそちらも参考にしてください。

→ 特講:「JUST LIKE HONEY ~『ハチミツ』20th Anniversary Tribute~」を聴いて - スピッツ大学

 

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アルバム講義:5th Album『空の飛び方』

空の飛び方

5th Album『空の飛び方』
発売日:1994年9月21日

 


■収録曲(→の先より、各曲の紹介へと飛べます)

 

01.たまご
→ 89時限目:たまご - スピッツ大学

 

02.スパイダー
→ 77時限目:スパイダー - スピッツ大学

 

03.空も飛べるはず(Album Version)
→ 82時限目:空も飛べるはず - スピッツ大学

 

04.迷子の兵隊
→ 166時限目:迷子の兵隊 - スピッツ大学

 

05.恋は夕暮れ
→ 51時限目:恋は夕暮れ - スピッツ大学

 

06.不死身のビーナス
→ 151時限目:不死身のビーナス - スピッツ大学

 

07.ラズベリー
→ 197時限目:ラズベリー - スピッツ大学

 

08.ヘチマの花
→ 154時限目:ヘチマの花 - スピッツ大学

 

09.ベビーフェイス(Album Version)
→ 155時限目:ベビーフェイス - スピッツ大学

 

10.青い車(Album Version)
→ 4時限目:青い車 - スピッツ大学

 

11.サンシャイン
→ 61時限目:サンシャイン - スピッツ大学

 


■僕は個人的に、スピッツの活動時期をアルバム単位でいくつかに分けているのですが、例えば、第1期というと、1st『スピッツ』~4th『Crispy!』を位置付けています。

 

そして、この5th『空の飛び方』からは、スピッツの活動は、第2期へと差し掛かったと感じます。

 

何と言いますか、第1期を「スピッツの誕生と不遇の時代」とでも名付けるとしましょうか。すると、第2期はまさに「スピッツの黄金期」とでも言えますかね、”全盛期”と言うと嫌がられそうですが、売上などの数字を見ても、そう言えるのではないでしょうか。

 


まず、前作『Crispy!』の売上枚数が、10万枚に満たなかったのに対して(いつの時代の数字か分かりませんが、9.6万枚という情報を得ました)、今作『空の飛び方』はおよそ90万枚…売上枚数は、驚きの約10倍にまで跳ね上がりました。そして、オリコンチャートインしなかった『Crispy!』に対して、『空の飛び方』は14位にチャートインしました。

 

それから、これはアルバムが発売になって時間が経ってからですが、収録曲の【空も飛べるはず】が、シングルとして爆発的なヒットを記録します。売上枚数は150万枚くらいでしょうか、とにかく100万枚は大きく上回りました。これは、スピッツシングルの中では、第3位の売上枚数となっています。

 

アルバムに入っているシングル曲は、【空も飛べるはず】の他、【スパイダー】と【青い車】がありますが、シングル『君が思い出になる前に』以降のシングルが、”マイアミショック”の曰く付きベストアルバム『RECYCLE Greatest Hits of SPITZ』に入ったんですよね。だから、ベスト盤で聴くことが出来る、この辺りのシングル曲から、劇的に認知度が上がったんじゃないでしょうか。

 


かくいう僕自身も、シングル『チェリー』でスピッツにハマったのですが、その辺りを起点として、新しいアルバムを聴き進めていきながら、逆に、作品をさかのぼっていきました。

 

それで、最初に僕がさかのぼったのが、ひとまずこのアルバム『空の飛び方』まででした。それ以前にさかのぼるまでは、ここで一旦時間が空くのです。なので、僕のスピッツの初期の記憶は、アルバムでいうと『Crispy!』と『空の飛び方』の間に一線引かれて区切られています。

 

僕は、中学生の時に『空の飛び方』を聴いていたので、かれこれ20年以上の付き合いですよ。これ聴きながら、高校受験の勉強をしてましたからね。そんな時に、”ただ君のヌードを ちゃんと見るまでは僕は死ねない”なんて陽気に歌ってくるんですから、「ヌード…ヌード…」ってそりゃ悶々としてきて、ペンを握るんじゃなくて…って何を言ってるんだ。

 


■アルバム『空の飛び方』のプロデューサーは、引き続き笹路正徳さんです。この頃にはもうすでに、スピッツと笹路さんがかなり打ち解けていることを、書籍「旅の途中」を読んでいても感じ取ることができます。”笹路学校”なんて言葉もあり、何ていうか、先生(笹路さん)と生徒(スピッツメンバー)の関係に近かったのかなって、読んでいて思いました、何となく微笑ましいですね、笑。

 

書籍「旅の途中」には、たくさんのエピソードが書いてあるのですが、読んでいて印象に残ったエピソードを、一つ載せておきます。

 


アルバム『空の飛び方』のレコーディングの際、アメリカからエンジニアをお願いしてみよう、ということになり、ポールという人に、アルバムのミックスダウンをしてもらったそうなのです。

 

ところが、このポールのミックスダウンについては、メンバーが納得いく音では無かったようです。しかし、アメリカからわざわざ呼んでもらったエンジニアに対して申し訳ないと、メンバーは何も言えずに口を閉ざしてしまいます。その様子に、笹路さんも気づいたようで、「バンドとして言わなきゃダメだ」とメンバーに進言したそうです。

 

結局、スピッツメンバーはちゃんとポールに意見を述べて、つまりミックスを断って、レコーディングにも携わっていた宮島哲博さんのミックスの方を採用したのだそうです。
(※宮島哲博さん…調べてみましたが、自分の好きな・ある程度は知っているアーティストだと、GRAPEVINEGOING UNDER GROUNDCoccoTHE HIGH-LOWSなどを手掛けているようです!)

 



 いま思えば、このときがスピッツの分岐点の一つだった気がする。バンドとして、意思を持って決断していく覚悟のようなものができた最初の出来事だった。

 

リーダーは、書籍の中でこのように語っています。”笹路学校”の中で、スピッツメンバーが、音楽的にだけではなく、プロのミュージシャンとしての考え方などを、この時期に急激に学んで吸収していって(吸収しようとしていって)、大いに変化・成長していったことを読み取ることができます。

 


■さて、そんな『空の飛び方』はどんなアルバムなのか、考えていきます。

 

まず、4th『Crispy!』は、前回書いた通りですが、「売れる!」という目標を立てて、ポップな作品を目指して作られました。それは、スピッツメンバーや笹路さんのねらいとするところではあったのですが、”よりポップに!”と多少無理をし過ぎたせいで、スピッツ本来のギターを中心としたバンドサウンドからは離れていきました。

 

一方で、今回の5th『空の飛び方』は、スピッツ本来の、ギターを中心としたバンドサウンドに戻すことを方針として作られたそうです。

 


個人的な感想を言わせていただくと、色んな意味で”ちょうどよくなってきた”のがこの頃なんじゃないかなって思っています。

 

本来のサウンドに戻るといっても、今までの作品に比べると、『空の飛び方』も十分ポップなんですよね。ただし、そこには『Crispy!』の時に感じた、無理してる感というものは感じなくて、板についてきたと言いますか、そのポップさを自然に感じることができるのです。何ていうか、一言で言うと”聴きやすい”んです。

 

