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アルバム講義(特別編):Tribute Album『一期一会 Sweets for my SPITZ』

一期一会 Sweets for my SPITZ

Tribute Album『一期一会 Sweets for my SPITZ
発売日:2002年10月17日

 


■収録曲
(オリジナル曲 / カバーアーティスト)

 

01. スピカ / 椎名林檎

 

02. ロビンソン / 羅針盤

 

03. 楓 / 松任谷由美

 

04. 青い車 / ゲントウキ

 

05. 冷たい頬 / 中村一義

 

06. 空も飛べるはず / ぱぱぼっくす

 

07. 夢追い虫 / セロファン

 

08. 田舎の生活 / LOST IN TIME

 

09. うめぼし / 奥田民生

 

10. 猫になりたい / つじあやの

 

11. チェリー / POLYSICS

 

12. Y / GOING UNDER GROUND

 

13. 夏の魔物 / 小島麻由美

 


■2002年10月といえば、スピッツの活動で振り返ってみれば、シングル『ハネモノ』『水色の街』、アルバム『三日月ロック』が発売になって間もない頃になります。

 

そもそも、”トリビュート・アルバム”というジャンルの作品があるってことを、初めて知ったのがこの作品でした。

 

※トリビュート・アルバム…功績のある人物、グループに対して称賛するために作られるアルバムのこと。 複数のミュージシャンによって対象となるミュージシャンの曲をカバーしたコンピレーション・アルバムのような形式になることが多い。

 


僕はこの作品を、発売してすぐに聴いたのではなくて、発売して割と後になって聴いたと記憶しています。CDをレンタルして、MDに吹き込んで聴いていたんですけど、MDは手元にあるものの、CD本体は持っていなかったため、本体を手に入れたいなと思っていたところ、最近中古ショップで見つけて購入いたしました。

 

しかし、当時最初聴いた時は、あんまり好きになれなかったんですよ。それは、やっぱりスピッツの唯一無二感は格別なので、どの曲も違和感があるという感じだったんです。

 

でも今は、トリビュートアルバムの性質を概ね理解しつつ、そういう違和感も楽しむ作品であると、昔よりは理解したつもりなので、これはこれで良いよねっていう感じの聴き方ができるようになりました。

 


■ということで、早速1曲1曲の感想を述べていきたいと思います。

 

正直な話、失礼ながら(当時でも今でも)知らないアーティストが多かったため、自分なりに調べてみたことを少し載せていますが、付け焼刃的になってしまっているので、先にお詫びをしておきます。

 

それから、アルバム『一期一会』の音源を、ituneで見つけてブログに貼ろうかと思っていたのですが、『一期一会』がituneにはないようですので、スピッツの原曲と、そのアーティストのオリジナルの曲を1曲貼り付けることにしました。(YouTubeに公式の動画があればそちらを、なければituneの音源をアップしています)

 

 

 

01. スピカ / 椎名林檎

椎名林檎さんの音楽は、ほとんど聴いて来なかったので、初めてまともにフルで聴いたのが、この【スピカ】のカバー曲だったと記憶しています。

 

逆に、2018年に発売になった林檎さんのトリビュートアルバムで、草野さんがボーカルを務めたスペシャルバンド、”theウラシマ’S”で、林檎さんの【正しい街】という曲をカバーするなど、両者にはそれなりの接点がありそうですね。

 

カバー曲の感想ですが、まず、歌詞が”です・ます調”の【スピカ】に、林檎さんが似合っているなって思ったんです。林檎さん自身の楽曲でも、ちょっと古語調?古文調?みたいな歌詞を書かれることが多いじゃないですか、古い感じで独特な日本語の使い方をしますよね。そういう林檎さんの歌詞の特徴に、いかにも日本語らしい【スピカ】の”です・ます調”が似合ったのかな…というより、そういうところも意識して選曲したのかな、とか想像しています。

 

曲の雰囲気は、林檎さんバージョンの方が明るいですかね。キーボードやホーンの音が派手に鳴っていたり、Cメロなんかは、プログラミングを多用してかなりアレンジが成されていたりと、聴いていて面白いです。

 

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02. ロビンソン / 羅針盤

羅針盤というバンドがカバーしたのは、スピッツ最大のヒット曲【ロビンソン】です。

 

本家の【ロビンソン】と比べると、ギターの音が極力少なくなっており、代わりにキーボードとシンセサイザーの音が目立って聴こえるようなアレンジになっています。

 

元々、本家の【ロビンソン】も、浮遊感というか、幻と消えてしまいそうな儚さを感じる曲なのですが、羅針盤バージョンのアレンジで、さらにそれを推し進めていったという感じです。ボーカルの声もやけにムーディーで、AOR感というかレトロ感というか、そういうものを演出しています。

 

失礼ながら、この羅針盤というバンドを、僕は知らなったのですが、3ピースのフォークロックバンドだったようです。バンドのドラムを担当していた、西浦真奈さん(チャイナと呼ばれていたそうです)が、交通事故によりお亡くなりになったことで、バンドは解散してしまったということです。

 

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03. 楓 / 松任谷由美

スピッツ往年の名バラードの【楓】は、大御所の松任谷由美さんによってカバーされました。

 

何よりまず、ユーミンの声と歌い方が独特なので、ユーミンが歌うだけでもう、世界観がユーミンっぽい楽曲になっちゃいますよね。もうこのまま、ジブリ映画のエンディングの楽曲に使われてても似合っちゃいそうな感じです。

 

ユーミンバージョンの【楓】は、ホーンやフルートの音がたくさん使われているアレンジになっており、本家の【楓】とはかけ離れて、派手で陽気な曲になっています。そういうわけで、本家の【楓】は”死別”を思い浮かべるのですが、ユーミンバージョンでは、あまりそこまで悲しい感じではないですね。

 

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04. 青い車 / ゲントウキ

元々は、スリーピースのバンドだったそうですが、紆余曲折あって2人組になったり、3人組になったりを経て、現在は田中潤という方のソロプロジェクトになっているようです。このバンドも、一番最初の結成から数えると、もう20年以上も活動している古いバンドのようです。

 

本家の【青い車】は、解釈としては、”男女の心中”というものが広まっています。一方で、別に人によっては、”男女がドライブデートに行く”という解釈もありますし、僕自身もそれも当てはまるのではないか、と思っています。

 

そういうことを考えると、このゲントウキバージョンの【青い車】は、後者の”男女のドライブデート”としての【青い車】のイメージですね。曲のテンポも大いに変わっており、かなりおしゃれなアレンジになっているので、カーステレオからこの歌が流れている、という感じで聴けば、素直に青い車で男女が海に出かけたという光景が浮かんでくるようです。

 

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05. 冷たい頬 / 中村一義

中村一義さん(と100s)は、ある時急激にはまったときがあって、その時にアルバムをまとめて大人買いしたことがあります…と言っても全部中古でしたけど。

 

何ていうか、このカバー曲の、特にAメロからは、にじみ出る【キャノンボール】感がありますよね。”エッジオンオンオン…”って聴こえてきそうな…(あそこ何て言ってるんですっけ?)

 

本家の【冷たい頬】は、Aメロがあって、サビでちょっと雰囲気が変わって盛り上がっていくという感じの曲なんですが、中村一義バージョンでは、それをもっと極端にしている感じです。それが、すごいかっこいいんですよね、さすがです。

 

それから、トリビュートカバーにおいて、楽曲の構成として、Aメロ・Bメロやサビの位置を少し変えながら歌うということは、よくあると思うのですが、この歌に関してはそれに加えて、歌詞まで変えて歌っているというところがあります。具体的には、サビの”壊れながら 君を追いかけてく”が”くずれながら 君を追いかけてく”に変わっているのですが…どうなんですかね、考えようによっては、歌詞替えは禁忌を破った感がありますね。

 

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06. 空も飛べるはず / ぱぱぼっくす

ぱぱぼっくすというバンドも、知りませんでした。調べてみたところ、ギターボーカル、ギター、ドラムという構成のスリーピースのバンドらしいですが、もう20年以上も活動をしている、スピッツと同様長く活動をなさっているバンドのようです。

 

オフィシャルのサイトから、楽曲がいくつか聴けたのですが、この【空も飛べるはず】のカバーもそうですが、にじみ出る”みんなのうた”感がありますね。それは特に、このバンドのボーカルのさわだともこさんという方の、優しくて丁寧な声が作り出す世界観なのだと思いますが、楽曲の雰囲気に関しても、スピッツっぽいところを感じる部分が少しあります。

 

何ていうか、こういう知る人ぞ知るという感じのバンドを探せば、素敵なバンドはたくさんあるのでしょうね。日本の音楽界の奥深さを感じます。

 

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07. 夢追い虫 / セロファン

セロファンというバンドも知りませんでした。1993年に結成後、現在は活動休止中、西池崇と河野薫はタマコウォルズというバンドで活動中のようです。ただ、このタマコウォルズというバンドも、2013年くらいから止まっている…?

 

カバー曲については、本家【夢追い虫】がいぶし銀で重たい感じのロックだったのに対して、かなり軽い感じの、おしゃれなアレンジがなされています。

 

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08. 田舎の生活 / LOST IN TIME

こういう言い方をするのはふさわしくないかもしれませんが、僕は【田舎の生活】に関してだけは、本家スピッツよりも、このLOST IN TIMEのカバーバージョンの方が好きです。

 

何ていうか、新しい意味というか命というか、そういうものを吹き込んだ、本当に素晴らしいカバーだと思っています。それは、決して原曲の意味を変えてしまったとかそういう次元ではなくて、何ていうか、完全にLOST IN TIMEの曲にしてしまっているような感じです。

 

個人的に言わせてもらえば、本家の【田舎の生活】からは、”死”の雰囲気が漂っていて、曲調とも相まって、ただただ悲しい感じがするのです。しかし、LOST IN TIMEの【田舎の生活】からは、”死”の雰囲気はあんまり感じなくて、むしろ、前向きな別れのようにも捉えることができます。

 

最初のドラムの音が、ローカル線が走る音を表しているように聴こえてくるし、アウトロの盛り上がりや(この時のLOST IN TIMEのギタリストは、榎本聖貴という方だったのですが、この方のギターの音がまた泣ける)、本家には無い”さよなら”の連呼もとても印象に残ります。何ていうか、こっちの【田舎の生活】は、田舎から上京していく光景が浮かんでくるようです。

 

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田舎の生活

田舎の生活

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09. うめぼし / 奥田民生

これはもう、ピッタリなカバーですね。2007年に、スピッツ奥田民生の【さすらい】をカバーするのですが、どちらがどちらの曲をカバーしても似合うなっていう感じです。

 

【うめぼし】カバーに関しては、てっきり弾き語りになるのかなと思いきや、最初アカペラで始まりはすれど、途中からがっつりバンドサウンドになっていて、それがまた男くさいというか、渋い感じがして、これはこれでありだなと思うのです。何より、民生さんのボーカルがこの歌に合っていて、これもナイス選曲だなと思います。

 

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うめぼし

うめぼし

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10. 猫になりたい / つじあやの

つじあやのさんと言えば、ウクレレミュージシャンで有名な方ですよね。ジブリ映画「猫の恩返し」の主題歌の【風になる】は、きっと多くの方が知っている曲なのではないでしょうか。

 

これもナイス人選&選曲ですね。つじあやのさんの作り出す雰囲気が、【猫になりたい】の世界観にばっちり合っていると思います。ウクレレの音の他に、クレジットによると、ウッドベースとパーカッションの音が加わって、のんびりとした雰囲気を作り出していて、本当に耳心地が良いカバーです。

 

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猫になりたい

猫になりたい

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11. チェリー / POLYSICS

POLYSICSもほとんど知らないんですけど、何かの夏フェスで(SETSTOCKくらいしか行ったことないので、多分それ)、わけも分からず”レッツダバダバ”をした経験はあります笑

 

アルバムの中だったら、一番原曲と雰囲気が違っているカバーなのではないでしょうか。プログラミングやシンセサイザーをめいっぱい使って、どこか違う世界にでもワープしてしまそうな感じです。途中でテンポが変わったり、かと思えばまた戻ったりと、めまぐるしく面白い曲ですね。

 

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12. Y / GOING UNDER GROUND

この作品のカバーアーティストの中だと、一番思い入れが強いバンドです。大学生の頃にこのバンドのことを知ってから、本当に大好きになりました。自分が音楽サークルに入って、下手くそながら弾き語りでカバーをさせていただいていました。

 

この時代のGOINGは、初期の5人組だったんですよね…それを思うだけでも、今となっては、もうおじさんは泣けてきちゃうのです…。

 

GOINGの【Y】は、原曲とはかなり変わっています。本家スピッツの【Y】は、もう王道バラードでしたが、GOINGの【Y】は、イントロからキーボードの音がふんだんに使われて、ドラムのリズムとも相まって、行進曲でも聴いているような感じです。そのため、本家の【Y】に内包されていた悲しい雰囲気はありません。

 

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Y

Y

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13. 夏の魔物 / 小島麻由美

小島麻由美さんも、失礼ながら知らなかったのですが、調べてみると、ワンピースの映画『ONE PIECE FILM GOLD』にて、【GOLD & JIVE ~ SILVER OCEAN】という劇中歌を歌っていたようです。映画は見たのですが、知りませんでした。

 

このカバー曲も、先程のぱぱぼっくすの【空も飛べるはず】のカバーと同様、”みんなのうた”感が強いですね。本家の【夏の魔物】には、とある不吉な解釈が広まっていますが、小島さんの【夏の魔物】は、子どもの頃の夏の思い出を歌っているような、そんな懐かしい感じのする曲だと思います。

 

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夏の魔物

夏の魔物

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228時限目:歌ウサギ

【歌ウサギ】

 

歌ウサギ

歌ウサギ

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■シングルコレクション『CYCLE HIT 2006-2017 Spitz Complete Single Collection』に収録されている曲です。

 

スピッツはこれまですでに、2枚のシングルコレクション、それぞれ『CYCLE HIT 1991-1997 Spitz Complete Single Collection』と『CYCLE HIT 1997-2005 Spitz Complete Single Collection』を発表していますが、結成30周年の記念日である、2017年7月17日を間近に控え、その続きとなるシングルコレクション『CYCLE HIT 2006-2017 Spitz Complete Single Collection』を発表しました。

 

新しいシングルコレクションには、これまでのシングル曲に加えて、新曲が3曲収録されているのですが、【歌ウサギ】はその内の1曲です。ちなみに、ここでいう3曲とは、【ヘビーメロウ】と【1987→】(すでに両曲とも、記事にしていますので、興味がありましたら読んでみてください)、そして、今回の【歌ウサギ】です。

 


■僕の記憶が確かならば、新曲3曲の中で、フルで公開になったのが、この【歌ウサギ】が最後だったような気がします。

 

【歌ウサギ】は、映画「先生! 、、、好きになってもいいですか?」の主題歌に選ばれました。なので、さわりと言うか、一部分だけは映画の情報解禁に合わせて聴くことができたのですが、【歌ウサギ】が収録されたシングルコレクションが発売になるまで、フルでは聴けなかった唯一の新曲だったと記憶しています。

 

シングルコレクションが発売になったのは2008年7月5日のことでしたが、映画の公開日が同年の10月28日のことだったので、曲の公開を極力避けていたのが、この曲のフル公開が最後になった理由だったのかな、と想像しています。

 

ちなみに、曲のMVにしても、【ヘビーメロウ】と【1987→】にはあるのですが、【歌ウサギ】には実質のMVはなく、映画が公開になった頃に合わせて、映画の風景とのコラボ的な形でショートムービーが公開になりました。映画に主演なさっている広瀬すずさんが出ています…かわいい。

 

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■この【歌ウサギ】を、最初にテレビでさわりのAメロを聴いた時に(と言うより今でも)、個人的に思ったのが「さだまさしっぽい!」でした笑。

 

聴いていただいたら分かると思うのですが、1番のAメロは草野さんの弾き語りで始まります。そこが、抑揚がない感じ…と言うか、ほぼ一音階でボーカルが続いていくので、”歌っている”というよりは、優しく”語りかけている”ように聴こえて、そこが”さだまさしっぽいな”って思ったんです。

 

その辺りを最初に聴いて、穏やかな曲かなと一旦思うんですけど、フルで聴くと、がらりとイメージが変わりましたね。最初は、”今歌うのさ…”の部分くらいまでしか聴けなくて、そこがサビかなとか思ったのですが、大サビ(と言った方が良いかな)があって、”何かを探して…”のところで、どんどん曲が盛り上がっていって、もちろんバラードには違いないんだろうけど、最初抱いた穏やかなイメージは払拭されていきました。

 

Aメロ→サビ→大サビという風に、徐々に曲の雰囲気が変わっていくのが、何ていうか、1曲で何度も得した気分になります。

 


ちなみに、シングルコレクションが発売になって間もない頃の3050LIVEで、この曲を聴くことが出来たんです。この曲はアンコールだったんですが、その一曲目でしたね。「じゃあ、ここで新曲を」と言って、草野さんが歌い始めたのが、【歌ウサギ】でした。

 

その時に、イントロが始まるや否や、自分の席の斜め後ろくらいに居られた(おそらく)おばちゃんが、「ひぇ…!」って息を呑むのが聞こえた瞬間がありました。きっと、この曲を楽しみにしていたんでしょうね。

 

先述の感想通り、出だしの弾き語りがとてもきれいで、そこからどんどん盛り上がっていく曲の雰囲気に、徐々に気持ちが高まっていき、ゾクゾクが止まりませんでした。

 


■さて、いつものことながら、珍しいタイトル”歌ウサギ”です。

 

スピッツの曲には、もう何度も紹介してきましたが、たくさんの動物・植物が登場します。例えば、この歌のタイトルにもなっている”ウサギ”もそうですよね。

 

【歌ウサギ】を初め、タイトルからでも、【ウサギのバイク】、【バニーガール】(バニー/bunnyで、ウサギの意味)、あと【田舎の生活】の歌詞にも、野うさぎが出てきます。すぐ思いつくのは、これくらいですが、他にもあるような…?

 


ところで、”ウサギ”と聞くと、どういう生き物が想像できますかね?赤い目と長い耳が特徴的で、ピョンピョンと跳ねる姿がかわいらしい生き物でしょうか。

 

それから、寂しいと死んでしまう生き物…これは嘘だそうですね。ウサギは、敵から自分の身を守るために、弱み(弱点)を見せないように、本能的に自分の体の不調を隠して平静を装うんだそうです。だから、傍らに誰かが居る時は元気なのに、放置していると死んでいる、ということが起こり、それが”寂しいと死んでしまう”に繋がったという説があるようです。

 

あとは、ウサギは自分の糞を食べる習性を持っているらしいですね。何でも、ウサギは、食べた物から体内に栄養素を上手に吸収することができないそうで、一旦体内で吸収しやすいように発酵させて、糞として排出したものを、再び食すのだそうです。

 


■さて、この歌がどんな歌であるのかを、具体的に想像しやすい部分としては、冒頭と末尾に同じように出てくる、ここの歌詞かと思います。

 


こんな気持ちを抱えたまんまでも何故か僕たちは
ウサギみたいに弾んで
例外ばっかの道で不安げに固まった夜が
鮮やかに明けそうで

 

まず、前半2行。”こんな気持ち”とは、どういう気持ちなんでしょうか。続きを読むと、”こんな気持ちを抱えたまんま…ウサギみたいに弾んで”と繋がっています。

 

”ウサギみたいに弾む”というのが、そんなに暗い感じはしない表現なので、それとの対比を考えると、”こんな気持ち”というのは、どこかマイナスなイメージを思い浮かべます。

 

例えば、ここで出てくる”僕たち”の、2人のうちのどちらか、あるいは、2人ともに、約束した相手(恋人や妻・夫)や、守らなければならない生活(結婚しているなら結婚生活とか)があって、それらに後ろめたい想いを感じていると…そういう気持ちを、”こんな気持ち”と表現しているのだと考えられるかもしれません。

 

もっと具体的に考えてみると、主題歌になった、映画「先生! 、、、好きになってもいいですか?」の物語の大筋が、”教師と生徒の恋愛”というものなので、否応なく”映画の物語”と”歌の内容”を関連付けて考えてしまいます。つまり、”こんな気持ち”に、自分たちが教師と生徒という関係であることに対して、後ろめたい気持ちを感じているということを、当てはめてみるとどうでしょうか。

 

”ウサギみたいに弾む”は、ただ単に、恋愛に浮かれている様子を表しているのかもしれませんし、ベッドの上で弾んでいると想像すれば、SEX中の描写とも考えられるかもしれません。

 


後半2行。”例外ばっかの道”も、まぁいわゆる、普通の形の恋愛ではなく、イレギュラーなものであることを表わしていると考えられます。

 

で、そういう状況から、いつかボロが出るかもしれない、という不安を感じながらも、2人で過ごすことで、一時的なものかもしれないけれど、その不安な夜も明けていくような気持ちになったということですかね。

 


■色々な想像ができるとは思うのですが、大筋の解釈としては、一筋縄ではいかない恋愛の渦中にいる2人を歌っていると考えています。

 

それを踏まえて、歌詞をもう少し読んでみます。

 



今歌うのさ ひどく不様だけど
輝いたのは 清々しい堕落 君と繋いだから

 


今歌うのさ フタが閉まらなくて
溢れそうだよ タマシイ色の水 君と海になる

 

サビの部分の歌詞ですが、共通して”今歌うのさ”という表現で始まっています。そもそも、曲のタイトルが、ただのウサギではなく、”歌ウサギ”なので、それに何らか関係していると思われます。

 

ここの”歌う”の意味として、まず素直に考えてみると、後者の表現から、溢れそうになっている気持ちをそのままに、言葉通り捉えて、”歌っている”と考えられるかもしれません。こう考えると、いかにもボーカルである草野さんらしい表現であると考えられます。

 

あるいは、歌う、という言葉が何かに置き換えれらている、と考えることもできそうです。単に、溢れそうな感情を、相手に(お互いに)ぶつけているとも考えられるかもしれませんし、先程のSEX云々の解釈につなげるならば、そういう行為中の声と考えられるかもしれません。(要は、”あえぎ声”…)

 

ただし、ここにも、”ひどく不様”だとか”清々しい堕落”だとかいう言葉があり、先述したような、一筋縄ではいかない2人を示していると考えられます。

 

”タマシイ色の水 君と海になる”という言葉も、すごい表現ですよね。思い出すのは、【フェイクファー】という曲に、”偽りの海に身体委ねて 恋のよろこびにあふれてる”という表現がありましたが、何ていうか、性的なイメージもわいてくるのですが、愛し合う2人が混ざり合って一つになるような、そういうイメージを”海になる”と表現していると考えられます。

 



「何かを探して何処かへ行こう」とか
そんなどうでもいい歌ではなく
君の耳たぶに触れた感動だけを歌い続ける

 

大サビの歌詞を載せてみましたが、ここの表現もすごいですよね。

 

ちなみに、ここの歌詞にはちょっとしたエピソードがあって、2018年現在放送中のラジオ番組「SPITZ 草野マサムネのロック大陸漫遊記」にて、草野さんが少し語っていました。ただ、僕自身うろ覚えであったし、録音したはずのラジオ音源を紛失してしまったので、少し調べてみたところ、どうやら2018年9月2日の番組内で語っていたようです。

 


どういう話かというと、【青い車】という往年のスピッツの名曲があるのですが、その【青い車】の中に、”おいてきた何かを見に行こう もう何も恐れないよ”という歌詞があります。ここの歌詞が、”何か”・”何も”という風に、”何”という言葉が続くのが、よく分からないことを歌っているなぁ、と反省したんだそうです。

 

その結果、【歌ウサギ】の”「何かを探して何処かへ行こう」とか そんなどうでもいい歌ではなく”という歌詞に繋がったんだそうです。

 


とは言え、両曲のつながりは、それ以外はあんまり感じないので、それぞれで聴けばいいと思います。

 

ここの”君の耳たぶに触れた感動だけを歌い続ける”なんて、素敵なフレーズじゃないですか。何ていうか、想いを寄せる相手にちょっとだけ触れて、ドキドキしたような、そういう小さな頃の甘酸っぱい初恋のような、そういう気持ちをずっと持ち続けているということですかね。

 

ただ、大元に帰れば、”一筋縄でいかない恋愛”からのここの表現ですからね。不倫であれ、浮気であれ、教師と生徒間であれ…どんな形であれ、人を愛することは純粋なものなんだよと、そういう解釈に最終的には行き着くんですかね。

 

そもそも、人をウサギに例えているわけですからね、先程のウサギの動物的特徴を、そのまま人に当てはめることもできそうです。

 

人は寂しいと生きていけない(はずだ)から、誰かを拠り所に生きていくとか、過去や思い出を(嫌なものならなおのこと)消化できたように思えて、いつまでも根に持ってたり、うんたらかんたら…

 

…なんか、人間とウサギって、似ているかもしれない?

227時限目:ヘビーメロウ

【ヘビーメロウ】

 

ヘビーメロウ

ヘビーメロウ

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■シングルコレクション『CYCLE HIT 2006-2017 Spitz Complete Single Collection』に収録されている曲です。

 

スピッツはこれまですでに、2枚のシングルコレクション、それぞれ『CYCLE HIT 1991-1997 Spitz Complete Single Collection』と『CYCLE HIT 1997-2005 Spitz Complete Single Collection』を発表していますが、結成30周年の記念日である、2017年7月17日を間近に控え、その続きとなるシングルコレクション『CYCLE HIT 2006-2017 Spitz Complete Single Collection』を発表しました。

 

新しいシングルコレクションには、これまでのシングル曲に加えて、新曲が3曲収録されているのですが、【ヘビーメロウ】はその内の1曲です。

 


■【ヘビーメロウ】は、2017年4月より、朝の情報番組「めざましテレビ」のテーマソングに選ばれました。そこから、2018年3月末まで、実に1年間という長い期間、スピッツの曲を朝に聴くことができたことになります。

 

こんなに長い期間にまたがって、しかもほぼ毎日決まった時間に、スピッツの曲を聴くことができたのは、初めてのことじゃないですかね。

 

【ヘビーメロウ】が、テーマソングに選ばれたことに関して、草野さんがその想いを語っています。ロッキンオンの記事に、その言葉が載っていたので参考にさせていただきました。貼っておきます↓

 

スピッツ、新曲“ヘビーメロウ”が本日から『めざましテレビ』テーマソングに (2017/04/03) 邦楽ニュース|音楽情報サイトrockinon.com(ロッキング・オン ドットコム)

 


少しでもポジティブな気持ちになってもらえるような弾んだリズムの曲を作ってみました。ただ歌詞はスピッツの持ち味でもある、ちょっと卑屈でネガティブな要素もあるかも。

 

草野さんは、この曲についてこのように語っています。別に、スピッツの曲が朝に似合わないということは決してなくて、むしろ、朝に似合うようなさわやかな曲はたくさんあると思うのですが、選ばれたこと自体が、非常に珍しいことだったと思っています。

 

この曲が、「めざましテレビ」のテーマソングとして流れていた時期は、特にスピッツファンの方々は、少しだけ爽やかに、ご機嫌な朝を迎えることができたのではないでしょうか。

 


【ヘビーメロウ】が、めざましのテーマソングに選ばれた当初は、まだ新しいシングルコレクションの情報が出ていなかったので、最初は単純に、スピッツの新曲として聴いていました。

 

程なく、シングルコレクションの情報(このアルバムに【ヘビーメロウ】が入ること)が解禁になり、確か6月頃にこの曲が先行配信されました。そして、同時期にMVも発表されました。(どっちが先でしたかね?)

 


■さて、【ヘビーメロウ】はどんな曲なんでしょうか、個人的に思ったことを書いてみます。

 

先程紹介したように、曲調については、”少しでもポジティブな気持ちになってもらえるような弾んだリズム”という風に語っておられましたが、跳ねるようなリズムが楽しくて、聴くと爽やかな気分になります。ギターのカッティングの音も、心地いいですよね。

 

ただし、サビの始まりが、メジャーコード(多分)になっていて、ちょっと雰囲気が変わったりして、一筋縄ではいかないところが面白いなって思ったんです。初めて聴いた時は、正直あんまり好みじゃないかもって思ったりしたんですが、そういうところに気付いたら、一気にこの曲が好きになりました。

 


歌詞について見ていきます。まず、出だしがこんな感じです。

 


花は咲いたぜ それでもなぜ 凍えそうな胸
ヘビーメロウなリズムに乗って 太陽目指した

 

”花は咲いたぜ”と冒頭にあるのは、季節的な意味で、冬が終わり春がやってきて、少しずつ暖かくなってきた、ということでしょうか。あるいは、この曲が作られた経緯などを鑑み、朝がやってきた、とも考えられそうです。

 

しかし、”それでもなぜ 凍えそうな胸”…ここは、そんな暖かな春や朝の訪れとは裏腹に、主人公は何となく晴れない気持ちでいるという描写ですかね。

 

そこへ続いて、”ヘビーメロウなリズムに乗って”という風に、タイトルにもなっている”ヘビーメロウ”という言葉が出てきています。

 


そもそも、”ヘビーメロウ”という言葉はどういう意味なんですかね?