書籍にもそういう表現がありましたが、余計な音が入っていなくて、1曲1曲が軽く感じるんです。ホーンやストリングスの音がたくさん鳴っていて、派手な曲も、それはそれで聴いていて楽しいんですけど、ギター・ベース・ドラムというシンプルな演奏が、草野さんのボーカルを引き立たせるという、本来のスピッツのサウンドに戻り、でもちゃんとポップなスピッツも継承されて、それらがちょうどよくミックスされていったのが、ちょうどこの頃なのかなという感じです。

 


これぞギターロックといえば、例えば、【スパイダー】や【不死身のビーナス】や【青い車】辺りでしょうか。疾走感があって、ギターの音が前面に押し出されていますよね。最近のライヴでやっても、すごく盛り上がる曲ばかりだと思います。

 

一方で、ゆっくりと聴かせる曲も入っていて、例えば、名曲【空も飛べるはず】、大人になってより好きになってきた【サンシャイン】、個人的に好きな【たまご】や【ラズベリー】など(どうかな、これら2曲は割とロックな部類に入るのかな)があって、ロックナンバーとのバランスを取っています。

 


■では、アルバムの精神的な部分(込められた想いなど)はどうでしょうか。

 

何と言っても、タイトルの”空の飛び方”ですよ。スピッツが(草野さんが)作る歌詞の中で、”飛ぶ”という言葉は、よく出てくる表現の一つであり、重要な意味を持っている言葉だと思うのですが、それらのことは、書籍「スピッツ」においても草野さんが語っておられます。

 


草野「(アルバムタイトルを)初めは『飛び方』にしようとか言ってたんだけど、字面がイマイチっつうのがあって『空の飛び方』にしたんですけど。まぁ、昔から”飛ぶ”っていうのをテーマにしている部分が多いし」

 


それから、”飛ぶ”という言葉の、草野さん自身の概念について、

 


草野「これはもう幽体離脱ですよ(笑)。まあ瞑想でも夢でも宗教でもなんでもいいんですけど、もっと荘厳なイメージというか」

 

という風にも語っています。

 


僕個人的には、スピッツの歌詞の中に出てくる”飛ぶ”(類義語として”浮かぶ”とか”越える”とか”渡る”とか)という言葉については、物理的に飛ぶのではなくて、いわゆる”精神的にトブ”ということを表していると考えています。

 

さらに具体的に、大きく分けて2つの意味合いとして使っているのではないかなって考えています。

 


■一つ目
「魂や精神が(あの世へ)トブということで、”成仏”…もっと簡単にいうと、”死”を表している」

 

例えば、『空の飛び方』の楽曲だったら、すっかり心中の解釈が定着してしまっている【青い車】などがありますかね。”そして輪廻の果てに飛び下りよう”という表現が出てきますが、この場合は”飛び下りる”なので、(心中の解釈に基づくとすると)”車で海に飛び下りる”などにもかかっていると思いますが、”輪廻の果て”という言葉が引っ付いていて、いかにも、この世のしがらみを越えて、”あの世へトブ”という表現になっていると考えることができます。

 

アルバム外の曲だったら、個人的にこっち側の解釈をしたのは、例えば、【ローランダ―、空へ】【ワタリ】【漣】【タンポポ】などをすぐに思い出しました。直接”飛ぶ”という言葉が出てきていなかったり、違う言葉に置き換わったりしていますが…もっとたくさんあると思います。

 


■二つ目
「喜びのあまり、気持ちが天にもトブような気持ちになる…として、しばしば、性的に”快楽”に溺れることや、”絶頂”に達することを表している」

 

個人的に、【空も飛べるはず】はこっち側に位置付けているのですが、どうですかね。”君と出会った奇跡”によって、”空も飛べるはず”という心地になったということで、何ていうか、全てが君と出会ったことによって救われた気持ちになり、そういう喜びのあまりに、心が浮ついて天にも昇ってしまいそうだ、という解釈を当てはめました。

 

我々人間は(とりわけ日本人?)は不思議なもので、何か素晴らしい・喜ばしい出来事に直面したときに、”ああ、天にも昇る気持ちだ!”、”もう死んでも構わない!”なんて言ったり、思ったりしますよね。何か、そういう感覚に”飛ぶ”という言葉を当てはめたのかなって考えたりします。

 


■という風に考えていくと、”精神的にトブ”という意味では、一つ目の考え方も、二つ目の考え方も、根本的には同じなんじゃないかと思えてきます。2つは表裏一体であり、つまりは、草野さんの詩のテーマである、”死とセックス”を表しているのだということですね。

 

色んな”飛び方”があるということで、そういう意味を含めて、インタビュアーはこのアルバムを、「飛び方の11の方法」という風に表現なさっていました。

 

それを受けて、草野さんは”再現フィルム”という、これまた絶妙な言い方をなさっていました。車で海に飛び込んだりする【青い車】、女の子をさらって逃げたりする【スパイダー】、挙句の果てには、”君のヌードをちゃんと見るまでは僕は死ねない”なんて言っちゃったりする【ラズベリー】など、ぶっ飛んだ”再現フィルム”もありますが…。

 

まぁとにかく、頭の中の妄想では自由に、どこでも行けるし、何だってできるし、何にだってなれる…ということで最終的には、この作品は、”空を飛ぶ夢”を見ている感じに近いのかなって思ったりします。

 

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214時限目:みなと

【みなと】

 

みなと

みなと

  • provided courtesy of iTunes

 

■41作目のシングル曲です。アルバム『醒めない』にも収録されています。

 

シングル『みなと』は、前作『雪風』が配信限定シングルとして発売されてから、およそ1年後に発売されました。

 

もう1作さかのぼってみると、シングル『さらさら / 僕はきっと旅に出る』からは、実におよそ3年の月日が流れたことになりますが、『雪風』が配信シングルだったので余計に、(いわゆる従来の媒体での)久々のシングルだなって思ったことを覚えています。

 


■まず、この曲は、NTT東日本のCMソングとして使われました。

 

僕が初めて知ったのは、SNS上の仲間がつぶやいていたのを見たのがきっかけでした。どうやら、テレビCMでスピッツの新曲が流れているようだ、と。

 

情報を調べてみると、確かにスピッツの新曲が、NTT東日本のCMソングとして起用されており、テレビCMで流れているようでした。しかし、僕が西日本に住んでいるからなのか(?)、まだそのCMを一度も見たことがありませんでした。

 

そこで、僕はいち早くその曲を聴くために、NTTのサイトを訪れて、CMの動画を見たのでした。確か、イチローが起用されていたCMでしたよね。そして、バックには、仲間が言った通り、件のスピッツの新曲が流れていました。

 

短いCMでしたが、それだけでも、僕には名曲の予感がしました。何となく【ビギナー】(こちらも、ゆうちょ銀行のCMソングに起用されました)を思わせる、重厚で壮大なバラードのように感じたのを覚えています。

 


ただし、CMが発表された当初は、確かにスピッツの新曲ではあったのですが、その時は曲名までは発表されておらず、謎の新曲として話題に挙がっていました。

 

そこから程なくして、その新曲の名前が”みなと”で、シングルとして発売になるという情報や、MVが解禁になりました。

 