 

”ヘビー / heavy”の意味は、重い、太った、という意味をはじめ、激しい(e.g. heavy rainで、激しい雨とか言いますよね)、大量に…する人(e.g. heavy smokerで、煙草をたくさん吸う人)などという意味もあります。

 

一方、”メロウ / mellow”の意味は、熟している、豊かで美しい、などという意味があります。

 

うーん…つなげると、どういう感じになるんですかね?イメージがしにくい言葉なんですが、”リズム”っていう言葉が付いているので、こういう音楽用語があるんですかね?”どんなリズムなんでしょうか、”重くて熟しているリズム”とは一体…?

 

個人的には、全体的に読んだイメージから、何となく”ヘビー”という言葉のイメージが強く残りました。なんか気分が乗らないなぁ、心も体も重たいけど、布団から起きて出かけないとなぁ…っていう心情を表していると感じました。

 


■そこから、続く歌詞はこんな感じです。

 


嗤ってくれ 時代遅れ 俺も独りさ
やめないで習いに逆らった この日のため

 

ここは、先程の主人公の心境としては、何事にも意欲的になることが出来ずに、世間の流れから取り残されているような状況でしょうか。

 

あるいは、スピッツ自身の歴史を歌っていると考えることもできそうですよね。30年という長い間活動してきた自分たちを、”時代遅れ”と多少自虐的に振り返りつつも、それは同時に、時代の流れに囚われることなく、自分たちの音楽を貫いてきたことも表しています。

 

まぁ、全体的な流れで、一本の物語を通すとしたら、前者ですかね。



■とにかく、主人公の気持ちは後ろ向きなんですが、さらに読み進めていくと、そういう気持ちにも変化が見られます。

 


偶然という名の運命で出会った ヘンテコな女神
紐をほどいて 折り目伸ばして 気球を操って
広い空で遊ぶ術を 授けてくれた

 

主人公にとって、嬉しい出会いがあったようです。ここで、”女神”というフレーズが出てきているので、自然に考えれば、主人公は男性で、偶然出会ったのが女性ということになるんですかね。となると、必然的にここは、恋に落ちた描写だと考えられるかもしれません。

 

ここは、かなり印象的な描写ですよね。”気球”だったり、”広い空で遊ぶ術”など、面白い表現がたくさん出ていますが、共通項としては、世の中や周りの目などに縛られることなく、自由に自分のやりたいことをやっていいんだよと、その女神から勇気をもらった、ということなんでしょうね。

 

ここも、もちろん主人公の心境の変化とも、スピッツ自身の歴史になぞらえても読むことができますね。

 


■それから、サビの部分の歌詞。例えば、こんな感じです。

 


君になりたい 赤い服 袖ひらめいて
確かな未来 いらないって言える幸せ
信じていいかい? 泣いてもいいかい?

 

ここは、どう読むべきでしょうね?この歌を、恋愛に絡めるか絡めないかで、ここの印象も変わってくると思うんですよね。

 

恋愛に絡めるとしたら、ここは、自分が恋をした相手に、自分自身がなりたい、と歌っているというような、ちょっと変な感じになっちゃいますね。まぁ、恋愛だなんだいう前に、自分を変えてくれた相手に対して、人間として尊敬をしていると、そういう気持ちが、”君になりたい”と言うまで膨らんでいるということですかね。

 

まぁ、全体的に読んだ感じ、これが一番自然でしょうか?

 


あるいは、個人的には別に、恋愛に絡めなくても、色々と想像できそうな気はしています。男女にしても、別に恋愛関係ばっかりではなくて、人間的なつながりでもいいわけで、たくましく生きる女性の生き方に、男性が憧れてもいいわけですよね。

 

めざましテレビ」のテーマソングに選ばれた、というところとこの歌をもう少し繋げて考えてみると、主人公が憧れた人物は、テレビの中の人物かもしれません。朝から笑顔を振りまいて、人々に元気を届ける、それこそ「めざましテレビ」のキャスターに元気づけられ、憧れたのかもしれません。

 


■ということで、最後に行き着くのが、こんな歌詞です。

 


夜は明けたぜ 鶏も鳴いたぜ 期待裏切る
なんちゃってファンキーなリズムに乗って 生命灯せ

 

最初は、”ヘビーメロウなリズム”になっていたところから、”なんちゃってファンキーなリズム”になっているところとか、まさに主人公の心境の変化を表していますね。

 

そう考えると、やっぱり”ヘビーメロウ”っていう言葉は、主人公の重たい気持ちを象徴した言葉だったのかな、って思いますし、冒頭の部分では、主人公にとっては(精神的な意味で)、春や朝が訪れていなかったんだろうと想像します。

 

 

そこから、”女神”に出会ったことで、気持ちが少しずつ乗ってきて…つまり”なんちゃってファンキー”状態になって、本当の意味で朝を迎えることができた、ということでしょうね。

 

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アルバム講義:15th Album『醒めない』

醒めない(初回限定盤)(DVD付)

15th Album『醒めない』
発売日:2016年7月27日

 


■収録曲(→の先より、各曲の紹介へと飛べます)

 

01. 醒めない
→ 216時限目:醒めない - スピッツ大学

 

02. みなと
→ 214時限目:みなと - スピッツ大学

 

03. 子グマ!子グマ!
→ 217時限目:子グマ!子グマ! - スピッツ大学

 

04. コメット
→ 218時限目:コメット - スピッツ大学

 

05. ナサケモノ
→ 219時限目:ナサケモノ - スピッツ大学

 

06. グリーン
→ 220時限目:グリーン - スピッツ大学

 

07. SJ
→ 221時限目:SJ - スピッツ大学

 

08. ハチの針
→ 222時限目:ハチの針 - スピッツ大学

 

09. モニャモニャ
→ 223時限目:モニャモニャ - スピッツ大学

 

10. ガラク
→ 215時限目:ガラクタ - スピッツ大学

 

11. ヒビスクス
→ 224時限目:ヒビスクス - スピッツ大学

 

12. ブチ
→ 225時限目:ブチ - スピッツ大学

 

13. 雪風
→ 192時限目:雪風 - スピッツ大学

 

14.こんにちは
→ 226時限目:こんにちは - スピッツ大学

 


スピッツの結成年月日としては、1987年7月17日が知られています。この日に現スピッツのメンバー4人が、文化服装学園の文化祭にて初めてライヴを行ったことで、この日が結成日として位置付けられているようです。

 

それから、本当に長い長い時が経ち、2017年7月17日、スピッツは結成30周年を迎えました。長くスピッツを聴いてきた僕自身も、ファンの一人としてとても喜んだことを覚えています。これまで行ったことがなかった、スピッツのライヴにも参加することができ、昨日のことのようにその様子を思い出します。

 

結成30周年を目の前にして、さまざまな記念すべきイベントやリリースがありましたが、そんな30周年イヤーを控えた2016年に、15枚目のアルバム『醒めない』が発売になったのです。と言うより、このアルバムで、記念すべき30周年イヤーへとスピッツが動きはじめた感じですよね。

 

そんな、記念すべきアルバム『醒めない』を実際に聴いて、また、アルバムの情報を色々と得ていく中で、このアルバムにスピッツが込めた想いを、2つ受け取ることができました。それらを中心に、アルバムを紹介していきたいと思います。

 

 

■一つ目
「ロックやバンドに対する気持ちを、”醒めない”でずっと持ち続けてる」

 


まず、いつも通りながらアルバムタイトルが、”醒めない”というとても特徴的なものになっています。

 

アルバムが発売される前から、すでに語られ始めていたのですが、この”醒めない”という言葉に込められた想いは、要するに、草野さんが・スピッツのメンバーが、「ロックやバンドに対する気持ちを、”醒めない”でずっと持ち続けてる」ということでした。

 

先述の通り、スピッツは2017年に結成30周年を迎えました。しかも、未だに第一線で活躍している、日本の音楽史に残るロックバンドになりました…という言い方も、もう全然誇張ではないですよね。

 

件の結成30周年のライヴにおいても、僕が参加したのは広島公演(1日目)でしたが、その時にも草野さんが、「30年やってきましたが、まだ通過点です。これからも面白い歌を作っていきますので、よろしくお願いします」という風に、声高らかに宣言をしていたのを、とても印象深く覚えています。

 


そして、そういう想いが凝縮されているのが、表題曲の【醒めない】ですね。

 

アルバム『醒めない』の発売に先立って、表題曲【醒めない】のMVが公開され、いち早く聴くことができました。確か、Mステのスペシャルライヴでも、アルバム曲であるのに、珍しく【醒めない】を披露していました。



カリスマの服真似た 忘れてしまいたい青い日々
でもね 復活しようぜ 恥じらい燃やしてく

 


まだまだ醒めない アタマん中で
ロック大陸の物語が
最初ガーンとなった あのメモリー
今も温めてられてる さらに育てるつもり

 

【醒めない】において、印象に残ったフレーズを引用してみました。

 

前者。ここは、かつてパンクロックバンドとして(大成することを目指して)活動していた、自分たちを歌っているのでしょうか。そこから、ブルーハーツショックなどにより、自分たちの音楽の方向性を変えていったという歴史もあります。

 

一方で、この【醒めない】のMVでは、アニメ―ションのキャクターにデフォルメされた、過去の姿のスピッツメンバーや、(MVの最後には)革ジャンを着たスピッツメンバーを見ることができます。この辺りは、多少自虐的に、原点回帰を試みた結果でしょうか。


後者。ここはもう、先述したような、”醒めない”自分たちの想いを歌っている部分ですよね。まさしく、自分たちがロックに出会って衝撃を受けた時から、ずっとロックに対する想いを醒めずに持ち続け、しかも、まだこれからもその想いを育てていくんだと、その未来のことまで、力強く歌われています。

 

ちなみに、印象的な”ロック大陸”という言葉は、2018年に始まった、草野さんがパーソナリティーを務めるラジオ番組のタイトルにも使われています。

 

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■それから、アルバムの中に【モニャモニャ】という曲が入っていますが、曲の内容はともかく、独特とも思えるこの”モニャモニャ”も、ロックに対する想いを代弁したものになっています。

 

”モニャモニャ”の正体は、アルバムのジャケットに写っている、猫ともウサギとも(個人的には、ネバーエンディングストーリーの聖獣ファルコン)見える、巨大な生き物のことですが、スピッツはこの生き物の物語に、自分たちが育ててきたロックやバンドの物語を重ねたのです。

 

音楽雑誌MUSICAのインタビュー記事において、”モニャモニャ”について説明を求められた草野さんは、このように語っています。

 


草野さん「…このジャケットのモニャモニャとこの子は小さい時から一緒にいて、その頃はこの子に抱かれるくらい小っちゃかったモニャモニャがこんなにデカくなっても、こうやって一緒に『醒めない』でいられるっていう」

 

個人的な想像も含めますが、つまり、小さかったモニャモニャが大きくなっていった=バンドやロックに対する気持ちを育てていった、ということになるわけでしょうね。

 

 

 

■二つ目。
東日本大震災のことにも通じる、”死と再生”の物語」

 


一つ目については、1曲目の【醒めない】や、”醒めない”という言葉自体に込められた想いなどを考えても、草野さんやスピッツのパーソナルな部分を歌っているというイメージが強くありました。

 

ただ、【醒めない】に関しては、アルバムの中でも最後にレコーディングされた曲であるらしく、元々このテーマに向かってアルバムを作っていったというよりは、おそらくアルバムを作っていく上で湧き上がってきた想いを、最後に締めるという形で作られた曲なのかな、と想像しています。アルバムのタイトルが『醒めない』になったことすらも、後の方だったと書いてありました。

 


その一方で、実際にアルバムを聴いてみると、全部の曲ではないですけど、同じような場面だったり、あるいは、曲をまたいで物語が続いているような場面を感じる部分があったりします。

 

その辺りについては、再びMUSICAのインタビューにおいて、草野さんが語っておられることとも一致していました。

 


草野さん「まぁ、『小さな生き物』が旅に出る前の不安と期待が入り混じったアルバムだとすると、”雪風”は再生を匂わすものになっていたと思うんで、そういう意味ではアルバムのスタートにはなっていると思いますね。」

 


草野さん「…そこからコンセプトに囚われた時期に入っていって。まぁ結果的に今回はコンセプトアルバムってほど縛りのあるものではないんですけどね。そうやってひとつのテーマでストーリーを構築するんだったら『死と再生』で作るのが今の心境なのかなって思ったんですよね」

 

例えば、その”死と再生”と関連があるものと言えば、やはり未だに東日本大震災があるのかな、と思います。直接の明言はないものの、先程紹介したインタビューの中でも、『小さな生き物』は”旅に出る前の不安と期待が入り混じったアルバム”、【雪風】が”再生を匂わすもの”になっていると語られています。【雪風】が、アルバム『醒めない』に至る入り口のような曲だったとすると、この想いはそのままアルバムへと引き継がれたのではないでしょうか。

 

アルバム『小さな生き物』は、震災があってまだ間もない頃だったので(と言っても、2年以上経っていましたが)、曲調としては明るい中にも、歌詞を読むと悲しみが潜んでいたりして、先程の草野さんのインタビュー通り、”不安と期待の入り混じった”気持ちを表していたのかもしれません。

 

一方で、アルバム『醒めない』は、もちろん震災の悲しみは完全には消えていないのかもしれないけど(完全に消すことはできないとも言える)、曲を聴いた感じでは、別に取り立てて震災を思い起こすようなものにはなっていなくて、それよりはむしろ、その後どういう物語があったか、というものを描いているような気がしています。それを、コンセプトとして、”再生”と表現しているのだと思います。

 


■ちなみに、アルバム曲(アルバムで初めて聴けた曲)としては、【醒めない】をはじめとして、【子グマ!子グマ!】【コメット】【ナサケモノ】【グリーン】【SJ】【ハチの針】【モニャモニャ】【ヒビスクス】【ブチ】【こんにちは】があります。

 

そして、インタビュー記事には、こんなことも書かれてもいます。

 


草野さん「…一緒に写っている人とモニャモニャとの物語みたいなのが自分のイメージとしてあったんです。だから曲によって、この人が歌ってる曲、モニャモニャが歌ってる曲っていうふうに視点を変えようって最初は思ったんです。実際そうやって聴いてもらえると、『これはモニャモニャの視点かな?』『これは私の視点かな?』って思うと思うんですけど」

 

つまり、一つの物語で曲たちがつながっているのではないか、と考えると、これはかなりロマンを感じてしまいますし、そういうことならば、繋げてみたいなぁ…とか思っちゃうんですよね笑。

 


■ということで、勝手ですが、僕はこんな感じの物語を想像しながら、いつも聴いています。まとめてみますね笑

 


1-①
便宜上、モニャモニャの飼い主を”モニャ子”とさせていただきます笑 子どもの頃から、モニャ子とモニャモニャは、いつも一緒にいました。それは、飼い主とペットという関係よりも深い、親友関係でした。(【モニャモニャ】で語られているのが、その回想シーン)

 

 

1-②
雑誌のインタビューにも、「くまの子 ジャッキー」のストーリーを追っているようなことを語っていましたが、どういう場面でか、モニャ子とモニャモニャが離ればなれになる出来事が起きてしまいます。(【子グマ!子グマ!】がその別れのシーン)

 

 

1-③
離ればなれになった場所では、結局モニャモニャは、自分らしく振舞うことが出来なかったのです。そういうわけで、モニャモニャは、自分らしく生きられる場所へと帰っていくことになるわけです。つまり、大好きだったモニャ子の元へ戻っていくわけです。いかにも、モニャモニャは空を飛べそうな出で立ちですから、空を飛んでモニャ子の居る所へと帰ったかもしれません。(【グリーン】は、まさに窮屈な場所から抜け出した喜びを感じているシーン)

 

 

1-④
そして、モニャ子とモニャモニャの再会です。もしかしたら、お互いの生死や居場所も分からない状況であり、この再会そのものにも、またドラマがあったかもしれません。(これが最後の【こんにちは】)

 


大筋の物語としては、こんな感じですかね。あとは、難しいのが、【コメット】と【ナサケモノ】と【SJ】のラインをどう位置付けるかですね。ひょっとしたら、別ラインでの物語があるのかもしれません。例えば、モニャ子と別れている間の、モニャモニャと新しい飼い主との日々だとか…。

 


2-①
モニャ子と別れた後、モニャモニャは新しい飼い主に引き取られます。その飼い主にも愛されようと、しっかりと尽くすわけです。(【ナサケモノ】で語っていることか?)

 

 

2-②
何ていうか、やっぱりモニャ子と別れた後のモニャモニャは、自分らしく振舞うことが出来なかったような感じですね。しかし、それでもモニャモニャは、新しい飼い主と生きていくことを誓うわけです。(【SJ】か?)

 

 

2-③
そして、モニャモニャと新しい飼い主との別れですね。結局、上手くいかずに、新しい飼い主とも別れてしまいます。これが結果として、モニャ子の下へ帰るという決意に繋がったのだとしたら…(これが【コメット】かな?)

 

こうだとすると、2のストーリーは、1-②と1-③の間でしょうか?それとも、やはり2のストーリーも、モニャ子との話なのか、うーむ…と考えることが、もうこの上ない楽しみなんですよね笑

 

ちなみに、番外編として、【ハチの針】は”モニャモニャが夜の店に行って大人になる”みたいなストーリーを妄想していますが…まぁこれは別に良いです笑

 


■ただ、このモニャモニャの物語も、先程紹介したように、スピッツの物語や、ひいては、震災に離ればなれになった人たちの再生・再会の物語に置き換えられると思います。

 

大筋としては、離ればなれになった状況から、最後の【こんにちは】で再会した、という展開を考えれば、これはとても壮大で感動的な物語を想わざるを得ません。


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アルバム講義:14th Album『小さな生き物』

小さな生き物 【デラックスエディション(完全数量限定生産盤)】(SHM-CD + 2Blu-ray)

14th Album『小さな生き物』
発売日:2013年9月11日

 


■収録曲(→の先より、各曲の紹介へと飛べます)

 

01. 未来コオロギ
→ 181時限目:未来コオロギ - スピッツ大学

 

02. 小さな生き物
→ 92時限目:小さな生き物 - スピッツ大学

 

03. りありてぃ
→ 199時限目:りありてぃ - スピッツ大学

 

04. ランプ
→ 198時限目:ランプ - スピッツ大学

 

05. オパビニア
→ 33時限目:オパビニア - スピッツ大学

 

06. さらさら
→ 58時限目:さらさら - スピッツ大学

 

07. 野生のポルカ
→ 189時限目:野生のポルカ - スピッツ大学

 

08. scat
→ 210時限目:scat - スピッツ大学

 

09. エンドロールには早すぎる
→ 28時限目:エンドロールには早すぎる - スピッツ大学

 

10. 遠吠えシャッフル
→ 101時限目:遠吠えシャッフル - スピッツ大学

 

11. スワン
→ 79時限目:スワン - スピッツ大学

 

12. 潮騒ちゃん
→ 63時限目:潮騒ちゃん - スピッツ大学

 

13. 僕はきっと旅に出る
→ 161時限目:僕はきっと旅に出る - スピッツ大学

 

14.エスペランサ(Bonus track)
→ 212時限目:エスペランサ - スピッツ大学

 

(デラックスエディション版Blu-ray、DVDに収録)
あかさたな
→ 213時限目:あかさたな - スピッツ大学

 


■アルバム『小さな生き物』は、前アルバム『とげまる』から、およそ3年後に発売になりました。

 

アルバム『小さな生き物』は、スピッツにとっては初めての、複数の形態で発売になったアルバムでした。何かの情報によると、複数形態でアルバムを発表した経緯としては(wikiにも情報がありますね)、「もうCDというものがどうなるかは分からない、ひょっとしたら無くなってしまうかもしれない時代なので、出来ることをしておきたい」というようなことを語っておられました。

 


ちなみに、発売の形態は3種類で、それぞれ「通常版」「期間限定盤」「デラックスエディション盤」があります。それぞれ、

 

<通常版>
①アルバム『小さな生き物』ディスクのみ

 

<期間限定盤>
①アルバム『小さな生き物』
②PV集
 収録曲:【さらさら】【野生のポルカ】【小さな生き物】

 

<デラックスエディション盤>
①アルバム『小さな生き物』
 +Bonsu Track【エスペランサ】収録
②PV集
 収録曲:【さらさら】【野生のポルカ】【小さな生き物】
③撮り下ろしライヴ映像ディスク
 1.運命の人
 2.あかさたな(未発表曲)
 3.さらさら
 4.りありいてぃ
 5.夕焼け
 6.潮騒ちゃん
 7.エンドロールには早すぎる

 


つまり、デラックスエディション盤でのみ、【エスペランサ】と【あかさたな】の新曲2曲を聴くことができるということですね。【あかさたな】に関しては、今のところCDで音源化されていなくて、このライヴディスクでの映像でいしか聴くことができない、レアな曲になっています。

 

PV集の【野生のポルカ】のPVとかもレアですよね(ちなみに、ぶちかっこいいPVです)。youtubeスピッツのチャンネルでも発表されていませんからね。

 


■ということで、まずは、アルバム発売前までの経緯について語っていきます。もうすでに何度も語ったことが出てきますが、重複して申し訳ございません…。

 


まず、前アルバム『とげまる』の発売は、2010年10月27日でした。スピッツは、1991年にメジャーデビューを果たしたので、来たる2011年にメジャーデビュー20周年イヤーを控えていました。アルバム『とげまる』は、そういう意味では、20周年の記念的な作品だったと言えるかもしれません。

 

しかしここで、2011年3月11日、あの未曽有の大災害、東日本大震災が起こってしまいます。

 

それによって、3月に発売予定だった『ソラトビデオCOMPLETE 1991-2011』の発売が延期になったり、さらには、草野さんが急性ストレス障害を患われて、スピッツの活動が少し止まったりしました。

 


それから時が経ち、確か2012年の終わりか、2013年の始まりだったか、とにかくその頃だったと記憶していますが、スピッツが2013年の発売を目指して新しいアルバムの制作をはじめて、そのアルバムから先行シングルが発売になるという、嬉しい情報が流れてきました。ちなみに、そのアルバムが『小さな生き物』であり、先行シングルは『さらさら / 僕はきっと旅に出る』でした。

 

シングル『さらさら / 僕はきっと旅に出る』は、前シングル『シロクマ / ビギナー』からおよそ2年半ぶり、アルバム『とげまる』から数えても2年以上も経っていたので、本当に久しぶりの新曲という感じがしました。その間に、スペシャルアルバム『おるたな』は出てはいるのですけど、スピッツの新曲という感じではなかったですからね。

 

【さらさら】は、”J-WAVE「春のキャンペーン TOKYO NEW STANDARD」テーマソング”に選ばれ、その後MVが発表されました。最初に、【さらさら】のMVを見たとき、何ていうか、粛々と鎮魂歌でも歌っているような感じを受けたんです。照明を比較的抑えたほの暗いスタジオで、静かに4人だけで演奏・歌唱をしている様子は、まさに鎮魂のように見えたのです。

 

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一方で、【僕はきっと旅に出る】の方は、これもタイアップとして、”JTB「夏旅2013」CMソング”に選ばれましたが、こちらは一聴すると、最初は明るい曲だなという印象を受けました。しかしながら、陽気にも思えるこちらの歌の方こそ、実は震災に際しての想いが詰め込まれた歌だったのだと知ることになるわけです。

 


■そういう流れを経て、アルバム『小さな生き物』が発表されました。

 

まず、このアルバムタイトルですよ。草野さん・スピッツらしいタイトルだと思うのですが、かわいらしさの中に、アルバムを発表したあの頃ならではの、伝えたかった想いが詰め込まれている重要な言葉だと思います。

 

そもそも、これまで草野さんが作ってきた歌には、生き物や植物(花)の名前が出でくる歌が本当にたくさんあります。特に、鳥の名前なんかは、とてもたくさんの種類で細かく出てきます。”鳥になって”から始まって、ヒバリ、トンビ、海ねこ、ハヤブサ、つぐみ、など…もっとありますかね。

 

ほんと色々出てきますよね、生き物や植物の名前…猫、ネズミ、モグラ、犬、狼、ウサギ、魚、トビウオ、ドルフィン、シロクマ、蛾、クモ、オケラ、アリ、蜂、鈴虫、あじさい、チューリップ、ハイビスカス(ヒビスクス)、コスモス、楓、桜、ヘチマ(の花)、トゲトゲの木(?)…などなど、キリがないですね。

 


書籍「スピッツ」の中で、草野さんが幼少時代の自分を語っているインタビューが載っているのですが、草野さんの生き物に対する想いというのは、そういう小さな頃の思い出が素地になっているようです。

 


「いやあ、物心ついた頃から、草ぼこだとか林の中に入っていったりとか、神社の鉄柵を乗り越えていったりとか、目に見えない部分に物凄い興味があったというのはすごく記憶ありますね」

 

「今考えたら汚ねぇとこだなあと思うんですけど。1回ね、なんか目の周りにデキモンがバーっとできて、すごくなったことあるんすよ」

 

「やっぱ、昔は昆虫が好きでしたね。今でもいろいろ興味はありますけれども。まずクモが好きで。あれを捕まえてきて、自分の家の庭に放して、次の日に巣が張ってあるのを見て楽しんだりとか」

 

などなど。子どもの頃、草原や林など、色んな場所に分け入っては、昆虫などを観察したり、採集していたというエピソードがたくさん出てきます。

 

何ていうか、草野さんに”生き物を讃える心”みたいなものが、強くあるんだと思います。そういうところが、詩のテーマにもなっている”セックスと死”に繋がったりしたんでしょうね。

 


アルバム『小さな生き物』にも同様に、たくさんの生き物が出てきています。

 

コオロギ、金魚、オパビニア、魚、スワン、初夏の虫、カモメ…あとは、生き物っぽいイメージの言葉としては、”遠吠え”や”野生(種)”などなど。

 

当然のことながら、生き物の名前が使われているからといって、その生き物自体のことを歌っているのではなくて、何かを比喩したものになっているのが通常です。

 

”コオロギ”は、スピッツなどのアーテイストを比喩した言葉だという解釈があったり、”金魚”は、自分の世界に閉じこもって外へ出られないような人物を、”オパビニア”は、恋愛に不器用で時代に取り残されているような人物を表していたりします。

 

草野さんは、人間と”人間以外の生き物”という垣根を越えて、全てを同じ目線で見ているような印象を受けるんですよね。【手のひらを太陽に】って歌であるじゃないですか、”ミミズだって オケラだって アメンボだって みんな みんな生きているんだ 友だちなんだ”って、あんな感じですかね。(ちなみに、作詞は、アンパンマンでおなじみ、ヤナセ・タカシさん)

 


■特に、震災があって、ご自身も体調を崩されたりして、それは一旦は回復したものの、新作が出るまでのおよそ3年という期間で、本当に色んなことを考えて悩んだりしたはずです。

 

もちろん、途方もない悲しみを感じたのは間違いないですが、結局最後に行き着く(行き着かなければならない)答えはきっと、”それでも懸命に生きていく”…ミュージシャンである彼らにとっては、”懸命に音楽を続けていくこと”だったと思います。

 

アルバム『小さな生き物』については、草野さんが、「聴いてくれた人が、少しでも気を楽に持ってくれるような作品に」と、どこかで語っておられました。ちょっと、物悲しくなるような曲も入っていますが、いつも通りスピッツらしい作品に仕上がっていて、長く待って、やっと聴けた喜びを強く感じました。

 


■アルバムを象徴する曲としては、何と言ってもやっぱり、表題曲の【小さな生き物】ですよね。

 


負けないよ 僕は生き物で
守りたい 生き物を
抱きしめて ぬくもりを分けた
小さな星のすみっこ

 

サビに、こんな歌詞が出てきますが、このアルバムに込めた想いがここに集約されている気がします。

 