■それから、シングルが発売になった頃、珍しくミュージックステーションスピッツが出演しました。調べてみたところ、実に3年ぶりの出演だったそうです。

 

僕も、この時のMステはリアルタイムで見たんですが、この出演がまた、今でも語り継がれる出来事となったんです…。

 


まず、とにかく久々のMステ出演ということで、草野さんとタモリさんの共演自体すごく新鮮に感じました。久々のトークにて、「好きな港」というマニアックなテーマに、タモリさんと草野さんが花を咲かせた後、いよいよスピッツの演奏が始まります。曲目はもちろん【みなと】です。

 

琴線に触れる、綺麗なイントロで曲が始まります。そして、程なくして、草野さんが歌いはじめます。ちょっと緊張していたのか、その声は少し震えて聴こえたような気がしました。

 

…しかし、何かがおかしい。草野さんがそわそわして、歌うのを止めて、三輪さんの方を見ます。

 

何と、草野さん、歌い出しを間違えちゃってたんです!【みなと】のイントロは、4拍子が8回繰り返された後(表現の仕方あってますかね?)草野さんのボーカルが入るのですが、4拍子が4回繰り返された後、歌い始めてしまったんです。

 

三輪さんと顔を見合わせて、照れ笑いする草野さん。よく聞けば、「間違えちゃった…」という言葉も聞こえました、笑。その後は、草野さんも気を取り直し、最後まで順調に歌いましたが、そこからは、文句なしに素晴らしかったです。

 


という、何とまぁ…ほっこりとした、草野さんらしい(のかな?)出来事でした、笑。

 


■ちなみに、そのMステ出演においては、僕としては、スカートの澤部さんが出たのも印象に残りました。

 

【みなと】の間奏には、これも印象的な口笛の演奏が入っているのですが、その口笛を担当しているのが(CDのクレジットで確認できます)、スカートというバンド(正確にはソロプロジェクト)のボーカルの澤部渡という人なんです。

 

演奏の時にちらちら映る、タンバリンを叩く太っちょの男性…誰なんだ!?と、これも話題になりましたが、それがまさに、澤部渡その人だったのです。スカートというバンドは知っていましたし(数曲知っている程度ですが…)、澤部さんが口笛を担当していることも知っていましたが、Mステ出演には驚きましたね。

 


■さて、【みなと】の紹介・考察をしないといけませんね、苦笑。

 

まず、タイトルの”みなと”については、言わずもがな漢字で書くと、”港”のことですよね。歌詞の中にも、”港”という言葉は何度も出てきます。

 


船に乗るわけじゃなく だけど僕は港にいる
知らない人だらけの隙間で 立ち止まる

 


君ともう一度会うために作った歌さ
今日も歌う 錆びた港で

 

それぞれ、出だしの歌詞と、サビの歌詞です。

 

”船”という言葉が使われているので、当たり前ですが、いわゆる一般的な船の発着地点としての港を思い浮かべるわけですが、何ていうか、精神的な意味も含めているような気がします。

 


■もう少し、歌詞を抜き出してみます。

 


遠くに旅立った君に 届けたい言葉集めて
縫い合わせてできた歌ひとつ 携えて

 


消えそうな綿雲の意味を考える
遠くに旅立った君の 証拠も徐々にぼやけ始めて

 


すれ違う微笑たち 己もああなれると信じてた

 

この辺りを読んでいくと、何となくこの歌が歌っていることが分かってくるよな気がします。

 


”君”は”僕”の元を離れて、何処か遠くへと旅立っており、そんな”君”にもう一度会えるように、”君”のために作った歌を携えて、”僕”は港でずっと独りで待っているというわけですね。

 

”遠くに旅立った君の 証拠も徐々ぼやけ始めて”というフレーズや、”錆びた港”という言葉は、時間経過も表していると感じます。”僕”が”君”を待って、長い時間が経過していると。

 

”港から旅立つ”ということで、例えば、自分の夢のためにだとか、就職や進学のためなど、理由は様々考えられると思いますが、とにかく”君”は船に乗って、”僕”と過ごした場所を離れて旅立った、と考えることが普通かもしれません。それでも、この物語は成立するように思えます。

 


■ただ、やっぱり色んなことを想えば、”君”は亡くなっており、もう二度と会うことはできないと分かった上で、”僕”は”君”を待っているという解釈へとつながっていきます。

 

つまり”君”はすでに亡くなって、”あの世”へと旅立ったと…そういうことになります。だからこの場合の”僕”は、待っている、という言葉よりは、”その場所に(精神的に)縛り付けられていて、どこへも行くことができない状態”という方が、悲しいけどしっくりきます。

 

そして、そういう解釈の根底にあるのが、まぁネット上でも多くの人が解釈している通り、この歌と東日本大震災との関連ですよね。

 

ここスピッツ大学でも、前作『小さな生き物』については、東日本大震災との関連を指摘しつつ紹介してきたのですが、アルバム『醒めない』についても、未だ震災との関連は、形を変えつつも残っていそうです。

 


これから、ここスピッツ大学でも本格的に、アルバム『醒めない』の紹介に入っていくわけですが、この頃の草野さんは、作品のテーマとして、「死と再生」を挙げています。

 


草野「まぁ、『小さな生き物』が旅に出る前の不安と期待が入り混じったアルバムだとすると、”雪風”は再生を匂わすものになっていたと思うんで、そういう意味ではアルバムのスタートにはなっていると思いますね。」

 


草野さん「前のアルバムを客観的に聴いた時に、不安感の強いアルバムなのかなっていうのは思って。(中略)……結果的にそこまでにはなっていないんですけど、再生の物語みたいなものを匂わせるコンセプトで作ってもいいかもって思ったところはありましたね。」

 

これらは、アルバム『醒めない』発売直後のMUSICA(珍しく購入した、笑)において、草野さんが語ったことですが、この考え方は、そのまま【みなと】にもつながっていると考えることができそうです。

 


■港という場所は、本来は”旅立ちの場所”や”帰ってくる場所”ですが、”船に乗るわけじゃなく”と冒頭から歌われていることからも、大切な人を亡くし、残された当人は旅立つことができずに、合わせて、いくら待っても亡くなった人も帰ってくるわけではないので、待っているということは、健気なようで、実は何も救いがないんですよね。

 

それでも、【みなと】がアルバムの2曲目であることは、何か考えさせられます。1曲目の表題曲【醒めない】は、アルバムの表表紙的な曲だと思っているので、物語の始まりとしては、実質はこの【みなと】であると考えています。

 

あまりそういうものにはなっていない、としつつも、草野さんはアルバムで一貫した再生の物語を描こうとしました。とすると、この曲の役割は、”再生の入り口”といったところでしょうか。ここから、再生の物語が始まるわけですね。

 

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スピッツ大学 節目に思うことと、今後の展望

■平素より大変お世話になっております、キャラを忘れた頃に、どうもスピッツ大学の学長itukamitanijiでございます。

 

最近、めっきり暑くなってきましたね。今年もまた、暑くて長い夏がやってきますよ。学生の諸君も(きっと、私も含めて、そう若くないおじさんおばさんも多いでしょうし…苦笑)、どうぞお体に気を付けて、乗り切っていただきたいと思っております。

 

 

■さて早速、本時の話題に入らせていただきます。

 

ここスピッツ大学についてですが、2015年7月25日が初めて講義をした日(初めて記事をアップした日)なので、早いものでもうすぐ3年という月日が流れることになるわけです。

 

そして、そのスピッツ大学での核となる講義として、”スピッツ全曲研究セミナー”があります。これは、その講義名の通りになりますが、スピッツの楽曲全てを、1曲1曲紹介・考察していくというものです。当初から、何とも長期に渡る講義を始めてしまったな、と思ったものです。

 

楽曲を五十音順に紹介していき、ワ行の曲まで紹介しつくして、インスト曲の紹介も終えて、現在リアルタイムでは、ボーナストラック的な曲の紹介として、「213時限目:あかさたな」まで紹介しつくつしたところでございます。

 


講義を始めた2015年7月時点(以下、単に”当時”と書きます)でのスピッツの作品リリース状況は、最新アルバムは『小さな生き物』であり、最新作として配信限定シングル『雪風』が発売されたところでした。

 

当然、後に発売される、シングル『みなと』、アルバム『醒めない』、シングルコレクション、その他映像作品などは、発売はおろか、当時はそのリリース情報すらまだ世に出ていない状況だったので、このスピッツ大学で講義をしていく中で、続々と情報が解禁され、そして随時発売されていきました。

 

その時その時、新曲が出る度に、その曲を紹介していってもよかったのですが、ここスピッツ大学の全曲研究セミナーについては、当時の最新作である、シングル『雪風』までの曲に絞って、そこまでの全曲をまず紹介しようとあらかじめ決めていたので、そのようにしました。(ちなみに例外として、【1987→】は、30周年記念記事として紹介済みです。)

 

 

■これらのことを踏まえると、先述した全曲研究セミナーの最新講義、「213時限目:あかさたな」で以って、一応は”当時取り決めた全曲”を紹介し切ったことになるわけなのです。つまり、全曲研究を、ここで一旦は達成したことになるわけです!

 

これに関しては、自分勝手ながら、とても満足しています。きっと、前のように、どこか途中で飽きちゃうんだろうな、とか思いつつやってきたので、一応はこんな自分でも、ひとつのゴールにたどり着けたという気がして、感慨深く感じているわけです。

 


飽きないでここまで続けられた、一番の大きな理由は、他でもありません、スピッツ大学を訪れてくださった、皆様が居たからでございます。


私自身は、ただ”スピッツ”と”文章を書くこと”が好きなだけで、このブログは無償で書き続けているので、別にたくさんの人が読んでくださっても、何か利益を得るわけではないのですが、やはり、読んでくださっている人がいることは嬉しいことなのです。そして、それが続ける励みにもなるのです。

 

別にスピッツファンではなくても、色んな境遇でここに辿り着いた方も居られるかと思いますが、そんなことはどうだっていいのです。

 


私はつまり、”今そこに居るあなた”にお礼が言いたいのです。本当にありがとうございます。

 

 

■しかし、まぁ何が言いたいか、きっとお分かりですね…達成できたことに関しては、大きな節目と考えて間違いないのですが、これらは全て”当時”のお話なのです。

 

”全曲”は常に更新され続けています。それは、スピッツが活動し続ける限りです。スピッツが、草野さんが、もう曲は作らないよ!活動しないよ!と言わない限り、ずっと続いていくのです。私達は、それが出来るだけ長く続いていくことを、願うばかりですが…。

 

大きな節目は大きな節目として嬉しいのですが、スピッツ風に言いますと、まだまだここは”旅の途中”に過ぎないんですね。

 


というわけで…


スピッツ大学、まだ続きます!勝手ですが、まだ書いていきたいことがたくさんありますので、今後ともよろしくお願い致します。

 

 


■では最後に、少し具体的に、これからの予定などを載せておきます。予定は予定ですので、変更・追加はあるかもしれませんので、あらかじめご了承ください。

 


スピッツ全曲研究セミナー

 

先述の通り、シングル『雪風』までの楽曲は、全て紹介したことになりますので、これ以降の楽曲を紹介していきます。

 

それで、ここからは楽曲紹介の順番を、”五十音順”から、”楽曲が発表された順”に変更いたします。そして、アルバム内の曲に関しては、収録順に沿って紹介していきます。

 


スピッツ全アルバム研究セミナー

 

現時点では、4thアルバム『Crispy!』まで紹介済みです。当然、アルバム順に、残り全作品を紹介していきます。


スペシャルアルバム(今のところは、3作品ですかね)は紹介しますが、シングルコレクションについてはどうしましょうか、あまり乗り気ではないですが、ちょっと考えてみます。多分、やらないかな…苦笑。

 


スピッツ大学ランキング企画

 

スピッツ大学ランキング企画においては、目標票数を1000人(6000pt)と設定しておりましたが、実際、まだそれには及びません。しかし、先述の通り、当時の全曲研究セミナーが終わったということで、ランキング企画で選べる全曲も、全曲研究セミナーと同じく【雪風】までで対応していたので、こちらのランキング企画もそろそろ潮時かな、と考えております。


つきましては、近いうちに締切を設けて、最終結果発表をしようかと考えております。また追って報告いたします。

 


以上、①~③は、確実にやり切ることです。

 

 

■以下、その他としては、



④映像作品の紹介

 

これはちょっとで微妙ですね、苦笑。渋っている要因は、ただ単に、私自身が映像作品の紹介が一番苦手だということなんですよ。曲の解説は好きなんですけどね、LIVE映像の紹介は、ちょっとねぇ…って感じです。これまでも、何作品かは紹介させていただきましたが、それはそれで良いとして、改めてコーナー化して全作品紹介する…ということは、正直気が進みません、苦笑。

 

ただし、後述するものと比べると、こちらは一応スピッツ作品に該当するものなので、優先順位としては高く、何ていうか、紹介しないといけないんじゃないか、という感じには今思っているところですが…うーん、考え中です。

 


⑤トリビュートアルバムの紹介

 

スピッツのトリビュートアルバムとしては、現時点では2作品、『一期一会 Sweets for my SPITZ』と『JUST LIKE HONEY ~「ハチミツ」20th Anniversary Tribute~』があります。

 

アルバム『JUST LIKE HONEY ~「ハチミツ」20th Anniversary Tribute~』については、すでに紹介済みですので、過去の記事をご覧ください。


そして、アルバム『一期一会 Sweets for my SPITZ』に関しても、いつか必ず書きます。ただし、こちらに関しては、収録曲を一曲ずつ紹介するのではなく、アルバム一枚単位で、まとめて書きたいと思っています。

 


⑥メンバーが個人で参加した楽曲の紹介

 

一番多いのが、草野さんですかね。最近ですと、椎名林檎トリビュートアルバムに参加しましたよね。あとは…何があるでしょうか、松本隆トリビュートアルバムの【水中メガネ】とか、そんなことを言い出したら、KREVAとコラボした【くればいいのに】とか、平井堅と歌った【わかれうた】はどうなるんだとか…もっと言うと、作詞や作曲で参加した作品はどうするんだ、とかなってしまいますが…苦笑。

 