”生き物”という言葉には、我々”人間”をも含めているのだと思います。昆虫や動物と同様に、人間もちっぽけな存在ですが、生きているという括りでは同じであり、生きているからこそ、生き物を大切にできるのだと。あの時は、誰もが助け合わないとって思ったはずですよね、”生きている”ことをとても大切に思ったはずですよね。

 

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あとは、【スワン】なんかも、とても印象に残りました。

 

この歌なんかはまさに、悲しみから少しずつ立ち上がって、光に向かって歩いていくような印象を受ける曲です。”スワン(swan)”という言葉は、白鳥、という意味がよく知られていますが、実は、詩人、歌手、という意味もあるということを、この歌を調べている時に初めて知って、ますますこの歌に対する想いが深まりました。

 


■それから、何と言っても、【僕はきっと旅に出る】という曲。

 

個人的に、とても大切な歌なのです。震災についても、色々と思い出すんですが、僕自身が、【僕はきっと旅に出る】という曲が出た当時、ちょうど仕事を辞めて、次の仕事への準備期間のような日々を過ごしていたので、なんか自分なりにこの歌と気持ちをシンクロさせながら聴いていたのです。

 

この歌の中に、出てくる歌詞で、

 


きらめいた街の 境目にある
廃墟の中から外を眺めてた
神様じゃなく たまたまじゃなく
はばたくことを許されたら

 

というところを読んだ時、気持ちが溢れて、涙が出たことがありました。本当に、草野さんはすごいなぁって、改めて思ったんですよね。

 

…ということを、延々と語っていくと止まらなくなるので、詳しくは個々の曲の紹介にお任せします。

 

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アルバム講義:Special Album『おるたな』

おるたな

Special Album『おるたな』
発売日:2012年2月1日

 


■収録曲(→の先より、各曲の紹介へと飛べます)

 

01. リコリス
→ 200時限目:リコリス - スピッツ大学

 

02. さすらい
→ カヴァー曲。オリジナル・アーティスト:奥田民生

 

03. ラクガキ王国
→ 196時限目:ラクガキ王国 - スピッツ大学

 

04. 14番目の月
→ カヴァー曲。オリジナル・アーティスト:荒井由実

 

05. 三日月ロック その3
→ 177時限目:三日月ロック その3 - スピッツ大学

 

06. タイム・トラベル
→ カヴァー曲。オリジナル・アーティスト:原田真二

 

07. 夕焼け
→ 191時限目:夕焼け - スピッツ大学

 

08. まもるさん
→ 175時限目:まもるさん - スピッツ大学

 

09. 初恋に捧ぐ
→ カヴァー曲。オリジナル・アーティスト:初恋の嵐

 

10. テクテク
→ 98時限目:テクテク - スピッツ大学

 

11. シャララ
→ 65時限目:シャララ - スピッツ大学

 

12. 12番目の雨の日
→ カヴァー曲。オリジナル・アーティスト:はっぴいえんど

 

13. さよなら大好きな人
→ カヴァー曲。オリジナル・アーティスト:花*花

 

14.オケラ
→ 31時限目:オケラ - スピッツ大学

 


■今回紹介するアルバム『おるたな』は、アルバム『花鳥風月』、アルバム『色色衣』に続く、スピッツ史上3枚目の”スペシャルアルバム”になっています。

 

スペシャルアルバムについては、もうこれまで説明してきた通りなんですが…要するに、オリジナルアルバムに収録されなかったカップリング曲や、インディーズ曲・未発表曲などを収録した、オリジナルアルバムとは一線を画した、言葉通り”特別なアルバム”のことです。

 

そもそも、スペシャルアルバムというものが生まれた背景には、スピッツのベストアルバムに対するアンチテーゼの意味合いがあるのですが、この辺りのお話は、アルバム『花鳥風月』やアルバム『ハヤブサ』などの記事にまとめてありますので、そちらも読んでいただければ幸いです。

 


■ただし、今回のスペシャルアルバム『おるたな』に関しては、今までの2枚のスペシャルアルバムとは異なった構成になっています。

 

具体的に言うと、アルバム『おるたな』には、カップリング曲に加えて、スピッツが他のアーティストの楽曲をカヴァーした曲が多く収録されているところが、これまでとは異なっています。

 

そのカヴァー曲についても、各アーティストのトリビュートアルバムなどに収録されすでに音源化されていたカヴァー曲と、今回のアルバムのために新録されたカヴァー曲とがあるようです。この辺り、詳しくは後述します。

 

収録曲14曲のうち、6曲がカヴァー曲を占めており、スピッツのカヴァー曲がまとめて聴ける、今までとは趣の異なったアルバムになっています。個人的にはもっとスピッツ自身の未発表曲が聴きたかったなぁって思ったりしますが…まぁそういうアルバムとして、楽しんで聴くことができました。

 


■まずは、収録されているカップリング曲を、発売の早い順にまとめてみます。

 

【三日月ロック その3】(c/w 28thシングル『スターゲイザー』)
リコリス】(c/w 29thシングル『正夢』)
【テクテク】(30thシングル『春の歌 / テクテク』より)
【シャララ】(c/w 31thシングル『魔法のコトバ』)
ラクガキ王国】(c/w 32thシングル『ルキンフォー』)
【夕焼け】(c/w 33thシングル『群青』)
【まもるさん】(c/w 34thシングル『若葉』)
【オケラ】(c/w 35thシングル『君は太陽』)

 

※ちなみに、【テクテク】にのみMVがありますので、先に載せておきます。

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ある時期から、スピッツカップリング曲は、何ていうか実験場のようになっており、シングル曲やアルバム曲とは、雰囲気の違う曲が多くなった気がしています。特に、このアルバムに含まれているカップリング曲には、非常に変わった曲が多くて、1曲1曲が印象に残ります。

 

サビが一音階だけで構成されている【リコリス】、個人的にはヨーロッパで見たことがあるストリートライヴを思わせるアコーディオンが印象に残る【テクテク】、ハードロック全開な【ラクガキ王国】、アルバム『惑星のかけら』の時期のグランジ曲を思わせる【オケラ】など。

 

それから、人気の高い【三日月ロック その3】もありますね。”その1”と”その2”を華麗にスルーして、満を持しての”三日月ロック”ですよ。ここスピッツ大学で行ったランキング企画においては、第23位でした。今でも、ファンに人気のある曲です。

 

個人的には、【リコリス】と【夕焼け】が大好きです。【リコリス】に関しては、これは記事でも話していますが、実はあんまり聴いていなかった曲だったので、記事を書くときに、改めて繰り返し聴いたんですが、ある夜にイヤフォンで聴きながら眠ってしまい、そのイヤフォンが外れることなく、エンドレスに一晩中【リコリス】が頭の中で流れてしまった結果、洗脳されたように、しばらく頭の中で【リコリス】が流れているという状況に陥りました。

 


ここに収録されている曲は、発表時期が2003年~2009年という、およそ7年という長きに渡っています。オリジナルアルバムでも、収録曲の発表時期がこんなに長くバラけることはないので、こういうところが楽しめるのも、スぺシャルアルバムの醍醐味と言えますね。

 


■ということで、カップリング曲については、個々の曲の記事に任せるとして、カヴァー曲について、これまでほとんど触れてこなかったので、この記事でメインに紹介していきます。

 

また、各オリジナル・アーテイストや原曲について、知らないことの方が多かったので、付け焼刃的で申し訳ないですが、自分なりに調べてみたことを、少しだけまとめてみました。

 

 

02.さすらい

さすらい

さすらい

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オリジナル・アーティストは、奥田民生です。スピッツによるカヴァー曲は、2007年10月24日に発売された、民生さんのトリビュートアルバム『奥田民生・カバーズ』に収録されました。

 

バラエティ番組の『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』のテーマ曲として、本家の【さすらい】ではなく、(何故か)スピッツカヴァーの【さすらい】が選ばれています。広島では、よく土曜とか日曜とかの昼に放送されており、この曲がいつも流れています。

 

おそらく、民生さんの曲の中でも、一二を争うほどの有名曲なのではないでしょうか。ユニコーンは、ある時期に結構聴いていたのですが、民生さんのソロと、最近のユニコーンはめっきり聴いていないですね…。

 

それでも、このアルバムのカヴァー曲だったら、一番好みです。かなり原曲に忠実で、それでもギターの演奏・アルペジオは、ちゃんとスピッツっぽさを強調しているし、この曲のゆったりとした雰囲気が、草野さんのボーカルにも合っていると思います。

 

youtu.be

 

 

 

04. 14番目の月

14番目の月(おるたな Mix)

14番目の月(おるたな Mix)

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オリジナル・アーティストは、荒井由実です。松任谷由実、あるいは、愛称でユーミンと呼んだ方が、馴染みがありますね。

 

スピッツによるカヴァー曲は、2002年12月11日に発売された、松任谷由実のトリビュートアルバム『Queen's Fellows:yuming 30th anniversary cover album』に収録されましたが、アルバム『おるたな』の【14番目の月】に関しては、新たに高山徹さんがミックスを行った”おるたなMix”が収録されています。

 

アルバム『おるたな』に同封されている「おるたな制作ノート」によると、”スピッツがカヴァーする曲の多くは、テンポやアレンジの基本を大きく崩さないパターンが多いが、この曲はオリジナルとはガラリと違うアレンジになっている”とあります。共同アレンジ&レコーディングメンバーとして、クージーが参加して、原曲とはかなり違ったアレンジがなされました。

 

本家の【14番目の月】は、おそらく当時だったら、最先端の新しい曲だったでしょうね。シンセサイザーの音もふんだんに使っていて、ポップで派手な曲になっています。一方で、スピッツカヴァーの【14番目の月】は、イントロからヘビーなギターで始まってからの、Aメロでいきなり落ち着いて、そこからまたサビへと盛り上がっていくという、ダイナミックでドラマチックな展開になっています。

 

ちなみにユーミンは、スピッツのトリビュートアルバムにて、【楓】をカヴァーしています。

 

14番目の月

14番目の月

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06. タイム・トラベル

タイム・トラベル

タイム・トラベル

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オリジナル・アーティストは、原田真二です。新録音のカヴァー曲です。

 

この曲は、カヴァー曲でありながら、ドラマ『僕とスターの99日』の主題歌に選ばれました。最初は、このカヴァー曲が聴きたいがためにドラマを見ていたんですが、ドラマ自体も面白い内容だったので、楽しんで見ていました。

 

これも、本家の【タイム・トラベル】に忠実なカヴァーになっています。原田さんも草野さんも、高音のボーカルが魅力的なので、草野さんのカヴァーも合っていると思います。個人的に、オリジナルから好きな曲だったので、スピッツのカヴァーはとてもうれしかったです。歌詞も、ファンタジー要素が強くて、映画でも見ているようで、面白いですよね

 

ちなみに、今回カヴァーしたアーティストたちのうち、民生さんと原田さんが広島出身の方なので、広島人の自分にとっては、何か嬉しいです。どうだ、広島はすごいだろ!っていう感じです笑

 

タイム・トラベル

タイム・トラベル

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09. 初恋に捧ぐ

初恋に捧ぐ

初恋に捧ぐ

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オリジナル・アーテイストは、初恋の嵐です。新録音のカヴァー曲です。

 

恥ずかしながら、初恋の嵐というバンドのことも、オリジナルの【初恋に捧ぐ】のことも知らなったので、スピッツカヴァーでいい曲だなって思った後、逆に辿って聴いてみたことがあります。これも、原曲に忠実なカヴァーになっています。スピッツの音楽性に、かなり近いポップなロックソングだと思います。

 

初恋の嵐というバンドについては、元々スリーピースのバンドであったそうなんですが、メジャーデビューが決まって、バンドとしてもこれから…というところで、ボーカル・ギターの西山達郎さんが、25歳という若さでお亡くなりになってしまったそうです。何ていうか、悲しい物語を辿ってしまったバンドだったんですね。

 

西山さんの死後、制作途中であった音源を完成させました。この時期、本家の【初恋に捧ぐ】が収録された1stアルバム『初恋に捧ぐ』も音源化されたようです。

 

ちなみに、スピッツのアルバム『ハチミツ』の発売20周年を記念して制作されたトリビュートアルバム『JUST LIKE HONEY ~『ハチミツ』20th Anniversary Tribute~』において、”初恋の嵐 feat. 曽我部恵一”名義で、【君と暮らせたら】をカヴァーしています。このカヴァーがね、本当に素晴らしいんですよ。本家よりも、個人的には好きかもしれない…。

 

初恋に捧ぐ

初恋に捧ぐ

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12. 12月の雨の日

12月の雨の日

12月の雨の日

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オリジナル・アーティストは、はっぴいえんどです。スピッツによるカヴァー曲は、2002年5月22日に発売された、はっぴいえんどのトリビュートアルバム『HAPPY END PARADE~tribute to はっぴいえんど~ 』に収録されています。

 

今思えば、細野晴臣大瀧詠一松本隆鈴木茂(この方のみ知りませんでした…すみません)という、すごいメンバーだった…ということだけは、詳しくない自分でも理解できます。はっぴいえんどと言えば、【風をあつめて】が有名ですよね…というより、それくらいしか知りませんでした。

 

はっぴいえんどというバンドを、調べれば調べるほど、日本の音楽史に残る、すごいバンドだったんだなってことがよく分かります。1969年~1972年という短い期間しか活動していなかったようですが、要するに、「日本語でロックをやる」ということ自体を世に広めた、まさに日本語ロックの神様のような方々なんですよね。

 

解散してからも、メンバーが個々に活躍しているのもすごいですね。大瀧詠一さんが、個人的には一番分かるかなって感じです…ドラマ「ラブジェネレーション」の主題歌の【幸せな結末】、最近のCM(思い出せなかったので調べてみると、金麦のCMでした)にも使われている【君は天然色】など、耳にしたことがある曲は多いです。

 


そんなメンバーの中でも、スピッツの草野さんと特に関わりが深いのが、松本隆さんですかね。松本隆さんの情報をwikiで調べただけでも、ご自身の音楽活動はさることながら、作詞家として携わった曲に、これでもかというほど、有名な曲が並んでいます。先程紹介した、原田真二さんの【タイム・トラベル】も、松本隆さんの作詞のようですね。

 