他のメンバーだと何がありますかね…リーダーが参加しているMOTORWORKSとか、スピッツが演奏を担当しているYUKIの【愛に生きて】とか(これ知ってましたか?なかなか面白いですよ)、色々ありますね。

 

本当にやろうとしたら、それらの作品を全て集めないといけないことになりますね…大変です!まぁ、個人的に好きな曲くらいは(例えば、【水中メガネ】と【愛に生きて】は本当に大好きなんですが)、時々さくっと紹介しても良いかもしれませんね。ただ、大々的にシリーズ物としてやろうとは思ってませんので、そのつもりでよろしくお願いします。

 

(※基本的に、ここスピッツ大学では、当然ながら、”スピッツ楽曲の紹介”に重きを置いています。つまり、前提として、”草野正宗が作詞作曲した作品”ですね。なので、”スピッツの楽曲を他のアーティストがカバーした”は、まだ紹介したいと思うのですが、これが逆に、”スピッツが他のアーティストの曲をカバーした”や”スピッツメンバーが他のアーティストの作品に参加した”などになると、途端に紹介する気がなくなっちゃうんです…。だから、アルバム『おるたな』収録のカバー曲は、ギリギリセーフという感じですね、苦笑)

 


⑦その他のその他

 

まぁ後は、その時その時に、随時考え付いたテーマに沿って記事を書くくらいですかね。最新情報なども、気が向いたら載せたりしても良いんですが…。


あと、何かこんなことを書いてみてはどうですか?などありましたら、コメント頂きたいです。

 


ということで、優先順位としては、④→⑤→⑥→⑦ですが…今のところ、確定なのは⑤ですかね。後のものは、特に絶対やると、ここでは決めません。まぁ、④はともかくとして、どこまでを”スピッツ”とするかですよね。

 

 


■はい、ということで、長々と書かせていただきましたが、何かようやく”今のスピッツ”に、このスピッツ大学も少しずつ追いついてきたな、っていうイメージです。

 

これから紹介する曲は、最近の曲も多くなっていくと思います。次回は、スピッツが久々にMステに出たはいいが、草野さんが歌い出しを間違えてしまった、"あの曲"がいよいよ登場です、笑。

 

スピッツ大学学長 itukamitaniji記

213時限目:あかさたな

【あかさたな】

 

■アルバム『小さな生き物』のデラックスエディション盤にのみ付属された、ライヴDVD/Blu-ray”撮りおろしスペシャルライヴ at 横浜BLITZ”に、ライヴ映像として収録されている曲です。CD音源での発表は今のところなく、現時点ではこのライヴ映像でのみ聴くことができるレアな曲です。

 

このブログでも何度も取り上げていますアルバム『小さな生き物』ですが、改めて紹介しておくと、同アルバムは「デラックスエディション 完全数量限定生産盤」「期間限定盤」「通常盤」の3形態で発売されました。こういう試みは、スピッツにとって初めてのことでした。

 

そして、アルバムの形態により、少しずつ収録内容が違っているんですが、デラックスエディション盤が一番豪華な内容になっています(それだけに値段も少し張りますが…)。件の【あかさたな】や、前講義(212時限目)で紹介しました【エスぺランサ】についてもそうですが、このデラックスエディション盤でしか聴くことが出来ないので、よりたくさんの新曲を聴きたい方は、こちらを購入することをおすすめします。

 


■さて、【あかさたな】という曲。

 

まず、一聴するだけで感じますが、「これぞスピッツ!」っていう感じですよね。個人的に、この歌は”ラブソング”に大別されるかと思っているんですが、明るくてかわいらしくて、それでいて、かっこいいという、まさにスピッツ流のラブソングだと思います。

 

アルバム『小さな生き物』の中だと、【オパビニア】や【エンドロールには早すぎる】や【潮騒ちゃん】などの曲が入っていますが、それらと何の遜色もない、何なら、どれかと収録内容が入れ替わっていたとしても、全然違和感が無かっただろうなって感じです。

 

というより、今回の【オパビニア】【エンドロールには早すぎる】【潮騒ちゃん】そして【あかさたな】は、ラブソングだという解釈に基づき、どこか世界観がつながっているような感じがするんですよね。まぁ同じ時期に作られた曲なので、そういうところはあるかもしれません。

 


例えば、歌われている物語の舞台として、どの曲にも”海”の風景が見えてくるんですが、どうでしょうか。

 


あかさたな 浜辺から 陸に上がってからは
怖がりですり傷だらけさ

【あかさたな】の出だしの歌詞

 


二人浜辺を 歩いてく
夕陽の赤さに 溶けながら

【エンドロールには早すぎる】のサビの歌詞

 

ご覧の通りですが、どちらにも、”浜辺”という言葉が出てきます。

 

それから、【潮騒ちゃん】は、もうタイトルが一番海っぽいんですけど、この歌詞にも”沖”という言葉が出てきますし、【オパビニア】も、これは太古の海に生息していた生物の名前が曲のタイトルになっています。

 


■その中で、【あかさたな】という歌は、個人的には、今まで恋愛に消極的で居た主人公が恋に落ちて、その相手に自分の気持ちを伝えようとしているようなシーンが浮かんできます。

 


あかさたな 浜辺から 陸に上がってからは
怖がりですり傷だらけさ
プライドのかけらなど よせ集めて得意気
笑われる事にも慣れてった

 


ほら全然ライブな手が 届きそうな距離で
今生のうちに会えた ハニー 気づいてる?

 

それぞれ、先程紹介した出だしの歌詞と、サビの歌詞の一部分です。

 

前半の4行は、恋愛に臆病だった、消極的だった主人公が、閉じこもっていたところから這い出てくる、まさにその時の描写のように読めます。ここでいう”浜辺”とは、まぁ”浜辺”というと”海”がセットだと考えると、”海”は主人公が閉じこもっていた場所の比喩表現として、そこから這い出た場所を”浜辺”と表現しているのだと読むことができます。

 

あるいは、”陸に上がってからは”という表現から、何ていうか生物的な進化と、人間的に新しい一歩を踏み出したことをかけているとも読めますかね。その辺りは、先ほど紹介した【オパビニア】にも通ずるものを感じます。

 


別に、前半4行ならば、恋愛に限らず、とにかく自分が閉じこもっていた場所から踏み出そうとしている描写になりますが、ここから、後半2行のような表現を読むと、それが恋愛の力によるものだったと考えることができそうです。

 


さあさあ行きましょう あそこが 消えちゃうより前に
人間になれたベムのフィーリング わかるかな?
残念知らないままで 通り過ぎるとかイヤでしょ
ずっとそばにいるからベイビー もう泣かないで

 

この辺とかも、面白い歌詞ですよね、”人間になれたベムのフィーリング”とかね、笑。恋に落ちたことをきっかけに、閉じこもっていた人間が変わろうと頑張るというのは、スピッツの歌によく出てくる描写だと思いますが、この歌はその王道って感じです。この部分は、【りありてぃ】にも通じる部分を感じます。

 

(※ちなみに、”ベム”とは、”妖怪人間ベム”のことですよね。昔やっていたアニメのタイトルであり、そのアニメの主人公の名前でもあります。あまりにも、昔のアニメなので、おじさんである僕も知らないんですけどね、苦笑。)

212時限目:エスペランサ

エスペランサ】

 

■アルバム『小さな生き物』に収録されている曲です。ただし、当曲が収録されているのは、アルバムのデラックスエディション盤のみなので、聴きたい方はご注意を。アルバムの最後に入っていますが、一応”Bonus Track”という扱いになっています。

 

エスペランサ”という言葉自体は、スペイン語で”esperanza”と書き、意味は”希望”だそうです。

 

このブログでも、アルバム『小さな生き物』と、東日本大震災の関連についてずっと書かせていただいておりますが、そんなアルバムの最後に(ボーナストラックではありますが)、”希望”を意味する曲が入っているのは、何か意味があるのではないかと勘ぐってしまいます。「最後に残るのは希望」「希望をもって諦めずに生きていこう」という想いが込められていると、勝手ながら思わざるを得ません。

 

ちなみに、スピッツとスペイン(語)に、何か関係があったのかと探してみると、映像作品『ソラトビデオ COMPLETE』に収録されているボーナスディスクにおいて、スピッツがスペインに撮影旅行に行ったことは確認できます。おそらく時期としては、アルバム『とげまる』発売の前あたりでしょうか。ただし、”エスペランサ”という言葉との関連は不明ですけどね…苦笑。

 


■とりあえず一旦、曲のタイトルや歌詞は置いておいて、曲を聴いてみると、ちょっと懐かしい感じなんですよね。

 

何ていうか、白昼夢というか幻というか、そういうのを見ているような、不思議な心地を感じる曲なんです。昔の曲ですけど、【プール】とか【アパート】とか、そういう系統の最新曲というイメージです。

 


ギターの音は三種類聴こえてきますかね…アコギの音と、イントロなどに鳴っているちょっと気の抜けたような音と、鐘の音のようなギターの音と…。

 

メロディーにも抑揚は無くて、Aメロ(同じメロディーの繰り返し)とサビ(ウーウーウーという歌詞の無い部分)のみという構成になっています。

 

あんまり、そんな目立った曲ではないですけどね、あくまでボーナストラックですので、アルバムの最後はしっかり、【僕はきっと旅に出る】で締めくくられ、その後にひっそりと入っている感じです。

 


■さて、じゃあ歌詞の解釈はどういう感じになるんでしょうか。どういうことを歌っているのでしょうか。

 


まず、出だしの歌詞が結構変わってますよね。こんな感じです。

 


カモメにだって 悩みはあって
無理のない程度に 話してみよう
同じようなこと 僕にもあるよ

 

いきなり、”カモメにだって 悩みはあって”という言葉が出てきて、”カモメ”という言葉が何かを象徴しているのかなって考えてしまいます。

 


僕ら人間は、”空を飛ぶこと”を”自由の象徴”のように考えますよね。地を這ってしか生きることができない人間にとって、何の障害もない(ように見える)空を飛ぶことはいつだって憧れであり、自分たちの人生と対比させて、自由なことと考えるかもしれません。

 

”空を飛ぶ”というと、もちろん虫や雲や、人工的なものだと飛行機なんかも連想するかもしれませんが、やっぱり”鳥”ですかね。翼を羽ばたかせて、風に乗って高い空を自由に飛んでいる鳥の姿を、自然と思い浮かべるんじゃないかと思います。

 


で、”カモメにだって 悩みはあって”というフレーズですが、個人的な解釈ですけど、そんな風に自由に空を羽ばたくことができる(と勝手に僕らが思っている)カモメにだって悩みはあるんだよ、と歌っているということで、ここはつまり、悩みがないように生きている人にだって、実際は、その人なりに悩みを抱えて生きているんだよ、ということを比喩しているのかなと思いました。

 

まぁ、「隣の芝生は青い」じゃないですけど、自分と比べて順調に生きている(ように見える)人にだって、悩みはあるよと、そういうことを歌っているのではないでしょうか。

 

そして、そこから”同じようなこと 僕にもあるよ”というフレーズに繋がっていきますが、”同じようなこと”というのは、先述の”カモメ”の話だと思われます。つまりは、悩みが無いようによく思われるけど、僕にだって悩みはあるよ、ということでしょうか。

 


■それから、もう一つこの歌詞の中に出てくる言葉として印象的なのが、”ガラスの玉”という言葉です。何度も出てくる言葉で、これも何かを象徴しているのかなと考えます。

 


ガラスの玉は 割れそうで割れず

 


みんなの想定より 弱いと思う
ガラスの玉が 坂を転がる

 

こんな風なフレーズで出てきます。

 


まず考えたのは、”カモメ”との対比です。つまり、この”ガラスの玉”は、我々”人間(の命や人生)”を表しているのではないか、と考えたのです。

 

特に、”ガラスの玉が 坂を転がる”なんて表現は、まさに僕らの人生を例えているように思えますよね。何ていうか、僕らの力だけでは、どうすることもできないことがあって、ただ坂を転がっていく=流れに任せるだけみたいなところがある、ということなんですかね。

 

さらに、”みんなの想定より 弱いと思う”というフレーズもくっついていますからね。これは、”ガラスの玉”にかかっている言葉なんでしょうか。さらにいうと、アルバムタイトルの”小さな生き物”にもつながっているようなフレーズですよね。まぁ、ここは読んでの通り、みんなが(僕らが)思っている以上に、人の命ってもろくて弱いんだよ、ということなんでしょうか。

 


あとは、草野さんは、丸いものを”死”の象徴として考えているような節があり、ともすると、この”ガラスの玉”も、そういう”死”の象徴のひとつとして使っているのかもしれません。

 

”ガラス”っていうのが、また余計に意味ありげなんですよね。”ガラスの玉は 割れそうで割れず”という表現もありますが、”ガラス”というものは、割れるものでも、透明で透けて見えるものでもありますからね。

 


■ということで、うまく説明はできないですけど、この歌で切り取っているのは、あの出来事の後の世界で、物思いにふけっているような、そういうシーンでしょうか。

 

順調に生きているようでも、誰もが悩みを抱えていて、いつ何が起こるか分からないような世界で(これはあの出来事の後だから余計に考えてしまいますが)、生きているというより”生かされている”というような状況…何かこう書くと、悲しいことのように思えるかもしれないけど、結局それが、この世の中の一つの真理なんですよね。

 


ただ、この歌には、”エスペランサ(希望)”というタイトルがつけられています。先述のようなことはあるけど”希望”を持って生きていこう…というより、だからこそ”希望”を持つべきなんだと、そういう方がしっくりきますかね。

 

どうですか、この歌から、”希望”を感じますか?