そして、その中に、Chappieというバンドの【水中メガネ】という曲があるのですが、この曲の作曲者が草野正宗さんなんです。松本隆さんの作詞家生活45周年を記念して発売になったトリビュートアルバム『風街でうたう』にて、草野さん自身が、この【水中メガネ】をカヴァーしています。これがまた、素晴らしいんですよね。これを『おるたな』に入れてくれれば良かったのに…。

 

12月の雨の日

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水中メガネ

水中メガネ

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13. さよなら大好きな人

さよなら大好きな人

さよなら大好きな人

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オリジナル・アーティストは、花*花です。新録音のカヴァー曲です。

 

花*花は、2000年代はじまりの頃、かなりブームになりましたよね。今何してるんだろうって調べてみると、地道に活動をしているようですね。【さよなら大好きな人】も、この時代を生きた女子たちが、失恋した時に歌っていたのを何回か聴いたことがあります笑。

 

それを、スピッツがカヴァーするなんて、かなり意外なんですが、もう草野さんは何歌ってもお上手で驚きます。

 

さよなら大好きな人

さよなら大好きな人

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■ということで、全6曲の非常にバラエティに富んだカヴァー曲たちです。

 

音源化されているスピッツのカヴァー曲は、そこまで多くは無いのですが、ライヴなどではたくさんの曲をスピッツはカヴァーしています。スピッツのファンクラブ会員限定のライヴでは、カヴァー曲を披露するのが毎回恒例になっています。ひょっとしたら、第二・第三のカヴァーアルバムが、これから生まれるかもしれませんね。

226時限目:こんにちは

【こんにちは】

 

こんにちは

こんにちは

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■アルバム『醒めない』の14曲目に収録されている曲です。アルバムでは、これが最後の曲になります。

 

”こんにちは”なんていう、一見すると何の変哲もないタイトルですが、普通過ぎるが故、一周して奇妙に思えてくるのです。最後の曲だからこそ余計に、”こんにちは”という言葉が浮いているように見えてきますよね笑

 


個人的には、GREEN DAYを彷彿させる、ギターのリフが特徴的なポップパンク風の曲調であると感じました。若々しく、ひいては、ちょっと前時代的に懐かしく聴こえるのは、(当時)30周年を控えたスピッツが、その長い活動を振り返るように、原点回帰的な曲を狙ったんだろうかと想像しています。

 

そして、アルバム『醒めない』のプロデューサーは亀田誠治さんなのですが、【ブチ】とこの【こんにちは】に関しては、スピッツのセルフプロデュース曲になっています。【ブチ】がスピッツとクージーによって編曲された曲で、【こんにちは】がスピッツによって編曲された曲であるようです。

 


■さて。

 

アルバム『醒めない』に、草野さん・スピッツが込めたテーマは、”死と再生”というものでした。これについて、草野さんはMUSICAのインタビューの中で、このように語っています。

 


草野さん「(シングル『雪風』について)ドラマのお話をいただいてから作った曲だったからね。まぁ、『小さな生き物』が旅に出る前の不安と期待が入り混じったアルバムだとすると、”雪風”は再生を匂わすものになっていたと思うんで、そういう意味ではアルバムのスタートになってると思いますね」

 

草野さん「…再生の物語みたいなものを匂わせるコンセプトで作ってもいいかもって思ったところはありましたね。毎回あんまりコンセプトとか考えずに、できた歌をまとめましたみたいなアルバムになっちゃってたんだけど、今回は『死と再生』みたいなコンセプトを貫けているかな」

 

個人的には、もっと長い目で見て、アルバム『小さな生き物』からアルバム『醒めない』までが、長い長い物語だったと思います。そして、悲しいけれど、その中心にあるのは、東日本大震災ということになるのでしょう。インタビュー記事の中でも、直接の明言は避けていたものの…まぁ、影響がなかったということの方が不自然ですよね。

 


■アルバム『醒めない』には、ここスピッツ大学でこれまで紹介した曲ですと…

 

【みなと】は、もう会えなくなってしまった人を、それでも帰ってくることを待ちながら想っている状況を思い浮かべました。

 

【子グマ!子グマ!】は、親と子の関係だろうか、自分にとって愛おしい人が自分の元から旅立つことに対して、寂しく思いつつも、応援する気持ち・幸せになって欲しいという気持ちが歌われています。

 

【コメット】も、別れの場面で、送り出す側の気持ちを歌っているような描写があります。

 

そして、先程紹介した【雪風】についても、これも個人的な解釈では、もう会えなくなってしまった人のことを、回想や夢の中で思い出しているような、そんな状況を思い浮かべました。


などなど…これらのように、これまでの曲では、結局は、別れの場面や誰かを想っている状況が多くあったような気がします。

 

 

”別れ”というものは、当事者同士(二人)の物語の”一旦の休止”を意味するところがあります。その別れが、予め決まっていたことなのか、あるいは、予期せぬことだったのか、というものはあるとは思いますが、とにかくお互いが離ればなれになっている間は、それぞれがお互いに干渉し合うこともないまま、別々の生活を送るようになるわけです。

 

そういう風に思っていけば、”別れ”の反対にあるのは、新しい”出会い”や、離れていた人との”再会”というものが考えられると思います。なので、このアルバムで語られているところの”死と再生”というストーリーは、悲しみに打ちひしがれた状況(これが”死”ならば)から、立ち直ってまた歩き出す(こちらが”再生”)という物語とは別に(あるいは平行して)、”別れと出会い・再会”の物語に置き換えられるのかもしれません。

 


■そこへきて、今回の【こんにちは】という曲。

 

これは紛れもなく、”再会”の歌になっています。先程も少し紹介したとおり、ポップパンク風で明るい気持ちになるような曲調ですが、それは僕が(お互いが)”再会”を喜んでいることを表しているのでしょうか。

 


まず、そういう気持ちは、出だしの歌詞にも表れています。

 


また会えるとは思いもしなかった
元気かはわからんけど生きてたね
ひとまず出た言葉は「こんにちは」
近づくそのスマイルも憎らしく

 

アルバム『小さな生き物』から続いた物語を想えば、ここの歌詞は非常に感慨深いものがありますよね。今までは、会えなくなった悲しみや、遠くで暮らす人のことを想っているような曲が多かったのですが、これは紛れもなく”再会”の喜びを歌っている様子が見えるからです。

 

”また会えるとは思いもしなかった”、これに関しては、ただたまたま偶然に街で、友だちに出会い懐かしんでいる状況かもしれませんが、今までの流れを鑑みると、本当に”また会えるとは思いもしなかった”人、もう会うことはできないだろうと思っていた人に出会った状況という方がしっくりきそうです。

 

例えば、先程の震災の話に絡めれば、災害によって故郷を追われ、離ればなれになった人などもそうですよね。極端な話、お互いの生死も定かではない状況、何処へ行ったのか分からない状況であったならば、”また会えるとは思いもしなかった”という気持ちが、余計に高まると思います。

 

そうでなくても、とにかく長く会えなかった人、しかも、もう会うことはないだろうと思っていた人との再会に喜んでいる状況だという風に読めます。しかし、そこで出てくる第一声が、「こんにちは」とはね笑 「久しぶり!」とか、「元気しとった?」とか繋がっていきそうですが。

 


それから、最後のここの表現。

 


心に生えた足でどこまでも
歩いて行けるんだと気がついて
こんな日のために僕は歩いてる
おもろくて脆い星の背中を

 

アルバム『醒めない』の最後の曲の、そのまた最後のフレーズで、ここにたどり着くとは、何だか泣きそうになりますね。ようやく会えたんだって、長い物語の結末を想像します。

 

比較対象としては、アルバム『小さな生き物』の最後の曲が、【僕はきっと旅に出る】でしたが、この曲はタイトル通りですが、いつか旅に出ることへの憧れだったり、その準備段階のことを歌った曲でした。

 

そこから時が経って、【こんにちは】のここのフレーズです。”心に生えた足でどこまでも 歩いて行けるんだと気がついて”、ここが本当に好きなんですよ。身体的なパーツとしての足ではなく、”心に生えた足”という表現なので、ちょっと妙な表現にも思えますけどね。

 

長く続く悲しみの中に居たところから(今も完全には癒えていないかもしれないけど)、ちょっとずつ前を向くようになったんですよね。心が少しずつ歩き出す気持ちを取り戻していったことを、心に足が生えていくという、独特にも思えますが、言い得て妙な表現をしたんでしょう。

 


”おもろくて脆い星”という表現も、良いですよね。人間の心も比喩していて、簡単に壊れてしまうほど、脆いものであるかもしれないけど、気の持ちようで、前向きに生きていれば、思いがけない再会があることもあったり、中々人生も捨てたもんじゃないぜ、という思いを受け取ることができます。

225時限目:ブチ

【ブチ】

 

ブチ

ブチ

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■アルバム『醒めない』の12曲目に収録されている曲です。この曲は、アルバムの情報が発表になる前に、もうすでにファンクラブ限定のライヴイベントにて、先に披露されていたそうです。

 

【ブチ】と、最後の曲の【こんにちわ】のみ、スピッツのセルフプロデュースになっていて(他の曲は、亀田誠治さんがプロデュースしている)、特に【ブチ】に関しては、編曲にクージーが加わっています。ということで、この2曲こそ、一番純度の濃いスピッツを感じられる曲と言えるかもしれません。

 

跳ねるようなリズムに乗って、身体が動いてしまいそうな、楽しい曲です。スピッツお得意の、”かわいらしい”と”かっこいい”を両方併せ持つ曲ですね。

 


■それで、いきなり主題になっちゃいますが、やっぱり気になるのが、タイトルの”ブチ”という言葉ですよね。

 

”ブチ”と言えばのう、わしぁ広島人じゃけ、たちまち”とても~”を意味する広島弁の”ぶち”が思い浮かんだんじゃ。それか、広島には”ぶち”っちゅう焼肉屋があってのう、そこのホルモンがもう絶品なんじゃ、もうビールがぶち進むわ。まーいっぺん来てみんさいや。

 

ほじゃけど、スピッツさんの”ブチ”を聴いた感じじゃ、その”ぶち”じゃなさそうじゃのう。じゃったらなんじゃっちゅう話なんじゃが…。

 

ところで、我らが広島カープのCS突破おめでとうございまーーーす!(2018年)新井さんもラストイヤーじゃけ、この調子で、日本一になってもらいたいのう。結局、今年も一度もマツスタに行けんかったが…飲み屋で見ながら飲んだことはあったんじゃ。今年のカープはのう、丸がようけホームランを打っt…

 


ということで、歌詞を読んだ限り、この歌の”ブチ”が表しているのは、動物の身体にある斑点模様のことを指していると思われます。犬とか猫とか、そういう動物の体に付いているような、水玉みたいな模様ですね。ダックスフンドとか、ダルメシアンとか…ちょっと思いつかないですけど。

 

とにかく、本来の意味では、人間の身体における特徴を表すような言葉ではないと思っているんですが、この歌における”ブチ”という言葉は、どうも人間に当てはめて使われていると読めるのです。

 


君はブチこそ魅力 好きだよ凄く
隠れながら 泣かないで yeh yeh

 


君はブチこそ魅力 小町を凌ぐ
本気出して 攻めてみろ wow wow

 

サビがこんな感じなのですが、”小町を凌ぐ”とは、また大きなことを言っているなという感じですね。あえて、人間の身体の特徴として当てはめるとすると、”ブチ”というと、シミ・そばかすとか、ほくろとか…?

 

それか、別に”ブチ”を、そういう身体的特徴にだけ限定させるんじゃなくて、もっと広義に、心身問わずその人に備わっている個性みたいなものを比喩していると考えるとどうでしょうか。

 

恐らく、この歌の”君”は、女性を表わしているのだと思うのですが、色んな個性を心身に備えた女性がいると思います。そういう個性について、広義で”ブチ”と置き換えて、その個性が君の魅力なんだよという風に歌われてるのかもしれません。

 


■ところで、これはアルバム全体の話になっちゃうんですけど。

 

この曲に限らず、というかこの曲を聴いて余計にそう思うんですが、このアルバムには、言い方が難しいのですが、人間と人間の関係や物語を、人と動物(ペット)の関係に置き換えているような節があったりしますよね。

 


例えば…

 

【子グマ!子グマ!】は、親子か恋人同士か、その辺りの関係はともかく、親しい関係にある者同士の別れの場面が歌われています。別れを惜しみつつも、離れていく者に向けて、”幸せになってな”という応援している言葉を、残る者が投げかけている場面ということになります。
この歌にしたって、まぁタイトルから”クマ”という言葉が使われていて、しかも、草野さんが”シートン動物記 くまの子ジャッキー”というアニメを思い浮かべながら書いたものなので、そのままストーリーをなぞって、クマと飼い主の別れを描いた物語を想像しても良いのです。

 

【コメット】は、”金魚のままでいられたけど”~”恋するついでに人になった”という言葉から、”せまい水槽に閉じ込められていた”=”自分の殻に閉じこもっていた”として、恋することで自分が変わることができたということを、”金魚”が水槽の外へ出ていくという比喩を使って表わしていると考えられます。

 

【ナサケモノ】は、これが一番分かりやすいんじゃないでしょうか。”足にもなる メシもつくる 涙はいただく”などというフレーズは、あくまで好きな人に尽くしているような表現で、人間的な表現ですよね。アッシーのように読み取れますが笑。
ただし、この歌も、タイトルが”ナサケモノ”(これは”情けない獣”を略したものだろう)になっていますし、全体的に読んでも、人間とペットの関係を表しているような歌詞に読めるのです。

 

あるいは、【モニャモニャ】。”モニャモニャ”とは、架空の生き物なのですが、スピッツはこの生き物の成長の物語に、自らのバンドストーリーを重ね合わせています。つまり、あんなに小さかった”モニャモニャ”が、こんなに大きくなるように、自分たちも、ロックに対する想いを育ててきたんだ、ということを歌っているのだと思います。

 


今回の【ブチ】もそうですよね。

 

先述のとおり、”ブチ”はどちらかと言うと、人間よりも動物に当てはまる言葉なのですが、それを人間に当てはめて、しかも、身体的特徴にのみ留めておくのではなく、もっと広義にその人の個性みたいなものを総称して”ブチ”と言っているのではないかと、個人的にですが読めました。

 

だから、シングル曲はともかく、アルバム曲に関しては、どれにも動物の姿がちらついているように読めます。一貫して同じ生き物のつもりで書いているのか、別の生き物で書いているのかは定かではないですけどね。まぁ、もともと、草野さんの書く詞には、動物や花の名前がたくさん出てきますのでね、珍しいことではないのかもしれませんが…。