211時限目:リコシェ号

リコシェ号】

 

リコシェ号

リコシェ号

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■アルバム『惑星のかけら』に収録されているインストゥルメンタル曲です。個人的ランキング、195曲中143位でした。

 

ちなみに、この曲で以って、スピッツインスト曲3曲を紹介し切りましたが、個人的インスト曲ランキングを発表すると、

 

第1位 リコシェ
第2位 宇宙虫
第3位 scat

 

に…たった今、なりました。どうですか皆さん、スピッツのインスト曲、好きですか?ちなみに、武道館ライヴの映像作品では、オープニングで、全部をメドレーにしてつなげたのを聴くことが出来ます。

 


■さて、【リコシェ号】。

 

作曲は三輪さんです。元々は歌入りだったそうですが、結局インスト曲になっています。ただ、歌詞カードには記載されていませんが、サビ(?)に、

 


ゴーゴーゴー リコシェ
ゴーゴーゴー リコシェ
ゴーゴーゴー リコシェ
オーイエー

 

というボーカル…というより、コーラスが入っています。

 


あと、この”リコシェ”という言葉についてですが、僕はてっきりまた造語かなと思っていたのですが、英語で”Ricochet”と書き、跳飛、跳弾(石や銃弾などが跳ね返ること)という意味があるようです。

 

ただまぁ、”リコシェ号”ですからね、”リコシェ”という言葉自体の意味よりも、マシンの名前のようなイメージですけどね、そういう意味では、やはり造語なのかもしれません。

 


■曲のイメージとしては、リコシェ号がワープ空間を通って飛んでいくという感じです。リコシェ号のイメージは、飛行機や自動車というよりは、スペースロケットみたいな感じでしょうか、

 

曲の始まりで、”チュイーーーン”という音が鳴って(ワープ空間に入った)、そこから曲が盛り上がっていき、常にバックで”ギューーーン”、”ギュワギュワギュワギュワ”という音が鳴っていて(絶賛ワープ中)、曲のアウトロも”ピロピロピロピロ”という音がフェードアウト(飛び去って行くリコシェ号)していく感じです。

 

擬音ばっかり…これ以上は歌詞にできない、苦笑。

 


■アルバム全体で聴くと、この【リコシェ号】が最後に入っているので、アルバムのエンドロールみたいな感じです。

 

アルバム『惑星のかけら』の記事などでも書かせていただきましたが、個人的にこのアルバムは全体で、短編小説集(あるいは、短編映画集)のようなイメージなんです。

 

【惑星のかけら】がオープニング、本の表表紙、そこからのアルバムの曲たちがひとつひとつのお話で、最後の【リコシェ号】でエンディング、本の裏表紙…という流れですかね。

 


また、アルバム『惑星のかけら』自体が、草野さんの妄想世界を色濃く表した作品であるので、”リコシェ号”に乗って、その妄想世界を縦横無尽に飛び回って旅しているイメージです。

 

妄想の象徴(中枢)が、”惑星(のかけら)”だとも僕は書きましたが、そこへ向かって飛んでいる、ともイメージできますかね。

210時限目:scat

【scat】

 

scat

scat

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■アルバム『小さな生き物』に収録されている、インストゥルメンタル曲です。

 

wikiの情報などをそのまままとめてみます。

 

まず、スピッツのインスト曲としては久々で、アルバム『ハヤブサ』に収録されている【宇宙虫】以来、実に13年ぶりだそうです。合わせて、草野さん作曲のインスト曲が収録されるのは初めてのことです。(これまでのインスト曲は、他メンバー作曲によるもの)

 

曲のリズムは、7拍子と8拍子がコロコロと入れ替わる、ちょっと変わった変拍子になっています。そこに、インスト曲とはいったものの、タイトルの”scat”という言葉の通り、途中から草野さんのスキャットが入ってきます。そのスキャットの一部分が、”アイーン”に聴こえると話題になりました…個人的に、苦笑。

 

スキャット / scat … 主にジャズで使われる歌唱法で、意味のない音(例えば「ダバダバ」「ドゥビドゥビ」「パヤパヤ」といったような)をメロディーにあわせて即興的(アドリブ)に歌うこと。

 


■さて、アルバムにおけるインスト曲の役割って、色々あると思うんです。例えばアルバムの最初や最後に持ってきてプロローグやエピローグ的な役割をしたり、次の曲につなげることによって一つの大作のように仕上げてくれたり、単にそのインスト曲自体がアルバムの中でひとつのアクセントになっていたりと…。

 

そこへ来て、この【scat】の役割はどういうものでしょうか。ロックで攻めたインスト曲になっていますが、この曲でガラッとアルバムの雰囲気を変える役割というものでもなくて、アルバムに自然に溶け込んでいる感じなんです。

 


アルバム『小さな生き物』の全体的な解釈自体が、ここスピッツ大学では、ずっと東日本大震災との関連で書き続けてきましたが、またそれと多少無理矢理にでも意味を関連付けるとすると、この【scat】は、言葉にならない生命の叫び、と言ったところでしょうか。

 

失われた命への鎮魂の想い、残された命の咆哮、そして、新しく生まれてくる命の産声など、そういう、言葉にならない声を、この”scat”に託しているのかもしれません。

209時限目:宇宙虫

【宇宙虫】

宇宙虫

宇宙虫

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■アルバム『ハヤブサ』に収録されている、インストゥルメンタルの曲です。作曲は、ギターの三輪徹也さんです。読み方は、そのまま”ウチュウムシ”と読みます。

 

歌詞カードのクレジットによると、この曲には、どうやら三輪さん(guitar, programming)と、本アルバムのプロデューサーの石田小吉さん(Some Electronic Devices)のお二人の名前しか表記してないですので、お二人のみでの演奏になっているんですかね。

 

あるいは、アルバムのプロデュースは、先述しました石田小吉さんなのですが、この【宇宙虫】のみ、プロデュースが”SCUDELIA ELECTRO”名義になっています。調べてみますと、SCUDELIA ELECTROは、石田小吉さんをリーダーとした音楽ユニットであり、スピッツの田村さんや、あとドラムに向山テツさん(個人的に、斉藤和義Coccoのサポートで、ドラムを叩いていたのを見たことがあります!)もサポートメンバーとして所属しているようです。

 

なので、【宇宙虫】には、プロデュースはともかく、演奏などにもこのユニットが関わってるのかもしれません。

 


■ということで、インスト曲の紹介ですか…難しいですね、苦笑。

 

完全に、タイトルに引っ張られる部分もあるのですが、宇宙っぽい広がりを感じる曲ですよね。まぁ、タイトルに”宇宙”という言葉が使われていなくても、おんなじことを感じたと思います…多分。

 

小吉さんが”Some Electronic Devices”…つまりは色んな電子楽器の演奏で参加しているということで、バンドサウンドというよりは、テクノ…とまではいかないものの、電子的な音が響いて聴こえてきます。

 

なので、個人的なイメージとしては、宇宙は宇宙でも、いわゆる本物の星空を見上げている光景というよりは、”プラネタリウム”が思い浮かびました。椅子に座り、電気が消えた真っ暗な中で、頭上のドームを見上げる。すると、今まで真っ暗だったところに、星空が映されて、アナウンスが始まる…「あの星座は、○○座です」「あの星は、○○という名前です」など。そんな場面で、【宇宙虫】が流れていたら、すごく似合うでしょうね。

 

あるいは、”虫”の方に引っ張られると、”ホタル”なんかもイメージされます。ちょうど、同アルバムに【ホタル】という曲もありますが、暗闇の中に、幻想的にホタルが漂っている光景なんかも浮かんできます。

 


…という具合に、インストの曲は、抽象的なイメージでしか語れないので、あしからず、苦笑。

 


■さて、この”宇宙虫”というタイトルについてです。

 