 


■この歌は、とにかく詞が面白いんですよね。内容はともかく、韻を踏んでいるところがたくさんあります。

 


心は言葉と逆に動くライダー
鏡を見ながら手紙書くみたいな

 


しょってきた劣等感その使い方間違えんな
空見上げれば南に鶴が千羽

 


ムエタイの女の子みたいな蹴り食らって
足りないもの自問してさらにやばくなって

 

など、それぞれの文末で、韻を踏んでいるのが分かりますね。

 


それぞれの意味はなんでしょうね、言葉遊び的なので、ギャグの意味を解説するみたいに、意味をあんまり読み過ぎちゃうと興ざめしそうですけどね。

 


ムエタイの女の子みたいな蹴り食らって
足りないもの自問してさらにやばくなって
優しくない俺にも 芽生えてる 優しさ風の想い

 

君はブチこそ魅力 小町を凌ぐ
本気出して 攻めてみろ wow wow

 

この辺りが、この歌を一番表しているような部分ですかね。”蹴り”を食らったのは、”君”と考えると良さそうですかね。もちろん”蹴り”は比喩であり、自分の個性(ブチ)について、何か悪く言われたということなのかもしれません。それで落ち込んでしまい、自分に足りないものを自問して、さらにまた落ち込んでしまっている、という状況でしょうか。

 

そこで、”君はブチこそ魅力 小町を凌ぐ”と、”俺”がなぐさめているという場面ですかね。”そばにいてほしいだけ”という言葉も出てきますが、”俺”が”君”に抱いている想いは、恋心と言えるかもしれません。

アルバム講義:13th Album『とげまる』

とげまる

13th Album『とげまる』
発売日:2010年10月27日

 


■収録曲(→の先より、各曲の紹介へと飛べます)

 

01. ビギナー
→ 147時限目:ビギナー - スピッツ大学

 

02. 探検隊
→ 90時限目:探検隊 - スピッツ大学

 

03. シロクマ
→ 68時限目:シロクマ - スピッツ大学

 

04. 恋する凡人
→ 48時限目:恋する凡人 - スピッツ大学

 

05. つぐみ
→ 95時限目:つぐみ - スピッツ大学

 

06. 新月
→ 69時限目:新月 - スピッツ大学

 

07. 花の写真
→ 134時限目:花の写真 - スピッツ大学

 

08. 幻のドラゴン
→ 173時限目:幻のドラゴン - スピッツ大学

 

09. TRABANT
→ 104時限目:TRABANT - スピッツ大学

 

10. 聞かせてよ
→ 38時限目:聞かせてよ - スピッツ大学

 

11. えにし
→ 27時限目:えにし - スピッツ大学

 

12. 若葉
→ 207時限目:若葉 - スピッツ大学

 

13. どんどどん
→ 109時限目:どんどどん - スピッツ大学

 

14.君は太陽
→ 42時限目:君は太陽 - スピッツ大学

 


■振り返ってみますと(僕自身はリアルタイムでは知らないのですが)、スピッツは、1991年3月25日にシングル『ヒバリのこころ』とアルバム『スピッツ』を同時リリースして、メジャーデビューを果たしました。

 

そこから時が経ち、2010年10月27日にアルバム『とげまる』は発売されました。2010年といえば、スピッツにとっては2011年でメジャーデビュー20周年を迎えるということで、アニバーサリーイヤーを間近に控えていました。

 

そういうわけで、アルバム『とげまる』は、スピッツのメジャーデビュー20年の集大成というべき作品と言えるかもしれません。

 

収録曲のタイアップは過去最多であるらしく、そういうところも、スピッツが特に勢力的に活動していたであろうことが分かります。ちなみにタイアップ曲は、以下の通りになります(タイアップと言えば、6曲になりますかね)。

 

【ビギナー】…ゆうちょ銀行CMソング
【シロクマ】…メナード「イルネージュ」CMソング
【幻のドラゴン】…ブリジストン『ブリザック』CMソング
【えにし】…ヤマザキ『ランチパック』CMソング
【若葉】…映画『櫻の園 -さくらのその-』主題歌
君は太陽】…映画『ホッタラケの島 ~遥と魔法の鏡~』
(【恋する凡人】…舞台の挿入歌に使われたそうです)

 


■そして、2011年3月25日、スピッツはメジャーデビュー20周年記念日を迎えます。この日には、これまでの全MVを収録した映像作品『ソラトビデオCOMPLETE 1991-2011』を発売させるはずでした。

 

しかしながら、2011年3月11日に起こった、東日本大震災という未曽有の大災害により、『ソラトビデオCOMPLETE 1991-2011』は発売延期になります。実際に発売されたのは、4月6日のことでした。

 

災害に際して、草野さんが急性ストレス障害を患ってしまい、スピッツの活動自体も一時停止してしまいます。感受性の強い草野さんのことですから、ショッキングなニュースや、人々が負った悲しみなどを、自分事に捉えた(捉えすぎた)ということなのかもしれません。まぁ、あれだけ大きな出来事だったので、誰もが色んなことを考えたでしょうけど。

 

その頃、スピッツはまさに、アルバム『とげまる』のリリースツアーの真っただ中だったため、その影響で、いくつかのライヴが延期になったりしましたが、程なく復帰したので、それは本当に良かったと思います。

 

アルバム『とげまる』の後は、スペシャルアルバム『おるたな』を2012年にリリースはしましたが、新作のリリースは2013年のシングル『さらさら / 僕はきっと旅に出る』まで、およそ3年間ありませんでした。

 


■さて。

 

すでに何度も話していることですが、僕は個人的に、オリジナルアルバムでスピッツの活動時期をいくつかに分けています。あくまで、個人的な分け方になるのですが、ここでちょっと振り返ってみますと、以下のような感じです。

 

・第一期「スピッツの不遇な時代」
1st『スピッツ』~4th『Crispy!』
出す作品出す作品が、非常にマニアックなものの、コアなファンを着実に増やしていった(はず)。徐々に作品の売り上げが下がっていく中で、行く末を案じたスピッツは目標を「売れること」と設定したものの、中々それも評価されなかった、まさに不遇な時代。

 

・第二期「スピッツの黄金期」
5th『空の飛び方』~8th『フェイクファー』
シングル御三家の100万枚を大きく超える売り上げを筆頭に、出す作品が軒並みヒットを記録し、スピッツの名前が日本全国に知れ渡り、言葉通り”国民的アーティスト”になっていった時代。しかし、そういう華々しい活躍とは裏腹に、世間が抱くスピッツ像と自分たちの描くスピッツ像に差異を感じていたり、自分たちの音作りに満足いかなくなってきたりと、実は壁にぶち当たっていた。

 

・第三期「スピッツの死と再生」
9th『ハヤブサ』~12th『さざなみCD』
レコード会社から、ベストアルバムを発売することを強行された、通称”マイアミ・ショック”により、スピッツは一時、解散・活動休止のピンチに立たされたものの、アメリカでの音探しの旅などを経て、本当に自分たちのやりたい音楽を追い求めていくことを決意。新たにロックバンドとして生まれ変わった。

 


そして、アルバム『とげまる』より、スピッツの活動は第四期に入ったと思っています。第四期にキャッチフレーズを付けるとしたら…個人的には、「古き良きスピッツと新しいスピッツの融合」みたいな感じが似合うのでしょうか。

 

何となく、このアルバム『とげまる』辺りから、どこかに”懐かしさ”を感じることが多くなってきたように思えます。いわゆる、”原点回帰”と言うべきかもしれません。

 

しかしその一方で、第二期や第三期の楽曲とも違う曲も出てきています。『とげまる』収録曲だと、【探検隊】や【TRABANT】や【どんどどん】辺りでしょうか。長く活動を続けているのに、まだまだ新しい曲を次々と生み出していくのは、本当にすごいことだと思います。

 


”懐かしさ”を感じることに関しては、僕自身が長く聴いてきたスピッツファンであり、歳を取ったということも関係しているかもしれません…それは、僕自身もスピッツ自身もそうだと思うのですが笑 同じようなファンの方々にとっても、もしかしたら、そういう”懐かしさ”を感じる瞬間っていうのはあるんじゃないかなって思うのですが、どうですかね?

 

それは何となく、長く聴いてきたことに対する”ご褒美”をもらっているような気がして、嬉しいんですね。メンバーもリスナーも歳を取り、「やぁやぁ、よく来たなぁ、まぁゆっくりしていきなよ」っていう感じですね笑 

 

まさに僕にとってスピッツは、一緒に歳を取っていってくれるような(まぁバンドメンバーの方がずいぶん年上ですが)、そんなバンドだと感じることが、この時期から多くなってきていました。

 


■ところで、アルバムタイトルの”とげまる”についてですよ。

 

当時、アルバムのタイトルに拍子抜けしたことを覚えています。”とげまる”って、何かのゆるキャラかよって、あるいは、ハットリ君の獅子丸の亜種かよって…知らない人は良いですからね笑

 

スピッツのアルバムタイトルは、個性的な名前の方が多いのですが、その中でも特に個性的だなと、悪ふざけが過ぎたなと、思ったほどでした。それと同時に、しかし、このタイトルには何か意味があるのではないかと、想像する余地も生まれてきます。

 

”とげまる”…とがっているようで丸い、丸いようでとがっている。これはまさに、スピッツを表している言葉なのではないでしょうか。

 


■まず、先程も書いたように、この頃のスピッツは、”懐かしさ”と”新しさ”を融合させつつあると、個人的には感じました。

 

”懐かしさ”と言うと、第二期に代表されるような、ポップ色の濃い、優しい感じの曲ですよね。あの時期のシングル曲は、どれも優しい雰囲気の曲ばかりだったように思えます。

 

スピッツの代表曲と言えば、未だに(というより多分永遠に…)シングル御三家が根強いですが、この辺りを聴けば、スピッツは優しくて聴き心地の良い歌を歌うバンドなのだというイメージになると思います。実際に、最初は僕もそういう感じでスピッツを聴いていました。

 


一方で、”新しさ”というと、第三期からのロックに目覚めたスピッツに当たると思います。”マイアミ・ショック”を経て、スピッツはロック色の濃い曲を作るようになりました。

 

特に、アルバム『ハヤブサ』以降の作品ですよね。第二期の作品とは違う、ロックな曲が多くなってきました。それには、最初は違和感を感じるほどでしたが、ちゃんとそれが新しいスピッツらしさに変わっていくのは、不思議というか、心地よかったのです。

 


ということで、”懐かしさ”=まる、”新しさ”=とげ、とすると、その融合ですから、”とげまる”ということになるのかなと、勝手にですが思いました。

 

スピッツの曲を聴けば明らかだと思いますが、例え激しくても、優しさを感じるし、逆に言えば、優しい歌の中にも、どこか暗い部分や過激な部分を潜ませているものが多いんですよね。そういうところを、”とげまる”と表現したのかなと思ったのです。



■あるいは、草野さんの書く詞についても考えてみました。

 

草野さんの書く詞のテーマとして、「セックスと死」というものがあります。特にそれは、初期の頃の曲に顕著であると思います。

 

”セックス”とは、人間の欲求の中でも、根元的なものの一つを表していて、かつ、人間の生命の誕生をも意味している言葉だと思います。つまり、”性”=”生”ということになります。

 

一方は、”死”です。これは、言わずもがな、人間に限らず、生命の終わりを意味しています。それは、肉体的にも、精神的にも言えるかと思いますが、とにかく”終わり”を意味しています。

 

ということで、この「セックスと死」で、草野さんは、人が生まれて死んでいくという、根元的なことを歌ってきたのだと、個人的に思って聴いています。そして時には、輪廻転生や生まれ変わり、死後の世界など、死を超越した何かをも歌っているようにも思えました。

 


そして、自分が何かで読んだのか、その何かを読んだ誰かに聞いたのか、それはもう何も定かではないのですが、草野さんの書く詞を読んでいると、とがっているものに「性的なイメージ」を、まるい物に「死のイメージ」を感じることがあるのです。

 

たくさんあるのでキリがないと思いますが、ざっとすぐに想い返せるものを、ちょっと挙げてみますね。歌のタイトルは伏せておきます、考えてみてください笑

 


<例:とがっているもの>

 


君がこのナイフを握りしめるイメージを
毎日毎日浮かべながらすごしてるよ

 


とんがったゴミの中
かたくなる身体をよせ合って

 


隠したナイフが似合わない僕を
おどけた歌でなぐさめた

 


いつか跳ねたいな 二人して 三日月 夜は続く
泣き止んだ邪悪な心で ただ君を想う

 


そんなのもうバレバレ キザに 狂った今を生きていこう
ハチの針だけ隠し持って イキがれ

 


<例 まるいもの>

 


機関銃を持ち出して 飛行船を追いかけた 雨の朝
あわになって溶け出した 雨の朝

 


真赤な月が呼ぶ 僕が生まれたところさ
どこだろう
黄色い月が呼ぶ 君が生まれたところさ
湿った木箱の中で

 


タマシイころがせ
チィパ チィパ チィパチィパ
タマシイころがせ 虹がかかるころに

(※これのタイトルは、【ビー玉】です)

 


いつもの交差点で見上げた丸い窓は
うす汚れてる ぎりぎりの 三日月も僕を見てた

(※とがっているものと、まるいものが、両方出てきていますね)

 


どうでしょうか、他にもたくさんあるかと思いますので、ご自身で見つけてみてください。

 

とがっているものに関しては、そもそも”スピッツ”という言葉自体が、ドイツ語で”とがっているもの”という意味だそうで、それ自体に、ロックなイメージや、過激で性的なイメージを連想させるものに繋がるかもしれません。


ということで、”とげまる”=「セックスと死」を具現化したもの、とも考えられるかもしれません。ここで言うところの、”とげ”=性的なイメージ、”まる”=死のイメージ、という感じですね。

 


■長く書きましたが、『とげまる』の収録曲に全く触れていませんね笑 まぁ、詳しくは、個々の記事に任せるとして、何曲か印象に残っている曲を紹介しておきます。

 


まず、1曲目の【ビギナー】について。

 