どういう意図で付けたのかは、本当のところは定かではありません。結局のところは、タイトルが先行か、それとも音源が先行かは分かりませんが、この音源にこのタイトルは、とても似合っていますね。

 

ちなみに、水木しげる先生の漫画に、”宇宙虫”という架空の生き物が出てくるお話があるのですが、これとの関係はどうなのでしょうか?どうなんでしょうね、笑。

208時限目:ワタリ

【ワタリ】 

ワタリ

ワタリ

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■アルバム『スーベニア』に収録されている曲です。個人的ランキング、195曲中15位でした。かなり、高順位に位置しています。

 

僕は、アルバム『スーベニア』が本当に好きで、全部のアルバムの中でもベスト3には入ります。そして、その収録曲の中だと、とりわけロックな曲が好きなんですよね。個人的ランキングですと、10位【会いに行くよ】、15位【ワタリ】、16位【みそか】、25位【ほのほ】という感じです。

 

特に、【ほのほ】→【ワタリ】の流れは、本当にかっこいいですよね。アルバムの中だったら、この2曲が一番好きですかね。ロックはロックなんですけど、すごくドラマチックというか壮大というか。この辺りの曲は、ロックなスピッツをそこまで知らない人からしてみると、きっと驚くと思います。

 


■ということで、曲に関するネタも得られませんでしたので、早速曲の解釈を書いてみたいと思います。

 

まず、すごく疾走感を感じるカッコいいイントロから曲が始まるんですけど、最初から何となく、あせらされる感と言いますか、何かに追い立てられているような切迫感を感じます。Aメロなんかも、ボーカルにエフェクトがかけられていて、歌っている音程も抑揚がなくて、何か信号的(?)に聴こえてきます。

 


では、歌詞を読んでいってみます。出だしは、こんな歌詞から始まります。

 


誰のせいでもねえ すべて俺のせい
可笑しいほど白い花を手に持って
誰のせいでもねえ すべて俺のせい
マジメ過ぎただけ 君が見た夢

 

まず、”俺”という人物が、自分のことを執拗に責めています。何かが起こってしまったのが、自分のせいなんだと、しきりに言っています。

 

それに関連するワードが、”マジメ過ぎただけ 君が見た夢”ですかね。”君”という人物が居ること(居たこと)を示していますが、ここの歌詞だけでは、何を指し示しているのかは、うまく読み取れません。

 

そこで、この二つの話をつなぎ合わせるのが、”可笑しいほど白い花を手に持って”というフレーズですよね。ここらへんから、どんな物語が想像できますかね。僕は実は、2つの物語を想像したんですが、どちらかに決められなかったんです…ちょっと紹介してみますね。

 


■一つ目。
「夢を追うために遠くに旅立ってしまう、君に会いに行くという物語」

 


この歌のサビの歌詞は、こんな風になっています。

 


心は羽を持ってる
この海を渡ってゆく

 

それでも掟を破ってく
黒い海を渡ってゆく

 

ちなみに、タイトルの”ワタリ”とは、ここに”この海を渡ってゆく”とあるように、まぁ読んで字の通りですが、”俺”と”君”の間を阻んでいる海…”海”は何かの比喩かもしれませんが…を渡っていくという意味合いで、”ワタリ”=”渡り”ということになるかと思います。

 

あと、Bメロに”もう二度と会えない そんな気がして”というフレーズも出てきますが、これらと出だしの歌詞をつなぎ合わせて考えた物語が、「夢を追うために遠くに旅立ってしまう、君に会いに行くという物語」でした。

 


”君”は何か夢を持っていました。どうしても叶えたい夢です。それをマジメ過ぎただけ、という表現をしているのは、きっと”俺”との対比だと思います。”俺”は、”君”の夢を応援していなかった、マジメな”君”をよそに、”君”とのことをマジメに考えていなかったと。

 

そういうことに愛想を尽かせてしまって、”君”は”俺”と別れて、自分の夢を叶えるために旅立つことを決心します。どこか異国の地でしょうか、とにかく今の自分の生活や”俺”を捨てて、夢のために旅立つのです。

 

そういうことで、”俺”は取り残されました。この辺の心情は、2番のAメロの電車の下りで表現されているのでしょうか。何となく、毎日電車に揺られるだけの、単調なものになってしまったと読みとれます。

 

遠くへ旅立ってしまった”君”に、もう二度と会えないんじゃないかと思うようになり、そこへ来てようやく、”俺”は、自分にとって”君”がどんなに大切な人であったか気付くわけです。しかも、そうなってしまったのは、”君”とのことをマジメに考えなかった自分のせいだとも思うようになります。

 

ということで、”俺”は決心するのです。もう一度まっさらな気持ちを持って(”白い花”と表現しているか)、色んなしがらみを越えて君に会いに行こうと(”黒い海”や”掟を破って”などに該当か)。

 


■二つ目。
「死んでしまった君に会うために、自分も命を絶ってあの世に君に会いに行くという物語」

 

やっぱり、こうなっちゃいますよね、苦笑。

 


これは、一つ目の物語と変わらない部分もありますが、一点大きく違うのが、”君”は、夢を叶えるために遠くへ旅立ったのではなくて、夢を叶える志半ばで亡くなってしまったという出来事から始まる物語、というところです。

 

”君”が亡くなったのは、事故か、それとも夢の重さに耐えきれずに自ら命を絶ってしまったのか、それは分かりませんし、どちらでも成り立つように思いますが、少なくとも、”マジメ過ぎただけ”や、”誰のせいでもねえ すべて俺のせい”という表現からは、何となく後者のように思えますね。

 

例えば、先程と同様に、”君”とのことを”俺”はマジメに考えていなかったと。そういうところから、”君”は自分の夢のプレッシャーに耐えきれずに、自ら命を絶ってしまったとも考えられそうです。

 

そういうわけで、”俺”は罪の意識に苛まれてしまって、”君”と同じように、自ら命を絶つと…何とも悲しい物語になってしまいますが。

 


こっちの解釈で進めると、もう少し歌詞を当てはめることができそうです。

 

”白い花”…墓前や仏壇に供える花のことでしょうか。

 

”心は羽を持ってる”…心だけ羽を持っていたって、空を飛べるわけありません。これは、飛び降り自殺とか、その後の魂の昇天を表しているのではないでしょうか。

 

”黒い海”…この世とあの世を阻むものを海と表現しているのかもしれません。”黒い”のは、”白い花”との対比か、それともそういうイメージとして表現されているのか。

 

”掟を破ってく”…他でもない、”掟”とは”生きること”だということですかね。人は全うに生きていかなくちゃいけないものだと…それを”掟”と表現したとすると、この解釈の通り、自ら命を絶つという意味に繋がりそうです。

 


あとは、まぁここまでも飛躍した解釈かもしれませんが、さらに飛躍させるとすると、”誰のせいでもねえ すべて俺のせい”については、”俺”が事故を引き起こしたせいで(例えば自動車事故とか)”君”が亡くなってしまったとか、もっといくと、”俺”が”君”を殺めたということにつながるかもしれません…。

 


■まぁ、両方の解釈の共通点としては、やはりタイトルにもなっている”ワタリ”、つまり”渡る”という言葉と、”俺”と”君”の関わりですかね。

 

とにかく、大好きな曲ですよ!