アルバムの中だと、この曲が一番好きだし、印象に残っています。この曲は、アルバム発売に先立って、シングルとして発売されましたが、その前にデジタルシングルとしてリリースされたんですよね。僕は、初めて、ネットで曲をダウンロードするということを、この【ビギナー】でしたんです。

 

個人的には、今も必要な時にしか曲をダウンロードするということはしないのですが、あの頃から考えても、そういうことがさらに身近になりましたよね。

 


当時、確か社会人になって2年とちょっとくらいだったと思うんですが、もう辞めてしまっているのですが、その会社の説明会で、新卒者に対して話をしてほしいということで、代表であいさつをしたことがあるんです。

 

新卒者はもちろんですが、僕自身も当時は社会人になって間もない頃だったので、初心者・初級者を意味する”ビギナー”という言葉を冠したこの歌は、何か親近感が湧いたのです。

 


同じこと叫ぶ 理想家の覚悟 つまづいた後のすり傷の痛み
懲りずに憧れ 練り上げた嘘が いつかは形を持つと信じている

 

この辺とかね、グッときましたよ。どっしりと構えているような演奏に、草野さんのボーカルがとてもきれいに聴こえる曲です。

 


■あとは、【えにし】という曲も印象に残っています。これはあれですね、ランチパックのCMで流れていた曲です。

 

例えば、2018年に結成30周年を迎えたスピッツですが、結成30周年の記念ソングといえば【1987→】、結成20周年の記念ソングと言えば、個人的には【ルキンフォー】、という風に、そういう”節目ソング”みたいなのがあると思います。

 

そういう意味でいうと、この【えにし】は、メジャーデビュー20周年の記念ソングなのかなと思っています。

 

タイトルが”縁”ということもありますが、長く続いてきたスピッツというバンドのことや、それに関わってきた人たちへの想いを歌った歌なのかな、という解釈を個人的にしました。

 


錆びた街角で 日だまり探して
しかめ面で歩いた 汚れ犬の漫遊記

 


伝えたい言葉があふれそうなほどあった
だけど愛しくて忘れちまった
はずかしい夢見て勢いで嘘もついた
そして今君に出会えて良かった

 

”汚れ犬の漫遊記”という言葉には、スピッツファンは反応してしまいますよね。ここは、スピッツのことを表しているのではないかと、思ったりします。

 

スピッツに関わってくれた人たち、何よりスピッツメンバーたちへ、そして、スピッツをずっと聴いてきたファンたちへ、ありがとうと、そして、これからの決意を歌った歌であると思っています。

 

まぁ、ファンからすれば、「こちらの方こそありがとうございます、これからもよろしくお願いします!」という感じなんですけどね。

 

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アルバム講義:12th Album『さざなみCD』

さざなみCD

12th Album『さざなみCD』
発売日:2007年10月10日

 


■収録曲(→の先より、各曲の紹介へと飛べます)

 

01. 僕のギター
→ 163時限目:僕のギター - スピッツ大学

 

02. 桃
→ 186時限目:桃 - スピッツ大学

 

03. 群青
→ 46時限目:群青 - スピッツ大学

 

04. Na・de・Na・deボーイ
→ 116時限目:Na・de・Na・deボーイ - スピッツ大学

 

05. ルキンフォー
→ 201時限目:ルキンフォー - スピッツ大学

 

06. 不思議
→ 150時限目:不思議 - スピッツ大学

 

07. 点と点
→ 100時限目:点と点 - スピッツ大学

 

08. P
→ 148時限目:P - スピッツ大学

 

09. 魔法のコトバ
→ 172時限目:魔法のコトバ - スピッツ大学

 

10. トビウオ
→ 103時限目:トビウオ - スピッツ大学

 

11. ネズミの進化
→ 127時限目:ネズミの進化 - スピッツ大学

 

12. 漣
→ 56時限目:漣 - スピッツ大学

 

13. 砂漠の花
→ 57時限目:砂漠の花 - スピッツ大学

 


スピッツが結成されたのは1987年のことになりますが、そこからちょうど20年という節目を迎えた2007年に発売になったのが、この12枚目のアルバム『さざなみCD』です。

 

結成20周年という時期に発売になり、”記念すべき”という感じはあるとは思いますが、個人的にはそんなに特別なものという感じではなく、改めて並べて聴いてみても、いつも通りのオリジナルアルバムだなという印象です。

 

元々は、このアルバムは”夕焼け”という名前になる予定だったそうですが、【夕焼け】は曲のタイトルとして使われてしまいました(ちなみに、シングル『群青』のカップリング曲です、超名曲です!)。

 

そこから、”大和言葉”にこだわって、収録曲の【漣】から、アルバムのタイトルを”さざなみ”としようとしたところで、インパクトに欠けるということで、”CD”をつけて『さざなみCD』ということになったようです。

 

ちなみに、『三日月ロック』も同じような感じでしたようね。”三日月”だけではインパクトに欠けるということで、”ロック”を付けたはずです。

 


■書籍やインタビューに書いてあるアルバムの情報を少しまとめてみます。

 

インタビュー『スピッツ』|エキサイトミュージック(音楽)

 

まず、前作のアルバム『スーベニア』は、作品自体を短期集中で3ヶ月くらいで作ったのに対して、アルバム『さざなみCD』については、プロデューサーの亀田誠治さんやエンジニアの高山徹さんなどとの時間の兼ね合いもあって、実に1年以上もかけて作ったアルバムなんだそうです。

 

長い制作期間だっただけに、いくつかのスパンに分けられてレコーディングされたそうなので、それだけに全体的に曲の雰囲気がバラけていて、色んなタイプの曲が独立して入っている作品であると、草野さん自身も語っています。

 


草野さん「曲の向かっていく方向が、アレンジは別にしても、なんとなく同じ方向に向いてたかもしれないですね、『スーベニア』の方が。今回は(これは『さざなみCD』のことですね)そういう意味では、良くも悪くもバラけてる、1曲1曲独立した雰囲気を持ってるアルバムになってるんじゃないかとは思いますね。」

 


個人的には、『三日月ロック』や『スーベニア』の方がロックなアルバムだとは思っているのですが、それらに比べて『さざなみCD』の方が、バンド以外の演奏が少なくて、バンドっぽい作品なんだそうです。

 


 『さざなみCD』は、亀田さんとやった三枚のアルバムの中ではいちばんアディショナル(バンド以外の楽器演奏)が少なくて、バンドっぽいアルバムだと思う。ライブを意識した内容になっているから、これから始まるツアーでどんな反応があるか、すごく楽しみだ。

 

書籍「旅の途中」の中で、草野さんはこのように語っています。そう言われると、『スーベニア』には、確かに色んな音が入っていて、ロシアっぽかったり、沖縄っぽかったりする曲が入っていましたが、『さざなみCD』は、素直にスピッツの演奏と草野さんのボーカルで構成されており、シンプルな印象は受けます。

 


■ところで、話題に挙げました、『三日月ロック』と『スーベニア』、そして、今作の『さざなみCD』の三枚は、亀田さんと作った最初のアルバム三枚ということで、”三部作”という風に語られています。

 

個人的に、オリジナルアルバムでスピッツの活動時期をいくつかに区切っているのですが、この『さざなみCD』で以って、アルバム『ハヤブサ』から続いていた、スピッツの第三期(個人的に「スピッツの死と再生」という風に呼んでいます)が終わったと思っています。

 


マイアミショックを経て、ロックに目覚めたスピッツが発表した、スピッツ史上最も攻撃的で激しいアルバム『ハヤブサ』。ここから、スピッツの第三期が始まりました。

 

9・11テロに影響され、草野さんが一時は音楽をする意味を見失ったものの、だからこそ人々を慰めるような曲を作ることを使命として、世の中を応援するように歌ったアルバム『三日月ロック』。

 

三部作の中では、一番ロックな作品だったと思っていますが、色んな場所へ旅をするみたいに、色んな曲調の曲が入っている『スーベニア』。

 

そして、今作『さざなみCD』は、マイアミショックを経て一度”死”を迎えたスピッツが、本当の意味でロックに目覚め、そこから始まった”再生”の長い旅の、その集大成であるような作品です。

 


第三期の作品を経ていく度に、最初はロックの激しい部分が全面に出ていた印象でしたが、少しずつ研磨されていったという印象です。

 

草野さんが・スピッツが持つ本来の”優しさ”が、”ロック”にちょうどよく混ざっていき、激しいだけではない、まさに”スピッツロック”というしかない、これはもう唯一無二のジャンルですよね、そういうものが確立されていったのです。

 

第三期後期あたりを経て、また次回より話すことになる、第四期の作品からは、新しさはもちろん感じるのですが、どこかその中に”懐かしさ”を感じることが、個人的には多くなってきたと思っています。

 


■さて。ここからは、アルバムの紹介というより、個人的な思い出話になりますが…。

 

スピッツ結成20周年の時を迎えたはずなのですが、個人的には、僕はスピッツ20周年の記憶が全くないんですよ。喜んで祝った記憶も、感慨に浸った記憶も全くないのです。ミステリーとか、そういうのではないですけどね。

 

スピッツはずっと子どもの頃から聴いてきたし、もちろんこれまでもこれからも、一番そばに居る存在だと思っているんですが、スピッツをそんなに”熱心に聴いていなかった時期”というのがあるんです。新作のリリースなどを、チェックしていなかった時期があって、それがちょうど20周年前後の時期でした。

 


当時の僕は大学生でした。それも、最後の卒業研究に追われる5回生でした…何だって?大学は4年で終わりじゃないかって?ま、まぁ、そこは色々あったんすよ。

 

単純にスピッツを聴かなかったのは、研究・勉強が忙しかったからっていうのが、一番の理由だったと思います。あとは、他のアーティストの音楽の方を熱心に聴いていたというのもあると思いますね。とにかく、スピッツのことを頭の片隅に追いやってしまって、その当時のスピッツの活動や、作品のリリースなどを追っていなかったんです。

 

それで、忘れもしない、まさに勉強の合間に、大学の近くにあったコンビニに昼飯か何かを買いに行った時でした。コンビニの有線から、何やら知らないスピッツの曲が流れていました。何だろう、新曲かなって思って、研究室に帰って早速探してみると、youtubeか何かで、【群青】と【ルキンフォー】のMVを見つけることができました。その時に、両曲とも(フルで)初めて聴いたんです

 

コンビニで流れていたのは、どうやら【ルキンフォー】の方だったようです。そして、【群青】のMVでは、何故かアンガールズが踊っていて、何だこれ?って笑ったのを覚えています。【ルキンフォー】は何か新しい感じがしましたが、【群青】はどこか懐かしさを感じたのを覚えています。

 

どちらも本当に素晴らしい曲で、久々にスピッツを聴いたなって感じでした。何となく、久しぶりに友達に再会したような気分でした。そして、その友達は、何ら変わらず歌い続けていたのです。

 

その時に、アルバム『さざなみCD』がすでに発売になっていることを知り、すぐにレンタルショップでアルバムをレンタルして、研究室でせっせとCDに焼いたりして聴いたんです。だから、アルバム本体は未だに持ってないんです。

 


とまぁ、こういう経緯があって、アルバムを聴くことを後手後手に回してしまったし、結成20周年は全然感慨に浸らず、淡々と過ぎていきました。

 

しかし、僕の中でアルバム『さざなみCD』は、”スピッツとの再会”を果たした大事なアルバムです。

 


■このアルバムで印象に残っている曲は、最後の2曲です。【漣】からの【砂漠の花】という流れが、もう本当に大好きなんです。

 

まず、【漣】についてなんですが、この曲は、僕自身がこのスピッツ大学を始めたきっかけにもなっています。

 

僕は、スピッツの曲を個人的に聴くときも、ここで話すときもそうなんですが、歌詞に一番重きを置いているんです。スピッツ楽曲の最大の魅力は、草野さんが描く歌詞の世界観にあると思っています。もう子どもの頃からですね、正しい正しくない、しっくり来る来ない、そういうのはとりあえず置いておくとして、そういう歌詞のストーリーを想像するのが好きでした。

 


こぼれて落ちた 小さな命もう一度
匂いがかすかに 今も残ってるこの胸にも
翼は無いけど 海山超えて君に会うのよ

 

【漣】の歌詞の一部ですが、何度も聴いていくうちに、色々と世界というか、ストーリーが広がっていくのを感じた瞬間があったのです。個人的には悲しい解釈でしたが、深い歌詞の世界観に触れたような気がしたんです。

 

そうして、まだスピッツ大学など存在しない頃は、どこかの掲示板にそういう解釈を書いては自己満足していた、通称”暗黒時代”を経て、書きたい欲みたいなのが湧いてきて、少しずつスピッツ大学のようなことをしていったという感じです。

 


■それから、【砂漠の花】という曲について。

 

これも、何ていうか、すごく長い長い旅の果てに辿りついた場所というような感じがして、スピッツの歩んできた長い歴史をも感じることができます。

 

この【砂漠の花】にも、個人的に大好きな名フレーズがあります。

 


ずっと遠くまで 道が続いてる
終わりと思ってた壁も 新しい扉だった

 

先程もしゃべった通り、歌詞に重きを置いてスピッツの歌を聴くと、自分がその時に置かれている状況だったり、抱いている感情だったり、そういうものの違いによって、同じ歌詞でも、全然違って聴こえることがよくあります。だから、スピッツの歌詞は、何度も読むのが楽しいんです。

 

上述の歌詞も、例えば今の自分が、何かが終わることを望んでいなくて、諦めたくないと思っている状況であれば、"扉"は希望になり得ると思うんです。壁を越えていく方法として、"扉"を見つけることができて、まだその歩みを続けることができるわけですからね。


しかし逆に、今の自分が、何かが終わることを望んで居るのだとしたらどうでしょうか。"扉"は絶望になり得るかもしれません。ここまで、ずっと悲しいことや苦しいことが続いてきたけど、ようやくその終わり(壁)に辿りついた…と思ったら、そこに扉があったわけですから、それは悲しみや苦しみが、まだ続いていくということを表すことになるわけです。

 


■その他、草野さんがストリートシンガーをイメージして作られた【僕のギター】や、人気曲の【桃】、シングル曲だと【群青】、【ルキンフォー】に加えて、映画「ハチミツとクローバー」の主題歌になってヒットした【魔法のコトバ】などが収録されています。

 

何ていうか、全体的に爽やかな曲が多いですかね。シンプルに、スピッツの純粋なバンドの演奏と、草野さんのボーカルが楽しめる、良アルバムです。

 

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